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元・魔王と行く異世界征服旅  作者: 天空海濶
第三章 最初の街“レイル・マディーナ”
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三十七話 レイvsザラーム・決着

 ライたちは気配を感じた方に視線を移して警戒する。

 その気配がレイたちではなく、魔族の国の入り口を監視する刺客の筈だからだ。

 そして次の瞬間、その刺客が姿を現した。


「えーと……お前がこの国の近くに来た奴らの……リーダー的な何かか?」


「ああ、まあそんなところだ」


 半ばやる気が無く現れたその刺客はライに聞き、ライは質問に答える。答えを聞き、その者はリヤンの方に目をやって言う。


「で、お前がこの森に住んでいるって噂の女か……そしてフェンリルにユニコーン……骨が折れそうだな……」


 気怠けだるそうに淡々とつづる者は、"骨が折れそうだな"と言った事から、やはり戦闘が目的という事が分かる。

 ライは一応聞いてみた。


「面倒なら戦わなくても良いんじゃねえの? 俺も病み上がり? だしよ」


「いや、面倒だが俺の仲間も戦っている事だし、俺も戦わなくちゃならねえんだ。魔族の国の掟……的な?」


 もしかしたらと思ったが、ライの望む事にはならず。ライは戦闘を避けたかったがその者が言うに、取り敢えず戦う事は確定しているらしい。


「そうか。なら、仕方ねえな。俺はライ・セイブル……アンタは?」


 それを聞いたライは取り敢えず名乗る。何事も名を知り、名を知らせる事で始まるからだ。

 そんなライの言葉に対し、その者は面倒臭そうに頭を掻くが一先ず返す。


「……まあ、一応名乗るか……俺は『ダーク』。だ。まあ、それなりの地位と力を持っている。まあ、最悪殺しちまうけどよろしくな」


「まあまあまあまあ、うるせェよ。……『まあ』、よろしく」


 "まあ"を多く付けて名乗る者──ダーク。そんなダークに向けて挑発するように"まあ"を付けて返すライ。

 不本意だが、一応ライvsダークの戦いも始まろうとしていた。



*****



 剣と刀がぶつかり、二つの刃が生み出した斬撃によって森は切り裂かれる。切り裂かれた木は一瞬空中に浮き上がり、音を立てて崩れた。

 何とかザラームの刀に反応したレイに向かい、ザラームは称賛の言葉を贈る。


「見事だ小娘。悪い体勢と腹部へのダメージがある中、よく俺の刀に反応できたな」


「褒められても……嬉しく、ない!」


 剣を横に薙ぎ、ザラームから距離を取るレイ。それを見るに、レイは息を切らしているが動く分には問題が無いようだ。


「ハッ! そうかよ! まあ、どうせお前は勝てねえんだ……よ!!」


 そんなレイに向けて再び刀を振るうザラーム。レイはその斬撃を見切り、横に転がりながら避けてザラームへと向き直った。

 体力はもう限界に近いかもしれなく疲労した身体で無理をすれば明日に響くかもしれないが、避けなくては死に至り明日の御天道様を拝む事は出来なくなる。

 今回はライたちが近くで見てくれる訳では無い。なので無理を承知で戦っているのだ。


「勝てないなんて……そんなの勝手に決めないで!!」


 そして剣を薙ぎ、ザラームへ斬撃を飛ばすレイ。

 先程までは直接攻撃を仕掛けていたが、人間と魔族。だからこそどうしても力負けしてしまう。なので斬撃を飛ばし、遠距離からの攻撃を試みたのだ。


「下らねェ!!」


 ザラームが刀を振って軌道を反らす。それによってその斬撃は意図も容易く防がれた。

 そして防いだザラームは構え、それと同時に大地を蹴ってレイへと向かう。


「ほらほら、どうしたァ!?」

「……くっ!」


 そのままの勢いで怒涛どとうの連続攻撃を仕掛けるザラーム。

 キィン! と響き渡る金属音がレイの鼓膜を揺らした。その刀をに対してレイも応戦するが、ザラームの刀に押されてしまう。


「やあっ!」


「……っと!」


 しかし、何とか隙を見つけてザラームに向かって剣を振るうレイ。

 その剣先が辛うじてザラームの頬を切り付けた。

 ザラームは自分の頬を一瞬気にするが、直ぐに刀を持ち上げ、レイへ言葉を発する。


「ハッ! こんな小さな傷じゃなく、一矢でも報いて見ろよ!!」


「…………!!」


 レイの剣とザラームの刀がぶつかり、鈍い音を出す。それを聞き、受けるレイが感じたモノはもはや刀というものではなく、鈍器か何かのような重さがあった。

 剣と刀がぶつかったとしてもレイは力負けしてしまう。なので一瞬後に避ける。がしかし、レイの避けた先にはザラームの脚が見えた。


「魔族の蹴りは痛いって知ってるだろ?」

「きゃっ!」


 そんなザラームの蹴りは的確にレイの頭を捉え、それを受けたレイは木々を砕いて吹き飛んだ。


「…………!」


 吹き飛ばされ、ようやく勢いが止まったが息を切らしたレイの頭からは鮮血が流れ、レイ自身の体力も限界に近付いていた。

 ザラームの刀はそれを防ぐだけでも体力の消耗が激しいのだ。

 腹部に伝わる痛みと頭に伝わる痛み。下手すれば気を失ってしまうほどだろう。

 しかしレイは立ち上がり、再び剣を構える。

 空はエマが呼び出した雲が広がっており、雨が降っていた。その雨が傷口を濡らす。

 耳を済まさずとも落雷の音が聞こえる。

 そして目の前にはもう既に、軽薄な笑みを浮かべ、嘲笑うかのような表情をしている者がいた。


「ハッ! オイオイ、気絶でもすりゃ楽に逝けるってのによ……お前はアホなのか?」


「…………」


 満身創痍のレイは目の前のザラームに返す事も出来ない程だった。だがしかし、ザラームを睨み付けるレイの目はまだ輝きを放っており、諦めず死んでいなかった。

 その目を見たザラームは軽薄な笑みを消し、目を細めて告げる。


「……成る程。……そうか。お前の目を見りゃ諦めちゃいねえって事がよく分かる。なら、同じ剣士として、敬意を表してトドメを刺すとしようじゃねえか」


 それだけ言い、刀を天にかざすザラーム。

 レイは何とか隙が生まれないかを観察していたが、隙が生まれそうにも無かった。


「アバヨ。楽しかったぜ、人間の女剣士!!」


 ザラームはレイを、人間の小娘と見る訳ではなく一人の剣士(強者)として見、言葉を上げて刀を振り下ろす体勢に入る。


「…………!」


 レイはそんなザラームを一瞬だけ睨み付け、そのあと目を瞑る。


(ごめん。お祖父ちゃん……ライ、エマ、フォンセ……私は此処で──)


 レイが諦めかけた次の刹那、カッと空が目映くなり──



 ──空を広がっていた雷雲からいかづちが、『ザラームの刀』へ降り注いだ。



 その数秒後にゴロゴロという音を響かせ、爆音に近い音を放ついかづち


「んだとォ!!??」


 そのいかづちがザラームを感電させ、力が抜けたザラームからは刀が離れ地に落ちる。


「……え?」


 レイは目を見開いて驚愕した。突然目の前に落雷が降り注いだのだ、当然だろう。

 だがしかし、レイは直ぐ様体勢を整え、


「やあっ!!」


 最後に力を振り絞り、先祖代々受け継ぐ勇者の剣をザラームへ斬りつけた。


「……ガハッ!」


 ザラームは森を断つ剣で斬りつけられ、血を吐いて倒れる。

 ザラームの背後の木々は切り裂かれたが、ザラームの身体は真っ二つになっていない。

 殺す事はあまりしたくないレイ。勇者の剣という事もあり、その強弱は自在なのかもしれない。


「ハア……ハア……。や……やった……の?」


 今の攻撃で体力を使い果たしたレイは力が無くなり、膝を着くように倒れる。

 ──"勝負は時の運"。とは良く言った物だろう。

 今の戦いは完全にレイの敗北だったが、エマが呼び出した雷雲によってレイは救われた。

 これにて、レイvsザラームの戦いはレイが勝利を収めたのだった。



*****



「……分かったぞ! 貴様が私の居場所を捉える事の出来た理由が……!!」


 見えなくした自分の姿を探し当てる事の出来たキュリテに対し、考えていた答えが見付かったエマは声を上げてキュリテに言う。

 それを聞いたキュリテは訝しげな表情をしてエマの言葉に返す。


「……へー? じゃあ、教えて貰おうかしら?」


 キュリテは警戒を解かずとも、話を聞く体勢に入っていた。

 どうやら説明を聞いてくれるらしい。

 その様子を見、警戒は解いていないエマが自分の居場所を当てた方法を答える。


「お前……"テレパシー"を使ったな……?」


「……! ……へえ?」


 ピクリと反応し、エマに返すキュリテ。その反応を見るに、恐らく図星だろう。それを見抜いたエマは敢えて何も言わず、推測した言葉を続ける。


「お前が超能力者ということから、何かしらの超能力を使ったというのは分かっていた。……だが、透明化した私を捉えた方法が分からなかった……。が、しかし、ちょっぴり考えたら直ぐに分かる理由だったよ」


 淡々と自身の推測を話すエマ。キュリテは心の底から楽しそうに笑い、エマの推測を聞く。


「要するに"テレパシー"を使って私の思考を読み、居場所と行動を読んでいたのだな?」


「アハハハ、そうよ! その通り! 私の超能力……"テレパシー"で貴女の考えを読んでいたのよ! おめでとう!」


 エマが言い切ると同時に高笑いをし、まだ余裕がある様子のキュリテ。

 "テレパシー"とは、相手の考えを読み取り口に出さずとも全てを見透かしてしまう超能力。エマが透明化したとしても、その思考は残る。その思考が聞こえる位置からキュリテは、エマの場所を見付け出していたのだ。

 そんなキュリテはエマの方に顔を向け、不敵な笑みを浮かべて言う。


「さあ、続きをしましょう? 私の能力はまだまだあるわよ?」


「確かにそうだな。魔法・魔術とは違い、一つを極めずとも、一つ一つをそれなりに使えるのが超能力だ」


 そしてキュリテの姿が消える。

 "テレポート"を使ったのだ。しかし、今度のキュリテは隠れながら攻撃するのが目的ではなく、


(食らいなさい!)


 エマの死角からエマに向かって念力を放った。

 そう、姿を隠さずとも死角に移動することによって確実なダメージを与えようとするのが目的なのである。

 やっている事は隠れながら攻撃するのと似ているが、自身の力を対象の近くで扱うことによってより高い威力で攻撃を放てるのだ。


「気配が消せていないぞ!」


 そしてその念力を避けるエマは死角に目をやり、キュリテの姿を捉えた。

 他人よりも遥か優れているヴァンパイアの五感。それを使えばちょっとした空気の変化などでもキュリテの姿を探す事が出来る。


「やっぱりヴァンパイアは手強いわね~」


 キュリテは苦笑を浮かべながらエマに言い、それを聞いたエマは傘をクルクル回しながらキュリテへ挑発するように返した。


「手強い? 笑わせるな。お前が弱いだけだろ?」


「……挑発のつもり? 言っとくけど、貴女が考えていることは文字通りお見通しなんだからね?」


 そんな挑発にキュリテは乗らず、エマへ返す。それを聞いたエマは「そうか」と呟き、


「なら……(内心でもお前を舐めきれば良いのだな? ならば簡単だ。いちいち面倒な事を言わずとも考えればそれだけで貴様が愚かという事が伝わるから便利だな……? ……キュリテ『ちゃん』?)」


「……何を……?」


 エマはおどけるような態度を取り、キュリテへ言った?

 心の中で思考し、挑発をしたのだ。流石に心の中でまで馬鹿にされたキュリテは穏やかな心情ではない様子だった。


「……そう、分かったわ。本気を出すのは疲れるから嫌だったけど、そっちがその気なら私だって本気出すから……!」


 挑発を受けるや否や瞳を輝かせ、エマを睨み付けるキュリテ。

 それと同時にキュリテの周りに念力の渦が現れ、空間を歪ませる。

 今こそエマvsキュリテの戦いが終着に向かうのだった。



*****



「取り敢えずリヤンは下がっていてくれ。フェンリルとユニコーンがリヤンを護ってるから大丈夫だとは思うがな」


「……分かった」


 ライの言葉に頷き、フェンリルとユニコーンの側に近寄るリヤン。

 ダークは軽く身体を動かしてライの方を見る。


「じゃ、始めっかぁ……面倒だけど」


「そうだな。お手柔らかに? ダーク?」


 それだけ交わしたライとダークはそのまま大地を蹴り砕き、粉塵を巻き上げながらお互いの元へと加速を付けて向かう。


「あー、しんど……」


「オラァ!」


 二人の拳がぶつかり、それによって木々を激しく揺れ、湖の水が大きく波立った。

 それから徐々に大地は砕けて行き、地面が浮き上がり巨大なクレーターを造り出す。

 因みにライはまだ、魔王(元)を纏っていない。


「あー、受け止めやがった……面倒だなあ……」


「オイオイ……称賛の言葉くらい贈ってくれよ? こちとら病み上がりの身体なんだ。そんな俺がそれなりの力を持つっていうアンタの拳を正面から受け止めたんだぜ?」


 ライは言葉を続けつつ、腕の痛みがもうほとんど無くなっていることに感心していた。

 全治数ヵ月は掛かりそうなあれ程の傷を負っていたにもかかわらず、ほんの数秒浸けただけで痛みが引いたのだからその驚きは言葉で表し難いものだ。

 そんなライに向けてダークは、


「あー、おめっとさん。じゃ、……死んでくれ」


 面倒臭そうに言葉を告げながら身体を捻り、回し蹴りを仕掛けた。


「おっと……!」


 そんな回し蹴りを軽く仰け反ってかわすライ。

 ふと見れば、ダークが放った蹴りの衝撃で湖の近くにある岩が砕けるのが視界に映った。


「あー、避けやがった……めん」


「面倒だなってか!」


 ダークが言葉を続けようとした時、次はライが蹴りを放つ。


「その通りだ……」


 ダークは身体をずらし、その蹴りを避けた。

 そして次は、ダークの背後にあった木々がライの攻撃によって砕け散る。


「……オラァ!」

「ダリィ……」


 次いでライとダークは身体を回転させ、お互いに回し蹴りを放つ。脚と脚がぶつかり合い、衝撃によって爆風と共に土埃が舞い上がる。


「ハッ! ダルいならさっさと負けてくれよ」


「いや、そうじゃねえんだよ……」


 ライが言い、ダークが返す。その言葉と共に動き出し、回し蹴りの体勢から次のモーションに移り二人は相手へ攻撃を仕掛ける。


「じゃあ、なんだよ!」


「いやー、戦い自体は面白かったりするんだよ……」


 それの攻撃によって再び土埃が舞い上がり、この森にある砂が全て無くなってしまうのでは? と錯覚するほどの量だ。


「面白いのにダルいのか?」


「まあ、そんなところだ……」


 土埃で視界がぼやけている中、裏拳を放つライにそれを受け止めるダーク。

 流石にそれだけでは土埃が舞い上がらなかった。


「具体的に言うと?」


「ほら、身体をよく動かすじゃねえか……? だからどんな行動に出るかとか考えんのが面倒なんだよ……」


 ライはもう一度回転し、後ろ回し蹴りをダークへと仕掛ける。ダークは正面から受け止め、言葉を続けるように話す。


「ただ見ているだけで、身体が勝手に動いてくれたら楽なのによ……」


 ライの蹴りを弾いたダークは、体勢が崩れたライの鳩尾みぞおちに正拳突きを放った。


「身体ってのは脳の命令で動いているんだ。無理な話だろ!」


 身体を捻り、正拳突きに拳をぶつけるライ。その衝撃は回りに発散され、足元にクレーターが出来上がる。


「まあ、そうだよなあ……」


 そんなライの言葉を聞き、ダルそうにため息を吐くダーク。そんな話ながらの会話を聞き、リヤンは目を丸くしていた。


「……スゴい……」


 一言だけ言い、ライとダークの戦いに視線を戻すリヤン。

 この二人は日常的な会話をしつつ戦闘を行っていた。しかもその力と速度は凄まじく、次々と場面が切り替わる何かを見ているような錯覚だ。


「まあ、戦いが面白かったりするってのは事実だ……。だからお前を……殺そうか?」


「ハッ! "死ね"や"殺す"って言うだけじゃなくてよぉ……実行してみろや! ダークさんよォ!」


 そして、ライvsダークの戦いもヒートアップしていく。

 エマvsキュリテ・ライvsダークの戦いは後半戦へもつれ込むのだった。

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