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三百五十三話 魔物の兵士

 ──"魔物の国・森"


 草木が生い茂る森の中。日差しは強いが木々が日陰となっており直射日光は無かった。ヴァンパイアのエマでも木々の影と傘があるのでそれ程ダメージは無い筈だ。

 しかし枝の先にある葉と葉の間から差し込む木漏れ日は美しいものだがエマにとってはキツイものがあった。

 秋のような気候の魔物の国。森だと日差しの届かない場所が多いので肌寒さを強く感じるが、寒さならば冬真っ只中だった魔族の国で体感しているので特に問題は無かった。

 草を掻き分け、身体に纏割り付く葉を払いながら整備されていない道無き道を進む。


「そういや、俺たちは地図とかを持ってないけど、敵の場所が分かるのか? 街同士はそれなりに距離があるって考えて良さそうだけど……形振なりふり構わず進むのは得策じゃない筈だ。まあ、持って来ていない俺が言っても説得力に欠けるけどな」


 歩きながらふとライは、このまま進む事が正解なのか気に掛かった。

 当然ながらライたちは、魔物の国(この国)の地図を持っていない。

 こんな広い世界の無法地帯とも言える魔物の国にて、地図を持たぬのは自殺行為に等しいだろう。

 自分が魔物の国へ勝負を吹っ掛けたのでそれを果たす為に来たライだが、それ故に地図を持ってこれなかった。というより、元々持っていなかったのた。


「ああ、それならば問題無い。言っただろう、俺は何度かこの国へ来ている。地図など無くとも、おおよその方向は分かっているさ。問題は敵が何処から攻めて来るか、だな。いつ何時なんどきどのタイミングで来るか、それが一番重要な事だ」


 ライに返すのはドレイク。そんなドレイクは魔物の国の場所などはある程度知っているようで、支配者の街までの方向は知っているらしい。

 なのでその点については問題無いとの事。今最も重要な問題は、狙ってくるであろう幹部や部下達である。

 ライたちが国に入って来た事を知っているかは分からないが、知られていようと知られて無かろうと、野生その物のこの国に置いて常に油断は出来ないだろう。

 何故ならそう、ライたちにとって魔物の国では、自分たち以外全ての魔物が敵なのだから。

 それは魔物にも通じる事で、食うか食われるか。それしかルールが無い。自分以外は全てが敵。それが魔物の国だ。


「一理あるな。私もどちらかと言えば魔物だから分かるが、知能を持たぬやからも知能を持たぬなりに工夫を施す。まあ、恐らく私は知能が高い部類に入る魔物だろうがな。兎にも角にも、敵の主力以外にも居るであろう魔物達も警戒対象って事だ」


 ドレイクの言葉を聞き、同意するような素振りのエマ。

 世界からなる四つの種族に分けるなら、どちらかと言えば魔物よりのエマだからこそ、野生の魔物が何時攻めてきてもおかしくない状況にて相手の立場で考える事が出来た。

 動物というものは知能の低い者が多い。しかしそれは人間・魔族から見た客観的な意見である。

 罠も張る者が居れば、群れでコミュニティを作る者達も居る。

 人間・魔族も基本的に、"家族"や"友人"。そして"組織"といったコミュニティにて生活しているので野生動物とあまり変わらないだろう。

 ドレイクの言う、敵が攻めて来るタイミング。それを警戒しなくては先に進めない事にも変わりは無いのだ。


「ああ、そうだな。地図は無くて良いって事が分かったなら、後は警戒を──」


 ──高めるかとは続かなかった。


『ぎゃあ!』

『ギャア!』

『ぐぁ!』

『グァ!』


 何匹もの魔物の群れがライたちの前に現れたからだ。


「あれは……ワームか。前に偽物なら見たけど、これは本物のようだな」


 その魔物、ワーム。

 以前魔族の国にてとある"召喚士サモナー"と戦闘を行った時、魔力から創り出されたワームと戦った事がある。

 そんなワームの本物が此処の森を棲み家にしているという事だろう。

 草木の生い茂る森林から草木も乾く砂漠地帯まで、あらゆる場所に適応出来るワームだ。この森に居ても不思議な事は何もない。

 ワーム達は群れを成し、一斉にライ、レイ、エマ、フォンセ、リヤン、ニュンフェ、ドレイクに飛び掛かった。


「どうする?」

「同じ龍のような種族だ。俺が相手する』

「オーケー、任せた」


 飛び掛かるワームに対して慌てずに話すライ。一応レイたちの前に出て庇うように構えているが、どうやらドレイクがワームを相手にするらしい。

 元々ワームは翼の無い龍のようなもの。近いものを感じるのと、旅の邪魔になるのでドレイクが相手をするようだ。

 そして人の姿から変化させ、赤い鱗に鋭い牙。そして背には大きな翼が生えた。


『数秒で終わらせる』


 ──刹那、ドレイクは一瞬にしてワームへと近寄り、その腕を使い、そして口から放つ炎で消滅させた。

 生きるか死ぬかのこの世界。不本意だとしても、始末しなくてはならない敵が居る。

 それに加えて迅速に終わらせ、あまり大きな音を立ててはいけない。音によって更なる魔物を引き寄せてしまうかもしれないからだ。

 なのでドレイクはワームを瞬殺したのである。結果として、場を荒らす事もなく静かに戦闘は終わりを告げた。


「殺す必要はあったのか?」


 消え去ったワームを見、少し複雑な表情でドレイクに尋ねるライ。

 殺生をあまり行わないよう心掛けているライだが、いや、ライだからこそ殺す必要性が気になったのだろう。


『ああ。……そうだな、一つ言おう。この森に居る生物は全て我らの敵と見て構わない。善意で殺さずに済ませたいとしても、あまりオススメはしないぞ。理解しているのか?」


 ワームを消し去り、人の姿に変化させつつ話すドレイク。

 ライたちは一瞬の出来事に暫し眺めるしかなかったが、ドレイクの放つ威圧から言う通りにした方が良いと察する。


「勿論理解しているさ。けど、俺は基本的に殺生を行わない。それが甘えだとしても、俺は俺らしく」


 しかし敢えてドレイクの言葉へ反論するよう、しっかりと言い終えるライ。

 ライの目的は世界征服。それは力によって全てを支配し、己にとって都合の良い世界を創造しようという訳では無い。

 なのでライはライなりの正義を貫こうとしていた。


「まあ、オススメはしないだけだ。お前に殺す気が無いなら無理強いはしない。だが、大きな騒ぎを起こさぬよう迅速に仕留めろよ」


「ああ、分かってる。敵に見つかったら厄介だからな。それは魔物の国の主力や野生動物全部に言える事だ」


 ドレイクとて、殺した方が早く済むのでそうしているだけに過ぎない。

 出来るならば生き物の命は奪わない方が良いだろう。しかしドレイクは魔物の国へ宣戦布告したライたちと共に行動しているので、ワームを殺すというのはライたちを思っての行動だった。

 ライはそれを理解している。やむを得ない事も多々あるのだから。

 なのでドレイクにはあまり言わず、改めてライたちは森の中を進んで行く。



*****



 ──"魔物の国、支配者の街"。


「……で、どうするの、ヴァイス? ゾフルとハリーフの亡骸は」


「ああ、かれこれこの国に来て数日だが、遺体に手を掛ける様子は無いな」


「私も十分に回復したし、何時でもあの世に行けるよ?」


 静か且つ肌寒い風の通り過ぎる魔物の国支配者の街にて、グラオ、シュヴァルツ、マギアがヴァイスに向けて訝しげな表情で質問をしていた。

 その内容は、幻獣の国の戦争によって死した仲間──ゾフルとハリーフについて。

 三人はあの世の二人と交渉し、この世界に連れ戻すかどうかを決めて欲しいと言った表情だった。


「ああ、そうだね。そろそろあの世を少しは満喫した筈だ。それを見て生き返るかどうかは彼ら次第だけど、前のゾフルみたいに全ての感情を失ってはいないだろう。しっかりとした意識の中で交渉しなくちゃね」


 三人の言葉を聞き、勿論理解しているというフウな態度で話すヴァイス。

 前にゾフルを生き返らせた時は、ゾフルがあの世とこの世の狭間で彷徨さまよっていた。

 意識の無い者を元の意識に戻すのは中々に面倒な作業なので、ヴァイスは敢えて二人を蘇らせず意識がハッキリするであろうあの世に着くのを待っていたのだ。


「けど、最近地獄は少し騒がしいかな。理由は大体分かるけど、行くなら僕も連れてってよ、ヴァイスにマギア」


 交渉に移る気になったヴァイスへ向け、軽薄な笑みを浮かべながらグラオが言葉を続けた。

 それは最近の問題。最近地獄が騒がしいので、面白そうだからグラオも行こうと考えているのだろう。

 その理由は十中八九バアルが関係している事だろうが、それを知っているグラオはヴァイス達に教えはしなかった。

 まだ確実な事じゃないので、教える必要も無いと言う事だろう。


「うん、別に構わないよ。丁度良いからね。あの世を創った本人のグラオが地獄に行ってくれるなら、"この世"と"あの世"を支える繋がりも安定するだろうさ」


 グラオの意見に快く了承するヴァイス。そんなヴァイス曰く、グラオが行く事でより"繋がり"が安定し自分に掛かる負荷が少なくなりそのまま気苦労も少なくなるとの事。

 本来この世からあの世へは、死ななければ行く事が出来ない。

 そしてあの世からこの世に戻るには、全ての記憶を失い転生する必要がある。

 そんな不確かで不安定な世界同士を繋げる、神をも恐れぬ御業みわざ。元々アンデッドのマギアは兎も角ヴァイスに掛かる負荷がかなりあるのだ。


 しかし不安定な世界に両方の世界を自由に行き来出来るグラオが行った場合、どうなるだろう。

 本来ならば交ざり合う筈の無い二つの世界にとっての"異物"。その異物とはヴァイスの死者を生き返らせるという再生とも違う"ナニか"。

 だが両方の世界から見ても異物では無いグラオならば、それらを支え安定させる事が出来る。

 結果として、ヴァイスへの負担が減り容易にあの世と干渉出来るのだ。


「なら、早速準備をしよう。シュヴァルツ。ゾフルとハリーフの遺体を」


「オーケー、任せとけ」


 これから行う事が決まった瞬間、ヴァイスはさっさと準備に取り掛かった。

 ヴァイスの指示を聞き、布にくるめられ細長い棺桶のような木の箱に入った二人を持ってくる。

 次いでグラオはその近くで横になり、ヴァイスとマギアが棺桶二つとグラオを囲むように座る。


「"肉体再生フィジカル・リジェネレイション"」


「"この世とあの世の融合アナザーワールド・フュージョン"」


 その瞬間、ヴァイスは再生術を、マギアは魔力を込め棺桶へ集中した。

 それと同時に辺りには白くて黒い矛盾したナニかが生まれ、灰色のようなナニかに変化する。


「"深い眠り(ディープ・スリープ)"」


 そのまま灰色のナニかがある方角へマギアがた倒れ込んだ。しかし気にする様子の無いヴァイスとシュヴァルツ。

 気が付けば、その場にあった筈のグラオの身体が消え去っていた。


「さて、後はグラオとマギアがどうするかを待つか……」


「ああ、そうだな。グラオは本体があの世に向かったっぽいし、マギアは何しても起きないだろうな。今は死んでるからよ」


 一連のやり取りを終え、遠方から棺桶を眺めるヴァイスとシュヴァルツ。

 グラオとマギアはたった今、ゾフル達の居るであろうあの世へ向かったという事だ。

 他の者達を待つ為、二人は少しボーッとしていた。



*****



「やれやれ、見つかったみたいだな」

「うん、そうみたいだね……」

「まあ、雑魚だろうがな」

「ああ、私たちの相手では無い奴等だろう」

「……。…………」

「しかし、確実に野生の魔物ではありませんね」

「取り敢えず大本が来る前に片付けておくか」


 ヴァイス達がそのようなやり取りを行っていた時、ライ、レイ、エマ、フォンセ、リヤン、ニュンフェ、ドレイクの周りには数十匹の魔物が囲んでいた。

 魔物は無言でライたちへ構えているが、相手のライたちをうかがうような様子を見る限りほぼ間違いなく魔物の国、主力に仕える兵士か何かだろう。


『見つけたぞ、幹部様に方向だ』

『ああ、どういう訳か相手には幻獣の国の奴等も居るが、子供の容姿は聞いていた通りだ』


 ライたちを見、コソコソと話し合う魔物兵士。

 この魔物兵士達は言葉を話す事が出来るらしく、ライたちを見た瞬間次の行動に移っていた。

 そう、今幹部の元へ向かっている魔物兵士こそ、ライたちの側から即座に離れた者なのだ。


「迅速に対応するんだっけ?」

「ああ、そうた」


『『……!?』』


 幹部の元へ向かっていたその瞬間、兵士達の正面には数百メートル先に居た筈のライとドレイクが姿を見せていた。

 それを見た二匹の兵士は思わず飛び退き、距離を取ってライとドレイクの様子を窺う。

 あまりに突然な出来事は魔物兵士の意表を突き、二匹の兵士は声を出す事も出来なかった。


「じゃ、これで終わりだな」

「ああ、元の姿に戻る必要も無かった」


 そして、即座に距離を詰め寄った二人によって始末される。

 ライの言葉もあるので今回は殺さなかったが、その意識は刈り取られた事だろう。

 空中にて意識を刈り取られた二匹は落下し、ガサガサと木々を揺らして地に落ちる。


「……。今のは割りと大きな音だったが……大丈夫か、アレ?」


「……まあ、大丈夫だろ。魔物ならしょっちゅう居るし、物音くらいじゃ……な」


 落下した魔物を見、あの音は大丈夫なのかと疑問に思うライ。

 ドレイクは自信無さ気だったが、この森には多くの魔物が潜んでいるのでその点では問題無いと信じたかった。


『……今の音……向こうか。兵士達が向かった方向だな』


 ──が、どうやらそういう訳にも行かなそうである。


「やあ!」

『ギャッ!』


「ハッ!」

『ギッ!』


「はぁ!」

『グッ!』


「……」

『……ッ!』


「はあっ!」

『グエッ!』


 その一方で、この場に集まった兵士達を片付けて行くレイ、エマ、フォンセ、リヤン、ニュンフェの五人。

 ライとドレイクがそちらに戻る最中、魔物の国の幹部も向かって来ていた。

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