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三百六十八話 vsヒュドラー

「ヒュドラーってよ。神話ではそれ程強くなかったよな? 即死の猛毒は驚異的だが、当たらなければ意味が無い。防ぎようは幾らでもある筈だ」


「「……?」」

「「……?」」


 外の様子を眺め、黒髪に風を感じるシュヴァルツが呟くように言い放った。

 その場に居るヴァイス、グラオ、ハリーフ、ブラッドは首を傾げて次の言葉を待つ。


「いや、だからよ。そんなヒュドラーが何で支配者クラスの実力者がゴロゴロ居る幹部になれたのかって気になったんだ。確かに名も無ェ魔物に比べりゃかなりの実力者だが、神話通りなら精々中堅程度の実力しか無ェ。そこが気になったんだ」


 ヒュドラーは十二の功業を成し遂げた英雄を殺した過去を持つ。しかしそれは、ヒュドラー自身が倒された後の事だ。

 何故倒されたヒュドラーが居るのかと言うと、この世界に居る人間・魔族・幻獣・魔物の固有名詞となっている名。それにはほぼ必ず逸話のある先祖がおり、一部を除いて生物は先祖の名を受け継いで名乗っているからである。

 魔物の国幹部のヒュドラーもそれと同じで、様々な英雄と戦った事はあるが神話や伝記に乗っているものでは無い。それでも十二の功業の一つとして英雄と戦った事がある。

 シュヴァルツが気になったのはその事について。猛毒を除けば中堅程度の強さしか無いヒュドラーが支配者クラスでようやく幹部になれる魔物の国に居る事が気になったのだ。


「ああ、その事か。魔物の国(この国)の事なら俺に任せとけ。一応支配者の側近を勤めているからな。全ては分からないし教えられないが、それなりの情報は持ち合わせている」


「へえ? なら、情報交換と行こうか。私たちもある程度の事は教えよう。有意義な時間を過ごせると良い」


「オーケー、此処で話し合うのも天命。仲良く行こうや」


 フッと笑うヴァイスとブラッド。意外と気の合う二人が話し合う内容はお互いの情報交換となった。


「なら、先ず一つ聞きたいが……この国の一部を除いた幹部たち。もっと詳しく言えば、六匹中三匹の幹部にはある共通点がある」


「共通点。成る程、その共通点に関する情報を今から私たちへ教えてくれる……という事だね?」


「察しが良くて助かる。頭の回る相手と話すのは楽で良いからな」


 ブラッドがヴァイス達に向け、不敵な笑みを浮かべる。ヴァイスは何かを察し、ブラッドの言葉を待つ。


「この国の幹部は三匹。ある規則に従っている。……まあ、ヒュドラーが幹部になれた理由はそれじゃなくて別の理由だが、先ず最も知って置いた方が良い事がその規則だ。だから、始めはそれをお前たちにも教えて置こうと思ってな」


「規則? 興味深い。確かに何らかの規則が幹部にあってもおかしくないね。私たちが知っている規則は幹部達全員が魔物ってくらいだ。その他の規則があるなら、それを知るのも良い」


「ああ。魔物ってこと以外の規則が魔物の国の幹部達にある。まあ、それもとある三匹だけだが……それはさておきだ」


 規則。それはあるものに基づいた行為の事。それは全てが○○だったり、全てが××だったりと様々だ。

 それをヴァイス達に伝えた後、不敵な笑みを消さずにブラッドはヴァイス達へ口を開いた。



「お前たち────"終末の日(ラグナロク)"って知っているよな?」





*****



 ライ、リヤン、ドレイク、ヒュドラーの二人と二匹は飛び退いた。そして、大地が吹き飛んだ。少し力を上げると告げたヒュドラーを始めとし、元々そこに居たリヤンとドレイク。そして上空から降り立ったライが相手を狙う為、体勢を整えたのだ。


「オラァ!!」

『カッ──!!』

「やあ!!」


『……ッ!』


 整えた瞬間に空気を蹴り、第五宇宙速度でヒュドラーの懐に潜むライは四割の力を込めた拳をヒュドラーへ打ち付ける。それを受けたヒュドラーは重さに怯み、ヒュドラーの背後がライの放った拳の熱と衝撃で大きく抉れた。

 畳み掛けるようにけしかけるのはリヤンとドレイク。ドレイクが先程よりも強い炎を吐き、リヤンがその炎を同じような炎。そして風で上乗せする。上乗せされた炎は数十万度に到達し、存在するだけで森が焼かれる。続いてリヤンが竜巻を起こし、炎を巻き込みながらヒュドラーへ向かう。

 それらによって辺りには黒煙が立ち込めり、辺りは黒く染まる。次の瞬間に爆発のような何かが起こり、


『中々の攻撃だった。誇りに持つが良い。称賛に値するものだったぞ』


 多少焦げたが基本的にダメージの無いヒュドラーが黒煙の中から姿を現した。

 しかし無傷だった身体を焦がす事に成功したのは一種の成果と言えよう。多少なりとも、ダメージは受けているという事だからだ。


『言ってる割には余裕があるじゃないか。まだ長引きそうなものだ』


『フン、長引かせるさ。そうしなくては私が出向いた意味が無くなる。勝利するつもりで来たのだからな』


 地に足を着けて話すヒュドラーと空を飛びながら返すドレイク。

 ドレイクが気にしているのは時間を要する事に対してだ。孫悟空を待つと言うのならそれも良いが、ヒュドラーは即死の猛毒どころか、あまり攻めてすらいない状態。このまま一方的に攻めるとして、此方側の疲労が募ってしまう。それを阻止する為にもドレイクは確かな一撃が欲しかった。


「ヒュドラー!!」

『来たか……ッ!!』


 ──そしてその一撃は、ライによって放たれた。

 四割の力から五割に上げつつ第五宇宙速度を超越し、第六宇宙速度。光の速度でヒュドラーの元へ行き、そのまま拳を放つライ。一撃で星を粉砕する拳。今のライならば四割でも星を砕けるが、それよりも遥かに威力の高い拳だった。

 殴られたヒュドラーは光の速度で上空へ吹き飛び、空気が薄くなる大気圏へと飛ばされる。


「オゥ──」

『ハァ──』


 大気圏にて、一瞬でヒュドラーに追い付いたライは上半身を捻って拳を握りヒュドラーへと向ける。対するヒュドラーは身体に力を込め、惑星破壊の攻撃に耐えるよう全身の筋肉を硬直させる。


「──ラァ!!」

『ヌゥ……ッ!!』


 次の刹那に拳を叩き込み、一撃で隕石の衝突数万倍以上の破壊を生み出して吹き飛ばした。大気圏から光の速度で落下するヒュドラーは空気の摩擦で発火して落ち、そのまま魔物の国の森へ叩き付けられた。

 それによって星が大きく揺れ、数キロ程のクレーターを造り出す。本来ならそれだけでこの星が崩壊し兼ね無いが、たったの数キロ程度しか砕けなかったのはライたち的に有り難さがあった。

 星が砕けなくとも星の半分は消え去る事を覚悟した一撃だったが、そうならなかったのはヒュドラーの耐久あってこそだろう。

 着地したヒュドラーは既に体勢を立て直しており、ライも降り立ちライ、リヤン、ドレイクの二人と一匹。そしてヒュドラーが向かい合った。


『力が徐々に上昇しているな。道理でニーズヘッグが敗北する訳だ。流石はかつて世界を統べた王だな……』


『世界を統べたかつての王? ……オイ、それってどういう──』


 ドレイクが上空を見上げて告げたヒュドラーの言葉を聞き返した時、背後で爆音が響き、ヒュドラーとの距離を瞬く間に詰め寄る影があった。


「……!!」

「……!!」


 ライとリヤンだ。二人は加速し、ライは光の速度。リヤンは音速を超えてヒュドラーへと肉薄する。言葉を途中で切られたドレイクと口を噤むヒュドラーは構え直し、ライとリヤンに対して味方と合わせるドレイクと敵として合わせるヒュドラー。


『──ハッ!』

『──カッ!』


 刹那、それに気付いたヒュドラーは水。ライたちをサポートするドレイクは炎を吐き付ける。その二つは中央にてぶつかり合い、蒸発して周囲を白く染めた。


「オラァ!!」

「やあっ!!」


 その水蒸気を切り裂き、ヒュドラーの眼前へと迫った二人。ライは五割纏った光の速度で一撃を、リヤンはこの星から遠く離れた場所にて──『混沌の神の拳を模倣した一撃』を放つ。


『……ッ!!』


 星を砕ける五割と、星どころか、銀河系を容易く消滅出来る程の威力を秘めたライとリヤンによる二つの一撃。それを受けたヒュドラーは流石に堪え、大量に吐血して消えるように吹き飛ぶ。次の瞬間には星を一周しており、背後から飛び来るヒュドラーに対して魔王を纏った足と混沌の神の力を纏った足で受け止める。

 それによって再び吐血し、大地を真っ赤に染めるヒュドラー。

 無論、今のリヤンが使った混沌の神、カオスの力は本物よりも遥かに劣る。本来ならば銀河系や宇宙を粉砕出来る一撃だが、今では精々恒星を半分以上消し去る程度しか無い。それでも惑星粉砕数百回分であるが、リヤンはあまり誇れなさそうだ。


『ガッ……グ……』


 失い掛けた意識を力ずくで呼び戻すヒュドラー。流石に惑星破壊クラスの攻撃を同時に受けたのは堪えたらしく、苦痛で顔が歪み、先程までの余裕は無くなっていた。


「リヤン、凄いな。何時の間にそんな攻撃を?」


「えへへ、前に見た時、少しだけ力を得る事が出来たんだ……。これなら私もライの役に立てるよ……!」


「ハハ、こりゃ頼もしいな。成る程。かつての神が創り出した生物だけじゃなく、神の以前から存在する生物も模倣出来るのか」


「うん、そうみたい……。限界が何処なのか、私には分からないかな……」


「良いじゃないか。もしかしたらそれは神の力じゃなくて、リヤン自身の力なのかもしれないからな」


「うん……!」


 ドレイクとヒュドラーに聞こえぬよう話すライとリヤン。数百メートル先に居るドレイクには聞こえないかもしれないが、ヒュドラーの居場所は直ぐ近くだ。しかしヒュドラーはライとリヤンの攻撃によって意識を失い掛けているので、恐らく聞こえていない事だろう。

 そして、どうやらリヤンはグラオ・カオスの力を少しだけ得る事が出来たらしい。かつての神が生み出した生物限定で働く力なのか気になっている様子のリヤンだが、ライはそれがリヤンの本当の力なのかもしれないと言い、リヤンが頷く。

 二人はヒュドラーから足を離し、同時に飛び退いて距離を取った。


『ウ……ググ……! 何と言う力を使う少年達だ……。このままでは……少々手間取ってしまうかもしれぬ……ならば……!! 相応の力を見せ、本気で相手をしてしんぜよう……!!』


 あの攻撃を受けても喋られる元気の残っているヒュドラー。ライ、リヤン、ドレイクは警戒を解かずにそちらを見やり、ヒュドラーは──神をも殺す、即死の猛毒を解放した。

 かつて英雄と戦闘を行った時、敗れたヒュドラーだが後々にその毒にて英雄は死して天界へと召され文字通り星となった。

 英雄が愛用していた武器にヒュドラーの毒を塗り、無類の強さを誇ったと言うヒュドラー最大にして最強の武器である猛毒。ヒュドラーはたった今、それを解放したのだ。

 それによって周囲の木々は枯れ、大地が鈍色となって没する。存在するだけで辺りを死をもたらす、最凶の猛毒。それがヒュドラーの切り札である。


「そうかい。なら、リヤン! ドレイク! 此処は下がって遠方からサポートをしてくれ! 俺には毒が効くかもしれないけど、多少は抑えられる!!」


「ライ……!」

『ライ殿……! いや、分かった。悔しいが、俺は触れただけで死んでしまうからな……』


 リヤンとドレイクに指示を出しつつ、猛毒を放出するヒュドラーに構えるライ。

 魔王の力は体内で構成された炎や毒、水などは防げない。ならばライ自身の持つ物理的な攻撃を無効化する力だが、ライはまだ完全に自分の力を使い切れていない。それでもリヤンやドレイクが受けるよりは良いと考えるのがライだ。

 毒ならば触れなければ良い。決定打にならなそうだと本人たちが一番理解しているが、遠距離からの攻撃で毒を吹き飛ばせれば上々と考えているのだろう。


『ふむ、主が一人で挑むか。それも一興。心して来るが良い! ある程度の耐性でこの猛毒を打破出来ると思うでない!』


「上等だ! だったら俺は、その猛毒ごとアンタを吹き飛ばす!! これからはこちらも相応の力で行ってやる!!」


 告げ、魔王の力を五割から六割を抜かし、一気に七割へ引き上げるライ。

 初めから七割を使わなかった理由は小手調べと身体を慣れさせる為。いきなり七割では負担が多いので、順に慣れさせていたのだ。

 しかし、相手が本気となった今、ゆっくりと身体を慣らす暇も無い。ある程度の負担は無くなったので、今から七割の力を使っても溜まる疲労は少なく済むだろう。魔王(元)に身体の半分を委ねているので、疲労は最小限に留まるかもしれない。

 本気になったヒュドラーと、七割の力を纏ったライの戦いは終盤へと向かって行く。

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