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三百九十二話 散策の強制終了

「此処にまで熱気が来ているな……ただの熱ならば問題ないのだが……日光からなる熱だと辛いものがある……」


「そうですね。見てみれば……街の周囲にも木々は生えていませんし。熱気によって自然に必要な水分も行き渡らないのでしょう。街によって植物が育たなくなっているのですね」


 紅い街の外で待機しているエマとニュンフェは、数百メートル離れた所にある樹の木陰で休んでいた。葉と葉の間から木漏れ日が差し込み、所々に小さな光の隙間を作る。

 エマはお気に入りの傘をクルクルと回しながら腰掛けており、ニュンフェは座りながらも会話しているかのように樹の幹を撫でていた。

 休んでいたと言っても休むしかやる事が無いので休んでいるのだが、それでも街から放たれる日光の反射でエマは大分弱っていた。


「はあ……何とも憎き天敵よ。樹と傘で上からの日光は防げているが、街から放たれている日光を防ぐ事は難しい……」


「樹の裏にまで届いていますからね、御日様の光……。ヴァンパイアって、太陽の光に含まれる成分が駄目なんでしょうか?」


「ふふ……さあな。だが、太陽の成分が駄目なら少量でも降り注いでいる以上、私はこの星に棲めなくなっている筈だ。それは無いから多分、太陽が太陽である事自体が大きな問題なのだろう」


 ニュンフェの疑問に返すエマ。もしも太陽の成分にヴァンパイアが消滅する力があるのなら、エマは既に消滅している筈である。それが無いという事は、太陽の成分にヴァンパイアを消滅させる力があるのでは無く太陽そのものにその力があるという事だろう。

 魔力や聖なる力が存在しているこの世界に置いて、自然の太陽というのはとてつもないエネルギーの集まり。すなわち、それらの塊のようなものなのだろう。故にヴァンパイアに効果が絶大なのだ。


「へえ……大変なのですね、ヴァンパイアって。生まれつきですからね……今までの苦労は計り知れません……」


「ふふ、同情など無用だ。お前はそう言うが、エルフもエルフで何かと苦労はあっただろ? 容姿端麗なエルフ。求める者は人間・魔族問わず多く居た筈だ」


「さあ、どうでしょう。それと、容姿端麗ならばヴァンパイアも負けず劣らずですよ。私よりも大人の色気がありますもの」


「この見た目でか?」


「それはエマさんが自分の意思でそうなっているだけじゃありませんか」


「フッ、それもそうだな」


 鈴の音のように愛らしくコロコロと笑うニュンフッと、息を吐くように静かに笑うエマ。ヴァンパイアとエルフ。この二種族は夜を生きる者と昼を生きる者。本来ならば相容れる事は無いのだが、この二人は違うようだ。

 種族は違えど、気の合う合わないは関係無い。他種族同士でも仲を深める事が出来るという表れだった。

 最も、魔族のライ、フォンセ。人間のレイ。龍族のドレイク。妖怪の孫悟空。種族不明のリヤン。彼らが一緒に旅をしているので、種族の壁など生まれた土地の違いくらいしか無かった。


「しかし、考え直してみれば奇妙なものだな。正反対も良いところの私たちが共に旅をしているなど」


「ふふ、そうですね。おかしな話です。本来ならば生活スタイルも棲み家も何も違う筈なのに、こうして仲間となっているというのは」


「この世は不思議な事だらけだ。だから私は飽きずに数千年の時を生きる事が出来た。生まれて数千年経つが、まだまだ飽きる事は無さそうだな」


 小さく笑うエマと、つられて笑うニュンフェ。長生きだからこそ知れる事もあるこの世界に飽きるという概念は存在しないようだ。最も、自分から動き出さねば直ぐに飽きてしまうのだろうが。

 日の光を浴びても即死する事の無く行動力のあるエマだからこそ、数千年もの時間を楽しめているのだろう。普通のヴァンパイアならば夜しか生きる事が出来ぬので代わり映えしない世界が退屈かもしれない。


「さて、少し歩くか。この場所は日光と街の光が強い。何とも居心地の悪い場所か。ニュンフェ、お前はどうする?」


「ふふ、御供しますよ、エマさん♪」


 行動力があると言ってもヴァンパイアという種族に変わり無し。結局のところ、太陽の光に弱いという事は変わらない。普通のヴァンパイアよりは行動出来るが、熱く苦しく痛む事柄に違いは無かった。

 ニュンフェはそれを理解し、取り敢えず笑って返したのだ。実際、ニュンフェは此処の付近にある他の森も気に掛かっていたのでエマの提案は丁度良いのである。


「さて、行くか」

「はい♪」


 クルリと傘を回して立ち上がり、フッと笑うエマ。ニュンフェも立ち上がってエマに続く。

 エマとニュンフェの二人も、街の中に入ってはいないが近隣の森を探索をするのだった。



*****



「此処は……店かな? 今は営業をしていないみたいだが、確かに店だ。時間が来れば開店するのか?」


「どうだろう……中の様子はよく見えないけど……品物もちゃんと置いてあるや……」


 散策を始めてから数時間後、ライとリヤンは赤い壁の店のような場所に居た。何故此処が店と分かったのかを問われれば、見えにくいが目を凝らせば見える店内にカウンターのような物や様々な品々が置いてあったからだ。

 整備や清掃もされているらしく、生き物が居た気配があった。


「生き物が居た形跡は結構あるんだけどな。当のヌシが見つからない。こうなってくると俺たちの気配を感じて身を隠しているようにしか思えないな……」


「うん……。匂いも至るところに残っているし、外からの生き物に警戒しているのかな。私もそんな暮らしをしていたから……野生の動物が警戒心高いのは知ってる……」


「ああ、俺もだ。俺の暮らしは比較的普通だったけど、野生の生物が縄張り意識が高いのは知っていた。やっぱ部外者だからってのが一番の問題なのかもな」


 店から視線を逸らし、改めて歩を進めるライとリヤン。

 二人は野生の生き物がどの様なものなのかを知っている。野生というのは、独特のコミュニティからなるものだ。故に、人間・魔族のように文明を築いた者達よりも警戒心が高いのである。

 煌めく赤い街道を進みながら、ライとリヤンは歩みと会話を続ける。


「けど、部外者でも興味本位で近付いてくる魔物が居てもおかしくないのにね」


「基本的に荒いって聞いたからな、だから常に警戒していたんだけど……肩透かしを食らった気分だ。余計な争いが無ければそれに越した事は無いけどな。取り敢えず、生活の形跡がある時計塔に行ってみるか」


「うん」


 フッと笑うように話すライ。争いが無いのならばそれで良いが、居なさ過ぎる事が気になる。なので、取り敢えずこの街にて一番目立つ時計塔へ行こうと考える。彼処ならば街全体を見渡せるので丁度良いという事だろう。

 そんな事を話しているうちに街角へ移り、赤い影から飛び出す事によって一際目映い赤い光がライとリヤンの視界を染めた。


「ライ、リヤン。奇遇だな」


「お。レイ、フォンセ。……て事は、一周したみたいだな」


 その光の中に見えた影。そこからバッタリと出会でくわすライ、レイ、フォンセ、リヤンの四人。街全体を見て回った訳では無いが、軽く一周は終えたようだ。

 レイたちも特に見るものは無かったらしく、街の様子のみを見ていたようだ。いや、一つ訂正を加えよう。見るものが無かったのではなく、建物の中に入り難い雰囲気が漂っていたので建物の景観のみしか見れなかったが正しかった。


「収穫はどうだった?」


「特に無しだ。そちらは?」


「同じく。だから時計塔に行ってみようと思ってな」


「……。本当に奇遇だな。私たちも時計塔へ行こうと話し合っていたところだ」


 ライとリヤン。レイとフォンセが此処で鉢合わせたのは偶然では無く、互いに時計塔を見ようと提案していた事で起こった必然だった。

 何はともあれ、利害も一致しているようなのでライたちは全員で時計塔へと向かう。



*****



「さて、登って来たけど……果たして勝手に登って良かったのか……」


「さあ? だが、登ってしまったなら仕方無いだろう。紅い街の景色を楽しんだ方が良い」


 それからものの数分で時計塔に辿り着いたライたちは、尖塔せんとうから見える街全体を見渡していた。

 誰の許可も取らずに登った事が気に掛かっているライだが、その思考をフォンセは軽く笑って一蹴する。実際、許可を取ろうにも誰も居ないので無断で登ってしまったのだから仕方無い。

 そこから映る赤い輝きを放つ街並みを眺め、レイが感嘆のため息と共に感想を吐いた。


「宝石みたいに綺麗だね、此処の紅い街。ルビーやガーネットで造られた建物みたい……。所々に見える金色も含めたら宝石とは違う別の何かに見えるね」


「うん、綺麗。」


 現在の時刻は太陽の位置から推測して昼を過ぎて数十分。にも拘わらず黄昏時を彷彿とさせる柑子色こうじいろの景観と、煌めく赤い宝石を彷彿とさせる建物がライたちの視界を埋め尽くす。

 気温は高くかなり暑いが、景色は素晴らしいこの街。時計塔の上からその様子を眺めていると、遠方から龍と雲が飛んできた。


『此処に居たのか、ライ殿たち』


『下ばっか探していたが、まさか上とはな。盲点だったぜ』


「ドレイク、孫悟空。ッハハ、何やかんや全員この場に揃ったな」


 その一人と一匹。彼らがこの場に来た事で、紅い街を探索していたメンバーが全員揃う事となった。

 揃ったところで特にする事は無いが、孫悟空とドレイクがこの街について話があるらしく知っている事を教えた。それはこの街が別の世界の街をモデルとして造られている事と、その世界は消滅しているという事。それを聞いたライは神妙な顔付きで言葉を返す。


「成る程な。モデルとなった街がこの街以上に劣悪な環境だからこの街がこんなに暑いのか。だからといって生き物の気配が無いのは気に掛かるけど」


『その点に関しちゃ分からねえな。だがまあ、その街に関係のある生物が居る可能性もある。依然として警戒を緩めるべきじゃねえな』


「ああ。けど興味が湧いた。別の世界にある街をモデルに造られた街……! どんな技術が使われているのか、興味深いものだ」


 好奇心旺盛なライは、孫悟空の目論見通りこの街に興味を示した。技術がモデルとなった街のものと同じか分からないが、文化そのものに興味を示したのだろう。

 ライの年相応である輝かせる目を見てクッと笑う孫悟空。


『ハッハ、そうか。生きるって事は、常に何かしらへ興味が無けりゃ退屈なものだからな。暇潰しを提供出来て良かったぜ』


「ああ、ありがとな、孫悟空。お陰で旅を終えたとしてもやる事が見つかった。別の世界に行ってみるのも良さそうだな!」


「──そうか、良かった。ならば我らと共に異世界征服を手伝ってくれるか?」


「「……!」」

「「……!」」

『『……!』』


 一つの声が掛かり、ライたちは一斉に振り向く。すると、何もない空間から一人の者が姿を現した。不可視の移動術を使ったのだろう。

 そして遠方からは、武器を構えた大群が押し寄せて来ていた。


「次の主力か。ここ数日来なかったけど、久々に来たみたいだな。後、異世界征服とやらには興味ない。他を当たりな」


「そうか、残念だ。そして、久々の主力が姿を現したという言葉に返すならば……そうだな、最近は一気に主力がやられたから少し休息を取っていたんだ。と返そう。それと、残りの主力は自分を含めてみなが常軌を逸した力を秘めている。世界が滅ぶ可能性を懸念し、仕掛けるに仕掛けられなかった」


「へえ? 今までも常軌を逸した力を秘めていたし、世界が消えかけたけど……残った主力はそれ以上の力を秘めているって事?」


「そう思ってくれて構わない。自分で言うのも何だが、お前の言うように残りの幹部はそれ以上の強さを秘めている」


「ハハ、そりゃ苦労しそうだ……」


 向き合い、構えるライと幹部。幹部の様子からまだ人化している状態で、本来の姿になっていないと理解するライ。

 そして気配の強さから、既に何処かへ他の主力が潜んでいる事も理解した。ライはライ自身が思うよりも、物事を理解する才能に長けているのだ。


「取り敢えず、魔物の国で幹部を御勤めなさられている貴方様がやって来たこの瞬間、戦闘を開始致しますという事で宜しいですか?」


「癪に障る言い方だな。馬鹿にしてるだろ、貴様。ならば敢えて返そう。そうです、貴方様方をこの世から消し去りに参りました。とな」


「ハハ、ノリが良いな。嫌いじゃないぜ、そう言うの」


「フフ、挑発という行為には逆に此方が合わせてしまえば意味が無くなるものよ。そして、自分も貴様が嫌いという程では無い。出会って数分の仲だがな』


「そうか、嫌われなくて良かった。第一印象は物事に置いて重要だからな?」


 身体を徐々に変化させ、笑みを浮かべながらライの言葉に返す幹部。ライも軽薄な笑みを浮かべているが、その瞳は笑っておらずしっかりと警戒をしている目付きだった。

 魔物の国にある紅い街にて、ライたちの街散策は半ば強制的に終わりを迎え、新たな幹部を率いる主力達が邂逅かいこうした。

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