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三百六十七話 続く三つの戦闘

『遅い、軽い、甘い!!』

「……ッ。ん……!」


 目にも止まらぬ速度で刀を振るう酒呑童子しゅてんどうじ。上下左右ありとあらゆる方向から刃が放たれ、右から来たと思ったら上、上から来たと思えば下、下から来たと考えれば左と不規則に攻め来る。それをいなすレイも流石と言えるが、完全に酒呑童子しゅてんどうじによって翻弄されていた。

 しかしレイも食らい付き、奥歯を噛み締めながら剣を振るう。踏み込み、切り出す。隙を狙われればその隙を埋め、刀をかわしながら剣を薙ぐ。突き、斬り上げ、斬り下げ、いなし、薙ぎ、かわし、三度突き、そして避ける。単調に、しかし的確に剣を操り刀からのがれるレイ。


『どうした。隙が生まれているぞ? 斬り合いが始まってから五分も経っていない。もう疲弊したとでも言うのか?』


「っ、まだまだ……!」


『その意気だ。幾ら我が強くとも、この程度で終わってしまうのは退屈だからな。強者は喜び。強者として、我の相手を直々に勤めて貰う』


「随分と傲慢だね……!」


 交わし、踏み込み、剣を突き刺すレイ。酒呑童子しゅてんどうじは刀で剣を反らし、レイの剣は空を突く。それでは隙だらけ。なのでレイはもう一度踏み込み、回転する要領で剣を横に薙いだ。酒呑童子しゅてんどうじはそれを跳躍して避けつつ、近くの木へ横に足を付け、木を蹴り砕く勢いで加速した。


『傲慢では無い。紛う事無き真実だ。我は強者である』


「ッ!!」


 剣と刀はぶつかり合い、勢いに押されたレイは吹き飛ぶ。それ程の威力で激突すれば本来、刀は刃が欠ける筈である。しかしこの世界の刀使いは魔法・魔術。または妖術などで特殊な加工を施しているのか、幾ら衝突しようと刃毀はこぼれする気配は無い。それ故に剣や刀が頑丈で扱う者も多いのだろう。


『ぜあ!』

「……!」


 刹那に詰め寄り、刀を横に薙ぐ酒呑童子しゅてんどうじ。レイは何とか抑えるが、再び背後の木を砕きながら吹き飛ぶ。

 しかしゆっくり飛ばされている暇も無く、即座に体勢を立て直して剣を振るう。

 剣と刀、二つの金属凶器は火花を散らし、金属音を森に響き渡らせて何十、何百ものせめぎ合いを繰り広げる。

 常人には光る銀色の軌跡のみしか見えないだろう。その軌跡が一筋の線を生み出し、一瞬にして複数に増える。一秒間に何十回とぶつかり合う剣と刀。激しさと速度は更に増し、二つの金属凶器が力強くぶつかり辺りへ金属音が木霊こだました。


『どうした? 動きが鈍くなっている……衰えてきているぞ? この程度で終わりでは無かろう?』


「当然!」


『面白い! いや、そうでなくては退屈だッ!! お主は侍では無いが、その力を見せてみろ!!』


「……ッ!」


 剣と刀がぶつかる中、酒呑童子しゅてんどうじは隙を突いてレイの腹部に蹴りを入れた。鬼の力で放たれた蹴り、それは大岩を砕く破壊力を秘めているもの。レイの骨は軋み、内蔵が傷付いたのか吐血して後退する。


『女、主は少々剣に頼り過ぎだ。折角五体があるというのに、何故それらを利用して戦闘を行わない? 人間の力は弱いが、五体があるだけで策を講じれるだろう』


「……っ」


『何も言えぬか。いや、その涙と血液……苦痛によって話す事も儘ならぬと言ったところか』


 腹部を抑え、口から血を流しながらも酒呑童子しゅてんどうじを睨み付けるレイ。うっすらと透き通った涙も流れているが気にしておらず、ただ酒呑童子しゅてんどうじを睨みながら剣を握っていた。


『目は生きている。ならば、戦闘は続行するのだな?』


「勿論……! どの道、逃げたとしても追い掛けてくるでしょ……!!」


『無論だ。我ら鬼は古来より争いと酒を好む。目の前に確かな強者が居て、易々と逃がす訳には行かなかろうッ!』


「逆に、貴方を逃げ腰にさせるよ……!!」


『面白い!』


 獰猛な笑みを浮かべ、大地を踏み砕く勢いで加速して攻め込む酒呑童子しゅてんどうじ。レイは正面からそれを受け、激痛をこらえながら歯を食い縛る。

 レイと酒呑童子しゅてんどうじの戦闘はまだ終わらない。



*****



「"ファイア"!!」

「はあ!」

「ハッ!」


 フォンセが炎魔術を放ち、ニュンフェがそれに上乗せするよう炎魔法を放つ。燃え盛る炎を横にエマは加速し、空気を切り裂きマギアとの距離を詰めた。


「"岩の守護(ロック・ガード)"」


 炎に対し、土魔術を応用した岩で熱を防ぐマギア。フォンセとニュンフェの炎は岩をも気化させる威力を秘めているが、魔力が高く能力も高いマギアの岩は溶かせない。炎は岩を中心に二つに分裂し、背後の木々を気化させながら突き進む。


「やはり物理に限る!」

「アハ♪ 肉体的な力も強いんだよねえ、私って♪」

「だが、経験は少ないだろ?」


 距離を詰めたエマはヴァンパイアの怪力で拳を放つ。マギアはそれを正面から受け止め、エマの脇腹に蹴りを放った。

 エマはその蹴りを身を捻ってかわし、受け止められた拳を軸に舞い上がりマギアの頭に蹴りを入れる。それによってマギアの頭が砕かれ、鮮血と共に脳や目玉が飛び出し歯が折れる。


「もお、酷いなぁ。女の子の顔を蹴っちゃ駄目なんだよ?」


「女の子? 笑わせるなよわい数千歳の老婆が。粉々に砕かれた頭が再生する様は不気味だぞ」


「それはエマもでしょ!? 貴女も数千歳だし、頭が粉々に砕かれても再生するじゃん!」


 砕かれた頭は即座に再生し、エマが苦笑混じりにマギアへ話す。マギアは自分にも当て嵌まる事柄を言ったエマに思わずツッコミを入れた。


「ふふ、仲が良いんだな。エマとマギア? 敵対しても、旧友とは話易そうだ」


「「うん(いいや)そうだよ(それは違うぞ)フォンセちゃん(フォンセ)♪ エマとは(コイツとは)腐れ縁なんだけどね(ただの腐れ縁だからな)妙に気が合うの(気が合わないんだ)♪」」


「む?」「うん?」


 エマとマギアの様子を見、フォンセがフッと笑って話した言葉へ二人の否定と肯定がハモった。エマは少々機嫌悪くマギアを見、マギアは嬉しそうにエマを見る。

 マギアの頭は既に再生し終えており、二人のあいだには何とも言えぬが生まれる。


「貴様、気が合うだと? 嘘を吐くな。私たちは常に水と油だっただろうに」


「そうかな? さっきのハモりと言い、私たちの種族と言い、気が合うと思うんだ♪」


「ほざけ。居るチームもチームの目的も、全てに置いて違うだろ」


「アハハ♪ 正反対のもの程引かれ合うんじゃないかな? 互いの位置が反対だからこそ、相手がどうか気になっちゃうんだよ。裏の裏は表って言うでしょ? 反対の行き着く先が友人、家族、恋仲になるんじゃない? まあ、女の子同士の私たちは親友が関の山かな」


 互いに見つめ合い、睨み合って交わすエマとマギア。こうして見ると正反対のようで似ている二人。エマは反発し、マギアは受け入れる。その似ても似つかない事柄が妙な違和感を生み出す。


「ふん、下らん。私とお前は今は敵同士。古くからの知り合いだとしても、目的を妨げる障害ならそれを破壊するだけよ」


「もう、相変わらず冷たいなぁエマは。常に冷静ってのは良いんだけど、もう少し愛想良くしたら?」


「知るか。お前にとやかく言われる筋合いは無い。今の私はお前を倒すだけだからな」


「そう、残念」


 昔話に花を咲かせるのも悪くないが、今の目的は互いを倒す事。つまり目の前に居るアンデッドモンスターの討伐だ。

 僅か数十センチの近距離にてエマが構え、マギアも構える。遠方にはフォンセとニュンフェも居るので、人数的な差ならばエマたちが圧倒的に有利である。しかし相手はアンデッドの王であるリッチ。油断したその瞬間、己の身が尽きるのを覚悟しなくてはならない敵だ。

 現にエマもマギアと話している時、一瞬足りとも警戒は解かなかった。エマ、フォンセ、ニュンフェとマギア。三人と一人は改めて構え直した。



*****



『さあ──』


 ──刹那、大気が揺らいだ。それと同時に下方の森も揺れ、木々の紅葉が舞い上がる。

 赤、黄、緑、茶。森の木になる鮮やかないろどりの葉がヒュドラーを包み、撒き散らしながら加速する。音速を超える速度を出しているヒュドラーの周りにはソニックブーム生じ、紅葉も渦巻きながら纏割り付く。瞬く間に上空へ居るライの近くに到達した。


『──来たぞ……!』


 数十の頭を正面に突き出し、第三宇宙速度並の速度で向かうヒュドラー。まだ本気では無いのでこの程度だが、本気を出せば光の領域へ到達出来るかもしれない。支配者というものはそれ程の実力者。それに匹敵する実力があるというのなら、相応の力は宿している事だろう。

 近付くヒュドラーに向け、ライは笑みを浮かべ、


「じゃあ、サヨナラだ」

『……ッ、流石だな……!』


 空気を蹴り、ヒュドラーよりも圧倒的な速度で移動して拳を放った。

 突き出した数十の頭に対してライの拳。その二つは大きく衝突し、上空の雲々を吹き飛ばしつつヒュドラーの頭も幾つか消滅させた。

 勢いは収まらず、そのまま加速してヒュドラーの身体にライの拳が当たる。そして、ヒュドラーの身体を吹き飛ばした。吹き飛ばされたヒュドラーは晴れた雲を更に消し去り、魔物の国の森へ落下する。隕石の如く叩き付けられたヒュドラーの周りに大きな粉塵が上がり、巨大な震動を起こして煙が晴れる。


『下では……!』

「私たちが控えているよ……!」


『良かろう、この程度では終わらぬぞ!』


 下方に落ちたヒュドラーへ対し、控えていたドレイクとリヤンが力を込める。ドレイクは口に熱を蓄え炎を吐く体勢に。リヤンは両手に魔力を込め、魔術を放つ体勢になっていた。


『──カッ!!』

「──やあ!!」


 そして、左右から挟むように放たれた二つの炎。中心に居るヒュドラーへそれらが放たれ、高さ数百メートルの火柱が立ち上ぼり周囲が火の海と化した。

 次いで爆発が起こり、周囲の木々を全ての吹き飛ばす。そのまま炎は広がり、辺り一帯に黒煙が立ち込めた。


『良い熱だ。秋の肌寒い朝に染み渡るものだった』


「無傷……」

『相変わらず頑丈な奴だ……不死身の性質が生かされているんだろうな』


 ──そして、そこから無傷で姿を現すヒュドラー。自身の持つ攻撃力は未だ使っていない即死の猛毒を除いてまずまずだが、その耐久力だけは支配者と比べても見劣りしないものがあった。

 星を砕く程度の攻撃では、基本的に大きなダメージは受けないという事がライとの戦闘で分かったのだから。


『フン、何も不死身だけでは無い。何事にも努力は必要だ』


『そう──カッ!!』


 笑うヒュドラーと、ヒュドラーに向けて再び炎を吐き付けるドレイク。先程から放っているこの炎は山を消滅させる事も容易いのだが、ヒュドラーの身体には効かないようだ。全力ならば星を溶解させる事も可能なドレイクの炎。しかしその炎を使ってしまえばこの星が無くなる。なので山を消滅させる程度の炎を吐いたのだ。


「私がサポート……!!」


 ヒュドラーを取り巻くドレイクの炎。その炎に向け、リヤンは風を放った。風は渦巻き、周囲を包む炎を舞い上げた。そのまま炎が竜巻となり、それはさながら天空に昇る龍のよう。

 ドレイクの吐く炎は高い破壊力を誇るが、正面から放つとして残りの炎は対象の背後へ逃げてしまう。それでも十分の威力を秘めているが、耐久性の高い相手だとどうしても火力不足だ。だからといって吐き続けるのはドレイクの疲労が募るのであまり良くない。

 だからこそ炎を長持ちさせる為、ヒュドラーへ放たれた炎をリヤンの風魔術で抑え込み長時間焼き続けているのだ。

 山を消滅させる炎が燃え移ったとして、物理的に消されなければかなりの時間持つだろう。つまり今リヤンがおこなっている事は、少しの労力でヒュドラーを閉じ込め、山を消滅させる炎で焼き尽くす事だ。


『フン、この程度か……ドレイクと娘よッ!!』


『クッ……!』

「これでも駄目なんだ……」


 炎の竜巻に焼かれるヒュドラーは、竜巻を切り裂くように水を吐き付け、内部から破壊して飛び出した。そのまま九つの身体を地に降ろし、地割れが起こる勢いで地に着く。


『ヒュドラー……お前そんなに頑丈だったか……?』


 驚愕したような目付きでヒュドラーを見るドレイク。幾らなんでもこのヒュドラー。少々、いや、とてつもなく頑丈過ぎるのだから当然だろう。

 ライが放った星を砕く一撃とドレイクの吐いた山を消滅させる炎。それらを受けても尚、涼しい顔で留まっているのだから。


『フッ、一本の頭は昔から不死身だが……昔ならば身体はそれ程頑丈では無かった。普通の棍棒で身体が砕かれる程にな。しかし、生命力は元々かなりの上位だ。ある程度の戦闘は毒で終わるが、それだけでは意味が無いと、かつて戦った半神半人の英雄に教えられた。如何に生命力が高くとも、傷口から再生するのなら対処法はあるのだからな』


「……? 何の事を言っているの……?」


『フッ、まだ若い主らには分からぬまい。昔々……遥か昔の御伽噺おとぎばなしだからな』


 スッと数十の頭の目を細め、何処か懐かしげに話すヒュドラー。リヤンは何を言っているのか分からなかったが、ヒュドラーは答えを言わずに体勢を整えた。


『年寄りの昔話に興味は無かろう。────さあ、来るが良い、新世代の英雄達よ……!! たった数人で魔物の国(この国へ)攻め込む勇気に讚美を謳い称えよう! かつて英雄に行われた十二の試練の一つ"レルネーのヒュドラー"! お前達に攻略できるか!』


 その瞬間、場の雰囲気が変わった。空気が張り詰め、重くなるのを肌で感じた。

 その場に居たリヤンとドレイク。そして上空から此処へ向かうライ。その二人と一匹のみならず、他の場所に置いて戦闘を行う者たちにも重苦しくなる雰囲気が理解出来た。

 魔物の国の戦闘は、これからが本番になると全員が理解したのだった。

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