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元・魔王と行く異世界征服旅  作者: 天空海濶
第三章 最初の街“レイル・マディーナ”
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四十一話 魔族の国に住む幹部

 ──魔族の国にある街"レイル・マディーナ"。


 この街は"人"・"魔族"・"幻獣"・"魔物"のうち、"魔族"が住んでいる。

 家畜としてならば幻獣・魔物もいるが、それ以外の他種族はいない。そして、その街道を歩く二人の姿があった。


「魔族の国って割に表面上は……というか、全体的に普通の街となんら変わらない感じだな……此処は」


「……ああ、そのようだな。強いて言えば、もうすぐ日が完全に落ちるというのにもかかわらず、道行く人……いや、道行く魔族が多いと言うことくらいか」


「まあ、魔族ってのは夜が活発になる夜行性の種族って魔王も言っていたからな。日が落ちた夜や朝方が本番なんだろ。ヴァンパイアとの違いってのは、日の光を浴びても消滅しないってことかな」


 ライとフォンセである。

 なぜこの二人が魔族の国にいるかというと、その理由わけを知るには時間を少しさかのぼる事となる。



*****



 ──数時間前。


 リヤンと、フェンリル・ユニコーンによって湖まで運ばれたライは、湖の近くで目が覚めた。


「……此処は……ああ、湖か……」


 目を開けて空を見たあと、ムクリと起き上がるライ。

 そんなライは水の音と鼻腔をくすぐる水の匂いで先程来た湖と理解した。

 空を見る限りあまり時間は経過しておらず、二、三時間ほどしか経っていないだろう。

 腕の痛みは無くなっており、傷は完治していた。

 恐らく、レイ、エマ、フォンセ、リヤンが湖の水を使い、治療をほどこしてくれたのだろう。

 そして段々目と頭が冴え、足元に違和感を覚える。

 ふと周りを見ると──


「「「……………………」」」


 ──スゥスゥと、寝息を立てているレイ、フォンセ、リヤンが居た。


「…………。成る程……」


 そんな三人を見て納得したように頷くライ。

 どうやらライが寝ていた二、三時間。レイたちは休まずに治療したり様子を見たりしてくれていたのだろう。

 寝ている三人を起こさぬよう、ゆっくりと立ち上がるライ。


「……さて……どうするか……」


 立ち上がったは良いが、特にやることも無い。

 取り敢えず目を完全に覚ますために森を探索しようかと考え、ライが動き出そうとした時、


「お、目覚めたか。ライ」


 背後からエマが話し掛けてくる。

 そういえばレイ、フォンセ、リヤンは寝ていたが、エマは寝ていなかった。

 その言葉を聞いたライは振り向き、エマに返す。


「お陰さまでな。エマたちにも心配をかけたよ。ありがとさん」


「そうか。まあ、無理はするなよ? 治ったとはいえ、砕けていたのだからな……その腕は。……そもそも、完全に治ったかは分からんだろう。確かに私から見える分の傷も消え、痛々しさもなくなったが……内側からぜていたということは、内部に少量のダメージが残っている可能性もある」


 ライは礼を言う。だが、エマはよほど心配なのかライに注意を促す。

 しかしライの腕は見るも無惨に砕けていたのが事実。仲間がそのような事になってしまっていた場合、表面上で治っていても気になるのは仕方の無い事だ。ライもそうなのだから。


「ああ、理解しているさ。少なくとも今日と明日は戦いを避けるようにしなきゃな。……とは言っても、今日はもう夕方だけどな」


 ライは苦笑を浮かべてエマの言葉に返した。返答を聞いたエマは頭を掻き、肩を落としてライへ言う。


「まあ、出来ることなら一日ならず、二、三日は休んでいてほしいモノだがな」


「ハハ、まあ、何もなければな」


 苦笑を浮かべながら頬を掻いて、エマに返すライ。

 "何もなければ"という事は、何かあったら自分が先陣を切るという事。

 エマ的には休んでほしいのだ。魔族の国で、外から来たものが何も無いという事はそれこそあり得ない事だからである。

 そんな事を話しているうちに、三人がムクリと起き上がった。


「うーん……。……あ、ライ! 起きたんだ! あ、……傷は……?」


 まずは目覚め、眠そうな目を擦っていたレイがライの名を呼んで痛みの程を尋ねる。

 レイも治療を施されたような痕があったが、自分の心配よりもライが気になったのだ。


「……どうだ、腕の傷は?」

「まだ痛む……?」


 レイに続き、ライの方へと問うフォンセとリヤン。レイ、フォンセ、リヤンも心配という事に変わりは無い。

 そんな三人を心配させまいと、ライは腕の服をまくりながら見せて応える。


「この通り、もう大丈夫だ。レイ、フォンセ、リヤンもありがとな」


 笑顔でそう言うライ。それを確認し、レイ、フォンセ、リヤンの三人はホッとしたように相槌を打つ。リヤンに至っては出会って数時間だが、ライの事を心配してくれる優しい者という事がうかがえた。


「そういえば……さっきの敵四人衆はどこ行ったんだ? 国に帰ったのか?」


「ああ、そいつらか。此方で拘束している。来てくれ」


「お、おう……。拘束してるのか……」


 そんなライは気になった事をレイたちに質問した。ダークを含め、その姿が見えなかった事が気に掛かっていたのだ。そんなライの言葉に返すようにフォンセは言った。どうやら拘束されているらしい。ライは苦笑を浮かべていたが、自分たちを殺すつもりでやって来たダーク達。拘束されるのも無理は無いのかもしれない。

 フォンセに手を引かれ、魔族四人衆の元へ向かうライ。

 そしてそれに着いていくレイ、エマ、リヤン。

 それから数分だけ歩き、ライ、レイ、エマ、フォンセ、リヤンは案内された場所に辿り着いた。


「ほら」

「本当に拘束されている……」


 フォンセは拘束されている四人に指差し、言う。

 ライは四人衆が拘束されていた事に少々驚く──というか引く。知っていた事だが、やはり気になるものは気になるのだ。

 向こうからやって来たライたちを確認し、まずはキュリテが声を上げる。


「ちょっとー! 手が痛いんだけど! 少し緩くしてくれない!?」


 曰く、手に痛みがあるとの事。長時間縛られている為、手の痛みが激しくなりつつあったのだろう。オスクロ、ザラーム、ダークはそんなキュリテに言う。


「騒ぐなよ……ぶっちゃけ、俺らの中で一番の軽傷だったのはお前だろ?」


「俺なんか感電して切られたんだぜ? まだ痛むんだよ」


「あー、ダリィ……けど、縛られるってのは何もしなくて良いから楽だな」


 そんなやる気が無いオスクロ、ザラーム、ダークの三人。敗北した事に変わりは無いので、すっかり戦意は落としているのだ。

 そんな三人に向け、キュリテは呆れながら言う。


「アンタたちねェ! もっとしっかりしなさいよ! ……そして、そっちの五人もよ! 酷いじゃない! 可憐かれんな乙女を拘束するって!」


 そんな会話をする四人衆。

 フォンセはそんな敵? らしき四人衆で──主にキュリテを無視してライへ話す。


「まあ、一応死なないように応急措置……というか出血などは止めてある。まあ、流石と言うべきか魔族は回復力が高いな。どの口が言うと思うかもしれんが」


「そうか。じゃあ、取り敢えず魔族の国について教えてもらうか……」


 ライはフォンセの言葉を聞き、オスクロ、ザラーム、キュリテ、ダークに近付く。そしてしゃがみ込み、四人に向けて尋ねるように質問した。


「……で、アンタらは偵察的な役割なんだっけ? じゃあ、何かしらの情報を持ってたりしないか? 魔族の国での力関係や……支配者が誰か……とか?」


「「「「……………………」」」」


 ライの言葉に黙るダークら四人衆。

 やはり支配者の話題を出した事が原因なのだろうか、先程まで騒がしかったキュリテすら話さなくなった。

 少し経ち、ダークが口を開く。


「あー、面倒だけど俺が説明すっかあ……それなりの地位と力を持ってるって言ったしなあ……」


 相変わらず気だるそうなダーク。だがしかし、説明をしてくれるらしい。さっきも能力を説明してくれたりと、面倒臭がり屋の割には気が聞いていた。

 ライは話を聞く体勢に入り、レイ、エマ、フォンセ、リヤンも近付く。


「へえ? それなりの地位と力を持っているのに国の情報を明かしても良いのか?」


 ライは意外だったのか、声を出した。

 このまま黙り込んでいた場合、話を聞くのを止めようと思っていたからである。

 ライは基本的に無理強いはしない。無理強いをし、敵対されてしまったら平和的な世界を創造しようと目論む予定のライにとっては元も子も無いからだ。


「まーな。まあ、俺の見た限りだが……お前の力は支配者に遠く及ばない。例えあの力が三割程度だとしてもな」


「……へえ?」


 そんな ライに返すダーク。その言葉を聞き、ライは眉をピクリと動かして小さく言う。

 ダークには魔王(元)の事と、全力を出していなかった事を教えてなかった。

 それなのに、ライがどれほどの力を出していたかを当てたからだ。


「まあ、流石に支配者の名前とか能力を教える訳にはいかねえし……教えるったって精々幹部? 的な奴くらいだ」


「……幹部……? 確かに居そうだし知りたい情報だが……それを教えても良いのか? 結構重要な気がするぞ?」


 構わず続けるダークに向け、訝しげな表情で聞くライ。

 幹部というのは場合によって支配者本人の情報よりも役立つ可能性があるからだ。

 何故ならば、幹部の数を把握していなかったばかりに幹部から奇襲を掛けられたり、敵の数を知っておかなければ体力の調整が出来ず、力尽きてしまう可能性が高いからである。


「ああ、別に教えても問題ねえし、よっぽど重要な秘密でもなきゃ強敵と戦えるって他の奴等が喜ぶだけだ」


 要するに、魔族の性格が戦闘好きという事もあり、外からやって来た強者つわものと戦える事に喜びを感じるとの事。

 なので教えても問題ないと言うが、その気持ちが分からないライにとっては腑に落ちない。しかしそうなのならばそうなのだろうと割り切る。


「じゃ、俺が教えるのは幹部の事くらいか……名前を教えても良いが……みずから名乗りたがる奴も多いし、戦うときに本人から聞いてくれや」


「ああ、分かった。つーか、面倒臭がり屋って割には随分と有り難い情報を教えてくれるんだな?」


 ライは頷いて返すが、ダークが言うことにむしろ新たな疑問が増える。

 幾ら戦闘好きな種族だとしても、自分らの情報を敵に与えられるのは嫌じゃないのか? と思っているような表情のライ。


「まずは幹部の数。一番知りたいのは力とかじゃなくて数だろ? どれくらい戦って体力を保てるか……的な?」


「……ああ」


 淡々と気だるそうに話すダークを前に、ライは気前が良過ぎると警戒していた。

 そんなライの様子を見たダークは、ああそうか。と自己解決してライに話す。


「心配すんな。幹部の数を……てゆーか情報をわざと間違える事はしねーよ」


「……!」


 ライは方眉をピクリと動かして反応を示す。

 そう、ダークがわざと誤った情報を流し、ライたちを混乱させようとしている作戦なのでは? とライが考えていたからだ。

 断りを入れ、話を戻すダーク。


「えーと……幹部の数は……俺を入れて六人くらいか?」


「ちょっと待て! ……『俺を入れて』だと!? それは……つまり……!」


 話が戻るや否や、ライはたダークを止めて疑問に思った事を聞く。"俺を入れて"という事はつまり、今目の前に居るダークが幹部と言っているような事だからだ。


「ああ、そうだぜ? ……つーか言ったろ? それなりの地位と力を持っている……ってな? 聞いておけよ面倒臭え……」


 自分は正しいことを言ったという表情で言うダーク。確かに正しい事を言ったが、それとこれとは別問題だった。


「いや、聞いてたけどよ……。"それなり"ってそんな高いイメージ無いだろ? 精々副幹部くらいのイメージだ」


「ああ、そーゆー事か。まあ、言葉のあやみたいなもんだ。気にするな。これ以上ツッコムと俺も面倒だしお前も面倒だろ……?」


 ライの言葉に、気だるそうな表情と言い草で返すダーク。

 それを聞いていたライは、ダークの性格が元々こんなモノなのだから仕方ない。と割り切るしか無かった。


「じゃあ、まあ……また話を戻すか……。今度は重要な事以外では突っ込まないでくれよ……? 面倒だからな」


 静かに頷き、返すライ。

 ライの後ろにいるレイ、エマ、フォンセ、リヤンの四人は全員がキョトン顔だった。


「おし……えーと……あ、そうそう。幹部の数だったな……。俺を入れて六人。……まあ、支配者よりも幹部の方が住民の見回りとかをしてるな……。まあ、幹部がそれぞれの国を持ってるな。ついでに言うと、この街を治めているのは俺だ」


「つまり、魔族の国は六個ほどしか大きな国が無いのか?」


 ダークの言葉に返すライが気になったのは、魔族の国の数だ。

 ダークの言い方だと、魔族の国は六つしかないという事になる。しかしダークは、それに対して首を振って話す。


「いや、確かに幹部が住む国はデカイが……それ以外にも勿論デカイ街はある。……まあ、一番支配者に近付くには幹部の国を落としていく事が手っ取り早いな」


「……そうか」


 ダークはそれだけ言い、ライは頷いた。そして、ダークは思い出したように言う。


「ああ、そうそう。そこに居るザラーム。そいつの兄も居るぜ?」


「……チッ」


 ダークがザラームの方に視線をやり、ザラームは舌打ちをしてそっぽを向く。どうやら兄弟らしいが、兄を気に食わないらしい。


「何か訳ありか? まあ、余計な事にはツッコムなって言ってたし聞かないが……家族事情なら野暮以外の何ものでも無いしな」


 ライは気になったが、ダークのやる気が無くなると思い、聞くのを止めた。だが、ダークはそんなライに返す。


「いや、普通に強さと地位で負けてるから嫌なだけだろ。まあ、幹部はそんな自由に戦えるって訳じゃねえし……ザラーム的には今の位置で良いだろ」


「ふうん? これには普通に応えるのか」


 どうやら単純な問題だったとライは納得し、ダークは言葉を続ける。


「まあ、幹部の数は六人で……その下には111人ほど居る。で、一番のてっぺんが支配者……。まあ、これくらいだな」


「その数には何か意味があるのか?」


 ダークが言った幹部の下にいる部下の人数が気になったライ。100人や200のようにキリが良いのならまだしも、何故111人と言う半端な数なのか疑問である。


「ああ、なんか支配者が"666"にこだわりを持っているらしくてな。人間の国では悪い意味があるからだってよ」


「……ふうん?」


 人間の国では666が"悪魔の数字"と謂われ、意味嫌う者たちが多いと聞く。その為、人間の一番の敵であろう魔族はその数字を掲げた。とダークは言った。


「まあ、これくらいだ。……で、お前達は何で魔族の国に? 遠回りすりゃ魔族の国に近付かない事も出来るが……それをしないって事は遠回りが面倒なのか、魔族の国に用があるのか……どっちだ?」


 そして、次にダークはライたちの目的を聞く。

 確かに魔族という者は目があったら殺しあいを始めると言っても過言ではない程血気盛んな種族だ。

 中にはライやフォンセのような者もいるのだろうが、大抵の魔族は争い事が大好きなのである。


「別に? ただ、──世界を征服するつもりだからだ」


「「「…………!?」」」


「へー?」


「世界を……征服……?」


 何でも無いように答えたライ。それを聞き、オスクロ、ザラーム、キュリテは驚くような反応を示し、ダークは笑う。

 リヤンはライが何を言ったのか理解できない様子だ。

 ライはそんな様子を眺めて言葉を続ける。


「俺たちは世界征服を目的に旅をしている。だが、支配して全てを自分の思い通りにしようって目的じゃない。"人間"・"魔族"・"幻獣"・"魔物"……その全生物の平和・平穏を願って世界征服を目指しているのさ」


「成る程な。……よくもまあ、そんなダリィ事を思い付いたな……。考えるだけで面倒だ……。まあ、確かに格差がヤバい世界だが……地位が高い奴によっては居心地の良い世界じゃね?」


 ライがつづる世界征服に、相変わらずの面倒臭そうな表情で返すダーク。

 確かに今の世界に満足している者も多く居るだろう。それは勝手に否定してはいけない。


「ハハ、夢は大きくってな。取り敢えずアンタらを解放してやるけど、また戦うことになるだろうな」


 ライは話ながらレイたちの方を見る。レイ、エマ、フォンセは頷いていた。

 それを見るに、レイたち三人も再戦の覚悟は決めている様子だった。


「ハッ! そうかよ。まあ、負けっぱなしってのは俺も気に入らねえ。テメェらが魔族の国に喧嘩を売るってんなら戦うぜ?」


「そうだな。俺は運で負けちまったみたいなモノだし、次は俺の刀で仕留める」


「私だって始めから全力を出していたら……!」


 オスクロ、ザラーム、キュリテの三人もライたちとの再戦は願っている様子だ。

 ダークはそんなライたちとオスクロたちを見て面倒臭そうに言う。


「まあ、そう言うことだな……。俺的には面倒だが……お前達が国に攻め込むってんなら戦うしかねェしなあ……。まあ、俺は一度負けてるが……そういや、俺の国を奪ったりしねえの? 一応お前が勝った訳だし、俺の国を取れるぞ?」


 ダークはライに聞く。そう、ダークは一度負けたのでライはダークから領土を奪う事も出来るのだ。


「ああ、今回の戦いは悪魔で練習みたいなモノだ。アンタの111人の手下も纏めて倒すことで始めてアンタの国を落とした事になる」


「そうかい」


 ダークの疑問に返すライ。ダークは軽く返した。

 そして、オスクロ、ザラーム、キュリテ、ダークの縄をほどき、魔族の国へ帰したライたち。


「で、何時攻め込むんだ? 俺的には大歓迎だが?」


 縄がほどかれ、軽く動いて感覚を確かめながら言うザラーム。

 ライは少し考え、


「いや言わねえよ。日程を教えたら返り討ちに合う可能性もあるからな。ま、近々……って事だけ教えとくか。他の国にも伝えといてくれ。"世界征服"を目論もくろむ奴らが国へ攻め込む算段を立てている……ってな?」


「そうか……。ゆっくり来ても良いんだぜ……? 正直俺はダルい……」


 ダーク達は帰り、少し静かになった子の場所にライ、レイ、エマ、フォンセ、リヤンが残る。


「ライって世界征服を……本当に目指しているの……?」


 そんな中、ライたちに尋ねるリヤン。確かに突然世界征服と言われたら困惑するだろう。そのような、訝しげな表情をするリヤンに向かってライは言う。


「ああ、本当だ。まあ、リヤンは気にしなくても良いぞ? 力で脅して全てを手に入れるって感じの世界征服じゃないからな。基本的に一般には迷惑を掛けない」


「……へえ……」


 ライの言葉へ静かに返したリヤン。

 何はともあれ、ダーク達との再戦は直ぐに来そうである。

 そして次に、リヤンへの説明を終えたライはレイ、エマ、フォンセの方を向いた。


「で、問題は魔族の国……といっても目の前にある街だが……そこの構造やらなんやかんやを俺たちは知らない……さて、どうしたものか……」


 ライが悩んでいるのは街の構造や広さ、何処どこに何があるか、だ。

 悩むライに向かい、フォンセが提案する。


「まあ、取り敢えず街に向かうってのが一番の得策だろうな」


「ああ、俺が考えていたのは街を偵察する事……。だが、魔族の国は血気盛んな奴等が多いって言っていたし、全員で行くとところ構わず喧嘩を売られそうだ……そこが問題なんだよな……」


 ライもフォンセの言葉に頷いて返す。

 そう、ライが懸念していたのは魔族の国へ、『如何いかに目立つ事無く入れるか』。である。

 湖の力やフォンセの治療魔法によって体力や傷を回復できたとはいえ、ダーク達のような強者つわものと戦闘をしたのだ。

 魔王を宿しているライやヴァンパイアのエマはまだしも、レイやフォンセはまだまだ未熟である。

 ライも未熟だが、先程述べたように魔王を宿している。

 だから傷の治りや、疲れなどが取れるのが早い。ヴァンパイアは言わずもがな、だ。

 リヤンはこの森に住んでいることから却下、顔がバレる可能性がある。

 だからライは魔族の国へ行こうか悩んでいたのだ。そんな悩んでいるライに向かって、再びフォンセが提案する。


「なら、同じ魔族であるライと私が偵察に行けば良いんじゃないか? さっきの奴らは匂いで私たちの正体を暴いた。まあ要するに、同じ匂いを持つ私たちなら怪しまれる可能性が少ないという事だ」


 フォンセの提案にライ、レイ、エマは頷いて返す。この街は魔族の国にある街。

 ならば、魔族であるライとフォンセが行くべき事と全員が思っていたらしい。


「俺もそれは思ったけど……フォンセの傷は大丈夫なのか?」


 どうやらライも同じ事を考えていた様子だが、フォンセの傷や疲れを心配するライ。

 そんなライを見たレイが続いて言う。


「フォンセだけじゃないよ。ライだって、さっき起きたばかりだし……」


 レイの言うことは、まさにその通りだった。ライは数分前まで寝ており、つい先程目覚めたばかりなのだ。

 危険かどうかは分からないが、確実に安全とは言い切れないのが事実である。


「うむ……。それに、無理はしないと言う約束だろ? ライ。なんなら私一人でも大丈夫だが……」


 レイに同意するように頷いたエマは、自分一人で行くと言う。時刻も変わりつつあり、ヴァンパイアのエマならば何をされようが無傷で乗り切れる筈だ。少なくとも、この街に置いて一番の強者がダークなのだから。


「いや、一人は危険だ。幾らエマがヴァンパイアとはいえ、敵は人間よりも身体能力が高い魔族だからな」


 それだけ言い、少し考えたあとライは言葉を続けて言う。


「……自分で一人は危険だと言っておいてなんだが……やっぱ俺一人で行くよ。レイは人間だから魔族に気付かれやすそうだし……フォンセは傷と疲れが心配だ。なにより皆に迷惑は掛けたくな……「お前が一人で行く事も迷惑なんだが?」……ッ!」


 ライの言葉を言い終わる前に、ピシャリ! と聞こえてきそうな程に即答で返すエマ。

 ライは思わず、うっ……。と肩を竦ませて黙る。

 そして少し間が空く。それからエマはため息を吐き、呆れたように言った。


「……まあ、しょうがない……そう言うならば、ライとフォンセが行く……というのが一番かもな……私も出来ることなら着いていきたいが……フォンセの言ったことに一理ある」


「……うん。私も着いていきたいけど……確かに人間の私じゃ目立っちゃうかもね……。ライが言うなら……」


 エマに続き、レイも残念そうに肩を落として言う。


「そうか、悪いな。まあ、無茶なことはしないとだけ言っておくよ」


「ああ、私も無茶はしない。いざというときは"空間移動"で戻る」


 レイとエマに向け、申し訳なさそうに返すライ。フォンセも同意するように頷く。

 どうやらこの者たちは皆、"自分は犠牲になっても構わないから仲間は傷付かないでほしい"。という考えらしい。

 そんな様子を遠目から眺め、信頼関係を見て羨ましそうにし、フェンリルとユニコーンを撫でるリヤン。

 こうして、ライとフォンセが魔族の街へ向かう事となった。



*****



 ──という事で、魔族を隠すなら魔族の中。的な意味合いを持たせ、ライとフォンセが魔族の街へ入ってこうなったのだ。


「……さて、どうしたものか。まずは何処を偵察するべきなんだ?」


 ライは魔族の街に入ったのは良いが、どう行動すれば良いのか分からずに考えていた。

 ライの隣でフォンセも考える。


「うーむ……まあ、取り敢えず情報が集まる場所と言ったら酒場や飲食店……あとは武器屋に魔法用具店……くらいか。人が多いところが一番だな」


「ああ、それもそうだな。良し、そこから見ていこう」


 フォンセの言葉に乗り、人の多いところに向かって情報を収集を考えるライ。

 ライとフォンセはまず酒場に向かう予定だ。

 そして、魔族の国にある街"レイル・マディーナ"の探索がスタートするのだった。

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