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三百六十六話 魔術の戦闘・物理的な戦闘

「"炎の槍(ファイア・ランス)"!」

「"水の守護(ウォーター・ガード)"」


 魔力を込めた炎の槍をマギアに放つフォンセと、それを防ぐマギア。防いだ瞬間にフォンセは駆け出し、魔力を込めつつ周囲に注意を向けた。


「"炎の嵐(ファイア・ストーム)"!」


 刹那、マギアの周りへ炎の柱が数本立ち上がる。その数本は渦巻くように熱量を増し、周囲の木々を発火させ行った。炎は止まる事無く進み、マギアの身体を轟炎で包み込んだ。


「ふふ、良いね♪ "風の爆発ウィンド・エクスプロージョン"!」


 笑い、炎の中心にて風魔術で炎の嵐を消し飛ばすマギア。

 マギアは囲まれた瞬間、風を手に纏って圧縮した。それを放ち、圧縮された風が戻る力を爆発させて消し飛ばしたのだ。並大抵の風魔術ではフォンセの炎を破れる訳が無い。マギアは一瞬にして大嵐サイズの風を圧縮させ放ったという事である。何ともデタラメな力だろう。


「やはりアンデッドの王にはこの程度では倒せないか……」


「そうだね、アンデッド系の魔物は四大エレメントの炎が一番の弱点だけど、フォンセちゃんの炎魔術じゃイマイチ火力不足かな?」


「笑顔でそれを言われると、言っている事が事実だとしても少々苛立ちが募るな」


「アハハ、ごめんね?」


「許さん。"灼熱地獄(バーニング・ヘル)"!」


 次の瞬間、フォンセはまた炎魔術を使い炎の波をマギアへけしかけた。周囲を焼き尽くしながら進む轟炎の波は数万度の熱を持ち、存在するだけで周辺を溶解させつつ蒸発させて行く。


「あらら、なら許して貰わなくちゃね? ……"溶岩の波(マグマ・ウェーブ)"」


 マギア目掛けて押し寄せてくる数万度の炎。それに対してマギアは、星の生み出すエネルギーである溶岩を放出した。

 数万度の熱と星のエネルギーである溶岩。それら二つは流れるようにぶつかり合い、辺りへ大きな爆発を起こした。そして、フォンセの炎が溶岩によって掻き消される。


「何っ?」

「アハハ、何を驚いているのかな?」


 跳躍し、迫り来る溶岩をかわした後でマギアを二度見するフォンセ。フォンセは今、目の前で起きた事が信じられないような顔付きだった。


「何故私の炎魔術がマグマで消えるんだ……。温度ならば私の熱の方が……!」


 気になった疑問、それは溶岩によって数万度の炎が何故消えるのかという事。溶岩は通常、九〇〇度から数千度。フォンセの放った炎が数万度だとしても、十倍以上の差がある。にも拘わらず溶岩によって炎が消されたのだ。疑問に思うのも当然だろう。


「なーんだ、そんな事。そりゃ当然だよ。ただの炎と星のエネルギーが生み出す様々な物質が混ざった溶岩。力の差は歴然でしょ? 太陽とかのエネルギー体ならまだしも、ただの炎は数百度だったとしても量が多ければ十度前後の水で消える。それと同じだよ。溶岩はありとあらゆる物質が混ざって、実体があるの。そして魔力の差からしても、私の方が質量が多い。純粋な温度でまさっただけで勝利と確信するのはいただけないな。お姉さんとのお約束だよ?」


 フォンセが放った炎は、ある程度の物質などはあるかもしれないが言わば焚き火などと同じような炎が魔力によって強化され、高温になったもの。

 対するマギアの溶岩はフォンセの炎より温度は低くとも、魔力の質も高く様々な物質によってドロドロに変化している物体。

 マギアの言うように炎は水で消える。大体炎の倍の量を一気に掛ける事で炎その物を消し去る事が出来るのだ。つまり、今回マギアが放った炎魔術、溶岩はフォンセの炎よりもより複雑にして液体のようになった物であるという事。純粋な温度が高いだけでは、成す術無く消されてしまう物でしかなかったのだ。


「だから、純粋な炎よりは温度が低くても溶岩の方が強い。アンデッドの私だけど、炎魔術も得意なんだ♪」


「魔力の強さと高い知能か、厄介だな。私の炎は溶岩を蒸発させる事が出来る。だが、その純粋な力で負けているから今回は押し負けたのか……そして相手の能力が高いと話し方ですら苛立つ……」


「なーんだ、溶岩が炎より強い事を一応理解してはいたんだね。お姉さんっぽい顔出来ると思ったのに……」


 おどけるように笑って言い、四大エレメントを己の周りに顕現させるマギア。純粋に力で負けているフォンセは馬鹿にされているような感覚に陥り、少々腹立たせる。

 無論、フォンセも溶岩で炎が消えるという事は知っていた。だからこそ"私の炎魔術"と言ったのだ。だが、蒸発するのは自然的な物に限る。フォンセの炎魔術は自然の炎より何倍も上を行く力を持っているからだ。

 つまり、今回魔術が押し負けた理由は純粋な力の差によるもの。幾ら相手が全知全能を目論むアンデッドの王だとしても、これ程までに差があるという事自体が、あまり敗北を知らないフォンセからすれば悔しさがあるのだろう。


「フォンセさん、助太刀致します!」


「……! 誰?」


「ニュンフェ!」


 フォンセとマギアが話していた時、一本の矢がフォンセの横を通りマギアの胸に突き刺さった。フォンセとマギアは同時にそちらを見やり、矢を放った者、エルフ族のニュンフェを視界に入れた。


「もぉ、酷いんじゃないかな? 女の子の胸を矢で射抜くなんてさ。女の子のハートを射抜くのが女の子ってのはどうかと思うよ?」


「何を言っているんですか? しかし、まさか全く効いておりませんとは……ある程度の魔力を込めた矢だったのに」


「エルフ族かぁ。珍しい種族だし可愛いし、貴女も中々良いね♪」


 胸に刺さった矢へ手を掛け、周りの肉ごと矢を引き抜くマギア。肉の巻き込まれる音が近くに居るフォンセの耳に届き、マギアは鮮血を散らしてその矢を抜いた。

 カラン、と矢が落ち、傷口に手を当ててニコッと笑うマギア。見る者が見れば恐怖を感じる何かがあった。


「良かったなニュンフェ。マギアに気に入られたぞ」


「や、止めて下さいよフォンセさん……! 一応手助けに来たんですから真面目に戦って下さい! 貴女そんな性格では無かったでしょう!?」


「ふふ、悪いな。結構押されていたから、ニュンフェが来てくれて肩が少し軽くなったんだ」


「フォンセさんでもですか……かなりの強敵ですね……!」


「ああ、かなりの……な」


 やって来たニュンフェを見、フッと笑って揶揄からかうフォンセ。普段はその様な態度を見せないフォンセが意外だったが、取り敢えずニュンフェは注意した。しかし本人曰く、実力者であるフォンセですら弱気になる相手という事が分かった。


「うーん、二vs一かあ……別に良いけど、殺しちゃわないように気を付けないとね。もし殺しちゃったら生き返らせる事も出来るけど、やっぱり綺麗な身体は傷付けたくないからね」


「物騒な事を。自分がアンデッドだからって、死に対する価値観が変わっているんじゃないか?」


「アハハ、そうかもね。けど、貴女達の所に居るヴァンパイア。エマにそれは言わないの? エマだってかなりの年月生きているからね」


「必要無いな。エマはお前と違って精密な動きが出来る」


「む。エマに信頼度で負けてちょっと複雑」


「当たり前だろ。お前は敵だからな」


 フォンセとニュンフェを殺さぬように戦闘を行う方法を考えるマギア。フォンセは挑発するように言い、あたかもエマの方が上だと告げた。挑発としてはあまり引かれないマギアだが、少しは効果があったかもしれない。


「おや、嬉しい事を言ってくれるな、フォンセ。ありがとう、お陰で自信が付いた気がする」


 話し合う三人に向け、木の上から一つの声が掛かった。フォンセ、ニュンフェ、マギアの三人はそちらを見、マギアが言葉を続ける。


「あらら、来ちゃったの、エマ? 貴女は私の中で一番のお気に入りなんだから、出来る事なら早く仲間に入れたいな。協定を結んでいる相手チームに貴女を狙っているヴァンパイアが居るけど……貴女は渡さないから。私と一緒に永遠を生きよう?」


「断る。そんな性格だったか、お前? ライバルが出現して私が取られるかもしれないと焦っているのか? ふふ、男にも女にもモテるのは辛いな」


「ハハ、冗談だよ♪ 私と違って、エマは死んじゃう可能性もあるからね……。悲しいけど永遠は生きられない。……けど、貴女を私の協定相手に居るヴァンパイアに渡したくないのは本当かな」


 スッと目を細めるマギア。

 エマとマギアは昔からの知り合いである。旧友という事だろうか。何はともあれ、何千年も前から相手を知っている中なのだ。

 古くから相手を知る者同士、マギアはエマにしつこく求婚を求めるブラッドが少々苦手なのだろう。人柄や存在その物は気にしていないが、エマへ対する態度に何かの苦手意識生じているのだ。


「そうか。なら、どうする?」

「私の仲間に引き入れる。フォンセちゃん達も一緒にね」


 魔力を込め、周囲に四大エレメントの力を展開させるマギア。エマ、フォンセ、ニュンフェの三人は構え、マギアを囲む。

 マギアはこの状況になっても依然として余裕のある表情だ。数人vs一人というシチュエーションでそれなりに戦闘しているのである程度慣れているのだろう。此方の戦闘も、まだ暫く続く。



*****



『行くぞ……!』


『……!』

「……!」


 ヒュドラーが戦闘体勢に入ったその刹那、数十本の首と九つの身体がその場から消え去った。ライ、リヤンとドレイクは辺りを見渡してヒュドラーの姿を探し、


『「そこか!」』

「そこ……!」


 二人と一匹は地中に潜ったヒュドラーを音と気配で察知し、同時に跳躍して下方へ各々(おのおの)の攻撃を放った。

 ライは跳躍すると同時に空気を蹴って加速し、山河を崩壊させる拳を、リヤンはイフリートの魔術を、ドレイクは口から灼熱の火炎を。リヤンの魔術とドレイクの炎はライに効かない。なのでライが居ても問題無く放てるのだ。最も、ドレイクの炎は魔力やその他の力では無くドレイク。いや、ドラゴンの一族が持つ元からの力なので魔王にも効く筈だが、ライの力と魔王の力が合わさっているので異能と物理的な攻撃が無効化されているのである。

 それらを受けたヒュドラーは大したダメージを負っていないが、即座に見破ったライたちへ称賛の声を上げる。


『見事だ。息も合っている。私でなければ手痛い一撃を受けていた事だろう』


 称賛しつつ、ライには己の肉体を。リヤンとドレイクには高圧縮した水を吐き出してけしかけるヒュドラー。

 ライは拳一つで巨躯にして数十、数百トンの質量を誇るヒュドラーの身体を押し返した。リヤンとドレイクは空中で水をかわし、空を駆けてヒュドラーの死角に回り込む。


『良いぞ、隙を狙うのは戦いに置いて重要な事。ドレイクは既に理解しているだろうが、娘、お前には少し隙が多い』


「……ッ!」


 ──しかし、ヒュドラーに死角など無かった。

 旋回して捕らえられないドレイクとは裏腹に、リヤンの移動した場所を理解しているかの如く尾を払うヒュドラー。ライによって少し浮かされたが、それすら意に介していない様子で巧みな技を放出する。


『──カッ!』

「えい!」


 無論、ただでやられる訳には行かないリヤン。ヒュドラーの注目がライとリヤンへ向かっている隙にドレイクが爆炎を吐き、それに上乗せするよう炎と風を放つリヤン。強化された炎は進み、灼熱の大海を生み出しながらヒュドラーの身体に命中する。


『──ハッ!』


 だが、炎は水で消える。火の海を創ろうと頑丈なヒュドラーには効かず、数十本の頭から水を吐き付けて数万度に上ろうという火の海を消火させた。まだ多少の炎は残っているがそれは水蒸気となり、辺り一帯を白く包み込んだ。


「オラァ!!」

『……ッ! やはりお主が一番警戒すべき者か……!!』


 消火される火の海を突っ切り、『第五宇宙速度』でヒュドラーの前に姿を現すライ。魔王の力を三割纏った程度ではヒュドラーに決定打を与えられない。なので四割の力を纏ってヒュドラーを殴り付けたのだ。

 先程まで余裕のあったヒュドラーが初めて怯む。それでも大したダメージでは無いのだろうが、リヤンとドレイクも居るのでダメージを与え続ける事は可能だろう。

 初めから七割や八割の力を使うのも良いが、それではライに多少の負担が掛かる。連続して戦闘が行われるであろう魔物の国に置いて、初めから全力で戦うのは少々問題があるのだ。


『……!』


 次の瞬間、ヒュドラーは再び姿を眩ませた。同時に水蒸気が晴れ、残った炎も消え去る。

 ライ、リヤン、ドレイクは一瞬見失うが即座に気付いた。ヒュドラーは今、上空に居るのだと。あの巨体でこの速度を出すヒュドラー。魔物の国の幹部は支配者クラスあると言うが、まだヒュドラーは底を見せていない。警戒する事に越した事は無いのが事実だ。


『──ハァ!!』


 上空から聞こえる声と共に、多数の水柱が放たれた。その威力は先程から放たれているものと同じで、金剛石すら切断出来るもの。それが雨のように降り注いでいるのではその場に居るだけで身の危険があるだろう。


『フン、その程度……! 容易く蒸発させる!』


 降り注ぐ、高い切断力を誇るヒュドラーの水柱。それに向けてドレイクは炎を吐き付け、全ての水柱を蒸発させた。

 蒸発によって辺りには白い煙が生じ、天と地の間に分厚い雲のような水蒸気が立ち込める。その水蒸気を突き破り、ライが第五宇宙速度でヒュドラーの元へと近付いていた。


「そこォ!!」

『ぬぅッ!!』


 一瞬にしてヒュドラーへ追い付き、そのまま追い抜き背後から拳を振り落とした。星も砕ける一撃を直撃したヒュドラーは怯み、第五宇宙速度を遥かに凌駕する速度で落下した。本来ならその衝撃だけでこの惑星が消滅してもおかしくないが、下方にはリヤンとドレイクが居る。なので惑星が崩壊する心配は無いだろう。


『良い力だ、少年!』


 しかしヒュドラーは空中で身を返し、水を高噴出して落下速度を弱める。一秒間に千キロ進む第五宇宙速度以上の速度で落下したのを防ぐとは、流石は幹部と言ったところだろうか。


『……ッ。やはり多少は受けるか……』


『まだ先は長そうだな……』

「うん、かなり強い……」


 完全に勢いを殺す事は出来なかったヒュドラーだが、星を砕く勢いを止めて精々数キロのクレーターが生まれる程度で停止する。そんなヒュドラーを見、リヤンとドレイクは苦い顔をしていた。当然だろう、ライの力でもこの程度のダメージしか受けていないのだから。


「やるな、ヒュドラー。耐久力だけなら俺が戦って来た敵の中で五本の指には入りそうだ」


『フッ、褒めて貰い感謝する。しかし、私程の耐久性でも一、二は争えないか。益々(ますます)恐ろしい世界だ』


「まあ、最も強い筈の最強って云われる奴等が数え切れない程居るんだ。今の俺じゃ、宇宙的に見たら精々十本の指に入るかどうかくらいだ」


『十分では無いか。私はこの星にて上位の実力はあるだろうが、それでも二桁中盤くらいだ』


 降り立ち、ヒュドラーの防御を見て素直に称賛するライ。

 ヒュドラーは自分を卑下するかのように世界的に見たらまだまだと告げる。しかしライは宇宙でも上位の力を持つと自負しており、思わず苦笑を浮かべるヒュドラー。ライは自分の中に居る魔王ならばそれ程の実力と言ったのだが、どうやらライ自身がそれ程の力を持つと別の解釈をされてしまったらしい。実際、魔王曰くライにはそれ程の力があるらしいので当たらずとも遠からずだが、それを知るライでは無い。


『まあ良い。主の力は大体分かった。本気はまだ出さぬが、相応の力だけなら見せてやろう……』


「ハハ、そうかい。気の所為せいか……さっきも似たような言葉を聞いたんだけど」


『フッ、さっきは戦闘体勢に入ったに過ぎん。これから力を上げて行くのさ』


 フッと笑い、続けるように話すヒュドラー。相応の力を見せるとは先程も聞いた言葉であるが、それは比喩的な何かだろう。気にしても仕方の無い事である。

 酒呑童子しゅてんどうじと戦闘を行うレイ。マギアと戦闘を行うエマ、フォンセ、ニュンフェ。魔王を四割纏うライと力を込めた状態のリヤン、ドレイク。そしてそれなりの実力を解放するというヒュドラー。終わりの見えぬ戦闘は、まだまだ続いて行く。

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