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三百五十六話 地獄の二人

「なあ」

「何かな?」

「ブラックの野郎来ねェよな?」

「ああ、そう言えばそうだね」

「チクショー、アイツ生き延びやがったな!」

「フフ。だけど、私たちって死んだようなんだが……イマイチ実感が沸かないな」

「そうだな。ケッ、地獄を制覇しようかと思ったが、地獄自体が何かの面倒事に巻き込まれてっから機能してねェし暇だ」

「同意する。まあ、罰を受けないならそれで良い。死んでると言っても痛みは変わらないからね」

「死ぬ程の苦痛を味わっても死ねないから地獄なんだろ。地獄の鬼共は対して強く無ェし、暇だ」

「まあ、相手は痛みも何も感じないから幾ら倒しても無駄。私たちの罰が増えるだけだね」

「それが機能していねェんだ。しょうがねェだろ」

「……。その理屈はどうかと思うよ」


 ゴウゴウと辺りに炎が広がっており、針の山やドロドロした血の池。絶対零度レベルは無いにしてもマイナス数百度の極寒。

 その他にもありとあらゆる苦痛を与える物がある場所、"地獄"。

 そんな地獄にて、退屈と愚痴る二人の姿があった。

 一人は針山にて身体を貫きながら愚痴を言い、もう一人は何もない場所で針山の上に居る仲間? と話す。

 おかしい事に、ありとあらゆる苦痛を味わう地獄に置いて罰を与える者と、罰を受ける者の姿が無かった。

 罰を受ける予定の二人は此処に居るが、一人は退屈過ぎる故に自らを針山に刺す始末。

 余程暇なのだろう。針山を眺めるだけのもう一人は一つ欠伸を掻き、退屈そうにボーッとしていた。


「ところでゾフル。君は一人で地獄巡りをするつもりなのかい?」


「あ? お前も来るか、ハリーフ? 慣れると痛みもそれ程感じねェぞ?」


「いや、遠慮して置くよ。事が済んだら再び一日に何百、何千年程の苦痛を受けるんだからね」


 その者達。ブラックの手によって死した筈のゾフルとハリーフ。

 地獄に行き、一瞬が数日に感じる程の苦痛や一日に何百、何千年の苦痛を感じさせられていたが今この地獄には誰もおらずゾフルが一人で地獄を体験していた。

 ゾフルはハリーフも地獄巡りに誘うが、ハリーフはそれを断る。

 進んで苦痛を受けるなど、余程のマゾかそれしかする事が無いくらい暇過ぎる者しか行わない行動だろう。


「けどよォ、幾ら何でも暇過ぎんだろ。地獄の亡者共を一日に何人殺せるかとかしたが、それの所為で俺たちは隔離されちまったからな」


「君が原因だろ。何故か元々仲間だったって理由で私まで隔離されてより深い地獄に送られたが、腑に落ちない」


 そう、この地獄に亡者の姿が無い理由はゾフルが一日に何人もの亡者を殺し、地獄の罰並みの事を行ったので隔離されたからだ。

 罰を与える者が居ない理由は地獄に置いて何かしらの事件が起ころうとしている事と、罰を与える者にもゾフルはちょっかいを出し、仕舞いには延々と殺し続けたなど悪行の限りを尽くした結果である。

 ハリーフはと言うと、ゾフルの仲間という理由だけで同じく隔離されているのが腑に落ちていない様子だった。


「じゃ、ハリーフ。決闘しようぜ? 此処なら何度死んでも生き返るし、先が見えねェ程広いから俺たち魔族にとっちゃ天国みたいなものだ」


「はあ、またか。私は君程戦闘好きって訳じゃ無いんだけどね……今のところ三九八九勝四〇〇〇敗で君の勝ち越し中だったっけか」


「ああ、ほぼ互角だ。俺の方が一枚上手だけどな!」


 見れば、原料がちゃんと土である一つの山に幾つもの線が引かれており、戦闘の戦績が掛かれていた。

 地獄ここに来て数日、体感年数は数千年の二人だが、戦闘を行える時間は生前と変わらない時間。眠気も何も無いこの地獄で何千回と戦っている様子だが、どうやらゾフルの方がハリーフよりも強いらしい。

 しかし戦える時間が生前と変わらぬ数日程度で、よくもまあ数千回と戦えたものである。

 恐らく、地獄の看守と亡者を殺し尽くし追放されてから、罰を受けつつ何度も戦闘を行ったのだろう。

 殆ど特定の相手だが、戦闘経験だけならばそれなりに豊富なようだ。

 しかし地獄に置いて肉体は成長しないので、精々戦略の幅が広がった程度である。

 素の身体能力が劣る、現世の支配者やライたちにはこの状態でも勝てない可能性の方が高いだろう。


「ハハ、地獄生活(ヘル・ライフ)を満喫しているね、ゾフルにハリーフ。何なら、僕と勝負しない?」


「「……!」」


 そんな事を話し合っているうちに、一つの声が二人へ掛かった。

 声は一つだが気配は二つあり、ゾフルとハリーフはその声が誰の者か即座に理解出来た。


「久し振りだな、グラオ。俺たちにとっちゃ数千年振りだが、お前にとっちゃ数日振りか?」


「うん、そうだね。まあ、数千年なんて時間、僕が生きて来た数百億年に比べたら大した事無いさ。君たちにとっても数日振りと考えよう」


「フフ、君と比べたら全宇宙の者は年下だ。その理論は当てにならないさ」


 その者、グラオ。

 ゾフルとハリーフがグラオと会うのは地獄の体感時間から数千年。しかし宇宙誕生の日から生きているグラオにとってはほんの数分のようなもの。

 そもそもグラオ自身は普通に生きていたので、懐かしいという感覚は無いだろう。最も、グラオ自身はあの世とこの世を自由に行き来出来るのだから。


「そうかな?」


「そうでしょ。まあ、私も数千年生きてるけどね」


 ハリーフの言った言葉に対し、わざとらしくおどけるグラオ。

 それに対し、それなりに長生きである不死身の魔術師マギアが呆れたように返す。

 この二人が地獄ここに居るという事はつまり、グラオとマギアの二人はたった今この地獄に到着したという事だ。

 久々の再会だが、特に長く話そうと言う気は無い二人。

 グラオの戦闘発言も場を和ませる為に行ったもので、本当に戦うつもりは無いだろう。

 それによって場が和むか分からないのと、ゾフル達が了承すれば戦闘を受けるだろうという事を除けば普通の会話だ。


「……と、そんな事じゃなくて、ゾフルとハリーフに意見を聞くんでしょ? さっさとしちゃってよ。グラオは自由に行き来出来るけど、私は結構負担が大きいんだから」


「ハハ、分かってるよマギア。さて、ゾフルにハリーフ。君たちに聞きたい事があるんだ」


 それは捨て置き、マギアは話を先に進め本来の目的を話させる為グラオに促した。

 マギア自身、アンデッドの王であるが流石に二つの世界を自由に行き来出来る訳では無い。それなりの負担が掛かるのだ。

 グラオはそれを関係無く進めるが、マギアが居なくてはゾフル達が戻ると答えた時連れて行く事が出来ない。なので早めに済ませる必要があるのだ。


「じゃあ二人とも、単刀直入に聞くよ?」

「「……?」」


 グラオが尋ね、ゾフルとハリーフは怪訝そうな表情をしつつも頷いて返す。

 基本世界とは違うあの世にて、ライとマギア。ゾフルとハリーフの話し合いが行われていた。



*****



「そーら……よっと!!」

『フン、甘い甘い!!』


 魔王の力を纏ったライと、それなりの本気を使ったニーズヘッグ。その一人と一匹が本日数十回目となる衝突を見せ、辺りを更に消し飛ばす。

 もう周囲の木々は無くなっており、舞い上がる粉塵も少なくなっている。

 柔らかい砂が減り、あまり浮かない砂が剥き出しになっているからだろう。なので今上がっている物はというと、岩石のように巨大な土塊くらいだ。

 一挙一動で大きな土塊が舞い上がり、次の衝撃でそれが粉砕する。

 空中にてライは魔王の力を纏った拳を放ち、ニーズヘッグはそれを迎え撃つ。

 一瞬のうちに数回の攻防を広げ、全ての土塊と粉塵を消滅させてライとニーズヘッグは地に付いた。

 付いた瞬間に大地を踏み砕いて駆け出し、刹那に第四宇宙速度を超えて距離を詰める。

 元々ライたちの居た、そして今もレイたちの居る始めの場所からは数キロ離れているがそのような距離の差など問題にならない程の破壊が巻き起こっていた。


「そら!」

『フッ!』


 そして、また吹き飛ぶ。

 吹き飛ばされた一人と一匹は距離が離れ、数百メートル程度で停止する。

 遅れて大地がぜ、亀裂を生み出しながらあちらこちらが粉砕した。


『中々やるな。その力、本気では無いと見て取れるが……本気でなくともそれ程の実力を秘めているとは。そしてお前は若い。若さは成長に繋がるもの、これからも更に強くなるだろう』


「ハッ、そうかい。それは良かったよ。アンタも本気じゃないみたいだが、まだ戦闘は長引きそうだな」


 魔王ライの実力を確認し、フッと笑いながら話すニーズヘッグにそれへ返すライ。

 互いに本気では無いが、相手の実力は如何程のものかをある程度は理解出来ていた。

 相手の実力は、今は問題ではない。本当の問題はそれによって戦闘その物が長引いてしまう事である。

 戦闘が長引けば長引く程、相手に時間を与えるも同義。ライたちは控えメンバーがおらず、強いて言えば孫悟空くらい。

 しかし魔物の国の者達は支配者クラスの実力を秘めていると言うものが何匹も控えている。それに加え、グラオ達やぬらりひょん達が居るので援軍が来てしまえばこの宇宙を破壊する覚悟で挑まなくてはならなくなる。

 そうすれば勝てるかもしれないが、殆ど相討ちも良いところだろう。最悪、敗北する未来もある程だ。

 それを阻止するべく、早いうちにニーズヘッグを倒すのが最善の策というやつである。


(まあ、闇雲に攻めれば返り討ちに合うかもしれないし、難しいところだな……)


 警戒しつつニーズヘッグに視線をやり、出方をうかがうライ。

 何はともあれ、策に策を練りつつニーズヘッグを倒さなければ何も始まらないだろう。

 支配者クラスあるというニーズヘッグが相手だからこそ、強引に攻めるという作戦も成功しない可能性の方が高い。


【クク、悩んでんな。まあ、相手は確かに強敵だ。終末の日(ラグナロク)に駆り立てられていた魔物だからな。まあ、その終末の日(ラグナロク)は起こらなかったけどな。もしも起こってたら嬉々として参戦出来たってのによ。勇者の野郎め】


("終末の日(ラグナロク)"か……勇者のお陰で起こらなかった"神々の運命"……起こってたら世界は今頃、どう変わってたんだろうな)


 悩むライに向け、話し掛けてくるのは魔王(元)。

 この世界線で終末の日(ラグナロク)は起こらなかったが、全ての神々や幻獣・魔物が駆り立てられる宇宙規模の大戦争。もしもそれが起こっていたら、どうなっていたのか気に掛かるライ。


【さあな。それは起こった世界でのお前にしか分からねェよ。俺が居る限り、お前はありとあらゆる世界線からの攻撃でもこの世界から消される事は無いんだからな。この世界で今、この瞬間に死ななきゃこの世界以外の世界では死なねェよ】


(何を言ってんだ? まあ、前にも聞いた事みたいな奴か。この時間から過去に言ったとして、そこに向かった者は俺の先祖かもしれない微生物でも殺せないってな)


【そうだ。だから過去をやり直す事は出来ねェって事よ。終末の日(ラグナロク)が気になっても、この世界線で起きなきゃ見れねェって訳だ】


 魔王(元)は前に、魔王(元)の力によってライは特別な"守り"と"護り"が施されているのでこの世界の過去に戻る能力者が居るとして、その者でもライを殺す事は出来ないと話した。


 それはあらゆるものに影響し、ライの祖先になるであろう星が誕生する以前の微生物すら、ライに関係しているのなら如何なる手を使っても消滅させられないという事。過去の自分が消され、未来の自分が死ぬという事は絶対、確実に無いのだ。

 なのでこの世界で起こらなかった神々の運命──"終末の日(ラグナロク)"。それが起こった世界には、行くのが難しいという事である。


【まあ、お前に都合の悪い特殊能力じゃなきゃ俺にも効くから、タイムトラベルを出来る奴が居れば別の世界の過去に行けるかも知れねェけどな。最も、俺はその平行世界全てを一瞬で破壊出来るから、その時点で過去や未来に行けるのに行けないっー矛盾が生じちまってるけどな】


 最後に補足を加える魔王(元)。

 時間移動の出来る者がライに悪影響を及ぼさなければ、ライでも様々な時空間に行けるという事。

 しかし時間のような概念を操る者は世界的に珍しく、滅多に居ない。ライが今の世界以外に行く方法は少ないだろう。


(まあ、終末の日(ラグナロク)の起こらなかった世界がこの世界なら、それで良いや。今の敵はニーズヘッグだからな)


【ハッハ、余計なしがらみは消えたようだな。それで良い。信念が弱くちゃ、一撃一撃の力が弱くなっちまうからな】


 話を止め、目の前に居るニーズヘッグへ集中力を高めるライ。

 ライと魔王(元)は二人の空間で話していた。なので現実では一秒も経過していない。ニーズヘッグもライの出方を窺ったままの状態である。


『……。雰囲気が変わったな。僅かコンマ数秒……お前は何か吹っ切れたみたいだ……』


 しかし変わった雰囲気は、ニーズヘッグだからこそ分かる。

 一秒にも満たぬ時間にして、ライの中で覚悟が決まったと見抜いたのだ。


「ああ、もう少し本気に近付こう。星を壊さないよう気を付けなくちゃならないけどな……」


『フッ、面白い。ならば俺も答えてやろう。それが俺にとっての礼儀って奴だ……』


 瞬間、ライとニーズヘッグは力を込めた。

 辺りは時間が止まったのではと錯覚する程静まり返っており、舞った砂塵はゆっくりと一人と一匹を撫でる。

 その砂塵は空中にて停止したようにゆっくりと進み、ライとニーズヘッグの視界から色が消えた。

 時間が止まった訳では無い。一人と一匹から見た視界が、そう錯覚する程遅くなっているのだ。

 そう、ライとニーズヘッグにとっては、一秒が何時間にも感じる程の体感だろう。


「行くか……!」

『やってやろう……!』


 そしてその場から消え去った。同時に周囲が消し飛び、爆散する元々森だった場所。

 それが意味する事はつまり、ライとニーズヘッグの戦闘が終わりに近付いているという事だ。

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