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元・魔王と行く異世界征服旅  作者: 天空海濶
第三章 最初の街“レイル・マディーナ”
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四十二話 魔族の国・酒場

 時間は夕刻。どちらかと言えば夜に近い。

 目に映る太陽と月が二つの方角に一つずつあり、空を星がまたたく光景は中々風情がある。

 そんな紫色の空の下、薄暗い道を行くライとフォンセは周りの様子を見ながら歩いていた。


「……当たり前というか、なんというか……別に変な目で見られたりしないな。この街に住んでいる訳じゃないのに」


「まあ、そうだろうな。おそらくダークが言っていた、"他の国"とやらからも魔族の客が来たりするのだろう。そしてこの街の広さ……まあ、おかしな行動を取らなければそう怪しまれることはないだろう」


「まあそうか、そうだよな。流石に住んでいるもの以外立ち入り禁止とか無いか」


 ライは正直、街に入って直ぐに争い事や面倒事に巻き込まれると懸念していたが、そんな事は無く普通に溶け込めていた。

 強いて言えば、裏路地から変な声が聞こえてくるくらいだ。


「……で、何だよあの声は……」


「知らん。まあ、金銭でも巻き上げているだろう」


 ライはその声が気になり、呟くように言う。フォンセは、さあ? という顔付きでライに言った。

 言っている事は物騒だが、確かにそうかもしれないのは事実。魔族の性格は好戦的。なので多少の問題が起こるのだろう。


「やっぱ治安悪いのか? 血気盛んって度々聞くしな。……あ、何か売ってるぞ? 見てみるか? そういえば人の国と家も少し違うな……。よく見たら街灯にも違いがある。あ、他には……」


「寄り道をするな……。そんなのはどうでも良いだろう……。今は情報収集が先決だ」


 興味津々で周りを見るライに呆れた顔で言うフォンセ。

 ライが好奇心旺盛なのは知っているが、治安から店、家の造りや街灯etc.と、目に付く物全てに興味を寄せる。


「おっと……悪い悪い。やっぱ気になってな。まあ、その国によって違う文化を見るってのも世界征服に必要な事かもしれないだろ? ほら、種族によっては文化が違くて生きずらかったりしそうじゃん?」


「フッ……そうか」


 ハハ、と笑いながら頭を掻いて話すライを見たフォンセも小さく笑い一言だけ言った。

 そんな事を話しながら歩いているうちに人通りも増え、賑やかな店に辿り着く。


「へえ……此処が酒場か……」


「そのようだな。随分と賑やかな場所だな……私が思っていたよりも盛り上がっている」


 ワイワイガヤガヤと、人間のような見た目をした人間ではない種族──魔族が酒場で酒盛りをしていた。

 その様子は中に入らずともどれ程盛り上がっているのかまる分かりである。

 取り敢えず入り口に立ったまま居るのもあれなので、ライとフォンセも酒場に入る事にした。



*****



「大丈夫かなあ……ライとフォンセ……」


 魔族の国から少し離れた森の湖で、心配そうにレイは呟いた。

 魔族の国というものは、自分の思い込みだが治安が悪くて危険が多い。という認識のレイ。


「心配するな、レイ。いくら病み上がりとはいえ、勝負を挑まれたとしてもそうそう負けることは無いだろう。危険があれば直ぐに帰るとフォンセも言っていた」


 そんなレイを見たエマは微笑んで返す。ライは魔族の国を治める幹部の一人を倒した実力の持ち主だ。

 そして、フォンセも幹部の側近? 的な者を倒している。

 ライの傷はまだ治ったばかりだが、魔族の幹部──ダークと対峙したときは今以上に傷が開いていた。

 要するに、普通の魔族ではライとフォンセに到底敵わないという事である。


「そっか……うん、そうだよね。仲間の私が信じてなくちゃ駄目だよね。今回の目的は偵察だけだし、争い事に巻き込まれることも少ないはずだもんね」


 エマの言葉を聞き、何とかポジティブに考えて不安を払うレイ。そんなレイは気になった事をリヤンに聞いてみる。


「あ、そうだ。リヤンってお父さんやお母さんとかはいないって言っていたけど……顔とかも見たこと無いの?」



「…………………………………………………………」



 長い沈黙。

 レイはしまった。と口を押さえる。

 何気無く聞いたが、失言だったと慌てて話題を反らそうとする。


「あ……え……と……」


 ワタワタと手を動かし、何を話そうか考えているとき、リヤンは口を開いた。


「見たこと無い……というより……分からない……」


「……え?」

「……分からない?」


 リヤンが言った言葉に聞き返すエマ。慌てていたレイも動きが止まり、首を傾げてリヤンを見つめる。

 リヤンの返答は分からないとの事。此処が森だからか、両親の写真や絵すら見た事が無いのかもしれない。


「うん……。分からない……。顔を見たことが無くて……姿も……何も知らない……」


「何も知らない……両親の写真や絵も無いの……?」


 何も分からないと言うリヤン。その事からレイの推測は正しかったと知り、確認を込めると言う意味で恐る恐るリヤンに尋ねる。


「うん……。両親に関する物が何もなくて……私はこの森で幻獣・魔物と一緒に暮らしていたの……。今ではこの子たちが私の友達とお父さん、お母さんみたいなものだよ……」


 フェンリルとユニコーンを撫でながら呟くように言うリヤン。

 ガサガサとくさむらが揺れ、遠方で他の幻獣・魔物が吠える。それを聞くに、幻獣や魔物たちは常にリヤンを見ていてくれているのだろう。


「ふふ……分かるぞ、その感覚。私も独りだったからな……。草木や花のようや自然が一番の友だった」


 そんなリヤンに話すエマ。エマもライたちに会うまでは、孤高のヴァンパイアとして人を襲って生きてきていた。

 数千年生きた現在、それまで友や恋人と呼べる者はいなかったエマ。

 レイはそんな二人を見つめ、誰に言うという訳でももなく、呟くようにボソリと一言。


「でも……何か寂しいね……」


 レイが言った言葉は風にまかれて消える。

 夕刻から更に日が落ち、月がみずからを主張する時刻となっていた。

 ヒュウと吹き抜けるそよ風がレイ、エマ、リヤンの頬を撫でる様が切なく感じるレイ。

 そんな冷たい風を浴びながら、魔族の国へ行ったライとフォンセの帰りを待つ三人と二匹だった。



*****



「……さて、取り敢えず入ったは良いが……何かこのノリは苦手だな……」


「ふふ……そうか? まあ、旅の途中で賑やかな場所はあまり通らなかったからな。仕方ないだろう」


 水の入ったコップを片手に周りの様子を眺めるライ。周りでは魔族の大人達が酒を飲んだり、肩を組んでいたり、殴りあっていたり……と、中々に賑やかな光景が広がっていた。

 ここの内装は一般的な酒場と同じような感じだ。ハダカ電球が騒ぎで揺れ、酒樽が積み上げられおりカウンターやテーブルには数々の飲食物が置いてある。

 主に木材を使って建てられたであろう建物は、全体的に榛摺色はりずりいろで森の木々を彷彿とさせる色合いだった。

 そして、榛摺色はりずりいろの木材をハダカ電球が照らしており、その黄色に近い橙色だいだいいろの光は、見ているだけで温もりのようなモノを感じる。


「……てか、こんなに楽しそう? ……ならこの街は征服しなくても良さそうだな。むしろ俺が攻めた時の方が荒れそうだ……。ダークとはまた戦うことになりそうだがな」


 そしてそんな魔族達の様子を見ているライがフォンセに言った。その手のコップではカランと、水の中に浮いている氷が揺れる。


「まあ、確かにな。世界征服が目標だとしても、善良? ……な者達は巻き込まないのがライの考えだろ?」


「ああ、そうだな。気ままに世界征服をして、たみから反感を買ったら元も子もないさ」


 フォンセが言ってライが返し、再びカランと氷が揺れた。

 そんな辛気臭い会話を横に、周りは相変わらず賑やかである。

 そして、そんな風に話しているライとフォンセに近付く影が三つほどあった。


「おう、兄ちゃん! 姉ちゃん! 見ねえ顔だな、どうだ? 俺たちと一杯やらねェか? 今日は気分が良い! 俺が奢ってやるよ! あっちの賑やかなグループだ!」


「ハハハ! お前は何時も気分が良いんじゃねえか!?」


「言えてるね! まあ、二人で飲んでいるってのはそんなに面白くないだろう? どうだい?」


 それは賑やかな三人組だった。男性二人に女性一人。

 その三人組に悪意や企みというモノはなく、純粋な好意でライとフォンセを誘っているようだ。


「「…………」」


 ライとフォンセは目を見合せ、少し考えたあと笑い掛けるように三人組へ返した。


「……そうだな。よし。じゃあお言葉に甘えさせて貰うよ」

「……ああ、その方が『私たち的にも助かる』」


「お! 流石兄弟!!」


 ライとフォンセの言葉に笑う男性。

 兄弟になった訳ではないが、魔族同士という事でそんな風に言っているのだろう。

 そしてライとフォンセが誘いに乗った理由は、輪の中に入れば情報が集まりやすいからである。

 人脈を広げる事により、自然と情報などのような必要な物が集まってくるのだ。

 こころよく了承したライとフォンセは、その三人組がいるグループに入る。


「お、誰だそいつら?」

「何だ何だ?」

「まだ若いな……それもかなり」


 そのグループに入るや否や、ゾロゾロとグループの者達がライとフォンセを囲んで興味津々に尋ねていた。

 ほろ酔い状態ではあるが、その者達の雰囲気も悪くなかった。そしてそんな者達に対しライとフォンセを誘った男性がその者達に説明をする。


「おう! 二人だけで飲んでたからな! 誘ってきたんだ! まあ、飲んでたのは水だったけどな!」


「へえ? 子供なのに此処に来るたあ、根性()わってんな!」


 男性の説明を聞き、ワハハと豪快に笑う者達。

 根性がわってているとはどういう意味だろうかと考えるライ。


「で、お前達は何処から来たんだ? 見たところお前達も魔族だろ?」


 そんな事を考えていると、一人の男性がライに質問する。やはり見たことが無いって事で出身地が気になるのだろう。

 その質問を聞いたライは暫し考え、その言葉に返した。


「……ああ、何処から……っていうか旅をしているんだ。まあ、若いうちに経験しておくのは悪くないからな」


「ハハ、しっかりしてやがるぜ。見たところまだ産まれて間もないくらいだろ?」


 男性は産まれて間もないと言ったが、ライは生を受けてから十年以上生きている。魔王(元)も言っていたが、十代の頃は魔族からすれば赤子みたいなものなのだろう。


「そういや、アンタらは二人旅なのか? 見た限りじゃ仲間も他に居ないようだが?」


 そして男性は、キョロキョロしながらライに他の仲間がいないかを尋ねその事にライは応えた。


「ああいや、仲間は他にいる。けど、此処にはいないだけだ」


「へえ? そうかい。まあ、かなり美人な仲間を連れてるな! この娘、将来は有望だぜ? ハッハッハ! 今のうちに手ェ出しちまいなよ!」


 ハッハッハと笑いながら話す男性。ライとフォンセは愛想笑い。というより苦笑を浮かべ、適当に相槌を打っていた。これでは情報を聞くに聞けない状態だ。

 男性は興味津々でライに質問を続け、その横でライとフォンセは水を飲み周りの者達は酒を飲む。

 それなりに和やかな空間が続く中、店の入り口が騒がしくなってくる。


「……何だ……?」


 ライが入り口の方に目をやり、フォンセや周りの者達もそちらの方を見る。

 元々賑やかだった酒場だが、先程よりも遥かに賑やかになっていたのだ。誰でも気に掛かるものだろう。


「オイオイ……コイツァまた珍しい御方がやって来たじゃねえか……!」


「おー! 本当だ! マジじゃねえかァ!」


 その盛り上がり方は悪い雰囲気や問題が起こりそうなモノではなく、有名人や著名人が来たかのような盛り上がり方だった。

 ライとフォンセも気になり、入り口の方に目を凝らす。


「あー……『面倒』だな……。ちょっと顔出すだけであんまり盛り上がらないでくれよ……」


「「…………は?」」


 その者の聞いたことあるような口調に、気だるそうな表情。そして、"珍しい御方がやって来た"という事から、『それなりの地位と力を持っている』という事だ……。


「…………あ?」


 その者──ダークはライとフォンセに気付き、そちらを見る。


「「「…………………………………………」」」


 戦う筈だった三人は目が合い、この酒場で出会った。

 確かにこの街を治めているのはダークだと言っていたが、僅か数分間だけで出会ってしまうとは思いもしなかった三人。

 ライ・フォンセ・ダークが揃い、また何とも言えない微妙な空間が広がる。

 これから夜も深くなり、魔族にとっては心地の好い時間帯になろうとしている。

 思わぬ形で再会してしまったライ・フォンセ・ダークは、お互いを確認して苦笑を浮かべるのだった。

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