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元・魔王と行く異世界征服旅  作者: 天空海濶
第二十二章 ユグドラシルとラグナロク
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四百五十二話 戦闘劇

 ──"九つの世界・第一層"。


 魔物の国の主力一人と一匹、プラス生物兵器の完成品三体に囲まれた魔族の国の主力たち。

 囲まれても全く慌てておらず、シヴァは悠然とした態度を取りながら前方に片手を突き出した。


「"ショーラ"!」


 そして、最も基礎的な炎魔術を放つ。魔力を込められたてのひらから放たれたのは小さな炎。

 ──刹那、その炎が爆発的に燃え上がり、ヴァイスとアジ・ダハーカ。そして生物兵器の完成品を灼熱の轟炎で包み込んだ。一人と一匹。そして三体の身体を炎が完全に飲み込む。瞬間的に燃え広がり、正面を大きく焼き払った。その炎は第一層の壁に大きな穴を空け、余熱だけで周囲を蒸発させる。


『基礎の炎魔術でこの威力か。流石だな、支配者のシヴァ。本来の力、それを半分にしたとして、更に一割も出していないと見た』


「ハッ、挨拶は大事だからな。簡単な挨拶だ。ま、流石にこの程度じゃ、傷一つ負わせる事は叶わなかったか」


『フッ、ならば此方も挨拶をしなければ無作法に値する。お返しをしてやろう』


 その炎を受けつつも無傷のアジ・ダハーカは翼を広げ、魔力を翼と翼の間に込めて魔力の塊を創り出す。同時にシヴァと魔族の国幹部たちにそれを放った。迫り来る魔力の塊。シヴァはそれに片手を向ける。


「いやいや、一方的な挨拶だけで十分だ」


 その刹那に破壊を創造し、魔力の塊を消滅させた。

 そう、魔術などのような技をもって破壊するのでは無く、破壊という概念を創造して打ち消したのだ。それが可能ならば時間などを創り出す事も出来そうだが、それは分からない。何はともあれ、アジ・ダハーカの攻撃は簡単に受け止められたと見て良いだろう。


『そうか。ならば礼儀をわきまえず、続けて仕掛けよう』


「フフ。じゃあ生物兵器達も仕掛けるとするか。完成品とは言っても、前に使った物よりは幾分力が落ちているからね。魔族の国。良い実験材料だ」


『『『…………』』』


 放った魔力の塊を容易く防がれた事は気に留めず、次いで仕掛ける為に魔力を込めるアジ・ダハーカと、自分は手を下さず生物兵器の完成品をけしかけるヴァイス。しかし、完成品は完成品でも以前ライたちに放った物より性能が落ちているらしい。当然と言えば突然かもしれない。世界でも禁句とされている生物兵器を数十万体創り、そのうちの一体だけが本当の完成品だったのだから。

 その一体は言葉と学習する力を秘めていたので、もしも消えていなければいずれ支配者クラスに匹敵する力を身に付けていたかもしれない。

 しかしより完成品に近い完成品を創り上げるのはヴァイス達の目的を達成するに当たって、かなり重要な事であることに変わりないだろう。


「まあ、成長し過ぎて私たちを敵に回すような失態は起こさないようにしなくてはね。思い通りに育たない事も有り得るかもしれない事だ」


『フフ。徹底しているな、ヴァイス殿。しかし、仮にそうなったとしてもある程度の事は考えているのだろう?』


「まあね。けど、そうならない事に越した事はない。余計な労力は無駄でしかないからね」


「オイオイ、テメェらだけで話しているけど、攻めて来ねェのか?」


 ヴァイスとアジ・ダハーカの会話に割り込むシヴァ。相手が構えたので攻めて来るものとばかり思っていたようだが、生物兵器についての会話しかしていないので痺れを切らしたのだろう。

 実際、戦闘という事柄が快楽である魔族にとっては、相手の事情よりも己の戦闘を優先したいものなのだ。

 無論、それには当然例外もいるがそれはあまり関係の無い事だろう。


「おっと、悪かったね。けど、律儀に待っていてくれたのか。逃げるという選択は当然無いのだろうけど、不意を突いても良かったのに」


「ハッ。数でも実力でもテメェらに勝っているんだ。態々(わざわざ)不意を突く必要があるか? 不意討ちは立派な戦法だ。だが、俺たちにそれを実行する必要は無いと見たに過ぎねェ。ただそれだけよ」


「フッ、そうか。それは良かった」


『『『…………!!』』』


 瞬間、ヴァイスの手を突き出す合図によって生物兵器の完成品達が駆け出した。瞬く間にシヴァたちとの距離を詰め、それぞれがその身体に力を込めてシヴァと幹部、側近たちへ仕掛ける。完成品の力は魔法・魔術・超能力・錬金術。純粋な肉体の力に不死身の身体。完全では無いにせよ、支配者や幹部、側近クラスの実力者が居ない国ならばこの者だけで容易く攻め落とす事も可能だろう。


「シヴァさん。貴方はアジ・ダハーカと白髪の男を頼みます。コイツらは俺たちで片付けるんで」


「はぁ……。面倒だな。まあ、しょうがないか……」


「ええ。私もそれなりに因縁がありますからね……!」


「ハッハッハ! やってやろうじゃねェか!」


「やるしかないか」

「ま、当然だな?」


 三体の生物兵器に構えるのは幹部たち。

 ブラックの言葉を筆頭に、ダーク、アスワド、シャドウ、ゼッル、モバーレズが順に続き、各々(おのおの)の魔力や力を込めて戦闘体勢へと入った。


「ハッ、なら任せるぜ。優秀な部下たち」


 それを見、軽く笑って返すシヴァ。一歩進んだ瞬間に生物兵器達の間をすり抜け、ヴァイスとアジ・ダハーカの前に構える。シヴァ的にはこの一人と一匹と戦う方が面白そうなので、生物兵器は眼中に無い様子だった。


「俺たちはどうする?」

「うーん……適当で良いんじゃない?」


 そんな彼らを横に、側近たちはどうするか悩んでいた。支配者が相手の主力。幹部たちが生物兵器達と戦う。なので自分たちの出る幕が無さそうと気掛かりなのだろう。一先ず何も思い浮かばないので、キュリテが言ったように適当に済ませるのが最善の策だろうと幹部、支配者の側近たちは互いを見ながら「うん」と頷き合って決まる。


「んじゃ、早速テメェらをぶちのめして、俺の通る道を切り開いてやるか」


『随分と余裕があるようだな。シヴァ殿。支配者だからこその余裕か』


「支配者だからじゃねェ。強者こその余裕だ。ま、残念ながら絶対的な強者の玉座からは引きり降ろされているけどな」


 自虐するように笑い、身体の魔力を高めるシヴァ。本来の支配者は誰にも負けず、確実な強さを秘めているもの。だが、一度でも負けたのならその時点で絶対では無くなってしまう。なので自身の強さを誇ってはいるが大々的なアピールはしていないのだろう。


『フッ。絶対的な強者の立ち位置に立っていた……か。それは事実なのだろう。だからこそ余裕もある。ならば、"絶対強者"に対するは"絶対悪"。この世の全ての憎悪の根源である私が支配者。お前を葬ってしんぜよう』


「ハッ、ほざいてろ。悪なんてもんは、生き物が創り出した幻想なんだよ。所詮はな。目に見えないもんじゃなく、己の力で強者に上り詰めた俺にゃ勝てねェ」


『その傲慢。傍から見ればそれも悪。七つの罪が悪魔となり、人間を苦しめ続けるように、私は常に悪でいなくては存在する意味が無い』


「俺は魔族だ。人間とは格が違ェよ。ま、世界は人間が中心だから、これを言っても負け惜しみにしかならねェけどな」


 互いに笑い、高めた魔力を解放した。話しているうちにも相手の出方をうかがい、最善の策を脳内で形成して実行に移す下準備は既に完了している。後は相手の動き次第でどうとでも出来るまで整っていた。


「じゃあ、私も準備だけはしておくか。"絶対強者"とか"絶対悪"とかは興味ない。己の立場なんか、行動次第で変わるのだからね」


 その横でヴァイスが如意金箍棒にょいきんこぼうと様々な武器の欠片を取り出した。魔法道具で身を包み、防御の準備もする。シヴァやアジ・ダハーカとヴァイスの実力差は明確。なのでサポートに徹するつもりなのだろう。


「さあ、行ってらっしゃい。君達の邪魔は……極力控えるよ」


「ハッ。その武器の数からその言葉は信用出来ねェな。どうせ、隙を突いて狙うつもりだろ」


「ノーコメントで。そうかもしれないし、もしかしたらアジ・ダハーカの方を狙うかもしれない。どちらに付くかは私の自由だ」


『フッ。私も狙われているのか。一体何を考えているのか分からないな、ヴァイス殿。だが、何も考えずに仮の仲間を倒そうとする程頭が弱くないのを知っている。精々掻き回して場を乱すが良い』


 刹那、シヴァとアジ・ダハーカがこの場から消え去った。次いで生じる爆発音。それによって第一層の現在地が粉塵に包まれる。一瞬にして肉眼では追えぬ速度に到達し、何処かへと向かったのだ。


『ハッ!』


 次いで声が聞こえたのは第一層の上空。そこではアジ・ダハーカが構えており、既に何かを放った直後のようだ。

 無論、ヴァイスにはそれが見えているので観戦を続ける。アジ・ダハーカが放ったもの、白と黒と灰色の塊。魔力の集合体であった。それらが不規則な動きで第一層の世界を駆け巡り、アジ・ダハーカから見た下方に居るシヴァを付け狙う。その衝撃で先程包み込んだ粉塵は消えている。


「ラビアみてェな魔法を使いやがる。ラビアの場合は魔術だけどな……"消滅エンキラッド"」


 その球体に軽く触れ、全てを消滅させるシヴァ。破壊を創造したように、消滅を創造したのだ。

 ライとの戦いでは使わなかった技だが、シヴァは創造神である故に様々な力を使える。なので臨機応変に対応出来るのだ。

 ライとの戦いの時に使わなかった理由はライに魔法・魔術の類いが通じないと分かっていたから。なので物理に近い攻撃を仕掛けていたのだろう。


『まあ防ぐか。分かり切っていた事だが、シヴァ殿に小細工は通じぬようだな。ならば私自身が攻め行こう……!』


 天を覆うと謂われている翼を広げ、シヴァへ肉迫するアジ・ダハーカ。

 第一層には三つの世界がある。第一層でもその世界の無い場所にシヴァたちは居るのだが、そこは広い。広過ぎるのだ。あるのは道と階段に壁。そして様々な植物のみ。なので自由が利く分、アジ・ダハーカの移動も自由自在という事だろう。


「ハッ! 来るか! 来い! 正面から破壊してやるぜッ!」


「伸びろ、如意棒」

「テメェもな?」


 間髪入れず、如意金箍棒にょいきんこぼうをシヴァに向けて仕掛けるヴァイス。極力手は出さないと言っていたヴァイスだが、一瞬でそれを撤回した攻撃を放ったとは如何程のものだろう。だが、シヴァもそれに気付いていた。なので軽くかわしてヴァイスとアジ・ダハーカに構える。


「"ラアド"!」

『「…………ッ!」』


 両者に対し、雷魔術を放つシヴァ。雷速で進むいかづちは第一層の世界に広がり、目映い光と共に電流が奔り抜けて一人と一匹を感電させた。

 その電流は一瞬にして千里を駆けるように広がって周囲に散る。一瞬の雷音と共にそれは収まった。


『基礎の炎魔術であの威力だったように、同じように基礎の応用からなる雷魔術でもこの威力か。成る程、侮れん』


「やれやれ。再生が間に合わなければ死んでいた。やはりというべきか、私に支配者の相手は荷が重いらしい。まるで相手にならない」


 感電したが殆ど無傷で姿を現すアジ・ダハーカとヴァイス。ヴァイスの場合は再生させたらしいのでかなりのダメージを負っていたようだが、それも治っている。あの一人と一匹を相手にするというのはかなり体力を消費するもののようだ。


「ったく。ダークの言葉を使う訳じゃねェが、面倒な相手だな。少しでも本気を出せばこの世界が消え兼ねねェし、どうすっかな」


 頭を掻き、面倒臭そうに呟くシヴァ。先程から基礎的な魔術しか使っていないが、その理由はこの世界を崩壊させない為である。

 支配者の力を持ってすれば相手の主力一人と一匹を打破する事は可能だろう。しかし、それに伴った破壊が大き過ぎるのだ。なので全力の一割にも満たない程に手を抜いている。手を抜かざるを得ないという訳だ。


「まあ、本気を出せる環境があるならテメェらも相応の力を使うか。どちらにせよ、簡単に終わる戦いって訳じゃ無さそうだな」


 仮に、シヴァが全力を使ったとする。その場合は支配者に匹敵する力を持つアジ・ダハーカは本気になり、簡単に倒せるものではないだろう。そして、何を隠し持っているのか分からないヴァイスは基本的に戦わないが、何も秘策無しに行動するとも言い切れない。なので手を抜く抜かないはさておき、あらゆる意味を一つに纏めた上で簡単に終わる戦いでは無いという事だ。


「グダグダ考えるのは得策じゃねェな。さっさとテメェらをぶっ潰して、上層に行くか」


 しかしシヴァ的に、考えるのが面倒になったらしい。なので余計な事は考えず、ヴァイスとアジ・ダハーカの相手にのみ集中し、一先ず打ち倒す事を優先するようだ。


『フッ、言ってくれるなシヴァ殿。だが、簡単に通す訳には行かない』


「私的には、完成品の学習と君の力を調べられるだけで十分さ」


 対し、改めて構え直す一人と一匹。魔物の国の目的は"終末の日(ラグナロク)"。しかしまだ大規模なものでは無く、小さないざこざ程度しか起こっていない。真意が別にあるのかどうか分からないが、考えるのが面倒なシヴァは特に突っ込まないで構え続ける。

 九つの世界・第一層の道中、意味があるのかどうかも分からぬ戦闘劇は続いていた。

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