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三百八十九話 過酷な国

 ──"魔物の国・支配者の街"。


「さて、今日のところはこれくらいで良いかな?」


「ああ、有意義な時間を過ごせた。互いに知らぬ事も分かったからな」


「そうだな。俺はヴァイス達と少し話したが、それよりも更に情報を得られた」


『うむ。協定を結ぶに当たって必要な信頼もこれで得る事が出来た。魔物の国と百鬼夜行、後……旅の者? のヴァイス殿たち。それらの事を少しでも分かり合えたのならそれで良いだろう』


 支配者の街にある建物。そこにある豪華絢爛な貴賓室にて、ヴァイス達とブラッド。幹部のリーダーと大天狗が話し合いを終えていた。

 その様子から互いの親交は深まり、信頼を得る事が出来たらしい。

 この者達にとっては良い事だろうが、ライたちにとっては敵が更に強化されると同義なので厄介な事だろう。


「そうか。他の者たちからも否定の意見は出なかった。ならば今日の話し合いはこれで終わりにしよう。そろそろ向かった者たちも帰ってくるだろうからね。……最も、倒されている可能性もあるけどね」


 不敵に笑い、者達の顔を一瞥するヴァイス。魔物の国の幹部のリーダー。支配者の側近ブラッド。百鬼夜行の幹部大天狗。そしてグラオ達もその様子を窺った。

 ヴァイスの言うように、その可能性はある。むしろ、その可能性の方が高い。既に幹部二匹とマギア、酒呑童子しゅてんどうじが倒されているのだから。

 それでも全員で攻めないというのは我が儘が半分で、一気に纏めてやられるのを防ぐ為だろう。

 幹部の一角が崩れるだけで本来は一大事だが、ライたちはトドメを刺さない。なので今は直ぐに復活するが、それでも纏めてやられてしまえば元も子も無いという事だ。


「倒されていたとすれば、また別の幹部をけしかける。それが敗れればまた別の。そいつも敗れれば私が行く。そして幹部がみな敗北すれば支配者殿が向かう。最も、支配者殿が出る時は我らは幹部とブラッドのような側近達も全員が出るがな。何はともあれ、倒されている可能性が高くとも関係無いという事だ」


「フフ、そんな事は気にしていない……か。流石は幹部のリーダー。余裕のある態度で行動している。味方ならば頼もしい限りだよ」


「そうだな。それも天命。時が来れば俺たちも参加する」


 例え幹部が全滅しようと、退くつもりは無い幹部。命知らずと言うか何と言うか、頼もしさと不安が生じていた。しかしヴァイス達や側近も参加するので、後の事は後で考える事も可能だろう。


『無論、我ら百鬼夜行も参加する。魔物の国の目的、異世界征服。また大きく出たモノだ。その時は力を貸そう』


 最後に笑う大天狗。今回の件のみならず、その時が来れば異世界征服にも参加するらしい。

 元々長生きで退屈も多い妖怪。新たな事柄に興味を示すのは、妖怪だけで無く人間・魔族・幻獣・魔物も同じだろう。未知を求めるというのは、全ての生物に共通する事柄なのかもしれない。

 これにて話し合いは終了し、各々(おのおの)が貴賓室から外に出る。後はヨルムンガンドとハリーフを待つのみだ。

 今日行われた主力達の話し合いは、一時的に終わりを迎えた。今度は明日だろう。



*****



「さて、何処に居るかな。結構遠くまで来ちゃったけど……」


 ──ヨルムンガンドとの戦闘を終えたライは、意識の無いヨルムンガンドを放って置いてレイたちを探していた。

 ライの速度ならば全力で無くとも一瞬で何周も出来るこの星だが、太陽の十倍はあるので小さなレイたちを探すのは一苦労だ。

 目印という意味ならばレイたちよりも巨大な八岐大蛇ヤマタノオロチも居るのだろうが、恒星にとってはライたちの星で山のようなサイズを誇る八岐大蛇ヤマタノオロチですら小さい程。ヨルムンガンドの数百倍以上はあるのだから当然だ。

 何はともあれ、砂粒よりも小さな仲間を探す事は苦労するという事である。


「あ、居た!」


 しかし割りとあっさり見つけ出すライ。

 視力も優れているので、気配を察すれば容易く見つける事が可能だった。

 空を蹴り、ほんの少し加速して落下するライ。落下速度の何十倍もの速さとなってレイ、エマ、フォンセ、リヤン、ニュンフェ、ドレイク、孫悟空。そして八岐大蛇ヤマタノオロチの元に着地した。


「……で、何で八岐大蛇ヤマタノオロチが普通に居るんだ? 一応敵対していた筈だが……」


 降り立った瞬間、意識を失っている訳でも無く襲うようにも見えない八岐大蛇ヤマタノオロチが気に掛かるライ。一応敵対していたのだが、一体何がどうしてこうなっているのか、それが気になったのだ。

 それを見兼ねたレイがライに歩み寄り、苦笑を浮かべながら説明する。


「アハハ、ちょっと色々あってね。単刀直入に言えば私たちの誤解だったんだよね……」


「何だそりゃ? ちょっと詳しく聞かせてくれないか?」


「うん、良いよ。実はね──」


 それから、八岐大蛇ヤマタノオロチの身体に棲む動物達やレイたちの言う勘違いが何だったのかを詳しく説明するレイ。それを聞いたライは成る程と苦笑を浮かべた。


「ハハ、そりゃ、俺が悪かったな。此処だけじゃなくて、魔族の国で目覚めた瞬間に八岐大蛇ヤマタノオロチへ仕掛けちゃったからな……。仮にも神。敬意を表するべきだった」


「ハハ。けど、八岐大蛇ヤマタノオロチは許してくれたらしいよ。リヤンが言ってた」


「リヤンが? 幻獣・魔物の言葉が分かるのか? いやまあ、八岐大蛇ヤマタノオロチはそれらの上位に位置する神だけど」


「うん、何となくだから詳しくは聞き取れないけどね……」


 小首を傾げ、訝しげな表情で尋ねるライの言葉に頷いて返すリヤン。

 リヤンが見ただけで幻獣・魔物、その他の生物の性質をコピー出来る事は知っていたが、会話は言葉の交わせる幻獣・魔物以外とは話せなかった。

 そんなリヤンが八岐大蛇ヤマタノオロチの言葉を理解したと言うのだからライが驚くのも無理はない。


「で、それが八岐大蛇ヤマタノオロチの尾から出てきた神造の刀──"天叢雲剣あまのむらくものつるぎ"か。それって本物か?」


 次いで気に掛かったのは孫悟空が手にしている神話に出てくる神造の刀、"天叢雲剣あまのむらくものつるぎ"。

 レイから話を聞いている時にこの刀が話題に上がったので気に掛かったのだろう。美しい刃を持つその刀を掲げ、孫悟空は頷いて返す。


『ああ、間違い無いな。微かだが神格が宿っている。つまりこれは神聖な刀って事だ。紛れもない"天叢雲剣あまのむらくものつるぎ"だ』


「それってこの世界に二つ以上あるのか? 名前くらいなら聞いた事あるけど、神話に出てくるその刀。既に上層部に居るっていう神々に献上されているって書物には書いていたぞ?」


『それも間違い無い。確実に献上されている。俺は天界を行き来している時、何度か拝見した事があるからな。あれは本物だった。が、これも本物だ……。考えられる線があるなら、この刀が二つあるのか……って事だな』


 本物の"天叢雲剣あまのむらくものつるぎ"に違いは無いようだが、だからこそ悩む孫悟空。瓜二つの物を造る事は少し腕が立てば可能だが、神造の物となれば話は変わる。

 同じ製作者だろうと、それを二つ全く同じに造る事はほぼ不可能だからだ。全能ならばそれも可能だろうが、元々製作者が不明である"天叢雲剣あまのむらくものつるぎ"。製作者が全能とは限らない。

 だからこそ孫悟空はこれ程までに悩んでいるのだ。その悩みようにライは肩を竦ませる。


「可能性は0じゃないんじゃないか? 全知全能が沢山居そうなこの世界、あり得ない事柄なんて皆無に等しいだろ」


『ああ。まあ、そうなんだけどな。製作者不明の"天叢雲剣あまのむらくものつるぎ"。何処か別の場所で生まれていても不思議では無い。もしかすれば、八岐大蛇ヤマタノオロチの体内で造られている可能性もある。製作者が分からないから、推測は多岐に渡って行える。何はともあれ、調べてみるか』


 この世界に不思議な事は沢山ある。今回の刀もその一つに過ぎない。推測は幾らでも出来るのだ。答えはまだ見つからないが、調べてみればおのずと分かってくる事だろう。


「調べるって事はまた天界へ戻んのか?」


『いや、どうだろうな。俺ぁ数時間前にこの世界に来たばかりだからな。俺が仕えている神々も違うし、その時によるな』


「ハハ、神の時間と俺たちの時間は違うか。慌てる必要も無いな」


『そうだな。まあ、俺は生まれついての神じゃなくて元々妖怪だし、時の流れはお前たちに近いけどな。取り敢えず刀の件は此方で預かる』


 重要な事であるが、今直ぐに調べなくてはならない事では無い。故に孫悟空が天界に戻るかどうかというのは、その時に決めるらしい。

 色々気になる事はあるが、一先ずこの刀の事は置いておくようだ。


「さて、一段落付いたところで、そろそろ元の星に戻らなくてはならないな。私には無理だが、お前たちに何か宛はあるか?」


 頃合いを見、ライたちに向けて尋ねるエマ。この星はヨルムンガンドが同じ幹部の誰かに貸して貰った星と聞いている。だがヨルムンガンドもハリーフも倒れた今、どのようにして戻るのかが分からなかった。

 その言葉に場は沈黙に包まれるが、フォンセが挙手する。


「なら、私が何とかしよう。魔法か魔術か分からないが、此処は魔力で創られた星だ。ならば私のあの力で何とかする」


「ちょっと待てフォンセ。ニュンフェとドレイクは良いが、斉天大聖はどうする? 知っているのか?」


「……」


 名乗り出たフォンセの申し出は魔王の魔術を使って元の星に戻るとの事。しかしエマがそれを止める。

 ライは推測である程度孫悟空が何を知っているのか理解したが、フォンセたちは誰も孫悟空が魔王の事を知っていると分からないのだ。

 それに対し、孫悟空は苦笑を浮かべて言葉を続ける。


『ああいや、そうだな。言い忘れていた。気にするな、俺は天界から全てを見ていた。その事は知っている』


「「「…………!!」」」


 目を見開き、驚愕の表情を浮かべるレイたち。孫悟空が知っているという事を知らなかったのだから当然だろう。

 何故今教えたのかと問われれば、魔王の事をニュンフェやドレイクが知ったからだ。ならば隠す必要も無いと話したのである。


「じゃあお前は、知ってて参加したのか? つまり私たちの目的も知っているという事だろう?」


『ああ、そうだな。知ってる。だが、幻獣の国でお前たちを見て確かめたくなった。だから参加したんだ』


「『…………?』」


 怪訝そうな表情をするニュンフェとドレイクは、ライたちの目的は魔物の国のみの征服と思っている。しかしライたちの本来の目的は世界征服。孫悟空はそれを知っているという意味で返したのだ。


「そうか、ならば何も言うまい。いずれお前たちとそうなろうとも、私はライに着いて行く」


『信頼されてんだな、御宅の幼きリーダーは。良いじゃねえか、それならよ』


 未だに疑問を浮かべているニュンフェとドレイクを横に、孫悟空とエマは会話を終えた。エマがそう言うのならばと、レイ、フォンセ、リヤンも何も言わなかった。


「じゃ、取り敢えず今から魔王を纏う。ライや斉天大聖、ドレイクは魔術を使わなくても帰れそうだが、一応全員を送る」


「ああ。多分ヨルムンガンド達は自分で戻るだろうからな。俺たちだけで先に戻って魔物の国を先に進もう」


 フォンセとライの提案に頷いて返す全員。ヨルムンガンドとハリーフは放って置いても戻れそうなので気にしない。

 事実、ヨルムンガンドがこの星を創った者に言われて送られたのならば帰り方も分かっている筈だからだ。

 最も、ハリーフには不可視の移動術があるのでどんなに離れていても元の場所へ行けるが。

 漆黒の渦を纏い力を解放したフォンセによって、ライたちと孫悟空たちは元の場所へと戻るのだった。



*****



 ──元の場所へ戻ったライたちは、辺りを見渡した。そこはヨルムンガンドによって移動させられたままなので何の変哲も無い、普通の森だ。位置も全て元通りという事だろう。


「さて、到着だ。これで三匹目の幹部達も倒したな。少し休憩してから進むか?」


 戻った瞬間、フォンセは周りを見渡してライたちの様子を確認した。その様子から、ライたちに疲労が溜まっていると理解し提案する。連戦続きだった為、少しでも休憩を入れようと考えているのだろう。


「ん? ああ、そう言えばかなり疲れている筈だな……まだ昼過ぎだけど、休むのも良いかもしれない」


「私に疲労は無いが、少々日差しが強い。たまには良いだろう、特に、ライの様子からも疲労が見て取れるぞ?」


「うん、結構疲れちゃった。ライも疲れているみたいだし」


「……。…………」


 ライ、エマ、レイに続き、無言で頷いて返すリヤン。孫悟空やドレイクからも反対の意見は出ず、ライたちは少し休む事にした。


「ハハ、バレてたか。そうだな、少し休もう。相手の幹部も結構倒したけど、過酷な旅だから休憩は大事だな」


 肩を竦めて笑うライ。魔物の国に入ってからまだ一、二週間と数日。もう既に三匹の幹部を倒したライたち。しかしまだ魔物の国を征服するには時間が掛かるだろう。魔物の国の主力のみならず、ヴァイス達や百鬼夜行の手もあるのだから。

 一旦休むとしても、また直ぐに発たねばならぬ程に忙しなく過酷な魔物の国。束の間の休息すら惜しいものだ。



 ライ、レイ、エマ、フォンセ、リヤン、ニュンフェ、孫悟空、ドレイクの七人と一匹は、ようやく中間地点に立った。しかし尚も続け、魔物の国を更に進み行くのだった。



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