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三百五十話 世界の広さ

 ──ライ、レイ、エマ、フォンセ、リヤン、ニュンフェ、孫悟空、ドレイクが幻獣の国を出発してから、数時間が経過しようとしていた。

 朝方から変わり、日は少し高い位置に昇る。

 もう幻獣の国の外に出たのかは分からないが、大樹からかなり離れたという事は見て分かった。

 空は青く、白い雲が遠方に見える程離れている。この場所だけならば、快晴の空と言っても良い雰囲気だろう。

 暖かな春の気候は依然として変わらず、鳥の声と共に草原を揺らす風が吹き抜ける。


「……で、このように魔力を込めれば……エレメントを自在に操れるのです」


「私も似たような方法で扱っている。まあ、主に攻撃がメインだから彫刻などは造った事が無いがな」


「……えーと……私は……ごめん、分からないや」


「ハハ、気にするなよ、リヤン。そうか集中力を込めて……"回復ヒール"」


 そんな道中。歩きながらライはニュンフェ、フォンセ、リヤンに魔法・魔術を詳しく教えて貰っていた。

 言われた通りに工夫を加え、癒しの力を魔力に込めるライ。

 それは鮮やかな色を生み出し、落ち着くような、暖かい光を創った。


「お、良い感じじゃないか!? なあ!」


「ふふ、そうですね。良い感じですよライさん」


「ああ、悪くない。掠り傷程度なら癒せる筈だ」


「うん……良いと思うよ、ライ。」


 それっぽいものを創り出し、年相応の笑顔で話すライ。

 それを微笑ましく見るニュンフェとフォンセ。そしてリヤンも癒しの力には長けているので頷いて返した。

 魔物の国へ向かう道中、何故このような事をしているのかというと、ライが魔法・魔術に興味を持ったからだ。


 かつての魔王は、何も己の力だけで世を支配していた訳では無い。それでも宇宙を破壊出来る程度に十分過ぎる力はあるが、魔法・魔術などといった様々な術を使っていたのだ。

 ライも何度か使った事はあるが、精々中級者レベルの魔術しか使えず、ライの敵となる相手からして戦力にならないものだった。

 それに加え、治療なども毎回仲間たちにして貰っているので申し訳無さがあったのだ。

 それを克服する為、自分の使える魔術に磨きを掛けるよう魔法・魔術の扱いに長けている三人に教わっているのである。


「ふふ、頑張っているな、ライのやつ」

「うん、私は魔力が無いけど、見てると元気になるよ」


 ライたちの様子を眺め、笑みを浮かべるのはレイとエマ。

 二人は魔力が無く、魔法や魔術を使えない。それでも十分に戦えるが、それらを行えない為に今回は見学に回っているのだ。

 感想はと言うと、子を見守るような親の心境であり、フォンセたち同様微笑ましくライを見ていた。


『意外だな、あれ程の力を秘めていて魔術は満足に使えないか……。まあ、俺も魔法・魔術は使えないが』


『フッ、俺はよく見ていないが、あの少年にそれ程の力があるのか。にわかには信じられないが、雰囲気が既にそれを物語っているようだ』


 此方に居るのはライの特訓を眺める孫悟空とドレイク。

 孫悟空は目の前に居る、魔王を宿しており支配者に匹敵する力を使えるライが魔法・魔術と言った基礎的な力が使えていないという事実に驚いていた。

 あの実力ならば、四大エレメントを全て巧みに扱え、それらを応用した魔法・魔術も全て上級者レベルに使えると思っていたからだ。

 孫悟空の言葉を聞いたドレイクは目の当たりにしていないが、ライにその様な力があるのは理解していた。

 見た戦闘と言えばグラオと魔物の国の支配者を同時に相手していた時だが、あの時は三人共全くの本気では無かった。なので本来の力が分からないのだろう。

 しかし感じる何かの気配。それによってドレイクはライを強者と理解していた。


「じゃあ次は土の応用ですね。ライさん、土魔術はどれ程?」


 次いで説明されるのは土魔術の応用。

 四大エレメント炎水風土の一つである"土"だが、最も応用が利くのは、実は土なのだ。

 土というものは砂から鉱物、宝石など一概に言い表せる事は出来ない程多くの物質を造り出す事が出来る。

 事実、魔術では無いがニュンフェの魔法。それを使い、ニュンフェは人が住めるような要塞を造る事が出来た。

 純粋な殺傷力や闇夜を照らすならば炎。拷問などに使ったり、喉を潤すなら水。空を飛び、移動するのなら風。と、攻撃を含めながら攻撃以外にも様々な方法がある四大エレメント。

 土は応用性に掛けて右に出るものは無く、あらゆる物を造れるのだ。

 その分相応の鍛練が必要な為、土を扱う者に多いのは熟練の加治屋などである。

 ライ、フォンセ、リヤン。そしてニュンフェ、アスワド、いつぞやのゼッルなど。四大エレメントの全てを使える者は実力者に多く、魔法・魔術に長けている者でもそうそう使う事は出来ないのだ。


「土魔術か……"ランド"!」


 ニュンフェに言われ、土魔術を使用するライ。

 ライの言葉と同時に大地が浮き上がり、小さな山のような物が造られた。

 攻撃や防御をするのなら相応の力を使うが、ただ土を造るだけならばこの程度でニュンフェはどれ程の力なのか分かるのだ。


「成る程。自然の形を変化させる事は可能のようですね。後は攻撃や防御を行ってみて下さい」


「ああ、よし……」


 歩きながら練習をする事数分。春の暖かな気候は持続され続けているが心無しか遠方から冷え込みを感じた。

 春と来て、夏を回らず秋となる。そのように、何とも不思議で変わった冷え込みだった。

 魔族の国は冬。幻獣の国は春。となると、魔物の国は秋という事だろうか。

 ならば人間の国は夏。それが今の気候なのだろう。

 ライが旅立ってから数ヵ月は経過している。しかし半年にも満たぬ小半年程度だ。そんな半年も経たぬ旅にて、あらゆる事を体験したライたち。

 本来ならば一年掛けて変わる季節の四分の三をたった約三ヵ月で体験する事になるとは、中々奇っ怪なものだろう。


「そういや、魔物の国まではどれくらい掛かるんだ? 魔族の国から幻獣の国は数週間で着く程度の距離だったけど……まあ、支配者の街だったってのもあるんだけどな」


 ふとライは、幻獣の国から魔物の国までどれ程の距離があるのか気に掛かった。

 本来世界は、狭いものでは無い。街から街に行くには徒歩ならば数時間から数日。国から国へ徒歩で行くならば数週間から数ヵ月は覚悟しなくてはならない程だ。

 基本的に支配者の街からは隣接する国に近く、数週間で別の国へ行ける距離となっている。

 なので魔物の国から幻獣の国へは数ヵ月も掛からず、一、二週間で辿り着けた。

 しかし一瞬だけ遠方から感じた気候からして、今居る場所と魔物の国は真逆の位置にあると分かった。

 だからおかしいのだ。魔物の国は幻獣の国の隣にあると言われていた。しかし何故気候が夏や冬では無く秋なのか。それが気に掛かるライ。


「そうですね。説明すると長くなりますのである程度は省略します。まあそれでも……はい、確かに幻獣の国に近隣にある国は魔族の国と魔物の国と言われています。けど、それは海を隔てた場合にのみ魔物の国が近隣にあると言う事なのです。徒歩で行ける場所は勿論ありますが、全ての世界が繋がっているという訳では御座いません。まあ最も、世界の土地は大部分が人間の国の物ですけどね。それはさておき、魔物の国の支配者の居場所はドラゴン様の街"トゥース・ロア"から行くなら徒歩ですと確実に半年は掛かりますね。元々、魔物の国は世界的に見てその土地はかなりの距離があります。距離というのは物理的なもので、全ての国からかなり離れており宇宙から見たらその国だけが隔離されているように見える程です。なので幻獣の国と近隣に位置するといっても、全ての国の中で一番遠い場所に位置するということなのです」


 説明を終え、ふうと一息吐くニュンフェ。更に詳しく言えばもっと長くなるだろう。省略した今ですらこの長さだったのだから。

 つまり魔物の国は幻獣の国のみならず、世界的に見てもかなりの距離があるらしい。

 なので隣接すると言われているとしてもそれ程近くなく、どちらかと言えば人間・魔族の国が近いのだ。


「へえ、それじゃどうするんだ? その気になれば俺が全員運べるけど……。まあ、孫悟空やドレイクは俺が運ばなくても着いて来れると思うけどな」


 その話を聞き、納得しつつどのように動くか話すライ。

 ライや孫悟空、ドレイクならば此処から数分で魔物の国に到着するだろう。その気になれば秒も掛からずに到達出来る距離だ。

 今まで二つの国を回ったが、いずれにしてもライの移動や味方の移動方法で短縮して国を回れた。なのでライが旅立ってからたった三ヵ月程度しか経過していないのである。

 それは兎も角、そんなに距離がある場所。そこへどう行くかが問題だった。


「そうですね……確かに直接進むのは良いかもしれませんが……昨日の今日ですのでライさんたちには少し休んで貰いたいのが私の心境です。密度の濃い旅をしているようなので二、三日程度でも休憩して欲しいです」


 それに答えるニュンフェは、旅で疲れているであろうライたちには少し休んで欲しいとの事。

 世界征服の事は聞いていないが、ライたちがどんな旅をしたかは聞いている。

 ニュンフェが旅の内容を聞く限り、ライたちは殆ど休まずに旅を続けているようだった。

 幾ら回復の魔法・魔術がありリヤンの触れるだけで相手を癒す力があるとはいえ、休みの少ない旅は非効率だろう。

 目的を遂行すれば良いという事では無いからだ。疲労によって思考が回らなくなり、全ての作業が遅くなる事もあり得る。

 特に戦い続きのライたちだからこそ、より一層身を休める必要があるとニュンフェは考えたのだろう。


「そうか? いや、確かに俺は良いけど……レイ、エマ、フォンセ、リヤンが心配だな。俺の所為で疲労が溜まって倒れたんじゃ俺の責任だ」


 それを聞き、一理あると話すライ。

 この短い期間でライたちは数々の戦闘を行った。そして個々にかなりの実力も身に付けた。

 ライたちはエマを除き全員がよわい二〇歳以下のである。数百歳でも成長出来るこの世界に置いて、若さがあるので成長も早いのだろう。

 しかしだからと言って、休まずに戦闘を続けるのは確実に蓄積疲労が多いのでレイたちに掛かる負担は激しい筈だ。


「うーん、私は別に……昨日はマギアと戦って結構疲れたけど……十分に休めたからね」


「私は元々休憩を必要としない種族だ。今は日差しが強く傘が無ければ死にそうになるが……それ以外の疲れは無いからな」


「まあ、私も結構休んだからな。一日二日で完全に回復はしないが、動く分に支障は無い」


「私は……。自分でも分からないかな……けど、問題は無いよ」


 しかしレイ、エマ、フォンセ、リヤンは大丈夫と告げる。

 簡単に回復する程生き物の身体は万能では無いのだが、ライに気を使っているのか無問題との事。


「うーん、でもやっぱり少しは休んだ方が良いと思う。たった数ヵ月だけど、日々の密度の濃さから思ってるより疲れているかもしれないからな。魔物の国には数日後に向かおう。レイたちには苦労掛けているからな」


 遠慮するレイたちの言葉を聞き、それでも疲労している筈なので少しは休めたい心境のライ。

 事実、ライにはレイたちを休ませたいという気持ちもあった。

 常に"死"が隣にある状況が多い現在。心身共に休ませるというのはこれからの事を考えれば、必要となる事だろう。


「そうかな? うーん、まあ、魔物の国の人達もいつ私たちが来るか分からない筈だからねぇ。明日攻めるって昨日言ってなかったし」


『まあそもそも、お前たちは若い癖に色々と面倒な事を考えてい過ぎだ。明日どうなるか何て分かる奴は少ないからな。若者は明日を考えず向こう見ずに進めば良いんだよ。もう少し遊んでみろ』


『ああ、自由に生きるのは悪い事じゃ無いな。それがやり辛い者も多いだろうが、俺は自由に生きてるぞ』


 ライの言葉に揺らぐレイと、笑いながら話す孫悟空にドレイク。

 実際、魔物の国へ行くとは告げたがレイの言うように何時行くのかは言っていない。

 裏を掻くという意味でも、休憩するのは悪くないという事だ。


「そうか。じゃあ、魔物の国へ進みつつ、世界の様子を少し眺めてみるか。何処かの街に行きながらなら進みつつ休めるからな」


 各々(おのおの)の意見を取り入れ、一番良い方法を考えて話すライ。

 幻獣の国から数時間。魔物の国の場所とおおよその距離が分かり、これから魔物の国へ向かうまでの目的を決めた。

 レイ、エマ、フォンセ、リヤンもその事に対して

 少しゆっくりと先を進み、身体を休めつつ魔物の国へ向かうライたちは再び歩を進める。

 しかし魔物の国へは、思ったよりも早く着く事になるだろう。そしてその数日後、予想通り思ったよりも早くにライたちは魔物の国へと入った。

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