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四百十二話 魔物の国・五回目の戦闘

 ──九尾の狐によって創り出された空間。そこは、『大地のある宇宙』だった。

 足場があり、ライとヴリトラは確かに大地を踏みしめている。しかし空を含めた周囲が星に囲まれており、足元も星に包まれた空間となっている。


 そう、ライとヴリトラは、『宇宙空間に立っていた』のだ。


 本来ならばそんな事は有り得ない。ライとヴリトラならばやり方によっては空を飛べない事も無いが、飛行云々(うんぬん)は関係無さそうである。最も、此処が普通の宇宙ならば無重力下にあるので魔法・魔術や翼を使わずとも浮く事は出来るだろう。しかしこの場所は無重力という訳では無さそうだ。


「オラァ!」


 そんな事は気に留めず、魔王の力を纏いつつ光を超えて攻め入るライ。ライ自身の力が上乗せされている事で、五割でも光の速度を超える事が出来ている。

 いきなり六割、七割では負担が多いので身体を慣れさせるまではその力で挑むという事だ。


『フッ、やはりその程度の力しか見せぬか。いや、その程度といっても大抵の者は敗北する力だな。光の速度を捉える事が出来る者は僅かしかいない。そんな光の速度を越えているのだからな』


 長い身体をくねらせ、ライの拳をいなすヴリトラ。

 幹部クラスが相手では光の速度を容易く捉えられてしまうが、本来光の速度というものは凄まじいものである。

 目の前に映る景色全てが光の速度で視界に入り込んでいるのだから当然だろう。例えば目を瞑り、それを開いた時何かしらの景色が映る。それは一瞬にして入り込んでいるのだ。その過程を捉えられる者はそうそう居ない筈である。

 生き物が光を超えれば爆発的な衝撃によって星が消える可能性もあるのだから。


「ハッ、その速度を簡単に捉えられちゃ、俺的にも結構堪えるけどな。一応これでも渾身の一撃を放っているんだけどよ」


『フン、そんな事は全く思っていないだろうお前は。その時点での渾身の一撃は大した事無かろう。確かに一撃で惑星、恒星を砕けるエネルギーを秘めた力だが、魔物は身体が頑丈なんだ』


「恒星破壊の攻撃に耐えられる生き物がどれくらい居るかって話だよ」


『お前が言うな』


 蹴り上げ、かわされ、殴り付け、防がれる。魔王を纏い光を超えるライの攻撃はことごとく防がれ、次いで放たれたヴリトラの尾がライの腹部に突き刺さる。それによって吹き飛ばされ、周囲にある数十の星々を貫通して停止する。


『あれを受けても無傷か。噂にたがわぬ頑丈さだな。惑星破壊の攻撃ですら掠り傷程度。我が尾で打ち付け、星にぶつけようと意に介さない。厄介だな』


「それはお互い様だ。一応俺も相応の力で対応しているけど、アンタには然程効いていないみたいだからな。ヒュドラーを思い出す耐久力だ」


『フッ、俺の力はまだまだこんなものではない。宇宙そらを塞ぐ者の異名を持つからな。この程度では星一つ制圧出来ぬ』


 蛇のような身体でうねり、ゆらゆら揺れて話すヴリトラ。

 ライとヴリトラの攻撃は、両方とも相手に効いていない。多少の影響はあれど、ほぼ無傷である。その耐久力はいつぞやのヒュドラーを彷彿とさせるものがあった。


「塞ぐ者……ねぇ? それって戦闘向きの異名か?」


『フッ、それもそうだな。しかし強さに異名は関係無い。力を示し、始めてそれが実力となるからな』


「さっきと言ってる事違っていないか?」


『気にするな』


 身体を縮小させ、弾くと同時に伸ばして加速するヴリトラ。光の速度までとは行かないが、それなりの速度は出ている。瞬く間にライとの距離を詰め、その巨躯を持ってして激突した。


「ま、気にしてもしょうがないな」

『ああ、その通りだな』


 そして正面からヴリトラを受け止めるライ。それによって空気が衝撃として伝わり、周囲の星を巻き込みながら霧散する。

 無の空間なので足場が砕けたのかは不明だが、もしも此処がいつもの自分の星だったのならば大きな被害が及んでいた事だろう。


「そらっ!」

『ッ。ハッ!』


 次の瞬間に体勢を変え、ヴリトラの側面へ蹴りを放つライ。その蹴りを受けたヴリトラは少し怯みつつも身体を動かし、ライの脚へ尾を巻き付ける。それと同時にライを無の地面に連続で叩き付け、尾から離して投げ付けた。

 投げ飛ばされたライは大地を擦り、虚空の欠片を巻き上げながら停止する。次の刹那には頭上へヴリトラの尾が来ており、停止した瞬間に叩き付けられて陥落した。


「オラァ!!」

『やはり傷は浅いか』


 数十メートルは沈んだであろう大地からライが飛び出し、ヴリトラの頬へ拳を叩き付ける。同時に力を込めて殴り飛ばし、ヴリトラから距離を置いた。


「ハハ、カウンターを食らっちまった。アンタ、本来の速度は程遠いけど……一瞬なら光を超えられるみたいだな」


『当然だ。最も、今の俺の姿が本物かどうかという事も考えておけよ? この程度の力とそこそこの耐久力だけで幹部のNo.2になれる訳ないからな』


 不敵に笑い、ライに向けて話すヴリトラ曰く今はまだ本来の力とは程遠い力で戦闘を行っているかもしれないとの事。

 敢えて濁らせ、不確かな事柄にして気を散らせる作戦かもしれない。それを聞いたライはフッと笑い、ヴリトラに向けて言葉を綴る。


「成る程ね。第二形態があったりするって事。確かにニーズヘッグみたいに本来の姿と違う姿で戦闘を行える可能性もあるな。けど、何故ヒントになりそうな事を?」


『さあ、何故だろうな』


 もう一度笑うヴリトラ。もしそれが本当ならばヴリトラに教える利点は無い。錯乱させるのが目的だとしても、わざわざ今言う意味はほぼ無い。

 何はともあれ、利点が少な過ぎるのだ。


『まあ……強いて言えば何となくだな。利点が少なくとも、疑心暗鬼にさせるだけで十分だ』


「ハッ、この程度でそこまで動揺する事はないぜ!」


『ああ、知っている』


 そんな事は気にせず、第四宇宙速度程の速度でライへと肉迫する。音を超えた事でソニックブームがヴリトラを纏い、巨躯の肉体を激突させた。


「そうかい。けど使えるなら、さっさと見せてくれないか? 俺も早く慣れて置きたいんだ」


『生意気だな、憎たらしい小僧だ。いや、俺は全てを憎んでいる。憎たらしいという感情は常にあった』


「ハハ、挑発は相手に憎まれなきゃならないからな!」


 今度は足で受け止め、爪先でヴリトラを蹴り上げて天に弾く。

 弾かれつつ悪態を吐くヴリトラはひるがえるように体勢を立て直し、尾を使ってライを弾こうと試みる。だがライはそれも受け止め、足を踏み込んで尾を押さえ付けた。

 押さえ付けながらヴリトラの方を見上げ、不敵に笑って尋ねるように話す。


「で、どうだ? 今のままならジリ貧だ。だけど、今の俺でも今のアンタになら勝てる。第二形態があるなら使ったらどうだ?」


『フム、そうだな。このままでは幾ら攻撃を仕掛けようと全て無効化されてしまう。どうこう言っている暇は無さそうだな』


「ハハ、もう明かすのか」


『ああ。遅かれ早かれ、いずれ分かる事だからな』


 ライの言葉に返し、蛇のような身体を徐々に変化させて行くヴリトラ。第二形態があるという言葉は本当だったらしく、数秒でそれが明かされる。

 当のヴリトラは疑心暗鬼にさせる為先程の事を述べたらしいが、これ程までに早く明かされては支離滅裂だ。何の意図があるのか分からないが、一先ずライも構え直す。

 ライとヴリトラの戦闘は、大地のある宇宙空間にて続けられていた。



*****



 燦々と輝く太陽が辺りを照らし、逃げ場の無い熱が砂にこもる。それによって更に気温が上昇し、素足ならば火傷し兼ねない温度となっていた。

 そう、この場所は灼熱の砂が飛び交う砂漠地帯である。


「『伸びろ、如意棒!』」


 そこに飛ばされていた孫悟空とヴァイスが灼熱の砂漠地帯にて亜光速で伸びる如意金箍棒にょいきんこぼうを放つ。それによって生じた衝撃波で周囲の砂が舞い上がり、砂漠地帯に大きなクレーターを生み出した。しかしそのクレーターは直ぐ様砂に飲み込まれ、元の地に戻る。


「やあ!」


 そして、もう一人飛ばされていた者──リヤン。

 如意金箍棒にょいきんこぼう同士の激突によって止まったヴァイスを狙い、炎魔術を放つ。

 照り付ける日差しの気温も相まり、リヤンの放った炎魔術はいつもより熱く感じた。


「"再生リジェネレイション"」


 瞬間、砂漠の砂を再生させて大岩を作り出すヴァイス。

 リヤンの炎はヴァイスによって作られた大岩に妨げられ、波打つように返った。

 此処は九尾の狐が創り出した現実とは違った世界なのだが、砂漠にある砂の成分は本物と同じようだ。それによって大岩が再生出来たのだろう。


『隙あり!』

「作らないよ」


 ヴァイスの意識が逸れた一瞬の隙を突き、如意金箍棒にょいきんこぼうを縮めてヴァイスの持つ伸ばされた状態の如意金箍棒にょいきんこぼうの上を駆ける孫悟空。

 ヴァイスは棒を上に振るい、孫悟空を空中に投げ出した。それと同時に懐へ手を入れ、何かの欠片を取り出す。


「"再生リジェネレイション"」

『"妖術・分身の術"!』


 同じタイミングで実行された、ヴァイスの再生と孫悟空の妖術。

 ヴァイスは魔力によって強化された銃を欠片から再生させ、孫悟空は己の数を一人から三人へと増やした。


「……」


『『『ハッ、神仏に現代兵器が通用するか! それが魔力によって強化されていてもだッ!』』』


 タタン、とテンポ良く発砲する。本来ならば音速未満から音速以上の速度である銃だが、予め込められた魔力によって強化されているので第二宇宙速度程度は出ていた。

 しかし孫悟空にとっては遅い程であり、己の肉体と如意金箍棒にょいきんこぼうを巧みに操って銃弾をいなしてゆく。


「やれやれ、面倒な相手だな。現代兵器はかなりの威力を秘めているというのに、簡単に無効化されてしまう。相手が神仏でなければ倒せたのだけどね」


 再生させた銃を仕舞い、赤黒い何かの欠片を取り出すヴァイス。それと同時に赤黒い何かの欠片を再生させ、形を取り戻そうと変化する赤黒い欠片を周囲にバラいた。


『『『ギャアアアァァァァッ!!!』』』


 そして再生した、数匹の合成生物(キメラ種)と生物兵器の兵士達。生物兵器は放って置いても復活しそうだが、ヴァイスの意思で復活させない事も可能なようだ。

 しかしそれは当然と言えば当然かもしれない。ヴァイス達の手に負えなければ、目的の為に手駒として使う事すら儘ならないからだ。


「さて、手駒は増やしたけどまだまだ不安だね。一応バロールも持ってきているけど、流石に強過ぎるかな。前と違って半ば完全に近いからね」


 増やした合成生物(キメラ種)と生物兵器達を見、迫り来る孫悟空へ放つ。それらに孫悟空の相手をさせているうちに懐から小さな小瓶を取り出すが、今は必要無いと懐へ戻した。


『『『チッ、そんな隠し玉があったか! だが、死肉を入れておくってすげえ臭くなりそうだな……!』』』


「フフ、死んでいないさ。ほら、生きているじゃないか」


『『『ギャアアアァァァァッ!!!』』』


『『『生物兵器は知らねえが、合成生物(キメラ種)はてめえが再生させたんだろうがッ!!』』』


 三人の孫悟空は合成生物(キメラ種)達を抑え込み、生物兵器達を吹き飛ばす。孫悟空にとっては大した相手では無いが、大半が不死身に加えて数が居るので少々厄介である。

 それを見たリヤンは炎魔術を消し去り、幻獣・魔物の力を纏ってヴァイスへと肉迫して近付く。


「動物達の命をもてあそんで……!! 許せない!!」


「遠距離攻撃は無駄と判断して近接戦に切り替えたか。フフ、それも無駄かもしれないよ、神の子孫?」


 リヤンを見たヴァイスは如意金箍棒にょいきんこぼうを構えつつ、先程の銃を発砲する。幻獣・魔物による優れた視力で銃口の位置を確認し、その向きから銃弾の軌跡を読んでかわすリヤン。その瞬間にフェンリルの速度へと上昇させ、一気にヴァイスへ迫り行く。


「ハァ!!」

「"再生リジェネレイション"」


 速度に体重を乗せ、ヴァンパイアの力を用いて殴り付けるリヤン。ヴァイスは先程遠方からの炎を防いだように砂を再生させて大岩を顕現させたが、リヤンはそれを砕いた。

 欠片が辺りに飛び散り、砂埃と共にヴァイスの前へ姿を現すリヤン。


「伸びろ如意棒」

「……!」


 刹那に亜光速で如意金箍棒にょいきんこぼうが放たれるが、リヤンは紙一重でかわす。かわした流れで体重移動し、身体のバネを使って回し蹴りを放った。


「成る程、戦闘方法に粗が少なくなっている。確かに成長したようだ」


「……!」


 ヴァイスは一歩後ろに下がってそれを避け、伸びた如意金箍棒にょいきんこぼうを振るってリヤンを叩く。リヤンはてのひらを使っていなし、如意金箍棒にょいきんこぼうを飛び越える形でヴァイスに再び近付いた。


「……」

「……!」


 かわされた瞬間に銃を数発放ち、リヤンを牽制するヴァイス。リヤンに銃弾は当たらず、砂に包まれた大地を蹴って砂塵を巻き起こして掌底しょうてい打ちを放つ。

 しかしヴァイスに避けられてしまい、リヤンのてのひらは空を切る。勢いそのまま再び砂漠の大地を踏み込み、多少足を取られつつも確かな蹴りを放った。

 それによって生じた砂に一瞬気を取られ、リヤンの蹴りを脇腹に受けるヴァイス。メキメキとめり込む蹴りは威力を増し、ヴァイスを吹き飛ばした。


「……ッ。成る程、かなり強くなっている」

「やった……!」


 吹き飛ばされたヴァイスは如意金箍棒にょいきんこぼうつっかえとして威力を下げ、数百メートル吹き飛ばされた所で停止する。辺りに大きな粉塵が舞い上がり、それが風に乗って消え去った。

 ヴァイス相手に優位に立てたリヤンは小さくガッツポーズを作って喜び、即座に表情を戻して向き直る。


「成る程。こうなれば私も相応の力で挑まなければならないようだ。学習したよ」


 致命傷では無いので身体は再生させず、如意金箍棒にょいきんこぼうをクルクルと回して構えるヴァイス。

 神としての力を使っていないリヤンには殺してしまわぬよう本気を出していなかったが、それを改め力を込める。

 まだ本気では無いにしても、懐に残っている欠片は他に何があるか定かでは無い。欠片一つで完全に再生出来るので、油断ならない相手だろう。


『『『オラァ!!』』』

『『『ギャアアアァァァァッ!!!』』』


「まだまだ行くよ……!」

「ああ、構わないよ」


 一方では孫悟空が兵士を含めた合成生物(キメラ種)を相手取り、一方ではリヤンがヴァイスを相手取る。

 そして此処とは違う空間にて本領を発揮したヴリトラを相手取るライ。

 魔物の国に置いて五番目となる戦闘は、今此処に完全なる始まりを迎えた。

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