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元・魔王と行く異世界征服旅  作者: 天空海濶
第二十二章 ユグドラシルとラグナロク
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四百五十三話 茶番劇

 ──"九つの世界・世界樹ユグドラシル・第二層"。


 ドラゴンが羽ばたき、一瞬浮かんで加速した。刹那にグラオ、ヨルムンガンドとの距離を詰め、口内に火炎を溜めた状態で大きく口を開いた。


『ハッ!』


 同時に吐かれる灼熱の轟炎。それがグラオとヨルムンガンドを飲み込み、暗い第二層に赤い光を広げた。その光は更に激しくなり、炎が燃え盛って大爆発を引き起こす。それによってこの道中に広がる壁が焼き切れるように粉砕した。


「中々の熱量だね。全然本気じゃないにしても、流石の支配者という訳か」


 その爆炎を扇ぐように軽く払い、姿を見せるグラオ。かなりの高温でそれなりの破壊力を秘めた炎だったが、グラオにとっては大した事が無かったようだ。

 というのも、本気では無いという事も踏まえて数千から数万。数億度でも大したダメージにならないグラオにはあまり意味が無かったという事だろう。それにしても軽く扇ぐような素振りで容易く払われるのは少々こたえるものだ。


『ふん、容易く防がれたというのに、褒められても何も嬉しくないな。元より、ダメージがあったとしても敵からの称賛は受けん。次の攻撃に移行するだけよ……!』


「ハハ、それが良い」


 翼を広げ、爆風が吹き抜ける。その瞬間に一人と一匹の距離を詰め、ドラゴンの剛腕を振るうった。対し、片手でそれを受け止めるグラオ。その衝撃で背後の世界にヒビが入って粉砕する。


『我らも行くか』

『ああ。幹部を務めているからな。ドラゴンを先に行かせてしまった。我らが行かない訳には行かなかろう』

『ええ。そうした方が良さそうです』

『私も同じ事を考えていました』

『ならば、全員の利害は一致した』


 ドラゴンとグラオの激突。それを境に幻獣の国の幹部たちが一斉に駆け出した。自分たちのリーダーである支配者が仕掛けたのに幹部が見ているだけという訳にも行かないだろう。


『私たちも行こうか』

『うむ。側近を務めているからな』

『ブヒッ』


 次いで駆け出すジルニトラ、沙悟浄、猪八戒。この二人と一匹は支配者の側近を務めている。なので幹部や支配者が攻めているのに見ているだけというのは側近という立場として見過ごす訳には行かないのだ。


『この世界は広いが、この場所は狭いな。本領発揮は出来なさそうだが、数匹の相手は我が務めよう。一応主力という名目だからな。戦わねばなるまい』


「僕的には一人でも良いけど、確かにそれじゃ協定を結んでいる意味が無いね。分かった、ヨルムンガンド。君にも数匹の相手は任せるよ」


 向かう幹部たちと側近たちに立ち塞がるのはヨルムンガンド。この場に来た敵の戦闘要因はグラオとヨルムンガンド、そして魔物の兵士や生物兵器の未完成である兵士達。

 主力が二人。兵士が複数と、支配者や幹部、側近と戦うには少々足りないものがあるメンバーだろう。なのでグラオとヨルムンガンドが協力して相手しようとしているのだ。

 最も、当のグラオは協力などせずとも一人で対応出来ると考えているようだが、それでは協定を結んでいる意味が無い。なのでヨルムンガンドにも戦闘の機会を与えたのだろう。上から目線という訳では無さそうだが、グラオは純粋に難易度の高い戦闘を行いたいらしい。


『舐められたものだな。我ら幻獣の国も』

『基本的には平和主義者だが……ふむ。本来の獣の力、見せてやるのも良さそうだな』

『ふふ、確かに舐められるのはあまり宜しい気分ではありませんね』

『ええ。皆さんと同じです』

『俺はどちらかと言えば魔物よりだが、今は幻獣の国にて幹部を務めている。』


 グラオとヨルムンガンドのやり取りを横に、幻獣の国の幹部たちが直進しつつ反応を示す。一応という理由で自分たちの相手をしようという事が許せないのだろう。幻獣は誇り高い種族。誠意を持って戦闘を行う性格なので邪険に扱われるのが嫌なのだ。


『──カッ!』

『ハァッ!』

『ハッ!』

『ガルルァ!』

『行きます!』


 ワイバーンとフェニックスが炎を吐き付け、ガルダが己の身体能力を持って蹴りを放つ。フェンリルが大口を開いて噛み掛かり、ユニコーンが己の角で突進した。

 灼熱の炎と光る炎は混ざり合って火力が増し、一直線にヨルムンガンドへと降り掛かる。


『ぬらぁ!』


 その炎に対し、本来よりは幾分小さめの身体をうねらせて衝撃を生み、炎を弾くヨルムンガンド。そこにガルダの蹴りが入って仰け反る。次いでフェンリルが足を踏みつけて押さえ、ユニコーンの角が身体を貫通した。


『ぐっ……!』


 その激痛に怯み、小さく唸るヨルムンガンド。流石のヨルムンガンドと言えど、幹部たちから受ける五つの攻撃は防ぎ切れなかったらしい。今は身体も小さく、力も半分以下。仮に全力でもかなりの苦労はしていただろうが、だからこそ半分以下の今では圧倒的に不利である。


『一匹に対して我らは五匹。少々心が痛むな。誇り高き我ら幻獣の国の幹部。こんな形は弱者を一方的に虐げる形で心苦しさがある』


『気に食わぬが、弱者扱いをした事は見過ごしてやろう。しかし甘いな、フェンリルよ。我が兄ながらやはり甘さがある。勝てば良い。そうは思わないのか? 既に敵対した我ら兄弟。勝つ為には手段を選ぶ必要など無いだろう』


『ああ、そうかも知れぬな。しかし、姑息な手を使ってまで勝つというのは決闘にあらず。やはり正面から攻めたいという心行きがある。無論、これは決闘では無く戦争。善悪など何もない戦いだ。誰がどんな手を使おうとそれを批判する訳では無い』


 連続の攻撃によって伏せたヨルムンガンドを見下ろす形で見つめるフェンリル。対し、勝る数で攻めている今の状況を嘆いていた。誇りがあるからこそ、一対一の戦闘で決めたいという気持ちが強いのだろう。

 しかしフェンリルは、例え相手が姑息な手を使おうと批判するつもりは無いようだ。幻獣たちの望む決闘ならば露知らず、今回は戦争なのだから。まだ戦争らしさはそれ程ないが、それでも"終末の日(ラグナロク)"が戦争であるという事に変わりはない。戦争は敵を多く葬る事も重要だが、何より生き延びなければならない。生き残る為には、手段など選んでいる暇が無いのだから。


『甘いな。本当に甘い兄だ。我らは部下兵士を連れている。数ならば此方の方が圧倒的に有利であるぞ!』


『『『…………』』』

『『『ウオオオオ!』』』


 起き上がり、生物兵器の兵士達と部下兵士達に合図を出すヨルムンガンド。同時に多数の兵士達が駆け出し、幻獣の国幹部たちを取り囲むように陣形を整える。


『私たちも居るから!』

『"妖術・万水ばんすい"』

『ブヒィ━━ッ!』


 その陣形に放たれるはジルニトラの魔法。沙悟浄の妖術。そして猪八戒の持つ九本の歯からなる馬鍬。

 ジルニトラの放った炎魔法が生物兵器達を焼き払い、沙悟浄の水が魔物達を流す。そして猪八戒の馬鍬が残った兵士達を薙ぎ払う。


『数でまさっていたとしても実力差があり過ぎるな。しかし、一瞬でも注意を逸らせたのならばそれで十分だ』


 一瞬全身に力を込め、次の刹那に加速するヨルムンガンド。秒も掛からずに幹部たちへ詰め寄り、猛毒を含んだ牙のある大口を開いて飛び掛かる。


『その一瞬が命取りという事は理解している。隙を生み出す訳には行かなかろう』


 飛び掛かるヨルムンガンドに対し、片手を突き出して掌底しょうてい打ちを放ち、正面から受け止めるフェンリル。その衝撃が第二層に広がり、壁に亀裂を入れて粉砕する。瓦礫が周囲に落ち、まだ遠方に居た兵士達が巻き込まれて身動きが取れなくなった。


『それもそうか。やはり狭い空間で戦うのは不利なものだ』


『それはお互い様だ。俺も本来はもっと巨大で力も強いからな』


 互いに睨み合い、距離を置く。次いで他の瓦礫も落ち、周囲に粉塵を舞い上げた。フェンリルとヨルムンガンド。この二匹が本気になる時は身体を巨大化させ、自身の力を上昇させる事で本領発揮となる。しかしまだこの第二層にある何処の国でも無いこの暗い道中。あるのは植物や岩のみで狭く、二匹が本領発揮するにはまだまだ広さが足りないのだ。せめて普通の森ならば良いのだが、壁などのある洞窟みたいなもの。空は見えているが、暴れる事で生じる壁崩れなどの被害の方が大きくなり、他の幹部たちやヨルムンガンドの兵士達が被害に合うので巨大化は出来ない。"終末の日(ラグナロク)"では悪戯に兵力を減らす方が不利なのだから。


「ハハ、向こうは盛り上がっているみたいだね。此方も余波でそれなりに破壊しているけど、もっと派手にやろうか?」


『止めておけ。自分の足場を崩すと同義だ。俺には翼があり、空中でも自由自在に動ける。だが、お前は違うだろ。その気になれば空くらい飛べるかもしれないが、例えそうだとしても我らには誇りがある。相手に不利な空中戦をおこなった場合、知らず知らずのうちに手を抜いてしまうかもしれない』


「……」


 幹部たちのやり取りを見、ケラケラと軽薄に笑うグラオ。それに負けじと周囲を砕こうかと提案するが、ドラゴンはそれを制した。というのも、仲間をどうにも思っていないグラオならば本当にそれをやり兼ねないからだ。

 仲間を大事にするドラゴンとは裏腹に、グラオは純粋に戦闘を楽しみたいだけ。その為ならば多少の犠牲は付き物と考えているかもしれない。

 なのでグラオの楽しみである"全力の戦い"を行えなくさせる為に、そして相手を制する為に手を抜くかもしれないと告げたのだ。純粋に戦いを楽しみたいグラオからすれば、今よりも手を抜かれるという事は嫌な気持ちとなるだろう。と、そう考えた上での行動である。


「ふぅん? それは嘘かもしれないね。寧ろ嘘の可能性の方が高い。……だけど、もしかしたらって可能性は当然ある。確かに君との戦いがただの茶番になるのはそれ程良い気持ちじゃないね。その口車に、敢えて乗って上げるよ。仲間を大切にしたい気持ちを尊重して上げるって訳だ」


『その心意気、敵ながら感謝しよう。原初の神であるカオスよ。分かっていても尚、敢えて乗るというとはな』


「ハハ。君の仲間を殺して本気になった君も見てみたかったけど、そうすると楽しみが減ってしまう。だからそれを消さない為にこうして上げるのさ」


『それは良かった』


 刹那、ドラゴンが口に炎を溜め、それを上に吐き出す。次いで二度それを繰り返し、ドラゴンの回りには計三つの火球が形成された。魔力などでは無く、普通に炎が浮いているのだ。それは常人ならば原理を見抜く事が出来なさそうである。


「成る程ね。炎を吐く龍族特有の技と、龍の持つ力の一つ。天候を操る力。それを組み合わせて火球を作り上げたって事。さしずめ、空気の膜で炎を覆っているんだろうけど、それをどうするんだい?」


『無論、貴様に叩き付ける』


 そして、その火球は全てグラオに放たれた。左右と正面から迫り来る轟炎の火球。一気に加速して速度を上げ、グラオの近くで爆発するように破裂した。その欠片が周囲の木に飛び散り、視界を埋め尽くす程の火事となる。次いでヨルムンガンドの方を向き、


『ヨルムンガンド。お前もだ!』

『なにっ?』


 加速して頭突きを放った。

 それを腹部に受けて吹き飛ばされたヨルムンガンド。燃え盛る周囲の木々を砕きながら進み、荒れた岩肌の壁に衝突する。


『お前たち! 行くぞ!』

『『『…………?』』』


 二人の視界を一瞬奪ったドラゴンは、次いで幹部たちと側近たちに合図する。者たちは"?"を浮かべながらドラゴンの行動を訝しんでいた。その後ドラゴンの意図に気付き、ドラゴンの後を追う。

 そして、視界を埋め尽くす程の轟炎に包まれたグラオはというと、


「……。成る程、一杯食わされたって訳」


 全ての炎を腕の一薙ぎで消し去り、『自分達以外に誰も居なくなった第二層の道中』を見て頭を掻いていた。

 苦笑のような笑みを浮かべ、ため息を吐くグラオ。その横で、壁に埋まっていたヨルムンガンドはその光景を見てグラオに訊ねる。


『カオス殿。奴らは?』

「どうやら、逃げたっぽいね」

『逃げた? 戦う気があったように見えたが……』

「ハハ。今までの戦い、全てはドラゴンの思惑通りって訳さ。全く、頭のキレる支配者だね」

『なに……?』


 グラオの言葉に、怪訝そうな表情をして返すヨルムンガンド。ヨルムンガンドから見た幻獣の国の者たちは確かに本気のように見えたからだ。

 対してグラオは、ヨルムンガンドに向けて逃げた事についての説明を行う。


「そうだね、相手の行動の意味を説明しよう。──先ず、リーダーである筈のドラゴンが僕に向かって君や僕の注意を引く。そしてドラゴンの部下達はドラゴンが命令せずとも、手助けに入るというのはドラゴン自身が理解していた事。それで君の注意は完全にそちらに向かう事となる。で、そのドラゴンと戦っているのは僕一人になるから……一瞬でも視界を奪えば逃げられるって訳さ。君の注意は幹部や側近に向いていたからね。不意を突けば仕掛けられる。どうやら向こうの部下達は知らなかったみたいだけどね。ま、誇りとか言っていたけど、逃げる事を優先したって訳。……ようするに、僕たちはとんだ茶番劇に付き合わされたって事さ。ドラゴンにも誇りはあると思うけど、自尊心よりも仲間を優先したんだね」


 グラオの推測では、ドラゴンが始めからまともに相手をするつもりは無かったらしい。隙の無いグラオとヨルムンガンド。この一人と一匹から一瞬でも隙を突ければ、ドラゴンたちの身体能力ならばかなりの遠方まで逃げ切れる。

 つまり、ドラゴンがグラオに構え、戦闘体勢に入った瞬間からドラゴンは逃げる算段を積み立て、今さっきそれを実行したとの事。

 グラオの見立てではフェンリルたちの幹部やジルニトラたちの側近も知らなかった事らしいが、長年連れ添ったからこそその意図が分かり実行の手助けとなったみたいである。


「ドラゴン以外は皆本気で僕たちを倒すつもりだった。ハハ。僕ですら騙される訳だよ。ドラゴン以外は本気だったんだからね。僕よりもかなり若い者達だけど、仲間という存在が身近に居たからこその成果だね。洒落臭いようにも聞こえるけど、良いね。気に入った」


『フム、カオス殿がそこまで言うのなら、我らは本当に一杯食わされ、逃げられてしまったという事か……』


 ドラゴンたちの行動を、素直に称賛するグラオ。一瞬目から光は消えたが、改めて考えた結果称賛に値するという結論に至ったのだろう。ヨルムンガンドは腑に落ちない様子だが、自分よりも上位の存在であるグラオ・カオスの言葉が称賛だったので潔く諦めた。

 何はともあれ、第二層で繰り広げられていた戦闘。その第一戦はドラゴンたちが前線を離脱する事で終わりを告げる。まだまだ刺客も居るので、この一人と一匹はゆっくりと後を追う事だろう。

 これにて、グラオとヨルムンガンドがドラゴンの思惑で行わされていた茶番劇は終わった様子だった。

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