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四百十六話 砂漠の戦闘

 灼熱の砂が舞い上がり、次の刹那に衝撃によって周囲へと拡散された。それは砂嵐のように周囲へ広がり、視界を薄暗く埋め尽くす。次の衝撃でそれらが吹き飛ばされ、砂塵の中心に居た者たちの姿が明らかとなる。


「やあ!」

「やるね」


 幻獣・魔物の力を宿したリヤンが敵であるヴァイスを狙い、それに対応するヴァイスは如意金箍棒にょいきんこぼうを振るってリヤンを弾く。

 獣の力を宿した肉体と神珍鉄からなる如意金箍棒にょいきんこぼうがぶつかり合い、二人の身体は空中から下方に広がる地へと吹き飛ばされた。

 そのままの衝撃で砂漠の砂にバウンドし、新たな二つの砂塵を巻き起こす。その砂塵から二つの影が飛び出し、一歩踏み出すごとに速度を上げて加速する。


「ハッ!!」

「伸びろ如意棒」


 ヴァンパイアを始めとし、様々な幻獣・魔物の力を使って強化した拳を亜光速で迫る如意金箍棒にょいきんこぼうに激突させるリヤン。

 それによって生じた衝撃が灼熱の砂をもう一度舞い上げ、リヤンと如意金箍棒にょいきんこぼうが停止する。


「……ッ。やっぱり痛い……!」


 亜光速で激突した金属。激痛が走らない筈が無い。加え、如意金箍棒にょいきんこぼうは神造の武器。通常の武器とは強さの次元が何段階も違う。正面から受け止めたリヤンが異常だったのだ。

 これも神としての力を宿しているリヤンだからこそ織り成せる所業だろう。一瞬だけ停止したリヤンは砂を蹴って跳躍し、如意金箍棒にょいきんこぼうの上を駆けてヴァイスの元へと一気に詰める。


「あれを受けて無傷……? いや、確かに拳は砕けたみたいだ。なら再生したのか」


 如意金箍棒にょいきんこぼうを上に振るって縮め、天を舞うリヤンに先端を向けるヴァイス。推測しつつ思考を止め、その棒を伸ばしてリヤンを狙った。


「見切った……!」


 身体を空中でひるがえし、ヴァンパイアの特性である蝙蝠コウモリのような翼を広げて如意金箍棒にょいきんこぼうかわした。空中で数度の転換を繰り返して距離を詰め、更なる力を纏ってヴァイスを狙う。


「フム、これじゃ駄目か」


 リヤンの攻撃を避け、如意金箍棒にょいきんこぼうを人差し指程の大きさに縮めて懐に仕舞うヴァイス。

 仕舞うと同時に懐の中で素早く持ち替え、新たな武器を取り出してリヤンへ向ける。


「近距離なら、槍かな」


 同時に高速で槍を突き、それを薙いでリヤンから距離を取る。片手でクルクルと回し、構えを取った瞬間に踏み込んで今一度槍を突く。

 高速で放たれた槍は真空を生み出して空気を纏い、ヴァイスの手によって放たれた。


「……!」


 それを紙一重でかわし、ヴァイスの方を見やるリヤン。しかしかわした方向に薙ぐように振るわれ、飛び退いてそれを避ける。距離を置けば即座に詰め寄られて槍を突き刺すヴァイス。それを避ければその方向へリーチのある槍が放たれる。

 しなるそれは見た目よりも遠くの距離を捉え、五感の優れているリヤンですらかわすのが精一杯だった。それ程までにヴァイスが槍の扱いになれているのだろう。


「……っ。なら……!」


 だが即座にその対策を思い付き、対象となる幻獣・魔物の力を纏うイメージを作り出す。身体がそのイメージに適応したのを見計らい、槍を振るうヴァイスへと一気に迫った。


「はあ……!」

「……! 成る程ね」


 ヴァイスが武器を持っているにも拘わらず直進するリヤンへ、槍を放つ。しかしそれは弾かれ、その事から何かを察した。


「キマイラの肉体とヴァンパイアの再生力の合わせ技か。面倒臭い事をしてくれたものだ。まあ、それならそれで私にも多くのやり方が練られているけど」


 対策。それは、ただ純粋に強靭な肉体と微かな再生力を合わせる事。

 様々な幻獣・魔物の能力を一度見ただけで使用出来るようになるリヤンだが、いずれも本物には劣る。

 故にそれらを補う為、リヤンならではの合わせ技を持ってして対処したという事だ。本物よりも頑丈では無く、少し遅めの再生力だとしても合わせる事で実用性は高くなるのである。


『伸びろ、如意棒!!』


 次の刹那、"合成生物(キメラ種)"と生物兵器を吹き飛ばした孫悟空の如意金箍棒にょいきんこぼうが二人の間に割って入る。遅れて風圧が伝わり、強風と共に砂塵を舞い上げた。


『さて、こんなもんか』

『ま、俺らに掛かりゃこんなもんよ』

『そうだな。こんなもんはこんな風に終わりだ』


 そして姿を見せる三人の孫悟空。一仕事終えたような顔付きで不敵に笑い、ヴァイスの方を見て口角を吊り上げる。


『後はお前だけだ。覚悟は良いな?』

「残念ながら、それは無理だね」

『早えな。覚悟くらいしとけや』


 即答で返したヴァイス。質問をした孫悟空は思わずツッコミを入れてしまう。しかし、何はともあれ戦況はリヤンたちが優位に立っていた。

 確かに相手の兵士達は厄介だが、斉天大聖を謳われる孫悟空の敵では無い。支給された武器を使い、ただ真っ直ぐに攻めて来るだけの兵士達など戦うには簡単過ぎる相手だった。同上、改造された"合成生物(キメラ種)"もである。


「しかしまあ……。フム、確かに私がかなり不利だね。まだ手駒は何人かと何匹かを用意しているけど、このままでは私が無事では済まなくなる」


 三人の孫悟空が現れても焦りを見せず、依然として涼しい顔で淡々とつづるヴァイス。まだ使っていない手駒、つまり生物兵器の兵士や"合成生物(キメラ種)"達が居るという事。

 しかしだからと言ってヴァイスのピンチは変わらない。何故なにゆえ此処までの余裕が持てるのか、リヤンと孫悟空には疑問だった。


「という事で、そろそろ行かせて貰うよ。私の相手は神の子孫。そして斉天大聖、君の相手はコイツだ」


 淡々と話し、ヴァイスは懐に手を忍ばせる。それを見た孫悟空は砂漠の砂を蹴って加速し、ヴァイスとの距離を一瞬で詰め寄った。

 それと同時に如意金箍棒にょいきんこぼうを振るい、ヴァイスの持つ槍と孫悟空の如意金箍棒にょいきんこぼうが衝突して砂埃を舞い上げた。


『何かの切り札があるなら、それをそう簡単に実行させる訳にはいかねえだろうよ』


「そうか、それもそうだね。確かに何か面倒な力を使ってくると分かっていて、戦況が覆るかもしれないのにそれをさせる訳が無いか。いやいや、ごもっともな意見だ」


『一々回りくどい奴だな。簡潔には話せねえのか?』


「無理だね」

『出来たじゃねえか』


 如意金箍棒にょいきんこぼうと槍が互いを押し合い、足元の砂が滑る。会話している時は両者共に攻めるつもりは無さそうだったが、会話が終わった瞬間如意金箍棒(にょいきんこぼう)と槍が相手を弾く。

 ヴァイスからすれば一瞬でも隙が生まれれば奥の手なる切り札を使う事が出来るだろう。しかしそれをさせる孫悟空では無く、弾かれた刹那に駆け出して如意金箍棒にょいきんこぼうを振るうった。


「休ませてはくれないか」

『当然だ!』


 孫悟空の如意金箍棒にょいきんこぼうに槍で迎えるヴァイスだが、数千年以上下界と天界で戦い続けた孫悟空が相手では分が悪い。戦闘経験ならば確実に孫悟空の方が上なのだ。

 その速度と威力から、孫悟空はまだまだ本気ではないと理解出来る。そもそも、孫悟空より遥かに力の劣る分身が相手ですら苦労したのだ。本物が相手となると当然押される事である。


『ラァ!!』

「……」


 如意金箍棒にょいきんこぼうを振るい、ヴァイスの手から槍を吹き飛ばす孫悟空。武器が無くなったヴァイスは一瞬止まり、何も持たぬ状態で孫悟空へと迫る。


『気が狂ったか? 身一つじゃ勝てる訳ねえだろ!』


「ああ、知っている。当然何かをするさ」


『だから、それを阻止してんだろ!』


 駆けつつ懐に手を入れ、何かを取り出そうと試みるヴァイス。孫悟空はその隙を見逃さずに如意金箍棒にょいきんこぼうで弾く。片手を弾かれたヴァイスはもう片手を忍ばせ、それも弾く孫悟空。


『テメェを吹き飛ばしたら遠方で何かされるかもしれねえ。だから、この場で落とす!』


「……!」


 次いで如意金箍棒にょいきんこぼうをヴァイスの頭に叩き付け、その身体を砂に埋もれさせた。次に多くの砂が天を舞い、沈んだヴァイスを中心にクレーターが形成された。それによって視界が悪くなるが、隙を与えぬ為に如意金箍棒にょいきんこぼうを振るって周囲の砂を吹き飛ばす。

 如意金箍棒にょいきんこぼうをそのまま押さえ付け、砂に頭を伏せた状態のヴァイスが姿を現した。


『一丁上がり。これで自由に行動は出来ねえ筈だ。このままだと窒息し兼ねないが、どうする?』


「うーん……こういうの……私は慣れていないから何とも言えない……」


『ま、それが普通だな。じゃ、取り敢えず意識を無くすまで押さえ付けて他の場所の終わりを待つか』


 力を込め、更に如意金箍棒にょいきんこぼうを押し付ける孫悟空。

 リヤンにどうするかを尋ねるがリヤンはこの様な事をした事が無いので答えられず、取り敢えず自分流で意識を奪う。暫くしてヴァイスが動かなくなり、辺りはシーンと静まり返った。


『終わったか?』


 力を緩めず、孫悟空は足でヴァイスをつつく。動かなくなったフリをしている可能性もあるので、最後まで手を抜くつもりは無さそうだ。他の孫悟空たちも警戒を怠らない。

 すると周囲の砂が揺れ、ヴァイスの方から声が聞こえる。


「ああ、終わったよ。お陰で切り札召喚を実行する事が出来た」


『……!?』


 刹那、孫悟空とリヤンの足元に何かが現れ、大地が大きく浮き上がる。砂を纏ったそれは立ち上がっているのか、砂を周囲に散らしながらその姿を現した。

 未だ砂に身体を埋もらせている何かの肩にヴァイスが座り、フッと笑って言葉を続けた。


「いやいや、息を止めた状態でこれを行うのは少し大変だったよ。しかしどうだい、私のやられたフリは? 中々上手いものだろう。本当に意識を失い掛けたからね」


 ヴァイスが似合わない無闇な行動をした理由。それは、敢えて攻撃を受ける事で隙を見出だし、切り札を使用したという事。

 今の神仏となった孫悟空が殺生を好まないという事は知っているだろうが、己の身が砕ける可能性の方が高かったのだろう。しかしそれを気にせず実行したというのは肝が据わっている証拠だった。


「何度か見ている筈だね。バロール。一時的に幻獣の国で捕らえられたけど、バハムート騒動や今の協力者たちのお陰で何とか運び出す事に成功したよ」


『ハッ、そうかよ。まんまと乗せられたって訳だ』


「ああ。けど、実際痛かったからね。あれ程の痛みをこらえてようやく人数だけ合わせられたってだけじゃ、割りに合わない。それなりの力を見せて上げよう」


『させるか!』


 バロールの肩に乗りつつ、懐に手を入れて次の武器を取り出すヴァイス。

 途中、孫悟空がそれを阻止する為に如意金箍棒にょいきんこぼうを伸ばしてけしかけたが、バロールによって止められてしまった。


「させて貰うよ。そうしなくては一方的にやられてしまうからね。私は普通の生物。君達のように特異な体質では無いからね」


『ハッ、俺も妖力と身体能力が普通よりも高いに過ぎない。まあ、長生きなのも含めちょっとした普通との違いは色々あるがな』


「それは普通では無いと言っているだけじゃないのかな?」


『ハッハ、堅ぇ事言ってんじゃねえよ』


 ヴァイスの言葉に向け、悪魔で普通と言い張る孫悟空。身体の構造云々(うんぬん)を差し置いても、普通よりも高い妖力と身体能力というだけで普通では無いが、まあ別に良いだろう。


「やれやれ、このままではペースに乗せられてしまう。そろそろ行かせて貰うよ?」


『ウオオオォォォォッ!!!』


 ヴァイスの言葉に共鳴するよう、猛々しく吠える魔人バロール。見たら即死の目はまだ開いていないが、身体能力と魔力は全盛期にかなり近い強さを持っている事だろう。そうでなくては切り札とはならないからだ。


『さて、準備は良いか? 神の子孫!』

「うん……! 出来てる……!」


 リヤンに向けて話す孫悟空と、それに返すリヤンは改めて自分の力となる幻獣・魔物の能力を纏う。五感が強化され、全体の能力が上昇した。


「フフ、まだまだ戦闘は終わらせないよ。君達の力を調べて、それなりの情報を集めなくちゃならないからな」


『ウオオオォォォォッ!!!』


 対し、不敵に笑うヴァイスと大きく吠えるバロール。ヴァイス既に懐から幾つもの武器の欠片を取り出しており、戦闘を行える体勢へとなっていた。

 リヤンと孫悟空。ヴァイスとバロールの戦闘は、切り札であるバロールを使用した事で次の段階へと進むのだった。

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