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元・魔王と行く異世界征服旅  作者: 天空海濶
第二十二章 ユグドラシルとラグナロク
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四百四十七話 魔物の国・支配者の街

 ──日が昇り、涼しい秋の風と共にライたちは目が覚めた。

 時刻は朝方。昇った日もまだ隅にあり、全体的に暗い雰囲気である。元々秋は日も短く朝方でも暗い事が多いのだが、決戦の時という事でライたちの眠りも早くに終わったのだろう。


「おはよう。レイ、エマ、フォンセ、リヤン、ニュンフェ、ドレイク、斉天大聖」

「おはよー。ライ、エマ、フォンセ、リヤン、ニュンフェさん、ドレイクさん、孫悟空さん」

「ああ、おはよう。ライ、レイ、フォンセ、リヤン、ニュンフェ、ドレイク、斉天大聖」

「ふぁ……。おはよう。ライ、レイ、エマ、リヤン、ニュンフェ、ドレイク、孫悟空」

「……。おはよう」


「ふふ、皆さん同じような言葉で挨拶しておりますね。けど、お早い朝のようです」

『ああ、そうだな。しかし、今日も良き朝を迎えられて良かった』

『ハッ、本格的に攻めるんだっけな、今日はよ』


 寝起きと共に挨拶をするライたち。寝惚けているのか、まだ少しボーッとしている状態だった。しかしそれは普段通りの事。ニュンフェは笑い、ドレイクと孫悟空も挨拶を交わす。

 まだ肌寒い時間帯なのでその眠気も直ぐに去るだろう。寒さによって引き締まり、身体が刺激されるので目覚め易くなるのだ。最も、寒過ぎればそのまま眠くなる事もあるが。しかし土魔術で風避けや温度を逃がさない造りになっている此処なら問題無い筈だ。


「よーっし。完全に目が覚めたな。レイたちは?」

「うん、大丈夫だよ」

「同じく」

「うん……平気」


 伸びをし、レイたちに訊ねるライ。レイ、フォンセ、リヤンの三人は小さく欠伸あくびをしているが目は覚めたらしい。

 それから普段通り焚き火の跡やその他の後始末を終え、朝食の準備に取り掛かる。それらをさっさと済ませ、談笑しつつ食事を終える。


「良し、愈々(いよいよ)魔物の国、本元に攻め込む時だ。皆、覚悟は決めているな?」


「うん」

「ああ」

「当然」

「同じ」

「ええ」

『無論』

『そうだな』


 支度を終え、全員に確認するライ。レイたちは肯定するように頷いて返し、既に覚悟は決めているという。その表情には懸念などのような感情や、勿論恐怖という感情も無い。相応の覚悟はあるようだ。


「良し、じゃあ行くか」

「「……え?」」

「「…………」」

「はい?」

『……む?』


 行く事が決まり、ライはレイ、エマ、フォンセ、リヤン、ニュンフェをかかえてドレイクの首に己の土魔術で形成した輪っかを着ける。孫悟空は何かに勘づいて觔斗雲きんとうんに乗っていた。


『ハッハ。残り数千キロ。確かにその方が早く付くな』


「ああ、そうだろ?」


 次の瞬間、ライは大地を踏み込んだ。魔王の力を一割だけ使い、自分の力を上乗せする。これで実質的な力は四割と同等である。それを確認し終え、一瞬で第四宇宙速度に加速してその場から消え去る。


「えええぇぇぇ!?」

「ふふ、確かに早く済むな」

「……ッ。またか……!」

「……っ」

「ちょっと、ライさん!?」

『ぐ……首が……』


 レイ、エマ、フォンセ、リヤン、ニュンフェ、ドレイクは各々(おのおの)で悲鳴を上げる。秒速三〇〇メートルで進む第四宇宙速度。ライたちはその速度で支配者の街を目指していた。



*****



 ──"魔物の国、????・??"。


「此処が魔物の国……支配者の街か」

「「「…………」」」

「ふう、到着したか」

『ガハッ……。ゴホッ……。ラ、ライ殿……次は首を絞めないでくれ……。必要とあらば人化する……』


 第四宇宙速度で進んだライたちは、魔物の国の最終地点、支配者の街に到達した。

 時は先程から三、四時間程しか経過していない朝方。時刻にして午前八時頃。朝食を摂ったのでそれくらいだろう。

 因みに、ライの速度に連れられたレイ、フォンセ、リヤン、ニュンフェ、ドレイクは少しぐったりとしている。レイたちは光の領域で戦闘を行えていたのだが、それ以下の速度で移動したのに疲労しているとはどういう了見だろうか。しかし、ドレイクの場合は少し勝手が違うようだ。エマは何とも無い様子である。


「成る程な。確かに魔物の国、支配者の街はそれなりに発展しているようだな」


 ライたちにとっては、魔物の国にて久々の街。到着した時に寄った街とスルトと戦闘を行った時に舞台となった街にしか寄っていないからだ。

 そんな支配者の街は、秋ならではの紅葉の木に囲まれていた。ヒュウ、と吹き抜けた風によって一枚の葉が空を舞い、それに伴って他の葉達が続いて空へと舞い上がる。ライたちの眼前は色鮮やかな葉で染まった。

 多種多様の葉が舞う世界。彩られる紅葉の奥には複数の建物があり、生活の跡がうかがえる。幻獣の国では自然に生えた大樹をそのまま利用した造りの建物だったが、魔物の国は自然をそのまま利用するものと人工的に造るものなど様々な種類の建物があった。

 恐らく他の国とあまり関わらないが故に独自の世界を形成しているのだろう。支配者や幹部のような知能の高い魔物が居る場所はこの街。血肉を貪り己のしたいようにする野生の魔物が居る場所は数千キロ以上もある広い森の中。と、一概に魔物と言っても生活は大きく変わるらしい。


「何だか、やけに静かじゃないか? 此処の街。朝方だからか?」


 そんな、周りの森にある紅葉に包まれた街の様子を見、異様な静けさに反応を示すライ。

 支配者の国ともなれば、前述したように知能のある魔物達が住まう。なので、それなりの社会が形成されており朝から夜まで生き物の気配が多くありそうなものだが、周囲には閑散とした空気が立ち込めているばかりでそれを感じない。ライたちに反応して気配を消した可能性も否定出来ないが、あまりにも静か過ぎる支配者の街だった。


「確かにそうだな。静かだ。風の音と私たちの呼吸。後は遠方から聞こえる葉の擦れる音くらいか」


「ええ。自然の放つ音響は聞こえますが、魔物達の気配のようなものはありませんね……。一体どうしたのでしょう?」


「争ったような形跡もない。ただ静かなだけだ。この音だけでは、まだ深夜の森の方が賑やかだったぞ」


 全員が耳を澄ませ、魔物達の気配を感じ取る為に神経を集中させる。しかしエマとニュンフェの言った音しか聞こえず、辺りには依然として何処か寂しさを彷彿とさせる閑散とした空気が漂っていた。


「……。一先ず、此処に立っていても意味が無さそうだ。取り敢えずは彼処あそこに見えるかなり大きな建物に向かうとするか。多分そこが支配者の居る建物だろうからな」


 と、ライが指を差したのは前方に広がる紅葉と街。その更に奥にそびえ立つ巨大な城。

 ベースは自然に生えた巨大な大樹を使っているようだが、煉瓦レンガなどのような人工物が外壁として付けられており、自然と人工が混ざり合ったような建物だった。一際高い丘に建てられているのか、その城の位置はかなり高所に見えた。


 城の全体像は詳しく見えない。しかし数本の柱が軸となっており、大樹の周りには塔のような物が多数窺える。塔のような物には屋根があり、窓もある。中軸となっている物が自然の大樹というだけで、全体的な造りは人工的なものと見て良いだろう。

 中心となっている大樹には複数の穴。恐らく窓の役割を果たしているであろうもの、そして遠方のこの場所からは見えにくいが、出入り口も中心となっている大樹に備えられているらしい。周囲にそびえる塔のような物にも出入り口のような扉はあるが、大樹の扉の方が何倍も巨大である。絡み付くようなツタが城中に巻き付いているという事は、あまり整備はされていないのかもしれない。逆に、そういう装飾の可能性もあるが。

 レイたちもライの指を差した城を見、その巨大な城に興味を示していた。


「うん。あの場所に行ってみた方が良さそうだね。人や他の魔物の気配は全く無いけど……あの城にだけ特別大きな気配を感じる……」


「ああ。こんな遠方にまで届く気配……ただ者ではなさそうだ」


 レイとエマの言葉に全員が頷いて返す。気配というものは、常人なら感じる事は出来ない。出来たとしてもほんのりとだろう。

 しかし、此処まで感じる程に大きな気配。これならば常人ですら何かがあると理解出来てしまうものだ。


「良し、そうと決まれば行くか」


 ライに続き、相槌を打ったレイたちも歩みを進める。此処に居ても埒が明かないのは事実。ならば、行くしかないだろう。

 魔物の国についたライたちは支配者の街の探索に出る。



*****



 ──支配者の街。


 周囲には、自然と人工が混ざり合った建物が多数存在していた。今は秋なので建物の基盤となっている大樹や周りに植えてある街路樹によって美しい紅葉で彩られているが、春、夏、冬になればまた違う顔を覗かせるだろう。

 その様に、見て歩くだけならば楽しい空間。不思議な感覚と美しさを味わえるので、魔物の国が本気で観光などの設備を整えればそれなりに人気の出そうな街である。


「良い雰囲気の街だな。魔物達や生き物の気配は無いけど、普段はもっと賑わっているのかもな」


「そうだね。今は閉まっているお店も普段は開いているんだろうし、向こうが私たちの行動に気付いたのかな?」


「その可能性もあるな。……けど、」

「けど?」

「何か引っ掛かるんだよな。俺たちの行動に気付いたってよりは、あらかじめこんな動きをしていたみたいな……」

「……?」


 ライの言葉に小首を傾げるレイ。ライ曰く、魔物の国の者達は始めから支配者の街を出ようとしていたとの事。街を捨てたという訳では無いが、魔物の国側に何かの作戦があってその様な行動に出たと考えているのだ。

 それが何故かは分からないというのだから疑問に思うのも理解出来る。疑問を横に、ライは言葉を続ける。


「もしかして既に、"終末の日(ラグナロク)"の下準備は始まっているのかもしれないな……」


「……っ。それって……」


「さて、着いた。此処が例の城だ。より一層気配が強まったな」


 ライの言葉に返そうとしたレイだが、それよりも前に支配者が居るかもしれないという城に到着した。なので話をさえぎり、視線を城に向ける。


「うん。そうみたい……。なんか、急に嫌な汗が出てきた……」


「となると、この中に居るのはかなりの強敵って訳か。魔物の国の主力達の誰か。この気配、支配者かグラオかアジ・ダハーカか。それとも……」


 重く、苦しい気配。その事から分かるのはこの城に居る者がかなりの強者であるという事だけだ。しかしそれだけで十分過ぎる情報。魔物の国を攻め落とすに当たって、避けては通れない道だからだ。


 ライたちは静かに互いの顔を確認し、頷いて城の扉に手を掛けた。鍵は掛かっておらず、軽く押すだけで開いた。それは豪奢ごうしゃな内装であり、天井に吊るされたシャンデリアのような装飾を始めとし、金や宝石で飾られた壁が延々と続いていた。絵画などもありそうな場所だが、魔物は絵などに興味をかれないのだろうか、絵画などは無い。そんな場所の正面には階段があり、此処にも生き物の気配は無く伽藍ガランとしている。しかしシャンデリアには灯りがともっており、城の中は明るい。金や宝石の装飾には光が反射しており、美しい光沢を生み出していた。


 改めて互いを見つめ、ゆっくりと中に入るライたち。正面の階段を上り、警戒しながら城の中を探索する。ライたちは強い気配に誘われるように決められた場所を進む。気配が分かるので、大凡おおよその居場所は特定出来ているのだ。

 暫く進むと、一際豪華で存在感を放つ扉の前に辿り着いた。やはり主力の部屋。他とは比べ物にならない程仰々しい佇まいである。そしてライはその扉に罠などが無いのを確認し、力強く扉を開けた。


「──ようこそ侵略者達よ。我が街"メラース・ゲー"に。警戒しているようだが、今はこの街に余しかおらぬぞ?」


 ──そこの部屋に置いてあった玉座に佇む、一つの影。ライはその口調に聞き覚えがあった。そして警戒を最大限に高める。レイたちを庇うように前へ立ち、小さく笑った。


「ハハ、まさか。いきなりアンタと対面する事になるとはな……魔物の国の支配者さん?」


「久しいのう。あれから貴様への怒りを忘れた事は無いぞ、魔王を連れ宿す侵略者よ」


 魔物の国の支配者。生物の気配が無い魔物の国に居た唯一の者は、その支配者だった。それならばかなり強い気配にも合点がいく。街を管理する者として、これ以上に無い程だろう。元々国を管理する役割を持つ者なのだから。


「何で他の魔物や主力が居ないのか、聞きたい事は多々あるけど。アンタ、まだ人化した状態なんだな? 誰も居ないなら、その姿を解いても良さそうなもんだが」


「フン、下らぬ。人化した状態でも貴様らに勝てるという、絶対の自信からなれるものという事も解らぬのか小童こわっぱが!」


 力強い威圧感が、ライたちを襲う。それによって思わず後退りをしたくなる程だ。

 この感覚は初めてシヴァと出会った時のようだった。存在するだけで常人や常人以上の精神力を宿す者すら生きるのを諦めてしまうような、そんな威圧感。

 これこそが、絶対的な強者である支配者の在り方。存在自体が神や魔王のような人に再生と滅びを与える無敵の存在である者の事。


「支配者の街、"メラース・ゲー"とやら。この場所、俺たちが落とす!!」


「やってみるが良い。この日を待ち続けていたぞ、侵略者!!」


 互いに力を込め、その空気だけで周囲の空間が崩壊する。豪華絢爛な支配者の部屋だが、一瞬にして見る影も無くなる程に滅んだ。

 レイたちもそれに対して各々(おのおの)出来る方法で構え、支配者に向き直る。ライたちと支配者が行う最大級の戦闘は、今始まろうとしていた。

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