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元・魔王と行く異世界征服旅  作者: 天空海濶
第二十二章 ユグドラシルとラグナロク
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四百五十話 敵との邂逅

 ──ライと人化したままの支配者が互いに拳を放ち、"ミーミルの泉"の上で激突する。既に光の領域に到達しており、一挙一動で泉の水が浮き上がって消し去っていた。

 しかし此処は"世界樹ユグドラシル"の根元。"世界樹ユグドラシル"が再生するように、泉であろうと減ったならばその分再生していた。そして再生した瞬間、再び浮き上がって消し飛ぶ。


「主、余とゲームをしたくないのか? 単調な争いではつまらぬから楽しめるように戦ってやると言っておるのに」


「ハッ、こんなのはゲームなんかじゃねえだろ。アンタ、ゲームの勝敗関係無く俺たちを葬るつもりなんだろ、どうせ」


「当然の事よ。余に仕掛けただけで主らは全員が有罪。死を持って償う他あるまい」


「何を言っているか分からねえな。先に仕掛けて来たのはアンタだ」


 ──元々魔物の国を征服するつもりだったけど。とは言わなかった。取り敢えず相手に罪を擦り付けて置けば気兼ね無く戦闘を行えるからだ。

 ライは支配者から距離を置き、一瞥でレイたちが全員上の階層へと向かったのを確認した。なので、これから仕掛けるだろう。


「"岩の弾丸(ロック・バレット)"!」

「ほう? お主、魔法……いや、魔術も使えるのか」


 土魔術をもちいて鋭利な岩を造り出し、それを弾丸のように飛ばすライ。魔王や自身の出せる純粋な力のみで戦闘を行うと思われていたのか、支配者は意外そうな声を出す。その弾丸は高速で進み、支配者を射抜く為に直進した。


「だが、そんなものは無意味だ」


 魔術を使った事は意外である。だが、まだまだ鍛練の足りない付け焼き刃の魔術。その程度で支配者にダメージを与えられる筈が無い。片手を動かし、それを防ごうと試みる支配者。


「ああ、知っているさ!」

「なにっ?」


 次の瞬間、鋭利だった岩の弾丸が巨大化して支配者を包み込んだ。それが球体となって纏まり、支配者の姿形全てを飲み込んだのだ。

 そう、ライはダメージを与える事が目的では無かった。支配者を一瞬でも閉じ込めるのが目的だったのだ。予想外の動きに素っ頓狂な声を漏らす支配者。てっきり攻撃するものとばかり思っていたのだろう。


「そらっ!」


 ライはその球体を掴み、勢いよく投げ飛ばす。光の領域に到達して投げられた球体は"世界樹ユグドラシル"の根に激突し、轟音と共に爆散した。

 それによって生じた多数の瓦礫。根の塊である。それを吹き飛ばし、人化したままの支配者が姿を現す。


「ぬぅ……。小賢しい真似をしてくれたのぅ、あの小僧ォ……。何処に行った……!」


 その顔には確かな怒りを秘めており、苛立ちで根に八つ当たりをして殴る。その位置には放射状の亀裂が生まれ、次の瞬間には数十キロ程の範囲が粉々に粉砕した。その欠片が周囲に落ち、粉塵を巻き上げる。しかしライの姿は無く、辺りには閑散とした空気が立ち込めていた。


「ライ。大丈夫なの?」


「ああ。遠くに投げたから、全ての状況を整理して此処に辿り着くまでは数分くらいの猶予はありそうだ」


 そんな、支配者の探し人であるライはというと、支配者を閉じ込めた球体を投げた後直ぐにレイたちの方へ向かっており、現在追い付いていた。

 下らないゲームに態々(わざわざ)付き合う必要は無いが、余計な争いはしないに越した事は無い。出口も何も分からないこの世界だが、一先ず上層へと向かい色々と散策した後で支配者を相手にしても良いと思った次第である。

 元々ゲームという口実なので、相手にせず上層を目指しても問題無い。これが支配者の言うような"単調な争い"だったならばライも戦闘を放棄しないが、ゲームならばゲームらしく、攻略を目指すだけである。


「だが、相手は支配者。少し距離を置いた程度ではとても撒けないだろう。追い付かれた時はどうするんだ?」


「また俺が相手して、支配者とレイたちの距離を離させる。それの繰り返しだ」


 エマの質問に対し、何でもないように返すライ。確かにライ以外で支配者を止めるとなれば、魔王の力を解放したフォンセ。神の力を解放したリヤン。そして支配者と同等の力を持つドレイクと斉天大聖こと孫悟空しかいない。一見は多そうな数だが、魔物の国支配者の底力を見ていないので無茶は出来ない。

 恐らくアジ・ダハーカ以上の力を持っている事に違いは無い。なので足止めと言っても命懸けの足止めとなりうるだろう。


『そんなに急いで何処に行くんだ? 侵略者御一行様。折角の"終末の日(ラグナロク)"。楽しんで行こうや?』


「……。支配者じゃなく、その他大勢、愉快な仲間達の一匹が現れたか。悪いけど、相手している暇は無いんだよな」


『オイオイ、ヒデー言い様だな。一応幹部としてお前達と戦ったんだ。少しくらい尊重してくれや』


 先を急ぐライたちの前に現れた者、魔物の国で幹部を勤めているニーズヘッグ。

 支配者は、幹部や側近を九つの世界と"世界樹ユグドラシル"の至るところに配置したと言っていた。なので、そのうちの一匹がライたちの前に現れたという事だろう。

 見れば、魔物の兵士達が周囲に現れ、ライたちは囲まれていた。


「先を急いでいるのに、面倒なもんだな」


『ハッハ、そう言うな。支配者さん曰く、これはゲーム。楽しもうぜ? まだまだゲームは始まったばかりなんだからな』


 後ろからはまだ見えないが支配者。そして前方にはニーズヘッグ。左右や周囲には兵士達。そんな三竦みの形となったこの世界。

 一先ず上を目指すライたちは、早くもピンチのような状態となっていた。



*****



 ──"九つの世界・第一層"。


 ライたちが囲まれている時、自分たち以外に誰が居るかは分からないシヴァたちが上を目指し、明るい世界である第一層で先を進んでいた。

 此処に居るのはシヴァ、ダーク、ゼッル、アスワド、モバーレズ、シャドウ、ブラックの支配者と幹部。そしてそれらを支える側近たちである。

 その様に先を進む中、シヴァが側近たちの方を見て一言。


「オイ、キュリテ。"千里眼"でこの世界と"世界樹ユグドラシル"を見てみてくれ」


「うん、分かったよ。シヴァさん」


 正しくは、万能に近い能力を持つキュリテに一言。である。

 キュリテ。ダーク率いる"レイル・マディーナ"出身の側近であり、超能力者にしてライたちと魔族の国を巡った者。

 超能力者ならば大抵の事は大体出来るので、この世界の情報を確認する役目には持ってこいなのだろう。

 キュリテは意識を集中させ、全神経を目に変える。色を見、音を見、空間などの概念を見る"千里眼"。それによって、この世界の情景を──


「……ッ!?」

「どうした、キュリテ?」


 ──全て見る前に、突如としてキュリテが膝を着いた。シヴァを始めとし、全員がそんなキュリテに視線を向ける。頭痛でもするのか、頭を押さえながらキュリテは自分に起こった事を説明した。


「邪魔が入ったみたい……。"千里眼"を……ううん、私の超能力を妨害する事の出来るナニかが居るよ……!」


 その言葉に、シヴァたちは一斉に周囲を警戒する。超能力を妨害出来る者。となれば、同じ超能力者か相応の力を宿す者だろう。警戒した瞬間、シヴァはフッと笑って虚空へと話し掛けた。


「ハッハ。何だ。少し警戒したら分かったじゃねェか。もう既に、何かが複数俺たちを囲んでやがる。気配と姿を消していたようだ……!」


 その者は、姿を消していた。そして、その者は一匹だけでは無く数人がそこに居る。その全てを一瞬にして見極めたシヴァ。途中まで気付かなかったとしても、達人ですら分からないであろう気配を見抜くとは流石の支配者という事だろう。そう、その者達。


『やはり一刻しか誤魔化す事は出来なかったようだな、シヴァという支配者が相手では』


「まあ当然だろう。最も……姿も、気配も、服の擦れる音も、空気も呼吸も何もかもを隠す魔法道具をもちいても数秒しか隠れられなかったのは少し傷付くけどね」


『『『…………』』』


 三つの頭を持つ蛇にして龍のアジ・ダハーカと、再生の力や様々な魔法道具と武器を隠し持つヴァイス・ヴィーヴェレ。そして、シヴァたちの知る生物兵器とは風貌や威圧感、諸々に大きな違いのある完成品の兵士が三人。

 アジ・ダハーカは"空間掌握"の魔法で自分が発する全ての気配を隠しており、ヴァイスは自分が創造した気配や姿を消し去る魔法道具を使っており、完成品もヴァイスからそれを借りていたようだ。確かにこの者達ならばキュリテの超能力を妨害するのは容易い所業なのかもしれない。


「こりゃあ驚いた。アジ・ダハーカ殿とは大物だ」


『フン、わざとらしい驚き様だ。確か魔族の国担当はカオス殿。迎えに行ったのがカオス殿だ。しかし、魔物の国が相手となれば私が出てくる事も知っていたろうに』


「フフ、魔族の国の者達は大抵が陽気と聞く。実際、何人か会っているけどそうだからね。いや、ハリーフは違うかな? 兎も角、ユーモアを忘れない姿には好感が持てるよ」


 魔族の国、支配者のシヴァ。魔物の国、幹部のリーダーであるアジ・ダハーカ。そしてよく出会う組織リーダー、ヴァイス・ヴィーヴェレ。思わぬ形で行われた邂逅かいこう。シヴァたちも色々と聞きたい事はあるだろう。なのでヴァイス達に向けて一言。


「んじゃ、話を聞く為にぶちかますか」


 その言葉を筆頭に、魔族の国の主力たちが全員一斉に構えた。元より好戦的な魔族の国の者。相手が敵であるのなら、容赦せずに力で解決するのがやり方である。


『血の気の多い者達だ。似た者同士、カオス殿かニーズヘッグに行かせれば良かったやも知れぬ』


「フフ、実力だけじゃなく、その他の事柄も兼ねて私たちが来たんじゃないか。グラオとニーズヘッグも十分過ぎる程に相手出来るだろうけど、魔法や魔法道具を用いて相手の超能力を消すという事はしないだろうからね。姿も何も隠さず、出会った瞬間に噛ましていたと思うよ、彼らだったら。そしたらこの世界があっさりと攻略されてしまう」


『そうかも知れぬな。だが、その前に倒せば良いのではないか?』


「だからこそ、私たちも戦闘体勢に入っているのだろうさ。敵は支配者。楽な戦いにはならない筈だ」


 この場に来たのがヴァイスとアジ・ダハーカの理由、それはキュリテの超能力やアスワドの魔法。ゼッルの魔術を警戒しての事。超能力の"千里眼"のようにそれらの中で"探知系"の魔法・魔術を使われれば、九つの世界と"世界樹ユグドラシル"が簡単に攻略され兼ねないので妨害出来る力を持つこの一人と一匹が送られたのだろう。


「オイオイ。なーに勝つ気でいるんだテメェら? 何よりも勝利に貪欲な俺たち魔族が簡単に勝ちを譲る訳ねェだろ?」


 炎を醸し出し、アジ・ダハーカとヴァイスを見やるシヴァ。その熱気は凄まじく、周囲の空間が蒸発し始めていた。

 探知を妨害されたが、そんなのは魔族の国の者たちにとって関係無い。ならば妨害の原因を叩き、確実に勝利した形で改めて探知すれば良いだけなのだから。

 九つの世界第一層にて、魔族の国の者たちと魔物の国の主力である一人と一匹、そして生物兵器の完成品である三人。それらが互いを相手取る形で戦闘が始まろうとしていた。



*****



 ──"九つの世界・第二層"。


 下方の世界で下方の世界に召喚された者たちが戦闘を始めようとしていた時、その上にたたずむ暗い世界の第二層では幻獣の国の者たちが探索していた。


『やはり道が無いな。フェンリル。この世界に居た事があるのなら"虹の橋(ビフレスト)"以外の道を知らぬか?』


『ううむ。俺が居た時の世界とは大分変わっているようだ。パッと見は分からぬが、目を凝らせば差違点が複数存在している。道や世界その物が本来の物とは少し違うらしい』


『そうか。確かに我らの中にフェンリルが居るのは相手にも伝わっている筈。それならば本来の九つの世界と"世界樹ユグドラシル"から少し変化させるのもおかしくない』


 探索、というのも。幻獣の国の者たちが居る第二層では上に続く詳しい道が分からないのでその道を探していたのだ。下の階層に行くのならば"虹の橋(ビフレスト)"を通り抜ければ簡単に行けるが、上に行く道や橋が見当たらない。なので探索せざるを得ないという事だろう。

 フェンリル曰く、元々の世界から多少の変化を付けているのでそこに住んでいた者でも分からぬ造りとなっているらしい。


『この暗さ。此処は第二層に違い無いが、第二層には本来"小人の国(ニダヴェリール)"、"黒い妖精の国スヴァルトアールヴヘイム"、"人間の国(ミズガルズ)"、"巨人の国(ヨトゥンヘイム)"があった筈。しかし生き物の気配が無いからな。住んでいる者まで再現する事は出来なかったらしい』


 この世界に詳しいフェンリルだからこそ、現在生じている小さな差違点から大きな違いにまで気付く事が出来る。第三層へ続く道が分からないのはそれ故にだろう。分かるから分からなくなっているのだ。


「ハハ、半分正解かな。厳密に言えば、戦闘の邪魔になるから敢えて創らなかったって訳さ」


『『『…………!』』』


 何処からともなく聞こえる軽薄な笑い声。幻獣の国の主力たちはその声に大きな反応を示し、声のした方を振り向いて様子を窺う。

 そこには、灰色の髪を揺らしながら大樹の上に座る一つの人物が居た。続いて、その隣に次々と何かが姿を現す。依然として警戒したままの幻獣たちを前に、その者が飛び降りる。


「やあ。えーと、君達の何人かは会った事があるね。久し振り」


『……っ。カオス!』


 始めに声を上げたのは、その者と一度戦闘を行った事のある沙悟浄。そう、その者グラオ・カオス。この世の全てを生み出した原初の神にして混沌を司る神。

 その名を聞き、他の幻獣たちも警戒を高める。敵にはカオスが居ると、話には聞いていたので早い段階で反応する事が出来ていた。


『フム。此処に来た者がもう一匹居るという事を忘れないで貰いたいな。グラオ殿ばかりに注意を向けないで貰おう。特に、兄者にはな?』


『……ヨルムンガンド。久し振りだな。昔は共に暴れ回ったものよ』


『適当な事を言うでない。共に暴れた事などあまり無かろうに』


 グラオともう一匹。魔族の国にて幹部を務めるヨルムンガンド。とある神によって誕生したフェンリルの兄弟であり、かつては九つの世界に住んでいた者でもある。

 伝承では"終末の日(ラグナロク)"に参加しているが、元の世は"終末の日(ラグナロク)"が起こらなかった世界。"終末の日(ラグナロク)"は起こらず、九つの世界のみが崩壊したのだ。なので共に暴れたという事も殆ど無いのである。悪魔で殆どではあるが。


『して、そんなお前達が此処に来たという事は、お前達は打ち砕くべき壁であると見ても良いのだな?』


「ああ。構わないよ、ドラゴンさん? まだまだ魔物の国には相手が控えているけど、一先ずは僕とヨルムンガンドが君達の相手って訳さ」


『話が早くて良いな。上へ行き、さっさと帰る方法を見つけ出すとするか……!』


 翼を広げ、体勢を整えるドラゴン。翼を広げたその衝撃だけでどんな嵐よりも強力な風が吹き抜け、第二層全体を大きく揺らした。

 ライたちと相対するのは支配者とニーズヘッグ。シヴァたちと相対するのはアジ・ダハーカとヴァイス。そしてドラゴンたちと相対するのはグラオとヨルムンガンド。

 第一陣の戦闘体勢が整った事で、"終末の日(ラグナロク)"開戦の合図が破壊音と共に九つの世界。そして"世界樹ユグドラシル"へと広がった。

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