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四百三十四話 空中戦

 何処までも続くかと錯覚する程の空にて、天を覆い尽くす程に巨大な翼を広げ、ライたちを見下ろすアジ・ダハーカ。

 戦闘が始まってから数分。戦況に大きな変化は無く、互いに相手に一歩も譲らない接戦だった。変化について強いて言うのならばアジ・ダハーカを傷付ける事で姿を現したアジ・ダハーカの化身であるザッハークが消えたくらいだろう。

 そんな中、天を覆うアジ・ダハーカは大口を開き、ライたちに狙いを定める。


『此方からも攻めさせて貰おう』


 その口から放たれる一つの炎塊。

 炎の大きさは数キロ程であり、数億度には届くだろう。存在するだけで星を焼き尽くす温度だ。これを受けては、ライ、フォンセ、リヤンは無事だとしてもレイとドレイクには大きなダメージが行ってしまうかもしれない。


「オラァ!」

「"魔王の海(サタン・シー)"!」

「"神の雨(ゴッド・レイン)"!」


 それを阻止するべく、全ての異能を消し去る魔王ライの拳と全てを飲み込む海水。そして恵みの雨が数億度の炎に降り掛かる。全てはぶつかって相殺され、炎によって水が蒸発する際に起こる融合で大きな爆発が巻き起こった。

 ただの水ではそれ程までに大規模な爆発は生まれないのだが、海に混ざっていた様々な成分が爆発の原因である。近付き切る前に爆発した炎だが、存在するだけで周囲を焼き尽くす程の温度を有している。

 これではレイとドレイクも大きな被害を受けてしまいそうだが、


『む、生きているだと? かなり高温な炎だった気がするが、一体……』


「大丈夫、ドレイクさん。私が居れば大抵の攻撃は消し去れる……!」


『まさか……レイ殿が……!』


 勇者の剣に護られた事で、一人と一匹は無事だった。多少の火傷や今までに受けたダメージなどはあるが、それを除いて無傷に等しい状態であるレイとドレイク。

 訝しげな表情で訊ねるドレイクの言葉に対し、レイは勇者の剣を見せながら頷いて返す。


「うん。この剣は少し特別なの。大抵の攻撃は受け止められる……!」


『成る程……。深くは追及せぬ。勇者の剣ならば有り得ぬ事では無いからな』


「ありがとう。私も剣の詳しい事は知らないから、深く追及されないのは助かるよ」


 勇者の剣。それは一振りで森を断ち、ライやその他幹部達の攻撃を受けても無傷で耐える剣。見る分にも美しく、日の光や月の光に照らされて輝く銀色の刃と、飾り気が少ないにもかかわらず人を惹き付ける何かを感じる柄を持つ。

 不思議な剣という事以外は何も分からないが、アジ・ダハーカの攻撃を防げたので一先ず今は置いておく事にした。


『結局、全員無傷に等しい状態か。分かっていた事だが、やはりかなりの強敵となりうる力を秘めているらしい』


 一度羽ばたき、空中で体勢を整えるアジ・ダハーカはライたちを見て呟くように話す。

 実際、本気には程遠いにしても大抵の生き物は即死する程の炎。それを放ったにも拘わらずほぼ無傷で耐えたのだから当然だろう。アジ・ダハーカの多少の感心がレイへと向かっていた。


「当たり前だ。俺の仲間には、肉体的にも精神的にも弱い奴なんか居ないからな?」


『良い信頼関係だ。個々が強いのも良いが、チームで強くなくては戦争は生き残れぬからな。お前達全員、"終末の日(ラグナロク)"の参加資格があるのだから』


「それはアンタらが勝手に決め付けただけだろ!」


『フッ、そうであったな……!』


 光の領域を何段階も突き破って加速するライ。アジ・ダハーカは天を覆い尽くす翼を広げたままでもう一度羽ばたき、嵐を彷彿とさせる暴風を引き起こしてライに近付いた。

 二つの衝撃が空中で激突し、その破壊エネルギーが周囲に散る。それは風圧のみで多数の惑星・恒星を粉砕するであろう威力を秘めており、それが全て霧散してライとアジ・ダハーカが弾き飛ばされた。


「さっきからそうだけど、この力に張り合うか。殆どの幹部は抑えられたんだけどな」


『当然だ。他の幹部よりも頭一つ抜けていると言われているからな。実際、私自身にもその自覚はある。だからこそ世界の英雄達の子孫を纏めて相手に出来ているのだからな!!』


 珍しく声を張り、己の頭上に億を有に超える程の矢を顕現するアジ・ダハーカ。刹那にその矢を全て飛ばし、周囲へと散らすように放った。

 その一つ一つには山を砕く程度の力が秘められている事だろう。しかしそんな攻撃、ライたちには無意味に等しいものである。


「そらっ!」


 先ずは一番近くに居るライが拳を放つと共に爆風を巻き起こし、数千万本の矢を消し去る。その流れで回し蹴りを放ち、新たな爆風で更に消し飛ばした。それでもこの数が多過ぎる故に全体の二割程しか蹴散らせず、八割の矢はレイ、フォンセ、リヤン、ドレイクの元へと直進し続ける。


「"魔王の壁(サタン・ウォール)"!」


 それに向け、正面に土魔術で壁を造って防ぐフォンセ。その大きさは山くらいだが、魔王の魔力が上乗せされているので強度は惑星よりも硬いだろう。

 魔王の壁にぶつかった矢は爆発のような轟音と共に砕け散り、小さなクレーターを複数造り出しているがある程度は抑え切れていた。


「"神の壁(ゴッド・ウォール)"!」


 一方で、リヤンは神の力をもちいて壁を造る。フォンセの壁と同様、山を砕くであろう数億本の矢がその壁に当たって砕ける。砕けたのは数千本程度。まだまだ矢の数は減っていない。


『フッ、これは試練だ! 各々(おのおの)のやり方で防ぎ切り、私へと攻撃を仕掛けてみよ!』


「一々防ぐ必要なんか無い!」

『レイ殿に同意だ!』


 矢を防ぐライたちに視線を向け、高らかに話すアジ・ダハーカへドレイクとドレイクに乗ったレイが近付いていた。

 此方は広範囲を防ぐ方法が無い。なので自分に向けて降り注ぐ物だけを防ぎ、弾きながらアジ・ダハーカを狙おうと言う魂胆なのだろう。

 レイとドレイクの目論み通り自分たちには矢が当たらず、そのまま背後に直進して生物の居ない広い大地で爆発が起こる。粉塵が下方に舞っているが、空で戦闘を行うレイ、ドレイク。そしてアジ・ダハーカには関係の無い事だろう。


『龍にまたがる勇者か。面白い、最も英傑になりうる可能性を秘めているのはお前か、この場で確かめてみようでは無いか!』


「……! 相手も武器を……!」


『おかしくはないな。千の魔法の中には武器錬成の魔法くらいありそうだ。錬金術もその他の術も、何かから何かを生み出すという点では魔法と同義だからな……、』


 レイを見てフッと小さく笑うアジ・ダハーカが、剣、槍、銃、弓矢、斧、棍棒、その他にも種類を問わず多数の武器を生み出した。

 その武器類をさながら手足のように操り、アジ・ダハーカがレイ、ドレイクへと仕掛ける。


『ハアッ!』

「やあっ!」


 周囲に散りばめられる金属音。

 レイは勇者の剣と天叢雲剣あまのむらくものつるぎを巧みに操り、アジ・ダハーカの生み出す様々な武術を華麗にいなして行く。


 剣で斬り付けられるのならば剣で弾き、槍で突かれるのならば槍の柄を切り落として無効化する。銃で撃たれれば銃弾を刀身でいなし、弓矢が放たれるのならば刀身に鏃を当ててガードする。斧、棍棒も二つの剣を使ってかわし、足場の少ないドレイクの背で何とか防いでいた。


『ほう、やるな。ある程度の武術には対抗出来るらしい』


「当然……! けど、ドレイクさんのお陰でもあるよ……!」


 レイがそれらを防ぎ切れている理由。それは、何もレイの力だけでは無い。

 空を飛べぬレイの足代わりとなっているのがドレイクならば、剣で弾いたりいなしたりする以外にかわしているのはドレイクが的確な位置を把握して当たらぬ様に工夫しているからだ。

 長年連れ添った歴戦の相棒のように息ピッタリな一人と一匹。アジ・ダハーカも無論理解しているので、レイのみならずドレイクも評価している事だろう。


「俺を忘れるな、アジ・ダハーカ!」

『無論、覚えておるぞ侵略者』


 その横から光の領域を超越したライが殴り掛かる。アジ・ダハーカはそれも理解しているので、一度の羽ばたきでライ、レイ、ドレイクから距離を置いた。


『それ故に、相応の力を持ってして応えるのが礼儀というものだ』


 刹那、アジ・ダハーカが三つの炎塊を創り出してそれをライたちに放った。近距離なのでレイとドレイクはその余波だけでダメージを受けてしまいそうだが、勇者の剣があるのでその点に関しては無問題である。


「その礼儀に応えるのも礼儀の他ならないな……!」


『ああ、互いに礼儀をわきまえて戦闘を行う。紳士的な戦いだな』


「そもそも紳士は争わねえよ! ……多分」


 三つの炎塊を拳で吹き飛ばし、空気を蹴って加速するライ。アジ・ダハーカも対抗するように翼を高速で動かし、ライから逃げるように進む。しかし無論逃げている訳では無い。地上では無く、空中にての戦闘を試みようとしているのだ。


『お前に空を制する事が出来るか?』


「さあな。やった事無いし、やってみなくちゃ分からないな。いや、少しは経験があるか……?」


 空中にて高速で飛び回り、横並びになったライとアジ・ダハーカ。横に並ぶ一人と一匹は空中でぶつかり合い、拳と巨腕。頭と頭。身体と身体を衝突させて衝撃波を散らす。

 残像すら残らぬ程の速度で周囲の景色に溶け込み、爆音と破壊だけが世界に映り込む。空中戦は慣れていないライだが、翼があり空中戦にも長けているアジ・ダハーカと互角に戦えているのなら上々だろう。


『空中戦をあまりした事が無い割りにはそれなりだ。まあ、悪魔でそれなりだがな』


「……!」


 瞬間、ライの横からアジ・ダハーカが消え去り、気付いた時にライはアジ・ダハーカによって叩き落とされていた。見えなかった訳では無いが、慣れない空中戦故に反応が遅れてしまったのだろう。

 上空数万メートルから叩き落とされたライは隕石の如く落下し、下方の大地に全身を強く打つ。それによって下方が盛り上がり、底が見えぬ程の奈落が形成された。


「"魔王の矢(サタン・アロー)"!」

「"神の矢(ゴッド・アロー)"!」


『ほう? 光を超えたせめぎ合いに追い付いたか、魔王の子孫と神の子孫よ』


 アジ・ダハーカの上下を囲むように矢を放つフォンセとリヤン。

 その矢はたった一本。二つ合わせて二本だが、恒星を砕く力は秘められている。それを二つ受けたならば、頑丈なアジ・ダハーカでも多少のダメージは負うかもしれない。


『だが、その程度で私を仕留められる訳が無かろう。宇宙の中でも随一の血縁だが、お前達はまだまだ未熟だ……!』


「「…………!」」


 羽ばたき、爆風を引き起こしてフォンセとリヤンを吹き飛ばすアジ・ダハーカ。放たれた魔王の矢と神の矢を消し去り、二人を先程のライと同様地に叩き落とした。

 曰く、フォンセとリヤンが未熟だから魔王と神の技を防げたようだ。


 全てを破壊する魔王と全てを生み出した神。その力を一〇〇パーセントで使えればアジ・ダハーカですら打ち倒す事が出来るだろう。更に言えば、支配者ですら倒す程の力を得られる。支配者と同等に近いアジ・ダハーカを倒せるのだから当然だ。

 しかし二人はまだまだ成長途中。特にフォンセに至っては種族的に生まれたての子供と同義。ライのように本人を宿している訳では無い二人からすれば己を鍛えるしか方法が無いという事だ。


『して、次はお前達だな? 勇者の子孫とドラゴンの息子よ?』


「追い付いた!」

『行くぞ、レイ殿!』


 ライ、フォンセ、リヤンを吹き飛ばしたアジ・ダハーカは、次に迫っていたレイとドレイクに注意を向ける。光の領域を超越した速度で進んでいたライとアジ・ダハーカ。そしてそれに追い付いたフォンセとリヤン。少し遅れたが、後から追い付いたドレイクの速度もかなりのものだろう。


「やあ!」


『龍に乗っての戦闘は大変そうだな。今では足元レベルに張り合えているが、ドラゴンの息子が優秀で無くては足元にすら及ばぬ』


『カッ!』


 レイが二つの剣を振るい、ドレイクが炎を吐いて牽制する。それを正面から受け止め、弾くアジ・ダハーカ。剣には爪を。炎には炎を持ってして応える。刹那に多種多様の武器を顕現し、再び仕掛ける。レイとドレイクは苦しみながらもそれをいなし、空中にて三つ頭の蛇と支配者の血を受け継ぐ龍が飛び交う。

 ライ、フォンセ、リヤンは空中戦に慣れていないが、ドレイクは慣れている。時間だけならば、レイとドレイクのコンビが一番長く張り合えている事だろう。


『まだまだそんなものでは無かろう、伝説の血縁者よ!』


「『…………ッ!!』」


 アジ・ダハーカが大きく猛々しく吠え、一人と一匹を怯ませた。次いで大木を彷彿とさせる程に巨躯の尾をドレイクの頭に叩き付け、一人と一匹も叩き落とす。

 一瞬後に下方で粉塵が舞い上がり、計三つの土煙が周囲を覆った。そしてそれを翼の一仰ひとあおぎで吹き飛ばす。


「レイ、フォンセ、リヤン、ドレイク。大丈夫か?」


「うん、何とか……」

『レイ殿は死守した』

「私も無事だ……」

「うん……強いね、アジ・ダハーカ……」


 偶然か否か。アジ・ダハーカが狙ったのか定かでは無いが、ライたちは全員が同じ場所に落ちていた。後から風が吹き抜け、ライたちの髪を揺らす。それと同時に土煙が晴れ、アジ・ダハーカが空中から落下した。


『どうやら空中では私に分があるようだ。ならば次は地上戦と行こうでは無いか』


「ハハ、余裕があるみたいだな」


『この状況で笑っていられるお前に言われとうない』


「この状況って……どちらかと言えば数的にアンタの方が不利なんだけどな」


 呟くように言い、アジ・ダハーカに構えるライ。レイ、フォンセ、リヤン、ドレイクもそれに続くよう体勢を整え、全員がアジ・ダハーカの方を見る。

 ライたちとアジ・ダハーカの戦闘は、終わりまでまだまだ掛かるだろう。そして舞台は、空から地上へと移った。

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