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四百話 vsスルト

 ──後半へと向かいつつある戦闘。それはライとスルトとの戦闘も例外では無い。既に元居た場所からはかなり離れており、街の中でも端の方へと移り変わっていた。そしてまた、再び赤い建物が崩れ落ちるように崩壊する。


『焼き切れるが良いッ!』

「砕いてやるよ!!」


 炎剣が振るわれ、数キロに及ぶ範囲が大火事となった。その炎を砕き、スルトに向かうライ。炎に包まれながら直進したライは、一瞬にしてスルトの前へと躍り出た。


「オラァ!!」

『それしか出来ぬのか!!』


 光の速度を超えて放たれる惑星を粉砕する拳と、複数の世界を焼き尽くした炎剣が激突する。余波は何処までも広がり、瓦礫を巻き上げて更に消滅させた。

 流れるように炎剣の上に乗ったライが駆け、焼ける剣の上を光を超えて直進し続ける。スルトの眼前まで迫ったところでスルトは炎剣を上に振るってライが吹き飛ばされた。


『ハッ!』

「っと!」


 天空へと舞い上がったライに向け、数キロの長さまで伸びた炎剣を薙ぐスルト。空を割る炎剣はライに直撃し、同時に凄まじい勢いで燃え上がる。爆発のように広がった炎は数キロに及ぶ線を作り出し、少し遅れて空を赤く染めた。

 空に広がる炎と下方に広がる街の赤が結合し、周囲には幻想的な深紅の景色が映し出される。炎が赤い硝子に反射し、それはさながら巨大な宝石のようだった。


「まだまだぬるいぜ、スルト!」


『これでも一応太陽に匹敵する気温なのだがな』


 炎の線を砕き、隕石の如き速度でスルトへ降り注ぐライ。炎の欠片を纏い、空から舞い落ちる姿は速度のみならず全てに置いてまさしく隕石の様だった。

 太陽並みの温度というスルトの炎だったらしいが、ライはそれを意図も容易く打ち砕く。しかし実際に太陽並みの温度ならば地上が悲惨な事になる筈だが、どういう訳か地上は無事であった。


「ま、気にしても仕方無いか」

『何を言っている?』


 炎剣で隕石の様に落下して来たライを受け止めるスルト。それによってライは停止したが衝撃波は伝わり、スルトを中心に街を大きく砕いた。


「ああいや、太陽の温度だったら紅い街が溶けてるんじゃないかと思って……な!」


『フッ、そんな事か。自分の力は制御出来る。余計な破壊を生むお前が未熟なのでは無いか?』


「否定はしない。多分、今後ずっと周りを巻き込みながら戦いそうだからな」


『潔いな』

「どういたしまして」


 炎剣を蹴り、跳躍してスルトから距離を置くライ。スルトを見上げる形で止まり、軽薄な笑みを浮かべつつ真剣な目付きでその出方を窺う。


『フンッ!』


 即座に下方に居るライへ向け、炎剣を振り下ろすスルト。数キロに伸びた炎剣が街を縦に割り、遠方の山々を大火事にして消し去った。


「オイオイ、力を制御出来る割りには遠方の山を巻き込んでいるみたいだが?」


『あの程度は無問題だ。太陽の温度ならば他の場所で戦っているシュヴァルツの邪魔になるが、遠方の山を狙って被害を受けるのは野生の魔物のみだからな』


「……。そうか、それはリヤンに聞かせられないな。多くの生物が焼け死んだとなれば、リヤンが悲しむ」


 野生動物に対して慈悲無きスルトに肩を竦めるライ。味方の邪魔にならなければ、自分の攻撃で野生の生き物はどうなっても構わないと言うスルト。確かに自分の世界を一度焼き尽くしたスルトならば生物を殺す事を躊躇わないだろう。

 しかし、ライの仲間には動物好きの少女が居るので、簡単に見過ごす訳には行かなかった。


「仲間を悲しませたくないから、取り敢えずアンタを倒すか」


『……ッ!?』


 刹那、光の速度を超えていたライはその次の速度を超え、スルトの顔面を殴り付けた。

 思ったよりも速く、鋭い一撃を受けたスルトは身体のバランスが崩れ、紅い街を巻き込んで倒れる。赤い粉塵が舞い上がり、驚愕の表情でライを見やる。


『ぐぅ……予想以上に重い一撃だった。また力を引き上げたのか……?』


 スルトの思った事。それはライが六割の力から七割へと引き上げたのではないかとの事。しかしライは首を振り、倒れるスルトへ話し掛ける。


「いいや、違う。力を変えた訳じゃない。と言うか、俺ですら何故か分からない」


『……なんだと?』


「感情が昂る時、たまに力が湧き出るんだ。お陰で負担が少なくなる時がある」


『成る程、それがお前自身の持つ力と言う事か』


「さあ? 詳しくは分からないな……」


 返し、加速し、スルトの方へと向かうライ。今のライが纏っている力は先程と同等、魔王の六割。しかし今のライならば、素の状態でも魔王の二割並みの力を扱えるだろう。つまりそれは、魔王の一割程度だったライの力が更に成長したという事の証明だった。


『そうか、ならば仕方無いな』


 返し、振り下ろし、ライに斬り付けるスルト。炎を纏った灼熱の炎剣がライを狙い、


「そらっ!」

『ぐっ……!』


 捉えた瞬間、ライの拳がスルトの頬へ吸い込まれていた。殴られたスルトは再び吹き飛び、紅い街を更に砕いて停止する。

 上乗せされた、実質八割並みであるライの力だが、それを受けても宇宙にまで吹き飛ばぬのは流石は世界を滅ぼした実績のあるスルトという事だろう。


『フッ、良いぞ。殴る、蹴る、斬る、叩くという単調なやり取りでしか無い戦闘だが、思うよりも長く続きそうだ。自分の世界は自らの手で滅ぼしたが、この世界は簡単に滅ぼせそうにない……!』


「何か、さっきまでと性格変わったな。寡黙って感じだったが、興奮したら魔族の国の奴らみたいに生き生きしているや」


『なに、簡単に滅びぬ世界を祝福しているのだ。この世界が末永く続けば、自分の退屈は無くなるだろうからな』


「自分の世界を滅ぼしといて、よく言うよ」


 呆れ半分の苦笑混じりに返し、光の領域を数段階超えて進む。起き上がったスルトは炎剣を振るい、周囲を焼いて防ぐ体勢を整える。


「炎の壁か……!」


『ああ。しかし、砕かれてしまった』


 その体勢は即座に崩れた。炎剣が生み出したのは周囲には影響を及ぼさず、太陽並みの温度を保つ壁。通常の生き物には即死の炎だが、ライはそれを拳で砕いて抜け出した。

 そのままスルトに向かうが、スルトも負けじと辛うじて拳をかわす。その余波は周囲に影響をもたらし、正面に連なる山々を風圧のみで打ち砕いた。


『山に棲む多数の生き物を殺したくないと述べる割りには、かなりの影響を与えたように見える。野生の魔物は殺したくなかったのでは無いか?』


「ハッ、そんな奴ら最初から居ねえよ! 魔王が攻撃を放つ時、野生の勘が働いてその数十分前には逃走するからな!」


 ライの攻撃が山に行ったとしても、野生の動物達は一切被害を受けない。それはライが魔王を宿しているからこそだ。

 魔王の力で暴れる時、ほぼ確実に野生動物達は遥か彼方へと逃げ出しているのである。魔王の直線上に立たぬよう、左右へ霧散するように逃げているのだ。恐らく魔王が居るというだけで、本能が危険信号を鳴らすのだろう。

 と、そこまで聞き、スルトはとある事が疑問となって首を傾げる。


『ならば先程、自分が山を焼いた時も居なかったので無いか?』


 そう、先程スルトの炎剣が山火事を起こした時、ライはリヤンを悲しませたくないという理由でスルトに仕掛けたが、そもそも魔王が居るのなら気にしなくとも良かったのではないか? と気に掛けているのだろう。

 対し、ライは憎たらしい笑みを浮かべつつ、スルトに向けての言葉を続ける。


「ハッ、アンタは魔王じゃないからな。アンタ自身は大した事無い。武器が強かっただけじゃねえの?」


 無論、それは挑発でしか無い事だが。


『フンッ、生意気な子供だ。仕置きが必要なようだな、ライとやら……!!』


 挑発に乗り、ライに構えるスルト。ライは依然として口だけは笑みを浮かべ、油断など一秒すらしないという真剣な眼差しで言葉を続ける。


「ハッ、悪いな。真面目に答えるなら、本当の理由はアンタの剣が正面だけじゃなく、周囲を巻き込んでいるからだ。魔王()の力は正面だけだが、アンタの剣は広範囲を焼き尽くす……!」


『成る程、そういう事か。一つの山が消える前に獣は近隣の山に移動する。しかしその山が焼けてしまえば幾ら逃げても無意味という事だな』


「そう、結局はアンタも未熟者という事だな」


 揶揄からかうように笑い、スルトへ話すライ。スルトはピクリと反応を示し、


『フン。下らぬ挑発に、敢えて乗ってやろう』


「そう来なくちゃ」


 炎剣を更に伸ばし、数度素振りしてライに構える。ライもフッと笑って構え、魔王の力に己の力を上乗せさせた状態でスルトを見やる。

 ライとスルトの戦闘は既に後半戦。即ち、最終局面へと足を踏み入れていた。



*****



 ──魔物の国、支配者の街。


 今日は秋晴れだった。涼やかな気候に白く輝く太陽。秋特有の静けさが街全体を包み、そこに棲む魔物達も心無しか静かに見えた。

 そんな街にある、既に何度も話し合いが開かれている何時もの貴賓室では、人化した状態である魔物の国の幹部。そのリーダーがヴァイス達に質問をしていた。


「一つ尋ねたいのだが、ヴァイス殿。アナタ方が連れる生物兵器達。其奴そやつらは不死身にして魔術や武器を扱う。それだけで厄介ではあるが、何故禁忌とされる実験をおこなったのか気に掛かる。純粋に手駒を増やしたかったのか、それとも別の理由があるのか。教えてくれぬか?」


 その内容は生物兵器の兵士達について。

 生物兵器というものは世界中で禁止されている実験。生き物を意図的に改造し、合成生物(キメラ種)を創るというのは様々な理由によって行わないと決められているのだ。

 故に、そんな実験を行い世界中を敵に回すのような行為をしている理由が知りたかったのだろう。不敵な微笑を浮かべ、ヴァイスは魔物の国、幹部のリーダーに返す。


「その答えに返すなら、前者半分。後者半分と言ったところかな。生物兵器を作り上げる為に犠牲になる兵士は成功の十倍以上は居るけど、一人だけで通常兵士の百倍以上の力を秘めている。純粋な力では無く、再生力や魔法・魔術。剣術・武術を総合して一般兵の百倍という訳さ。それだけで犠牲になった兵士達の元は取れる」


 ヴァイスがそれを実行する理由はリーダーの言った二つの事柄に当て嵌まるらしく、一つ目の理由について説明する。一般兵よりも遥かに強力が数万の軍隊となれば、それだけで驚異的だ。なので一つ目の理由は手駒を増やしたいからという事である。


「成る程、それが半分の理由。ならば、手駒を増やす以外の理由は何なのか教えてくれ」


「オーケー。長々と語りたいけど、時間が勿体無いから単刀直入に言おう。それは自分自身を強化する為さ」


「……なにっ?」


 もう一つの理由、ヴァイス自身の強化。それを聞いた幹部のリーダーは訝しげな表情をした。

 確かに不死身にして様々な技を使えればかなりの力を得られるだろう。だが、それはつまり生き物では無くなるという事。優秀な者達は生かして国の運営を任せると言っていたヴァイスだが、自分を改造するとは如何程のものか気になったのかもしれない。


「つまり、どういう事だ? 自分自身を改造すれば、あらゆる生物を超越した力が得られるだろう。だが、自我を失い命令に従い続ける可能性もあるという事だ」


「百も承知さ。失敗を恐れて行動しなければ一生世界は発展しない。実験に実験を重ね、最後には自分自身に実験を仕掛ける。それがどういう結果になったとしても、それを糧に新たな実験を行う者が現れるかもしれないだろう?」


 薄い笑い。しかしその目は光を写していない。笑っていない。例えそれによって死ぬ可能性が高くとも、既にその覚悟は決めているようだ。


「リスクは承知の上か。ならばこれ以上追及するのは無粋なものだろう。我ら魔物は元々、世界から見ても特異な存在だ。力を持つ者が多い故に恐怖対象となってしまっている。世界では禁止されている実験だが、無法地帯の魔物の国(この国)ならば問題無いだろう。……最も、部活の兵士や野生の魔物を実験に巻き込むのならば話は別だがな」


「それは当然心得ているさ。生物兵器の実験には同意の元で行っているからね。無関係な者を無理矢理巻き込むという事は、あまり無い」


「そうか。"あまり"という言い回しには違和感を覚えるが、基本的に巻き込まれぬのならそれで良いだろう。戦闘ならば破壊力のある一撃によって、他の兵士や野生の魔物が巻き込まれる事もあるからな。意図的に巻き込まぬのなら見逃しておく。好きに実験を行うが良い」


「感謝する。世界発展の為、自由に実験の出来る空間の提供は良い。人間・魔族・幻獣の国では実験すら出来ないからね。魔物は巻き込まないという口実ならば良いんだね?」


「ああ」


 幹部達は他の種族が行う実験に興味が無い訳ではない。なので、面白半分で場所だけは提供するらしい。


「まあ、本当に完成した生物兵器はまだ一体だけだ。これから生物兵器を更に増やして、完成品の軍隊を作り上げれば戦争も楽に終わるだろうね」


「我らは出来るだけ楽しみたいが、これから起こそうとしている事には敵もかなりの強者が集う筈。兵士が多いに越した事は無いな」


「その通り。"終末の日(ラグナロク)"を再現するに当たって、相手の役者はいずれも強者揃いだろうからね。完成品が数千人居ても足りなそうだ」


「その事について会話を続けよう」

「ええ、是非」


 静かな秋の昼下がり。紅い街で戦闘を織り成す者達とは別に、魔物の本拠地では物騒な話し合いが行われていた。

 魔物の国の幹部達を倒したところで、波乱の戦闘はまだまだ終わらなそうである。

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