四百一話 vs完成品・決着
様々な武器を顕現させ、それを"サイコキネシス"で操りリヤンに向けて放つ完成品。操られた武器類は音の領域を超え、一直線にリヤンを狙う。
「そんなもの……!」
幻獣・魔物の力を纏ったリヤンは特有の動体視力と天性の直勘で操る方向を見切り、放たれる武器類を躱し行く。"サイコキネシス"で操られている武器は躱した先へ容赦無く降り注ぐが、キマイラの耐久性とヴァンパイアの再生力によって多少のダメージはものともしていなかった。
『成る程、相応の力は身に付けているようだ。俺が人間・魔族特有の魔法・魔術・超能力・錬金術・召喚術その他諸々多数の力を扱うとして、お前は様々な獣の力か。似て非なる強力な力だが、所詮獣は獣。知能のある生物には勝てない。だからこの世界は人間が支配しているのだからな』
「どうでもいい……私は貴方を倒すだけ」
少し早めの口調で淡々と話す完成品の言葉を受け流し、フェンリルの速度で進むリヤン。動体視力と直感。そして再生力にフェンリルの速度が加われば大抵の攻撃は避けられる。それが自分の速度よりも速くても、だ。
幻獣・魔物の力にで、"サイコキネシス"によって不規則に変化する武器を躱すリヤンは完成品に近付き、力の強い幻獣・魔物の腕力で完成品を殴り付ける。
『軽いな。星も山すらも砕けぬ軽い拳だ』
「……!」
しかし、リヤンの拳は完成品の"サイコキネシス"によって受け止められた。力を込めても動かぬ拳を見、完成品を一瞥する。
次の瞬間、リヤンの背部に複数の武器が突き刺さった。
「……ッ! 痛っ……!」
ズキッと走る激痛。刃が背に刺さったのだ。耐久力と再生力が高くなっているリヤンだとしても、痛みに慣れていないので苦痛だろう。痛みによって目からは涙が流れ、完成品がリヤンの腹部に掌を当てた。
『"三つの風"』
「……ッ!!」
「リヤンさん!!」
風魔法・風魔術・超能力の"エアロキネシス"を放つ完成品と、叫ぶニュンフェ。それら三つの風が衝撃となってリヤンの腹部を抜け、それを受けたリヤンが吐血して数十メートル吹き飛ばされた。
地面を転がるように叩き付けられ、擦れる度に刃物が深く突き刺さり、衣服が砂の汚れと自身の血液による赤いシミで染まる。
『試してみたが、技を放つ前に何をするか告げるのは非効率だな。無言で放った方が早く済む。殺しそびれてしまった』
「……!」
魔術師がよく言っている、魔術を使う前の呪文。何か変わるのか、それを試してみた様子の完成品だが特に変わった事は無いらしい。
恐らく、幻獣・魔物でも稀少な、魔術を扱える者──イフリート。その力を宿して魔術を使えるようになるリヤンが呪文を言わずとも力のある魔術を使えるように、本来の自分が持たぬ力を使う時は呪文の有無など関係無いという事なのだろう。
何であろうと魔術が外から与えられた力である事に違いは無いが、己の魔力を宇宙の四大エレメントに干渉させて魔法・魔術を使う魔法使いや魔術師とは違い、僅かな魔力しか持たぬリヤンと完成品は与えられたそのままの力を使っているという事である。
リヤンならばイフリートそのものの魔力。生物兵器の完成品ならば創られる過程で与えられた魔力。与えられた状態のままなので呪文は無くともかなりの力を放出できるという事だ。
ならば自分の力で魔法を使うニュンフェはどうかとなるが、エルフ族は人間・魔族と姿以外全く違う存在。姿も近いには近いが耳の形など差違点が多い。人間・魔族の理で収まる器では無いという事だ。それはリヤンや完成品にも言える事である。
『まあ、殺しそびれたなら落ち着いてトドメを刺すのが良いな』
複数の刃物を顕現させ、改めて構える完成品。先程から同じような武器類を"サイコキネシス"で操っているだけの完成品だが、まだ学習途中なのだろう。最もポピュラーな武器。それを試す為に実験し、より完璧に近い完成品へと成長するつもりなのだ。
「そう何度も……食らわない……!」
背部に刃物を刺したまま立ち上がり、刃物を抜きながら完成品を睨み付けるリヤン。
刃物によって斬られたダメージはあるが、受けたダメージを補うヴァンパイアの持つ再生力がある。痛みはあるだろうが、常に再生しているので抜いた後の苦痛は激痛という程では無くなっている筈だ。ゆくゆくは完治するだろう。
『食らう気が無くとも、食らって貰わなければ俺の目的が達成されない。俺は戦闘を続行する』
「そう、勝手にすれば……」
依然として冷たい目付きのまま淡々と綴り、構えた武器を一斉に放つ完成品。リヤンは五感をフルに活用してそれらを躱し、ダメージを受けぬように完成品へと肉迫した。
瞬く間に距離を詰めるリヤンだが、完成品は顔色一つ変えずあらゆる武器を顕現させてリヤンに放つ。
上から降り注ぐ無数の槍。正面から弾丸のように放たれる矢やクナイ。左右から斬り付けてくる剣や刀。国も地域も関係の無い、多種多様の武器がリヤン目掛けて直進していた。
「……」
それらを見切り、躱し、いなし、弾くリヤン。空を切った剣や刀は標的を失って空振り、降り注ぐ槍は地に刺さる。正面から近付く矢とクナイはリヤンが直々に弾いて天へと舞った。
『フン、この世から消滅させぬ限り武器は永遠に攻め続けるぞ』
「……!」
空振った剣と刀は弧を描いて方向転換し、地に刺さった槍は浮かんで加速する。天に舞った矢とクナイも弧を描くようにターンして戻る。仮にリヤンがそれらを砕いたとしても欠片が弾丸のように放たれる事だろう。となれば、本体を討つか武器をこの世から消し去る他、対処する術が無いという事だ。
『……!』
「……!」
次の瞬間、完成品の頭に突き刺さる一本の矢。それが刺さった瞬間に仰け反る完成品。それによって"サイコキネシス"で浮かび上がった武器類も停止した。リヤンの視線は矢が飛んできた方向に移る。
「ニュンフェさん……!」
「隙は私が作ります……! リヤンさんは敵を討って下さい!」
「うん、分かった……!」
見ればニュンフェの手に穴が空いており真っ赤な鮮血がドクドクと流れていた。手に刺さった剣を無理矢理引き抜き、応急処置のみしたあと弓矢を放ったのだろう。
しかしそんな状態でも隙を作るというニュンフェ。その気持ちを無下に出来ず、リヤンは頷いて返した。
『成る程、無力化したものかと思って無視していたが、そういう訳では無さそうだ。生物は一定以上の痛みを感じた時動けなくなると聞くが、動く者も居たのだな』
「仲間の為ならば、痛みなどといった苦痛に耐える精神を持つのも生物ですよ……! まだまだ勉強不足でしたね……!」
『最近生まれたばかりだからな。しかし分かった。次からは生命が停止するまで仕掛けよう。そうする事で邪魔する者が居なくなるのだからな』
学習し、改めて様々な武器を顕現させる完成品。学習した事により、武器のみならず背後には建物のような物が姿を現していた。
「あれは……!」
『見ての通り、一軒家だ。学習し、成長した事で次の段階に進む事にした。これからは錬金術も使用する』
「魔法・魔術・超能力の次は錬金術ですか。さしずめ、あの家は地面に存在する微かな鉄分や砂を増幅させて形成したのでしょう……」
「そんな……」
リヤンが驚愕の表情を浮かべ、説明する完成品と補足を加えるニュンフェ。リヤンは信じられなさそうな表情だったが、様々な力を扱うとは知っていたのでこれ以上は何も言わなかった。
「ニュンフェさん……手、大丈夫……?」
「ええ。かなり痛みますけど、コントロールが付き難い事を除けば矢を放てるので問題ありません」
「駄目。回復させる」
「リヤンさん……流石ですね」
完成品が建物を"サイコキネシス"で浮かび上がらせている隙を突き、ニュンフェの元へ近付くリヤンは手を握って回復させた。如何なる回復魔法よりも素早く行えるリヤンの回復術に改めて感心するニュンフェは、その優しさに笑みを浮かべる。
『回復させてしまったか。しかし長期戦になればなる程俺も学べる。この戦闘で更なる知識を身に付けるか』
「その余裕」
「消してあげる……!」
様々な武器と一軒家を持ち上げ、淡々と話す完成品。リヤンとニュンフェは言葉を返し、互いに力を込めた。
リヤンに神々しさが宿り、ニュンフェの行動に自然が反応を示す。
『神の子孫と自然を愛し自然に愛させるエルフの本領発揮か。束になろうと、俺には無意味だ』
「「……!」」
"テレポート"によってリヤンとニュンフェの目の前から霧散し、背後に姿を現す完成品。上空には多数の武器と数戸の一軒家が漂い、今にも降り注がんとばかりの体制となっていた。
気付いたリヤンとニュンフェは飛び退き、先程まで自分たちの居た場所に武器と建物が落下する。粉塵が舞い上がり、辺りに振動と衝撃を走らせた。
「"神の炎"……!」
『……!』
粉塵によって周囲が包み込まれる中、それらを気化させる勢いで放たれる神の炎。神々しい深紅に輝く炎は完成品を掠り、完成品の半身を気化させた。
『成る程。先程よりも力が増幅している。今は精々先程の千倍程度だが、底を感じない。数字で表せぬ程の力を宿しているんだな』
「リヤンさんだけではありませんよ!」
再生しつつリヤンの力を推測する完成品に向け、ニュンフェがレイピアを振るって炎を放つ。その炎は半身だけとなった完成品を包み込み、更に燃え上がって炎上する。
『俺でなければこの炎で死んでいた。厄介な奴らだ』
「……ッ。"サイコキネシス"……!」
包み込んだ炎を操り、上空に塊として漂わせる完成品。"サイコキネシス"は謂わば袋のようなもの。普通の袋ならば炎で燃えるが、超能力である"サイコキネシス"は逆に炎を包み込む事が可能だった。
「"神の霆"……!」
『無駄だ』
次いで放たれた神の霆。それすら"サイコキネシス"で受け止め、ニュンフェの炎とリヤンの霆が空中に丸く漂う。
『自分で食らえ』
「「……ッ!」」
そして振り落とされる、二つの塊。上空で融合したそれらはとてつもない破壊力を秘めており、この星が消え去る程の力はあるだろう。
「"神の守護"……!」
炎と雷の塊。それを正面から抑えるのはリヤン。神の力を使った護りにより、星一つを消滅させる程の塊を抑え込んでいた。
「はあ!」
『……!』
リヤンがその塊を抑える中、新たな炎を形成して完成品に放つニュンフェ。炎は渦を巻いて再び完成品を飲み込んだ。
「これも……お返し……! "神の反射"……!」
『……ッ!』
ニュンフェの炎魔法に便乗するよう、抑え込んでいた塊を神の力で反射させて返すリヤン。
一つの炎と二つのものが合わさった塊にに包み込まれた完成品は初めて焦りの表情を見せ、咄嗟に周囲を"サイコキネシス"でガードする。
『……ッ。かなりの力だな……』
しかし世界を滅ぼす塊と生物を気化させる炎では分が悪い事この上無し。徐々に"サイコキネシス"の壁は弾け、その中心に居た完成品を飲み込んだ。
*****
「やった……の?」
「さて、どうでしょう……」
塊によって生じた黒煙が晴れ、その中心を窺うリヤンとニュンフェ。二人には、確実に仕留めたという確信がなかった。
と言うのも、仮にも先程の塊は星を消滅させる威力を秘めた塊。にも拘わらず、辺りへの被害が小さ過ぎるのだ。
生唾を飲み込み、様子を見る二人。完全に黒煙が晴れた時、そこに完成品は居なかった──
『ハァッ!』
「「…………ッ!?」」
──そう、リヤンとニュンフェの背後に移動していたからだ。
二人は"サイコキネシス"によって吹き飛ばされ、数十メートル先の地に擦る。擦りながら立ち上がり、驚愕の表情で完成品を見るニュンフェ。
「まさか……あの爆発でも気化していないのですか……!?」
『ああ。正直……かなり危なかった。常人ならば死んでいただろうが……俺は無事だ』
「……!?」
言葉に返しつつニュンフェとの距離を詰め、頭に衝撃波を放つ。
目や鼻、耳に口などニュンフェの顔の穴という穴から夥しい量の血液が溢れ、少し遅れて吹き飛びニュンフェの身体が動かなくなる。まだ死んではいないようだが、かなりマズイ状態だろう。
「ニュンフェさ……!」
『お前もだ……標的その二よ』
「……!」
"テレポート"で瞬間移動し、今度はリヤンの前に姿を現す。同時に伸ばされた手をリヤンは掻い潜り、両手を完成品に構えた。
「"神の氷"!」
『ハッ!』
神の力を使った氷と、"クリオキネシス"によって辺りの温度が瞬く間に停止し、氷点下の世界を創造する。次の刹那に再び"テレポート"を使用した完成品がリヤンの前に移動し、
『終わりだ……!』
「……ッ」
"アポート"によって引き寄せた岩石を使い、リヤンの身体を押し潰した。
そこから真っ赤な鮮血が噴水のように噴き出し、氷点下の世界に散った血液は赤い氷像となる。次いで岩が除けられ、血塗れのリヤンが落下した。
押し潰されたのに生きている理由はヴァンパイアの再生力が働いているからなのだろうが、完全に致命傷だった。
『……』
意識の無い二人を超能力で引き寄せ、二人を並べる完成品。今この瞬間、完全なるトドメを刺すつもりなのだろう。
『……』
無言で見つめ、片手に念力を纏う。"サイコキネシス"による身体能力の強化。それが完成品のトドメを刺す方法だった。
「……ッ……ニュンフェ……さん……」
『まだ意識があったか。流石は神の子孫だ。しかしもう終わりだ。全て……全て終わった』
「……」
再生しつつ、ニュンフェへと視線を向けるリヤン。完成品は拳を握り、溜め込んだ念力をリヤンへ放つ──
『俺の全ては……此処で終わりのようだ』
「……!?」
──前に、身体の中心から光の粒子となって消滅し始めた。
その言葉に勢いよく完成品を見上げ、激痛に怯むリヤン。しかしまた顔を上げ、消え去る完成品の姿をその澄んだ瞳に映した。
『ミッション成功ならず。お前達の勝利、俺の敗北だ』
淡々と綴り、この世から完全に消滅する完成品。最後に見せた表情は、無表情ながらも何処か嬉しそうで寂しげな表情だった。
「……サヨナラ、名前の無い人……」
思わず口に出す、別れの言葉。
完成品が消え去った理由は、流石に世界を滅ぼす塊と生物を気化させる炎には敵わなかったという事だろう。一流の魔法使いと神の御業の前では、実験によって生まれた生物兵器では届かなかったという事だ。
しかし最後まで目的を達成しようというその深い信念に、リヤンは別れを告げずにはいられなくなったのだろう。
リヤン、ニュンフェと生物兵器の完成品の戦闘は、二人が重傷を負ったものの勝利を収めたのだった。




