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三百五十四話 魔物の国・一匹目の幹部

「はあ、大分片付けたかな……」

「ああ、少なくとも此処に来た奴はな」

「ふむ、張り合いが無いな」

「ごめんね、魔物の皆……」

「ふふ、優しいのですね。リヤンさん」


 此処に集まっていた兵士達数十匹を片付けたレイたち五人。

 ドレイクに言われた通り、あまり大きな音を出さずに片付けたがそれでも相手にはならなかったようだ。

 しかしながら、幻獣・魔物好きであるリヤンは複雑な表情をしていた。


「レイ、エマ、フォンセ、リヤン、ニュンフェ。大丈夫だったか?」


「あ、ライ。ドレイクさん。うん、私たちは全員無事だよ」


「ああ。むしろ、少々味気無かった程だ」


 そこへ駆け付けてくるライとドレイクに対してレイとエマが返答する。

 大きな声は出さない方が良さそうなので、少々小声気味に話し合うライたちとレイたちは、もう既に敵の主力が向かって来ているとまだ分からない。

 当然だ。今でも尚、様々な気配が辺りに漂っている。それはさながら、獲物を狙う獣のような気配。

 幾ら幹部の強さが支配者クラスあるとしても、距離があり幹部自身が力を抑えていれば感じ難くなるだろう。


「けどまあ、無事ならそれで良いか。取り敢えず、また敵が来る前に移動した方が良さそうだな」


「ああ、それが良いだろう。魔物の兵士達だけでは無く、野生の魔物も敵だからな。全てが敵のこの国、観光エリア以外は無法地帯だからな」


 レイたちの姿を確認し、無事を確信したライはさっさと移動する事を促す。

 それに対してドレイクからも此処が無法地帯と分かっているので否定の意見は出なかった。

 魔物の国では、弱肉強食が唯一と言って良い定められたルール。

 そのルールを破る者は無く、強者が生き弱者は死ぬか怯えて暮らす。いつ他の生物に襲われても何ら不思議では無いこの国にて、目的があるのからその目的地へ急ぐという事柄が一番の選択だ。 

 レイたちも無言で頷いて賛同し、ライたち七人は先に進む。

 少し歩みを速め、そそくさとその場から離れた。


『匂いは近いな……だが、すれ違いか?』


 ライたちがそこから移動して数分。魔物の国の幹部がそこへ辿り着く。

 その幹部は匂いを辿り、ライたちが向かったであろう方向に視線を向けた。

 鼻を動かし、黒翼を上下に揺らす。人間や魔族より遥かに長い首を向け、そちらを向く姿は何処か神々しさも感じられる。


『如何なさいます? まあ、もう決まっていると思いますが』


『追跡するんですね?』


 そんな幹部を囲む魔物の兵士達。兵士達は幹部の方を向き、どのような行動に移るか指示を待っていた。

 この国では、強者こそが絶対的な存在である。なので幹部の指示次第で動きが決まるのが、兵士達は既に何をしようとしているのか理解しているようだ。


『ああ、侵略者を追うぞ。着いて来いよ、テメェら!』


『『はいっ!』』


 それと同時に加速し、ライたちの追跡を始める魔物の国幹部とその部下兵士達。

 グングン速度を上げ、上空の雲は晴れ旋風と共に砂埃を舞い上げた。



*****



「……! 何かが来る……!」

「ああ、俺も気付いた。とてつもない力を秘めている何かだ……!」


 魔物の国の幹部が向かった瞬間、何かの気配を感じたライとドレイクがその方向へ構える。

 レイ、エマ、フォンセ、リヤン、ニュンフェの五人も気付いており、全員が全方向へ警戒を高める。

 先程まで気配に気付かなかったライたちだが、それは周りに多くの気配があったのと幹部が力を抑えていた。そして幹部との距離が数キロ以上離れていたからだ。

 戦闘体勢に入っているであろう幹部が距離を詰め、この場所に向かって来ている。

 それならば、まだある程度の距離があるとしても気付くだろう。

 最も、ライが魔王の力を九、十纏っていれば範囲が星から銀河系サイズだとしても弱い気配一つを見つける事は可能であるが。


『どうやら、気付いていたようだな……侵略者? 成る程、良い面構えだ。佇まいからして、かなりの強敵であると窺える』


 バサッと一羽ばたき。それによって空気が揺れ、砂埃が舞い上がってライたちの目の前に大きな黒龍が姿を見せる。

 もう一度羽ばたき、着地する黒龍。舞い上がった砂埃は一瞬にして晴れ、その美しい鱗と禍々しい風貌が明らかになる。


「……成る程、その姿……アンタ、"ニーズヘッグ"だな?」



 ──ニーズヘッグとは、世界樹の根をかじり続ける破壊の象徴とされる蛇である。


 今のニーズヘッグは龍の姿だが、本来は蛇なのだ。

 容姿は全体的に黒く、世界の下層に存在すると謂われる氷の国に棲む蛇。


 ニーズヘッグは世界樹、つまりユグドラシルの根をかじり続け、宇宙の破壊を目論んでいる。

 世界樹ユグドラシルは即座に再生するので無駄な行為なのだが、それを止めようとはしないらしい。


 ニーズヘッグは終末の日(ラグナロク)と関係しており、その日になると火を噴いて暴れ回り最終的に死者を翼に乗せて羽ばたき、あの世で死者の血をすすると謂われている。


 破壊の象徴であり世界樹ユグドラシルと宇宙の破滅を願う蛇にして黒龍。それがニーズヘッグだ。



『ふむ、パッと見では普通の黒龍だが、よく俺をニーズヘッグと見抜いたな。中々頭の回る子供のようだ』


「ハハ、お褒めに預り感謝するよ、ニーズヘッグ。だが、アンタの正体と頭の回転は関係無いんじゃないのか?」


 本来の蛇とは違う姿のニーズヘッグに対して、即座にその魔物がニーズヘッグと見抜いたライ。

 当のニーズヘッグはライの思考に感心しており、ライの事を評価した。

 ライは軽薄に笑って返すが、その目は笑っておらず警戒を高めている。当然だろう、ニーズヘッグはそれ程までの強敵なのだから。


『フッ、自分の能力を驕らないか。実に良い性格だ。それはさておき、何故なにゆえエルフとドレイクが居るのか気になるな……。カオス殿に聞いていた仲間とは違うようだ』


 そして褒められても誇らないライへ更に感心した様子のニーズヘッグだが、ニュンフェやドレイクの存在が気に掛かっていた。

 ニーズヘッグの口振りからするにヴァイス達からライ、レイ、エマ、フォンセ、リヤンの事は話に聞いていたらしいが、明らかにイレギュラーな二人の存在が分からないようだ。


「おっと、自己紹介が遅れましたね、ニーズヘッグ様。私の名前はナトゥーラ・ニュンフェ。エルフ族にして幻獣の国幹部を勤める者で御座います。以後お見知り置きを」


「フフ、ニーズヘッグが相手か。不足は無えが、少々強敵だな。実力だけなら親父と同等かそれ以上か」


 気に掛けた様子のニーズヘッグに対し、深々と頭を下げながら淑女のように自己紹介をするニュンフェ。

 そしてドレイクは此方も軽薄な笑みを浮かべており、父親のドラゴンと同等以上の力を秘めていると見抜いた。

 これからするに、魔物の国の幹部達は予想以上に強者揃いという事だろう。


『ハッハ、アンタに褒めて貰えるなんて光栄だな、ドレイク。そこのエルフも自己紹介ご苦労。俺はニーズヘッグってそこの子供に正体を暴かれたから名乗る必要も無いな』


 ニュンフェとドレイクに対して飄々とした態度で話すニーズヘッグ。

 その態度からは警戒の意を感じられず、一見は何も考えていないように見える。

 しかしそんな訳は無い筈なので、ライたちは警戒を解かずに視線を逸らさない。

 ライたちを見、ニーズヘッグはフッと言葉を続ける。


『まあ、俺本来の姿は蛇なんだが、今は訳あって黒龍の姿だ。終末の日(ラグナロク)じゃなくてもこの姿になれるらしい。しかし戦闘能力はこの姿の方が高いからな。お前達を相手にするのは丁度良いぜ』


 本来ニーズヘッグは、終末の日(ラグナロク)にのみ黒龍の姿となって翼に死者を乗せ死者の血を啜ると謂われている。

 しかしどういう訳か、このニーズヘッグは何も無い今ですら黒龍の姿になれていた。

 本人がなれる"らしい"と言っている事から、それは大変珍しい事というのがうかがえる。

 どうやらニーズヘッグ自身ですら、体験した事の無い事柄なのだろう。


「そうか。なら、俺たちに向けられた選択は戦闘しか無いって思って良いのか?」


『ああ、そう思ってくれて構わねえぜ。俺はまあ、偵察を兼ねてついでにお前達をぶちのめせれば上々って感じだからな。どの道戦闘は避けられねぇ道だ』


 力を込め、ニーズヘッグに話すライ。魔王の力はまだ纏っていないが、己自身で出せる力について込めたのだ。

 ニーズヘッグは軽薄な笑みを消さず、淡々とつづるように返した。

 何はともあれ、戦闘は必ず行わなければならないという事だろう。


「そうか、なら手加減はしないぞ……」


『ハッハ、内なる力を秘めているように感じるぜ? 手加減はしないって言うが、本来の力は使わないようだな』


 手加減せずに戦うと告げるライに対し、ライに魔王が宿っていると知らない筈のニーズヘッグは何かの気配を感じていた。

 かなりの実力を秘めたニーズヘッグはやはり、かなり上位に立っているという事だろう。

 だからこそ魔王の存在を暴いたのだ。


「内なる力……? ライさん……やはり貴方は何かあるのですね……」


「成る程、ライ殿から感じる気配は内なるものだったか」


 ニーズヘッグの言葉に反応したのはライでは無く、ライたちに何かがあるのではと疑っていたニュンフェ。そして実力は支配者クラスあるというドレイクだった。

 ニュンフェは元々ライたちを疑っていた。ライたちに何かあると感覚で分かっていたからだ。

 そしてドレイクはというと、ライから何かしらの気配は感じていたようだ。しかしそれが何か分からなかったので、ライの内側に何かが居るとは分からなかったのである。


「ハハ、いつか話すよ。今は話している暇が無いからな……!」


 刹那、ライは魔王を纏わずに大地を踏み砕き、一気に加速してニーズヘッグの元へと向かった。

 その速度は音速を超えており、第一宇宙速度くらいはあるだろう。

 元は魔王の力を一割纏って出せる速度だったが、ライ自身凄まじい速度で成長している。

 しかし今は悪魔で様子見。ニーズヘッグが強いのは感覚で分かるが、素のライにどの程度の力を使うか確かめるつもりなのだ。

 それによってニーズヘッグの本来の力が大体分かる。


『フッ、真っ直ぐ向かって来るか。悪魔で様子見のようだが、それは俺も同じだな』


「へえ?」


 第一宇宙速度で拳を放ったライに対し、片腕で難なく受け止めるニーズヘッグ。

 黒龍の身体は少し後ろに押されたがダメージは無く、そのままライを弾き飛ばす。

 弾かれたライは小さく呟き、一回転して着地する。その瞬間再び踏み込み、近距離で大地を大きく踏み込んだ。


「オラァ!」

『ハハ、楽しませてくれ。まあ、楽しんでいたら駄目だけどな』

「任せろ」


 それと同時に秒も掛からずニーズヘッグの眼前に拳を突き出すライ。

 ニーズヘッグは依然として軽薄な態度を取りつつ、長い首を下げてかわした。

 それを見たライは空中にて空気を蹴り抜き、そのまま空中で移動しつつかかと落としを放つ。

 ニーズヘッグは飛び退き、ライのかかと落としは空を切り大地にぶつかり大きな粉塵を巻き上げた。


『──カッ!』

「っと」


 飛び退くと同時に炎を吐き付け、大地を大きく焼き払うニーズヘッグ。

 今は魔王を纏っていないライだが、何もしなくても自動的に無効化能力は使える。しかし何となく炎をかわした。それは移動と攻撃を両立させる為だ。

 かわした先にて大地を蹴り、再び加速して距離を詰める。

 その衝撃で粉塵が巻き上がったが、それによって視界が狭くなるのである意味丁度良いかもしれない。


「そらっ!」

『はっ!』


 次いでライの脚とニーズヘッグの尾がぶつかり合い、辺りの粉塵を消し飛ばして一人と一匹の姿が再び現れる。


『我らも続くぞ!』

『『『おおっ!』』』


「来るよ……!」

「ああ」

「そのようだな」

「……うん……」

「やるしかありませんか……!」

「それが決められた道だ……!』


 それと同時に魔物の兵士達が翼を広げて近寄り、周囲には緊張の空気が張り積めた。

 剣を抜くレイ、力を込めるエマ、魔力を込めるフォンセ、野生の力を身に纏うリヤン、弓を携え、レイピアを取り出すニュンフェ、そして龍の姿に変化させつつあるドレイク。

 魔物の国の森にて、争いの火蓋が切って落とされた。


『『『掛かれェ!!』』』

「「「…………!!」」」


 爪が放たれ、炎が吐かれ、剣が振られ魔法と魔術に弓矢が飛び交う。

 基本的に野生である魔物の国の兵士達だが、道具を使う者や魔法・魔術を使える者が居るようだ。

 しかし野生でも道具を利用する動物は多い。その程度の事、他の魔物より知能の高い兵士達ならば当然だろう。

 静かに、そして迅速に進むという願いが叶わなかったライたちは、魔物の主力率いる軍隊と一戦交える事となってしまった。

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