三百四十八話 地上の戦い・終了
『……お前は……!』
『よォ、親父。元気だったか?』
その、赤いドラゴン。
赤いドラゴンが降り立った瞬間、支配者であるドラゴンがまじまじと視線を向け、驚愕したような表情で話し掛けた。
その事から、赤いドラゴンについて詳しく知らないライたちも何かを察する。
それはヴァイス達も共通しているようで、逆に幻獣の国の者達と魔物の国の者達。そしてぬらりひょん達百鬼夜行はその赤いドラゴンが何者かを知っているらしい。
『──『ドレイク』よ。戻って来たという事は支配者を継ぐ気になったのか? それとも、野生の勘とやらで危機に気付いたから戻って来ただけか?』
『そうだな、答えるなら後者だ。俺は支配者を継ぐ気は無いが、自分の国が危機に瀕しているのなら相応の対処を取るつもりでいる』
ドレイク。それが赤いドラゴンの名前。
ドレイクはドラゴンの言葉に対し、支配者を継ぐつもりは無いのだが国が気になったので来たとの事と告げる。
ライもドラゴンに息子が居ると聞いた事がある。
聞いた話では悪い者では無いが些か自由な性格らしいので、行動を縛られる支配者というものには興味がないのだろう。
そんなドレイクが此処に来た理由は国が心配との事。支配者に興味は無いが、国が心配なのは別におかしくない。
「やれやれ、また相手側に味方が増えたよ。四面楚歌とはこの事だね。まあ、主力だけで言うのならライ達と幻獣の国の者達。三妖怪に四神と魔族の国の支配者チーム、そして赤いドラゴン。対するは私たちと百鬼夜行、魔物の国。チーム別なら五チーム&一匹vs三チームだけど、私たちには生物兵器や妖怪達と兵隊の数が多いから五分五分かな」
「クク、ドラゴンの相手はお前何だっけか? 俺も手伝うぜ、ヴァイス」
幻獣の国側に付いた赤いドラゴン、ドレイク。
そんなドレイクを見つつ、互いの主力人数を数えてチーム分けし互いの戦力を見極めるヴァイスと、戦闘に嬉々として参戦するシュヴァルツ。
主力の数では国二つが揃っているライたちの方が上である。しかし、ヴァイス達には不死身の生物兵器や生命力の高い妖怪が居る。
純粋な力比べならばライたちが優位に立てるだろうが、長期戦となるとヴァイス達が上に来るという事である。
「余所見をするな、ライ!!」
「僕の相手もして貰うよ!!」
「はあ、こっちもこっちだな」
ドレイクに視線を向けていたライだが、そんなライに向けて魔物の国の支配者とグラオが一気に距離を詰め拳と脚を仕掛ける。
そちらに気を取られてはいたが、警戒を解いた訳では無い。
なのでライは即座に対応し、二人の攻撃を受け止めた。
グラオと支配者本気ならば七割程度では受けられないが、グラオは様子見。支配者は本来とは違う姿で力を使わないので受け止められたのだ。
「二人を相手するのは結構面倒だな……」
受け止めた瞬間に手を離し、二人の身体から距離を取った瞬間即座に詰め寄り今度はライがグラオと支配者目掛けて回し蹴りを放った。
二人はそれを躱し、ライの脚が通った跡には粉塵が巻き上がる。
その粉塵は即座に消え去り、ライ、グラオ、支配者が上空に移動しており同時に拳を放つ体勢となっていた。
「「「オラァ!!」」」
そして、放たれた。
空中で放たれた三つの拳は大きな衝撃を撒き散らし、全ての雲を消し去り風圧のみで遠方にある高さ数百メートル程の山々を崩す。
そのまま衝撃は地に進み、大きなクレーターを造り出してライ、グラオ、支配者は着地した。
「うん、やっぱりこの星じゃライと戦るには狭過ぎるかな……僕も全力を出せないや」
「フム、一理あるな。余の仮の姿ですら星が滅び兼ねん。小さい星よのォ」
「まあ、俺たちが本気で戦うなら……恒星や銀河系ですら小さいだろうからな」
数撃のみ交わして着地し、改めて周りを見渡すライ、グラオ、支配者。
その攻撃のみで山河は砕け、森は吹き飛び、何もなかった場所には巨大なクレーターが造り出されている。
グラオを除いたライたちにとって、己の生まれ育った星は狭いのだ。
成長してから里帰りをすると、生まれ育った街や村が小さく感じる現象がある。恐らくライたちはそれに直面しているのだろう。
最も、規模はかなりのものであるが。
「まあ確かに、今この国で乱戦を行うよりは個々で相手をしたいね。支配者さん、アンタもそうでしょ?」
「まあ、そうだな。余も戦闘を行うのならば個人で仕留めたい。特に、先程は何度も叩いてくれたからな……」
「ハハ、それはアンタがフォンセを傷付けたからだ……今は落ち着いたけど……その気になればアンタを殺す」
「上等だ……!」
「ハハ、楽しそうだね」
三人は交わし、各々の言葉を言った後に改めて構える。
やる気はあるが、星が砕けてしまわぬよう細心の注意を払う必要のある現在。
一先ず戦闘は続行するライ、グラオ、支配者の三人だった。
*****
──戦闘は、終わりが見えずに続く。
今回戦っているのは主力たちのみだが、何れ両軍の兵隊なども駆り立てられるだろう。
幻獣の国とヴァイス達が行っていた戦争。それは次第に事が大きくなり、最終的には世界を巻き込むものに変化しつつあった。
『伸びろ、如意棒!!』
『"天狗の扇"!』
『"妖術・水月"!』
『"妖術・陽炎"!』
『ブヒィ!!』
『ハァッ!!』
一方では妖怪たちが鬩ぎ合い。
『ハッ!!』
『カッ!!』
「ハァ!!」
『フッ!』
『ハッ!』
「そら!」
一方では幻獣の国の幹部たちと魔物の国の幹部達。そして二人のヴァンパイアが鬩ぎ合う。
『協力しろ、ドレイク!』
『言われなくてもな!』
「"大地再生"!」
「"物質破壊"!」
一方では炎を吐く二匹のドラゴンと、それを防ぐ二人の姿。
このように、終わりの見えない戦闘が延々と続きつつある今現在。
それが嬉しい者も居るのだろうが、ライたちとヴァイス達は連戦後。
精神的なダメージは、魔物の国と百鬼夜行の方が少なく有利だろう。
つまり、今の終わらぬ戦争。それに置いて、必然的にヴァイス達率いる侵略者組みが優位に立てているという事だ。
しかしそれならば、ライたちにもシヴァのような戦闘を行っていない協力者が居るので力比べでもそうそう比毛を取る事は無いだろう。
「……で、何で争いが起こっているんだっけか」
広がる争い。それについて気になったライは小首を傾げ、戦闘を続行しながらグラオと魔物の国の支配者に尋ねた。
一応口実は話し合いという事だったのだが、今現在は見ての通り主力たちが己の力を使いつつ争いを広げているのだ。
それを疑問に思うのは、何ら不思議では無いだろう。
「さあ? 僕ともう一人がライを狙ったから……かな? 一人が飛び出れば周りの人達も釣られる事があるし、特に僕たちのような主力が相手だったらね」
「うむ。余はライ、お前を殺したいのだからな。周りは知らんが、余は自分の好きにする」
それに返すグラオと支配者。
グラオの考えは自分と支配者がライを狙った事で周りにも影響を与えてしまい、攻めても良いという環境を作ってしまった事が原因との事。
生き物は周りに流される事があり、その流れの原因が主力のグラオだったので周囲の思考が変化したのだろう。
支配者も支配者で、自分が戦いたいだけなので周りはどうでも良いと言う。
基本的に自由な支配者は、周りの事など知った事ではないのだ。
「うーん……主力が飛び出しちゃった以上、簡単には流れを戻せないよな。話し合いをするだけなら、俺も聞こうとは思ったけど」
グラオと支配者を相手にしつつ、考えるように話すライは周りに視線を向けその様子を見ていた。
一方では妖怪。一方では幹部同士。一方ではドラゴンたちとヴァイス達。
かなりの強敵である二人が相手なのでゆっくりと眺める事は出来ないが、収まる気配の無い戦闘。元々戦闘好きでは無いライは少々嫌気が差して来ていた。
戦闘は避けられない道だが、話し合いが出来るのならこの場は収まる筈だからだ。
「"集中砲火"!!」
「"大地震"!!」
「"ブラックホール"!!」
「"大洪水"!!」
「「「……!」」」『『『……!』』』
「「「……!」」」『『『……!』』』
「「「……!」」」『『『……!』』』
広がる戦火のその最中、四つの声と共に銃や大砲が放たれ、大地が大きく震動する。
続いて中心付近に黒い穴が創られ、レヴィアタンの為に創られた海が塵となって宇宙空間に放出される。
最後には月が雲に隠れ、一瞬にして川を彷彿とさせる水が大樹付近に流れ込んだ。
その光景はさながら、神が悪戯で何かを創ったかのよう。
「テメェら、勝負するのは一向に構わねェが……ちと落ち着け。今はその時じゃねェだろ? まあ、どっちかと言えば俺も参加した……」
「させませんよ?」
「……」
その光景を背に、ライたちとヴァイス達全員に向けて話し掛けるシヴァ曰く、戦闘するのは構わないが今は違うととの事。
シヴァ的には参加したいらしいが、途中でシュタラに止められ口を噤む。
それから気を取り直し、改めて言葉を続けた。
「……まあ兎に角、だ。今回は戦闘を行うべきじゃねェって事よ。テメェらの目的はライたちから聞いた。なら、此処でその選別対象を減らす訳には行かねェ筈だ。ライと戦いたいって奴らも何人か居るが、この二日で精神的に疲れているライを倒してもつまらねェだろ? だったらまた後日、別の場所で戦闘を行うってのはどうだ? 今この世界でテメェらに敵対しているのは俺たちのみ。そしてテメェらの目的を知っているのもな。つまり、俺たちを取り込めりゃ、もう世界は手中に収めたようなものだろ?」
「「「…………」」」
『『『…………』』』
淡々と話すシヴァに、動きを止めて集中するライたちとヴァイス達。
気付けば戦闘は収まっており、この場に居る主力たち。皆が無言でシヴァを見ていた。
「フフ、確かにその通りだね。……けど、私はそれでも構わないんだ。グラオたちがどうなのか、それが疑問だね」
シヴァの言葉を聞き、フッと笑って話すヴァイスはグラオ達の方へ視線を向けた。
ヴァイスは元々、話し合いのみをするつもりで此処に来た。昼間は戦争目的だが、今は争うつもりは無かったのだ。
しかし好戦的な者達にそれが抑えられる筈も無く、今に至るという訳だ。
なので話し合いが出来るのならそれで良いが、出来る可能性が少ないという事が問題だった。
『ならば、此処は俺の故郷だ。自分で言うのも何だが、実力はシヴァさんに親父、そして魔物の国の支配者にも比毛を取らないと自負している。まだ戦いたい者には、俺が代わりに戦おう。俺が来たのは今さっき。それなりの苦労をしなくてはならないからな』
シヴァとヴァイスの言葉を横に、反応を示し空へと羽ばたいて話すのはドレイク。
実力だけならば支配者クラスあるドレイクだが、此処に来たのはつい先程。色々と思うところがあり、国の為に戦闘を行えなかった事を兼ねて戦おうと名乗り出たのだ。
「なら、無論俺も相手する。支配者が易々と戦闘に名乗り出るのはあれだが、俺の国の幹部が参加してたからな。俺的にも、少し戦闘を行いたい気分だ」
「ふう……仕方ありませんね。シヴァ様がそう言うのなら我ら側近も戦いましょう。これ以上戦闘を続けても無駄。戦い足りない者が居るのなら、私たちも参加します」
「おう、良いぜ」
「ああ、良いよ」
「うん、良いわ」
次いで名乗り出るのはシヴァ率いる魔族の国の支配者とその側近たち。
魔物の国の幹部が参加していた戦闘に置いて、自分たちも参加しなくては示しが付かないので参戦するとの事。
「……て事だ。一旦戦闘は中断して、テメェらの言いたい事を述べな。戦いたい奴が居るなら俺たちとドレイクが相手をする」
意見を取り入れ、纏めるように話すシヴァ。
大部分は終わった筈の戦争に置いて、私怨で戦闘を行うのは少々気掛かり。
なので戦い足りない者が居るのなら支配者たちが直々に相手をするらしい。
「フム、余的にはまだライへの怨みは晴れていないが……この姿では戦闘を行うに当たって本来の力は出せない。ならば一時的協力関係にある者達に従ってやらん事もない。好きにするが良い」
「僕はシヴァとドレイク? ってドラゴンが相手してくれるなら構わないけど……まあ、今回は引き下がった方が良いのかな。僕は空気を読まない訳じゃないし、ライとは本気で戦いたいからね」
それを言われても尚、まだまだ好戦的な態度である魔物の国の支配者とグラオ。
戦う気力は有り余っている様子だが、場の空気とライと本気で戦いたいという事から引き下がってくれた。
しかしライ的には有り難い事かもしれない。流石のライでも世界を収める四つのうちの一つの支配者と、原初の神であるカオスを相手取るなど骨が折れるからだ。
それに続き、三妖怪に四神、幻獣の国の幹部たち。魔物の国の幹部達に百鬼夜行も仕方無いとため息を吐き、警戒しつつも戦闘体勢を解いた。
「なら、今此処に来た事を君達に話そう。長々と語るつもりは無いから、その辺りは安心してくれ」
張り詰めてはいるが、張り詰めているなりに場の空気が緩くなったのを見計らい、ヴァイスが本来の目的である"話し合い"をしようと告げる。
ライたち魔族、幻獣、魔物、妖怪問わず全ての主力がそちらに視線を向け、ヴァイスの言葉に耳を傾けた。
「単刀直入に言おう。私たちが話し合った結果、選別する為に先ずはこの国を手に入れるという結果になった」
その言葉に、ライたちは全員がざわめき立つ。
特にライはピクリと反応を示し、幻獣たちは幻獣たちで敵意を剥き出しにしながらヴァイスを睨み付ける。
しかし余計な言葉は出さず、ヴァイスの言葉を静聴していた。
仮に此処で誰かが、"何故そんな事をする"。と文句を言ったとして、それはこれから説明される事だ。
なので静聴していた方が早く話が終わるので、文句を今言う必要は無い。
「他の国はまだ決めてないけど、結果的何が起こるか大体予想出来る筈だ。それなりの覚悟を決めていてくれ。私たちの目的は悪魔で優秀な者の選別。世界何かには全く興味が無い。そして私たちは、魔物の国を拠点とする。既に支配者の許可も貰っているからね。まあ、長々と語りたいけど、面倒だ。優秀な生き物の選別は、大本から落として選ぶって事になったってだけ。それ以上でも以下でも無い。これくらいだね、ご静聴、感謝申すよ」
説明を終えたヴァイス達はライたちを背に闇の中に消えて行く。
それに続き、魔物の国の者達と百鬼夜行の者達もいつの間にか遠方に離れており、ライたちから距離を置いていた。
このまま後を追っても良いが、如何せん今は疲れている。深追いはあまり得策では無いだろう。
「……」
「……ライ?」
消えるように帰るヴァイス達。
そんなヴァイス達を見届けるライに、何かの違和感を覚えたレイがライに近付きそっと肩に手を置いて尋ねる。
ライは一度レイに視線を向け、何かを覚悟したような顔付きでそちらに向かった。
「オイ! 魔物の国の奴等!! 俺の話を聞け!!」
「……む?」
『『……?』』
「……へえ?」
そして帰ろうとしていた魔物の国の主力達に視線を向け、大きな声を出して叫ぶ。
者達は停止し、支配者と幹部は訝しげな表情でそちらを見、ブラッドは楽し気に視線を向けた。
二人と二匹を前に、ライは真剣な顔付きで口を開く。
「俺は何れ、お前達の居る魔物の国を征服する!! お前達が幻獣の国を攻めるより前に、お前達の国は俺たちの物になると思え!!」
ライが言ったのは、宣戦布告の言葉。それはヴァイスの言う、幻獣の国を落とすという発言に被せるような言葉だった。
「……フフ、言うでは無いか……余の国を落とす……か。させる訳無かろう……小童が……!!」
『フム、中々見込みのある者だ』
『まあ、うちの支配者に喧嘩を売るとは、身の程知らずも良いところだがな……』
「どうなったとしてもそれが天命……まあ、今はまだ分からないな」
その言葉に対して魔物の国の支配者はフッと笑う。が、目は笑っていない。寧ろ怒りの色が見えるような、そんな雰囲気だった。
互いに言葉を交わし、魔物の国の者達とヴァイス達に百鬼夜行。それらは皆消え去る。
これにて幻獣の国での騒動は、新たな因縁を残し幕を下ろす形となった。