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四百四十五話 半分の旅

 ──"魔物の国・支配者の街"。


『帰ったぞ、皆の者』


『『『…………』』』

『『…………』』


 自分の拠点としている街に着き、先ずは他の幹部達の前に姿を現す少しの治療は終えたが傷付いているアジ・ダハーカ。そんなアジ・ダハーカ。そして二人の側近を見、他の幹部達は全員が目を見開いて息を飲んだ。


「……。お前ですらこの様なんだな、アジ・ダハーカよ?」


『フッ、ヴリトラか。なに、気にするな。この様な傷、直ぐに癒える。傷が癒えれば牛魔王とヘルの治療も容易く行えるからな。何も問題がない』


「そういう問題じゃねェよ。って言いたいが、アンタがそう言うなら気にしないでおくぜ」


『ああ、そうしてくれ。ニーズヘッグよ』


 アジ・ダハーカに話し掛ける二匹。いや、人化しているので二人と言うべきだろうか。そんな二人の幹部に返し、アジ・ダハーカは軽く笑う。特定の英雄以外には絶対に殺されぬという制約があるが、そんなアジ・ダハーカが怪我した状態で帰って来る事など掠り傷ですらただの一回も無かったので驚いていたのだろう。


「おや? 戻っていたんだね、アジ・ダハーカ。その様子を見ると、やっぱりライ達は手強かったって事が見受けられるね。お疲れ様」


『ヴァイス殿か。いや、確かに有意義な時を過ごせた。情報を集めるという口実だったが、ライ達は皆が我らに匹敵する力を秘めていた。特にライは我らに勝利した実績も兼ね、─────殿と同等の力を秘めているやも知れぬ。魔族の国の支配者、シヴァ殿に勝利したというのが本当ならば、これ以上にない程"終末の日(ラグナロク)"に適正だ』


 やって来たのは、魔物の国で協定関係にあり主力として手を貸しているヴァイス達。ヴァイス、シュヴァルツ、グラオ、マギア、ハリーフ。魔物の国支配者の側近であるブラッド──そして、先程復活を遂げたゾフル。そんなゾフルを見、三つの頭を傾げながらアジ・ダハーカは問う。


『ところで、そこに居る者は? 前に言っていたゾフル殿か?』


「おや、これは失礼幹部様。俺ァちんけな男、ゾフルでやんす」


「こらゾフル。真面目に紹介をしてくれ。アジ・ダハーカはかなり狼狽している。おふざけに付き合っている暇は無いと思うよ?」


「ハッ、分ーったよ。ちゃんとやりゃあ良いんだろ、ちゃんとな」


 ふざけ半分で名乗ったゾフル。久々の現世なのでテンションがおかしな事になっているのだろう。常人が夜更かしして、下らぬ事が楽しくなってしまうのと同じ理屈だ。最も、ゾフルの場合は悪魔でかなりの時間眠っていただけだが。地獄では起きていたのでつまりそういう事である。

 それはさておき、ヴァイスにそれを注意されたゾフルは改めてアジ・ダハーカに向き直った。


「俺の名前はゾフル。前は魔族の国で幹部の側近をしていた謂わば裏切り者だ。一応この国とヴァイス達を裏切るつもりは無ェんで、そこんとこ夜露死苦」


 そして、真面目? に挨拶を終わらせるゾフル。実際、裏切り者である事に変わりは無い。確かにもう裏切らないという補足は大事だろう。魔物の国の主力として、アジ・ダハーカ達に手を貸す存在になるのだから。


『うむ、味方が増えるのは良い事だ。此方もよろしく頼む。いや、対等に話すのならこの姿になっておくか」


 ゾフルの言葉に返しつつ、その姿を人のものに変化させるアジ・ダハーカ。巨躯の身体で話続けるのは、アジ・ダハーカから見てかなり小さいヴァイス達を見下ろす形となり、ヴァイス達は見上げなくてはならないので両者共に首が疲れてしまう。だから同じ目線になったのだ。


「おや、主力のみながお揃いとは。珍しいな。基本的に互いの主力は互いのチームでしか行動していなかったのだが。一人を除いてな」


「ハッハ、アナタがそれを言うか。妖怪の総大将、ぬらりひょん殿? 主力の会議にすら参加しないアナタがな?」


「フフ、気にするでない。しがない老人の気紛れじゃ。同じ妖怪として、仲良くやろうでは無いか。吸血鬼殿?」


「吸血鬼ってだけじゃ、俺の愛しき者と被る。俺はブラッドだぜ、ぬらりひょん殿」


 珍しく姿を見せたぬらりひょん。対し、一番始めに話し掛けたのは意外にもヴァンパイアのブラッドである。ぬらりひょんの故郷では吸血鬼も妖怪と分類される事もある。なので多少の親しみがあるのかもしれない。


「ああよろしく、ブラッド殿。……して、そちらの者はゾフル殿か。どうやら生き返ったようじゃな」


「ああ、お陰様。……ってのはおかしいな。取り敢えず生き返ったぜ」


 次いでぬらりひょんはゾフルに話し掛けた。魔物の国よりも先にヴァイス達と手を組んでいた百鬼夜行。なのでゾフルの事も知っているのだ。


『となると、これで全ての主力が集まった訳か。道理で強い気配を複数感じる訳だ。いや、少々差違があった。支配者殿はまだ来ていないな。だが、殆どの主力は揃ったらしい』


『そうだな。しかし、見ての通り今日向かっていた主力たちは怪我をしている。話し合いなどは出来ないだろう』


「ほほ、そうじゃな。奴らは手強い。怪我を負うのも分かるものよ」


 そんなぬらりひょんの背後から大天狗、酒呑童子しゅてんどうじ玉藻たまもまえが姿を見せる。

 曰く、主力達の気配を強く感じたのでこの場所に来たとの事。確かに神と同レベルの格や力を持つ者が多いこの国。実際に神であるカオスも居る。その気が無くとも、気配を抑えようとも、抑え切れぬ気配が放たれているので敏感な者や力の強い者ならば理解出来るのだ。


「取り敢えず、支配者を除いた主力は集まったんだね。けど、話し合いは出来る雰囲気ではないみたいだ。どうするの?」


「今後の話し合いはまた後日。今回は仕入れた情報の披露ってのはどうかな? それを元に後日に向けて話の輪が広がるだろうからね」


「ああ。私も賛成だ。常に再生はしているが、流石に私だけでは荷が重かったらしい。侵略者。思った以上の力を秘めていた」


 グラオ、ヴァイス、アジ・ダハーカで今後について話す。今回は怪我の事もあるので、詳しい話し合いや"終末の日(ラグナロク)"についてはまた後日に持ち越しのようだ。今回は仕入れた情報だけについて話すとの事。

 他の幹部やその他の主力達から反論の意見は出ず、皆が納得した面持ちで頷く。一先ず今回、魔物の国の主力達は暫しの休憩を取りて簡単な話だけをするようだ。



*****



 ──あれから孫悟空とエマ。そしてライの覚えたてである回復の魔術を使って、レイたちは全員が完治した。精神的な疲労は残っているが、身体を自由に動かす事は可能である。

 しかし相手が相手。強者揃いの魔物の国に置いて最強を謳われる幹部。もしも"終末の日(ラグナロク)"が起こるとして、アジ・ダハーカが本気になればライたちもどうなるかは分からないだろう。


「レイ、フォンセ、リヤン、ニュンフェ。どうだ?」


「うん。大丈夫。エマの血と孫悟空さんの妖術。ライの魔術のお陰で治ったよ」


「ああ。応急処置でも出来れば私とリヤンにも治せるからな。ライたちには迷惑掛けた」


「うん、ごめん」


「ええ。私も意識を失ってしまうとは……不覚です」


「ハハ、皆気にするなよ。相手が相手だったからな。俺も大怪我は負ったし、俺よりもエマと斉天大聖の方が治療に置いて貢献しているさ」


 事実、アジ・ダハーカはかなりの強敵だった。ライたち全員を相手にしてもその全員に致命傷を与えた。何人かは死なないが、レイたちは放って置いたら死していた事だろう。


「取り敢えず皆無事ならそれで良かった。まだ本気じゃないのにあの強さだったからな、アジ・ダハーカは。最強の幹部。確かにその通りだ」


 先程のダメージから、ほんの数分で此処まで回復した。魔法・魔術と妖術の便利さも去る事ながら、それを扱う者たちの魔力・妖力の高さを改めて実感するライ。

 仲間ながら、頼もしいものである。特に、触れるだけであらゆる傷を癒す力を持つリヤンには世話になっている。そんな事を考えるうちに、一つの事が気になった。


(そう言えば、俺はリヤンにこの力を与えた人の事は何も知らないんだな。クラルテ・フロマ。知っているのは名前だけだ。いつか会う日が繰るのか?)


 それは、リヤンに癒しの力を与えたクラルテ・フロマについて。何度かリヤンに聞いているが、リヤン自身も夢や記憶の片隅で見ただけであり詳しく知らないという謎の人物。ライたちはその生死も知らないので謎が深まるばかりである。


(……ま、今考えてもしょうがないな。けど、クラルテって人が生きているなら何処に居るんだろうな)


 気になるのは、クラルテ・フロマというリヤンの親戚。生きているのか死んでいるのか何処に居るのかもライたちには何も分からない者だが、"癒しの源"についてかなり気になっていた。


「ライ? どうかしたの?」


「ん? ああ、何でもない。リヤンの持つ癒しの力……それが気になってな」


「私の……? うーん……確かに私も気になるかな……。けど、何も分からないから……ゴメン……」


「ああいや、謝る必要は無いと思うぞ? リヤンは悪くないからな。けどまあ、取り敢えずこの話は置いておこう。俺が気になって考えていただけだ。リヤンも無理に考えなくて良いさ。もしかしたら何処かで出会う可能性もある」


「そうかな?」


 クラルテ・フロマ。ライたちはその者が人間の国に居る事を知らない。なので、考えても意味が無いのだ。居場所の情報も何も無い。ライは生きていると考えているが、本人たちにはそれも分からない。

 何はともあれ、この場におらず姿も分からない者の事を考えるのはその親戚であるリヤンが本気で会いたいと思った時が一番最適だろう。


「うし、この話は終わりだ。そして俺たちの傷も完治した。これからどうする? ……って言わなくても大体は理解出来るけどな」


「うん。傷は治ったけど、色々と疲れがあるからね。私は暫く休みたいかな……」

「同じく。再生したが、今はまだ日差しが見えている。昼間だからな。私も少し休みたい」

「ああ、傷以外にも色々とダメージはある。今日はもう、動く気にすらならないくらいだ」

「うん……。疲れた。疲労が完全に取れないのは初めて」


 これからについて話そうとしたライだが、レイたちは言うまでもなくぐったりとしていた。それ程までにアジ・ダハーカとの戦闘が苦痛だったのだ。

 回復させる為の魔法・魔術。妖術。そしてリヤンの癒しは傷と同時に疲労も癒す。だが、先程まで受けていたダメージの記憶は残ったままである。幾ら癒そうと記憶が消える訳では無いのだ。故に、それを引き継いでしまうので身体が思うように動かなかったりするのである。


「私も……今日は疲れました。休む事に異論はありません」

『ああ、俺もだ。……アジ・ダハーカ。最強の名の通り、楽な戦いでは無かった』

『俺も。牛魔王にアジ・ダハーカっう支配者クラスの奴等を相手にしたからな。傷や疲労が取れたくらいじゃ、動くのも嫌になるぜ』


 ライ、レイ、エマ、フォンセ、リヤンに続くように話したニュンフェ、ドレイク、孫悟空の二人と一匹。彼女たちにも異論は無いようで、一先ず今日一日は休む事となる。

 次が愈々(いよいよ)魔物の国、支配者の街。魔物達が目論む"終末の日(ラグナロク)"を含め、街についたら気を休める暇は無さそうである。


 魔物の国の旅も残り僅かとなる。後は支配者を落とし、征服という形を取るだけだ。目的である世界征服にはまだ人間の国と幻獣の国が残っているが、魔物の国を落とした暁には半分成功という事である。


 まだまだ続く、長い旅路。そのうちの半分も終えていないが、魔物の国を落とせばその瞬間に半分を終えた事となるだろう。それが実現しようとしているのだ。

 魔物の国支配者の街。そして全世界を巻き込む"終末の日(ラグナロク)"。それが終わった時、ライたちは新たな世界へと到達出来るだろう。



 残り僅かな魔物の国の旅。そしてまだ続くこの世界征服の旅の道中。ライたちは暫しの休憩を挟み、眼前に迫った決戦へ英気を養う。

 まだまだ終わらず、後半分以上残っている旅にて、ライたちは目的を達成する為に行動を続けるだろう。永遠に続くかもしれないと思う旅の半分を終えようとしているのだから。

 世界征服の終わりを目指し、この広い世界を放浪するライたちだった。



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