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四百四十一話 復活・宇宙戦

 ──何処までも広く、何処までも続く赤い世界。熱く、痛く、苦しい場所──地獄。

 死した者が生前悪事を働いた時、その罪によって多数の地獄へといざなわれる。そんな地獄の底に一人、退屈そうに寝転がる者が居た。


「あー。暇だー。悪魔達が集まっていたから何かあると思っていたが……なんも無ェじゃねェか」


 そんな、この世に存在する全ての苦痛を集結させたであろう地獄に似合わぬ声が一つ。

 本来は地獄に置いて退屈などという事は普通無いのだが、この者──ゾフルにとってはそういう訳でも無いらしい。ゾフルは通常ならば寝転がれない筈の針が山のように連なる灼熱の大地で横になり、欠伸あくびを掻く程に退屈していた。


「やあ、退屈そうだね、ゾフル」


「……!」


 そんなゾフルに話し掛ける、一つの影。

 ゾフルはその声に反応を示して立ち上がり、軽く伸びをして声の主を確認した後でその名を口にする。


「グラオか。久し振りだな。態々(わざわざ)地獄に何の用だ?」


「別に。此処は僕が創った世界だからね。自分の作品……とは違うけど、自分の創った世界をたまに見て回るのはおかしくないだろう? 自分の世界を見て回る次いでにゾフルの方へ寄っただけさ」


「……。ああ、そうだな。確かにおかしくはない。だが、実際は違う目的だろ? 態々(わざわざ)俺の前に来たって事は、俺に何か用がある筈だ」


「正解♪」


 笑みを浮かべて話すグラオ。グラオが地獄に来た理由。それは、ゾフルに用があるから。その用とは何か分からないが、態々(わざわざ)地獄におもむく程の用事。ゾフルにとっては、それなりに面白そうな事だろう。


「単刀直入に言おう。君も現世に戻って"終末の日(ラグナロク)"に参加しないかい?」


「ほう? それは面白そうだ。かれこれこの地獄に数万年居るが、一向に悪魔達に別の動きが無いからな」


「残念、ゾフル。君が地獄に来てから現世ではまだ数ヵ月しか経っていないよ。ハリーフが去って、君が地獄にとどまるって決断を下してからはまだ数週間だ」


「マジかよ。やっぱ地獄に居たら感覚がマヒしやがんな。体感時間じゃ数百、数千、数万年だ」


 ゾフルが地獄に落とされてからはまだ数ヵ月。そしてハリーフが居なくなって数週間。どうやらゾフルは、地獄で行われる刑の所為せいで時間感覚が狂っているようだ。


「実際にそれくらい経っていたら転生するって手段もあるけど、君はまだまださ。転生するにはまだ時間が足りない。君の死体はマギアが冷凍保存しているし、細胞も殺さないように気を使っているから試しに生き返ってみたらどうかな? 魔物の国の者たちは世界……いや、宇宙規模の大戦争──"終末の日(ラグナロク)"を起こそうとしているから、何時起こるか分からない地獄の争いを待つより楽しいと思うよ?」


 生き物は死した時、転生するという選択肢がある。

 転生する際には生命いのちを与える者が肉体や技能などを与え、多岐に渡って分岐している世界の一つへ放つ。その全ての世界を創ったのが原初の神にして混沌の神であるグラオ。グラオ・カオス。

 グラオならばありとあらゆる世界を自由に行き来でき、気紛れで能力を授ける事も可能だ。

 なのでハリーフに実行したように、マギアと協力する事で姿形をそのままに生き返らせる事も容易い事である。どうせ退屈ならばと、気紛れでゾフルを生き返らせようと地獄におもむいたのだろう。


「そうだな。確かに地獄は退屈だ。七つの罪が具現化した悪魔達や七十二人の悪魔達が面白そうな事を起こすと思って待っていたが、それはまだまだ先みてェだからな。どうせつまらない世界だ。生き返らせてくれや」


「オーケー、交渉成立だね。じゃあ、一足先に現世に戻ってマギアと話しておくよ」


「ああ、頼んだぜ、グラオ」


 戦闘が生き甲斐であるゾフルからすれば、同じような罰を与えられるだけで特に面白味の無い地獄は退屈だったようだ。

 本人の予想が外れ、悪魔達に何の動きも無ければ、それよかその時が近いであろう現世で戦いに参加した方がまだ退屈を凌げる。

 "終末の日(ラグナロク)"について詳しく知らないが、それは現世で話せば良い事。新たな楽しみを胸に、ゾフルは元の世界に生き返った。



*****



「どうだい、ゾフル? 久々の現世は?」


「あー……身体が重いな。たった数ヵ月でこんなに鈍っちまうのか」


「まあ、傷を治したと言っても全ての機能が停止して死んでいたんだ。慣れないのは当然だろうさ」


「おー、ヴァイス。久々だな。体感は数万年振りだ」


 生き返ったゾフルは寝た切り。いや、死にっぱなしだった身体を直ぐに起こしてグラオ。そしてヴァイスに視線を向けて話していた。

 二人を確認した後、周囲を見回して他の者達へも視線を向ける。


「……んで、シュヴァルツ、マギア、ハリーフ……と……誰だ、テメェ?」


 視界に映った者達の名を順に呼び、最後に見た事の無い男性へ視線を向ける。

 一見すれば紳士的な佇まい。その気品溢れる服装や態度から、貴族か王族のような高貴な者という印象だ。その者は羽織っていたマントをひるがえし、自分の胸にてのひらを当てて軽く頭を下げながら名乗った。


「フッフ、話は聞いている。ゾフルとやら。名乗らせて頂こう。俺の名前はブラッド。此処、魔物の国で支配者さんの側近を勤めている。確か、会った事は無かった筈だな。しかし同族に会った事はあるかもしれない。俺はヴァンパイアだ」


「ヴァンパイアのブラッド……ねェ。クク、確かにヴァンパイアは魔物の一人だ。しかもかなり有名な魔物のな。魔物の国、支配者の側近でも何ら不思議じゃねェ種族だ」


「ああ。以後お見知り置きを、ゾフル殿」


「ああ、夜露死苦よろしくな。ブラッドさん」


 互いに握手を交わし、不敵に笑うゾフルとブラッド。何を考えているのか分からないが、ゾフルはブラッドを快く受け入れた。対し、ブラッドもゾフルを受け入れる。

 これにて会話が終わり、改めて身体を少し動かすゾフル。地獄では多数の戦闘を繰り返し、ありとあらゆる苦痛にこらえた。だが、現実世界の身体が鍛えられている訳では無い。様々な動きはイメージ出来るが、それを実行する為の身体が死んでいたので現実では以前の動きを取り戻すのに少々時間が掛かるだろう。


「そういや、ライ達はどうしたんだ? どうせアイツら、まだ生きてんだろ?」


 そんなゾフルが、ふと自分の敵対している者の姿を思い出してヴァイスへと訪ねた。

 最も倒すべき敵と決めているのか、ライたちの事が気になったのだろう。しかしまだ生きていると思っているようだ。無論生きているのだが、やはりその強さは認めているらしい。

 返答を待つゾフルを前にし、ゆっくりとゾフルの方を向いたヴァイスは笑って返す。


「そうだね、彼らは今──魔物の国、最強にして最後の幹部と戦闘中だよ」



*****



 ──大地が粉微塵に粉砕し、一つの山程はある土塊を空中に巻き上げた。

 次の瞬間に光を超越した速度に加速したライ。その風圧と衝撃のみで空中数千キロに浮かび上がった全ての土塊を粉砕し、魔物の国、最強の幹部にして全ての悪の根源であるアジ・ダハーカに近寄った。

 その拳は力強く握られており、魔王の六割。ライの力を上乗せして実質九割の力を纏った拳がアジ・ダハーカの身体に打ち付けられる。


「オラァ!!」

『ヌゥ……!』


 殴られた瞬間、その一瞬の間も置かれずに吹き飛ぶアジ・ダハーカ。その勢いで星を飛び出し、多数の惑星を粉砕しながら太陽の数万倍はあろう大きさの恒星に激突して停止する。


「"魔王の炎(サタン・ファイア)"!」

「"神の火炎(ゴッド・フレイム)"!」


『……!』


 次いで放たれた、魔王と神の轟炎。それが一瞬にして恒星を飲み込み、蒸発させて超新星爆発を無理矢理引き起こした。

 その爆発によって数光年が目映い光に包み込まれ、大規模な消滅の元となる熱と衝撃が恒星を前に空を飛んでいるフォンセとリヤンを飲み込──


「そらっ!」


 ──むよりも早く、超新星爆発の衝撃を拳で消滅させるライ。

 ライ、フォンセ、リヤンの正面には超新星爆発よりも更に強力な衝撃が起こり、超新星爆発の中心に居るであろうアジ・ダハーカごと吹き飛ばした。


『フッ、そう来なくては面白くない!』


 刹那、天を覆い尽くす程に巨大な翼を広げ、その余風で停止するアジ・ダハーカ。何光年飛ばされたかはアジ・ダハーカも分からないが、そこは先程と同じ場所だった。


「はあ!」

『食らうが良い……!』


 となるとそこに居るのはレイとドレイク。

 勇者の剣と灼熱の炎が同時に放たれ、大きな翼を広げたアジ・ダハーカを包み込んだ。

 一振りによって生じた無数の斬撃。そして一息によって生じた爆発的な炎。数光年に及ぶ爆発を耐えるアジ・ダハーカにダメージは無いだろうが、牽制程度にはなるだろう。

 アジ・ダハーカは元々決められた者と決められた方法でしか殺せぬ魔物。如何にして抑え、相手の動きを封じる事が目的なのだ。


『甘いわ英雄の血縁達よッ! お前達の力はその程度か! 死せぬ私を殺せずとも、多少なりとも傷を付ける事すら出来ぬのか! いや、傷付けた時に身体から現れるザッハークと爬虫類に怯えているのか! 答えは定かではない! だが、もう少し積極的に攻めたらどうだッ!』


 先程までとは違うような性格に変わるアジ・ダハーカと、その三つの頭にある三つの口から浮き出す、三つの火球。それは火球として纏まっている中でも燃え続け、存在するだけで周囲のものを気化させていた。

 特別な力を持つ勇者の剣とそれに護られるレイ、ドレイクは炎の影響を受けないが、かなりの高温である火球を前に生じる発汗が止まらなかった。


『受けてみろ!』


 創り出された瞬間、それがアジ・ダハーカによって吐き出される。その速度は光並みは無さそうだが、それでもかなりのものだった。


「……っ。やあっ!!」

『──カァッ!!』


「オラァ!!」


「"魔王の水(サタン・ウォーター)"!」


 それに向けて勇者の剣を振るい、斬り付けるレイと同じく炎を吐いて護りの体勢に入るドレイク。

 そして、いつの間にか数光年先の場所から戻ってきていたライとフォンセが各々(おのおの)の手法でそれを打ち消した。

 打ち消された一つの火球は消える瞬間に目映い光を醸し出し、秒も掛からず大爆発を起こす。それによって数光年の場所が消滅した事から、一つ一つには超新星爆発と同等。もしくはそれ以上の力が秘められていたらしい。


「"神の粛清(パージ・オブ・ゴッド)"!」


『……ッ! なにっ……?』


 世界が複数の超新星爆発に飲み込まれている間、リヤンによって放たれた数万を超える雷撃の嵐。そのいかづちが全てアジ・ダハーカに命中し、超新星爆発の中心で感電する。

 ライ、フォンセと同等。何時の間にか戻っていたリヤンの存在に気付かず思わず声を漏らすアジ・ダハーカ。しかし声は途中でいかづちの雷音に掻き消され、超新星爆発にも比毛を取らぬ程の目映い光が世界を包み込んだ。


「さて、どうだろうな?」

「分かんない……。けど、手応えはあった」

「どうせ倒せないなら、相手が諦めるまで攻めるのが良いからな」

「うん。私は行動場所が限られちゃうけど」

『俺もだ。しかし便利だな、この世界は。宇宙でも呼吸が出来る』


 近くの星に降り立ち、ライたちがアジ・ダハーカへの手応えを話す。超新星爆発と同等の爆発が起きた時、レイとドレイクは既にライとフォンセの手によって安全な場所へと連れて行かれていたのだ。なので周りの被害を考えず、リヤンが多数のいかづちを落とせたのである。

 つまり此処は、近くにある星に変わりは無いが、悪魔で宇宙的に見て近くにある星だ。軽く数十光年は離れている事だろう。しかし目映い超新星爆発。数十光年離れていても、その光は遠目に見てもかなりの大きさがあった。


『今のは良かったぞ。しかと傷付いた。そして、傷から現れたザッハークと爬虫類も容易く消してしまう程の電流だった』


「……。本当、頑丈な魔物だな。アジ・ダハーカさん。いや……決められた事柄でしか死なないから、その制約が無ければ既に死んでいたかもしれないな」


『ああ、そうだな』


 背後から話し掛けて来る、アジ・ダハーカとそちらを向かずそれに返すライ。数十光年の距離を一瞬で詰め寄る事はアジ・ダハーカからすれば楽な事だろう。

 ライ、レイ、フォンセ、リヤン、ドレイクは皆が冷や汗を掻いているが、直ぐに追い付かれるという事は知っていたので背後からアジ・ダハーカの声が掛かっても平常心を保つ事が出来ていた。


 戦闘開始から一時間は経っただろうか。体感ではかなり長い間戦闘を行っているように錯覚してしまうが、実はそれ程経っていない。アジ・ダハーカを前にするだけでかなりの労力が消費されるからライたちはそんな気分になってしまったのだ。

 それに加え、戦闘を行わなければならない現状。集中力による精神的な消費は想像よりも遥かに絶大なものだった。


「まだまだ、先は見えなさそうだな。エマたちは勝ったかな……」


「どうだろう。けど、終わっていてもおかしくは無いね」


 疲労のあまり、背後に佇むアジ・ダハーカでは無く別の世界に居るエマ、ニュンフェ、孫悟空の事が気に掛かるライ。それに同調した事から、レイも同じ事を考えているようだ。

 そんな、他愛もない小さな会話を聞いたアジ・ダハーカ。背後に立たれては姿が見えないので仕草は分からないが、笑ったような声音で高所から言葉を発する。


『そうだな、お前達にはまだ仲間が居る。これは勘だが、恐らく何らかの形で魔物の国の主力と行った戦闘は終わっているだろう』


「……? いきなりなんだ、そんな事を?」


 発された言葉の内容は、理解し難いものだった。言っている事の意味は分かるが、何故今それを言うのかが分からないのである。

 ライの態度からそれを悟ったアジ・ダハーカは笑うような声音で言葉を続ける。


『確かに代わり映えしない戦いは退屈だ。だからこそ、次のステージへと上がるのも悪くないと思った』


「……なに?」


 それはつまり、現在行っている代わり映えしない長い戦いに飽きない為、別のやり方を見つけるとの事。言っている意味がよく分からないが、アジ・ダハーカが次に取った行動によってその言葉の意図が明らかになる。


『つまり、こう言う事だ』


『……! 何だ、此処は。宇宙?』

「……! ライ、レイ、フォンセ、リヤン、ドレイク。そして斉天大聖に……魔物の国の幹部だと……? 何故此処に……?」

「い、いえ。エマさん。どうやら私たちが移動したみたいです……!」


 ──エマ、ニュンフェ、孫悟空の姿がライたちの前に現れたのだ。

 アジ・ダハーカの言う次のステージ。それは、ライたち一行を全員この世界に呼び出し、戦闘を続行するという事だった。

 そんな呼び出された三人。各々(おのおの)の反応を見届け、アジ・ダハーカはライたちから距離を置いた。ライたちも背後を振り向き、改めてアジ・ダハーカに視線を向ける。向けた先に映ったアジ・ダハーカの顔は不敵な笑みだった。


『次のステージはこれだ。お前達侵略者一行を私が纏めて相手致す。予想通り、他の者達の戦闘は終わっていたようだからな!』


「……。成る程ね。これがアンタの狙いか。何故不利になりそうな事をって訊ねたいけど、アンタはその方が面白いからだとでも言いそうだから敢えて何も訊ねないよ」


『話が早くて助かる。御託など戦闘に置いて無駄でしか無いからな』


 足を踏み込み、ライたちの居る星を大きく揺らすアジ・ダハーカ。ライ、レイ、フォンセ、リヤン、ドレイクの元々アジ・ダハーカと戦っていた者たちは構え、後から来たエマ、ニュンフェ、孫悟空も状況を理解してアジ・ダハーカに構える。

 ライたちとアジ・ダハーカの織り成す戦闘は開始から一時間数十分を迎えた時、次のステージへと段階が上がった。

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