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三百七十一話 エマ&フォンセ&ニュンフェvsマギア

「"天地創造クレイション"」


「「「…………!」」」


 ──刹那、空気が変わった。比喩的な表現にあらず、本当に空気が変わったのだ。

 一瞬のうちにあらゆる景色が視界に映り込み、鮮やかで暗い色が脳裏を照らす。気付き、ふと空を見れば青空が照らし付け、高い木の無い緑の草原がそこに広がる。草原は風に揺れ、ザァ。と草同士の擦れる音が辺りに響く。

 エマ、フォンセ、ニュンフェ。そしてマギアが見た事の無い場所に移動していたのだ。

 突然の事態にエマたちは辺りを見渡す。その近くで得意気にマギアが仰々しく両腕を開きつつ言葉を続ける。


「ようこそ、『私の創った世界』へ! これから本気を出すんだから、結構破壊の規模が大きくなっちゃうよね。だから今、貴女達を此処に招待したの!」


「成る程。リッチの魔術か。全知全能では無いが、それを目指すリッチならばこの程度の事容易く出来る。だから私は太陽の下に出ていても生きてきるのか」


「そういう事♪ 星サイズの土地を創ったり、ヴァンパイアが死なない太陽を創るのは簡単だからね♪ でも、リッチ。じゃなくて、マギアかセーレって呼んで欲しいなぁ?」


「知るかそんな事」


 この場所は、マギアが創造した場所。それを聞いたエマは特に驚かず、マギアならば簡単に創れると達観していた。当然だろう。実力の無い者が全知全能を謳ったとしてもそれはただの法螺ホラでしか無い。偽りの全知全能では無く、真の全知全能を目指して不老不死で不死身の身体を手に入れたマギアに相応の力が宿っているのは、至極当然の事柄なのだ。


「酷いなぁ。けど、取り敢えず此処なら幾ら暴れても問題ないよ。山が砕けようと、島が吹き飛ぼうと、この星が無くなろうと、全て私が創った物だからね♪」


「やれやれ、神にでもなろうとしているのか貴様は」


「うん、そうだよ。私は全知全能の神様を目指しているからね。無限の知識を求めて自分に不老不死の魔術を掛けたんだもん。例え宇宙が滅びても、全知全能の私が居れば即座に創造出来る。永遠に退屈しない世界を創れるようになるよ♪ 貴女達全員、特別なお客さんとして扱うから!」


「大きな野望だな」


「夢は大きい程良いでしょ? 小さな世界で満足しているようじゃ、永遠に大きくなれないからね♪」


 マギアの野望を聞いて呆れるエマを前に、マギアを中心としてこの星に存在する自然が反応した。うねる水柱と流れる雲。囲む草原に吹き抜ける風。その全てがマギアへ反応を示す。


「行くよ……?」


 スッと目を細め、軽薄な態度を消し去るマギア。エマたちはその変化を読み取り、一層として警戒を高めた。


「"女王の炎(クイーン・ファイア)"」


 同時に放たれる炎魔術。その熱量は凄まじく、存在するだけで周囲の草原を焼き尽くして気化させる。女王の炎というの名の通り、逆らうモノは全てが焼き尽くされる。そんな炎だった。


「"終わりの水(ラスト・ウォーター)"!!」

「はあ!」

「フッ!」


 その炎を迎え撃つべく、禁断の水魔術を使うフォンセと水魔法を放つニュンフェ。エマは天候の雨雲を一点に集中させ、嵐の雨を水の塊として全てぶつける。

 炎を消すには大量の水が必要。それが今エマたちのするべき事だった。放たれた多種多様の水は、


「……ッ! 駄目か!」

「退くぞ!」

「は、はい!」


 炎に触れる事無く、近付いただけで蒸発した。一瞬にして消え去った水。それは水蒸気となって視界を白く染める。

 その水蒸気すら炎が掻き消し、辺りには灼熱の轟炎のみが向かっていた。その温度は太陽すらを超越する。存在するだけで直径数千キロを蒸発させる程の炎だ。

 最も恐ろしいのは、この炎はまだ全く本気では無いという事である。

 消すのは無理と悟ったエマ、フォンセ、ニュンフェは空を飛ぶ。三人には常人離れした肉体があるので身体は気化していないが、あのままあの場所に居れば不死身のエマですら消え去っていた事だろう。


「"女王の踊り(クイーン・ダンス)"」


 直進する炎を操り、踊るように上空のエマたちへ放つマギア。揺れる炎は陽炎を映し、周囲を赤く染めながら雲や草原を焼き払って進み行く。


「ッ! "水の壁(ウォーター・ウォール)"!」

「はっ!」

「はぁ!」


 踊るように近付く炎へ再び水を放つ三人。しかし炎は収まる気配が無く、世界を焼きながら進む。

 三人は上空で飛び退き、炎から逃れるように避けつつマギアへと近付く。瞬く間に距離を詰め、三方向からマギアを囲みながら仕掛ける体勢に入った。


「"終わりの炎(ラスト・ファイア)"」

「吹き飛びなさい!」

「感電しろ!」


 禁断の炎魔術と、風魔法、自然のいかづち。エマたちの技が放たれ、マギアが中心にて直撃する。次の刹那にそれらが纏まり、一つのモノとなりて辺りに大きな爆発を起こす。その爆発は広がり、起こった瞬間に退くエマたち。

 上空数万メートルの大気圏付近から下を眺めれば、先程までエマたちの居た島が消し飛んだ。それと同時にマギアの放った炎も消える。エマたちの攻撃によって消えたのでは無く、マギアが意図的に炎を消したのだろう。


「まだ無事そうだな……」

「ああ、敵はリッチ。島が消し飛ぶ程度の爆発じゃ無傷に等しいだろう」

「……。恐ろしいですね……惑星破壊の攻撃でようやく少しは効いたかな? ……という感じでしょうか」


 島が無くなり、海となったその場所に降りる三人。足場が無いので土魔術と土魔法で足場を造り、その場にてマギアの行方を探す。


「そうだね。私を倒すのは不可能かな? 宇宙に追放しても空気を創れるし、太陽に放出しても太陽を消せるから♪ 私を倒せるのはライ君くらいかな……? まあ、フォンセちゃんもアレの子孫なら私を無効化出来て倒せるかもしれないけど」


「やはり無事か……」

「アレの子孫? ……フォンセさんの御先祖様って……」

「ピンピンしているな、恐ろしい程に」


 服が全て消滅したが、肉片は残っている。そこから再生し、剥き出しになった骨や内臓、筋肉の繊維が再構成を始め、マギアは復活してエマたちの前に現れる。

 そうなると理解していた三人は特に驚かないが、ニュンフェはマギアの言い回しに違和感を覚える。が、フォンセはそれをさえぎった。


「あら? フォンセちゃんがその子孫ってまだ教えてないの? ライ君みたいな事が出来るのかは分からないけど、内にはかなりの力を秘めていると思うんだよね~?」


「フォンセさん……? い、一体……あの方は何を申しているのですか……!?」


「……。ふふ、何、大した事は無い……ただの逃れられない血縁だ」


 淡々と綴るマギアの言葉が気に掛かり、その内容になっている本人に尋ねるニュンフェ。

 話を続けるマギアはフォンセが魔王の子孫という事は知っているようだが、魔王の力を使った事があるのは知らないらしい。なので疑問系で言ったのだろう。

 フォンセはフォンセで冷や汗を流し、苦笑を浮かべてニュンフェへ返す。深く追求せぬ方が良いと悟り、ニュンフェも答えを諦めた。


「まあ良いかな。後々分かるかもしれないからね♪ 私は貴女達を殺す気は無いの。もしも殺しちゃったら安心して、生き返らせて上げるから♪」


「殺す気は無い……か。随分と大胆な嘘を吐けたものだ。先程の炎、あれは確実に殺すつもりだった。生き返らせるにしても、身体が完全消滅してしまえば難しいだろう」


「うん、さっきのはごめんね。殺したくないんだけど、エマ達が抵抗するんだもん。後、難しくても生き返らせるよ。私、大事なモノは大切に保管したいのがさがだから」


 おどけるような笑顔を見せ、言葉を綴るマギア。殺すつもりは全く無く、もしそうなっても生き返らせるとの事。

 死者を生き返らせるのは神への冒涜やら何やら言われるが、全てに置いての原初の神、カオスが味方に居るのでその点については問題なかった。

 カオス。もといグラオは数百億年生き、強者。というより退屈を凌げる相手を探している。エマたちならばその御眼鏡に適う事だろう。


「だから早く私の仲間になってよ、エマ?」

「断る」

「そう、残念」


 瞬間、再び大陸が創造された。無論マギアが造ったのだ。

 飛行していたエマ、フォンセ、ニュンフェ、マギアはその地に足を着け、今一度向き直る。殺すつもりは無いらしいが、殺す気で魔術を放つのは目に見えている。


「……っ。私に……力があれば……!!」


 これに対抗出来るのはフォンセが使える魔王の力──魔王の魔術くらいだろう。

 しかし、その力は使えない。禁断の魔術を創ったマギアが相手では、フォンセの魔術は足元にすら及ばないのだ。

 今のフォンセが使える最大の魔術。それが禁断の魔術なのだから。


「うだうだ言っている暇は無いぞ、フォンセ。力不足なら私も感じている。その中でどうするか、策を講じて見出だすしかない」


「ええ、確かにかなりの強敵ですが、何度か身体は消し飛ばしています! 決定打になる攻撃があれば……!!」


「……。ああ、そうだな。何度かダメージは与えているんだ。ライのようにデタラメな頑丈さは無い。肉質は常人や野生の動物より強度だが、消せない訳では無い……!」


 マギアの身体は、不死身だが特別硬いという訳では無い。しかし細胞一つでも残っていれば再生する程の不死身なので手を焼いているのだ。


「一度身体を消し飛ばして、その時点で何かに封印すれば勝てるかもしれないな……マギアは生き続けるが……」


「ええ、そうしなくてはこの戦いが終わりませんよね……」


「ちょっとー? それ私に聞こえちゃってるけど良いのー?」


「ああ、良いさ。どうせ動き出した時に気付くだろう?」


「まあねー。次の行動くらい読めなきゃ、全知全能には程遠いからねぇ。ある程度の事を推測するのは簡単かな?」


 ならばマギアを何かに封印する。それが倒し方と考えるエマ。本人が目の前に居るが、マギアもそのくらいしか自分を倒す方法は無いと自負しているので何でもないように返した。

 古来よりアンデッド系の魔物には封印によって力を抑えられる者が多い。

 そしてそれはアンデッドのみならず、妖怪や幽霊と言った種族にも言える事。謂わば、相手の細胞を一つ残らず消し去られない者にとって不死身を倒せる唯一の手段という事だろう。


「まあ、簡単に殺られるつもりは無いけどね♪ ──"女王の領域(クイーン・テリトリー)"」


 瞬間、辺りに黒い空間が創り出された。それは女王というより、悪魔の空間が正しいのではと錯覚を覚える程の暗黒空間。そして気付いた。場所が変わったという事では無く、先程と同じ場所にこの空間が生まれたのだと。


「この黒いモノは全て私。厳密に言えば、私の魔力。私の魔力を少し放出して、感覚を魔力に宿らせた事で完成した空間だよ。全て私の身体だから、貴女達が立っている場所も私の身体。つまり、常に私が貴女達に触れているって事。次、どの様に、どんな風に動くのか、全て感じちゃうの♪ それだけじゃないよ、私の魔力より弱い魔法や魔術は全部吸収しちゃうから、使わない方が良いかな?」


 曰く、この空間はマギアその物であり、この空間に伝わる感覚は全てマギアにも伝わるという事。

 つまり、この空間でエマたちが動けばその動きが分かり、魔法・魔術を放てば周りの魔力に吸われ無効化される。

 この世界に置いて、マギア以上の魔力を持つ者はほんの一握り程度しかいない。事実上、この空間に居る間は魔法・魔術が使えなくなるという事だ。

 星や恒星程度では無く、銀河系や銀河集団を打ち砕ける力が無くては脱出不可能な完全無欠の暗黒空間という事である。

 まさしく、"女王の領域(クイーン・テリトリー)"に相応しいマギアの魔術空間だった。


「物理的な攻撃しか出来ないという訳ですか……。広範囲の破壊が出来ないとなると、相手を粉砕する事も儘なりませんね……」


「ああ、特に私は魔術師だ。物理的な力も人の常人や普通の魔族よりはあると思うが……正直それではマギアに効かない……!」


「私は元々物理主体だが、この空間を破壊するのは難しいな。天候は魔力関係無しに操れるが、その程度では破壊出来ない。隕石でも降らせてマギアを消滅させた後、隙を見て抜け出すくらいしか思い付かんぞ」


 冷や汗を流し、各々(おのおの)の感想を言うフォンセとニュンフェ。汗の出ないエマは一見は涼しい顔をしているが、思ったよりも悪い状況の為不安そうである。


「エマ、フォンセちゃん、エルフちゃん。楽しもう! 私の世界で私とと共に!」


 仰々しく両手を広げ、誘うように話すマギア・セーレ。その顔は穏やかで、親しい友人と遊ぶ子供のような顔付きだった。

 しかし感じさせる気配がそれを打ち消し、遊びとは程遠い感覚に陥る。リッチが持つ威圧感という奴だろう。


「厄介だな……」

「ああ、今までの戦闘で、一、二を争う厄介さだ」

「しかし、此処で諦める訳には行きませんよね……!」


「「ああ!」」


 遊ぶようなマギアとは裏腹に、より一層力を込めるエマ、フォンセ、ニュンフェ。

 魔物の国二度目の戦闘にて、早くも最大のピンチを迎えるエマたちだった。

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