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三百四十七話 両軍の主力たち

 ──日が落ちてから数時間が経過した。

 幻獣の国も落ち着きが見え始め、敵の兵士達はもう居ない。

 幻獣兵士のみならず、大樹に避難していた住民たちも外に出ており安心出来る空間が広がっていた。

 無論、外というのは大樹の外では無く大樹にある部屋の外という意味だがそれはさておき、殺伐さつばつとした雰囲気が無くなり比較的平穏な空間が作られているという事だ。


『ド、ドラゴン様! ラ、ララ、ライさんたちと、べ、別の御一行が見え……御見え……御見えになりました!!!』


『む? そうか、分かった。直ぐに向かおう』


 一匹の小さな竜兵士がドラゴンの前に現れ、ドラゴンに向けてライたちと他の一行が見えたと告げる。

 その竜はかなり動揺しており、その様子が気に掛かるドラゴン。

 しかし既に情報は先程戻って来たばかりのフェンリルによって伝えられている。なのでドラゴンは特に何も言わず、大樹の外へ向かった。


「ドラゴンの旦那、奴等は来てないか?」

「ドラゴン、無事か!?」


『俺は無事だが……いきなり何だ?』


 ドラゴンがそこに向かったその時、フォンセを背負ったライとライに着いていたシヴァが慌てた様子で大樹内へと入って来た。

 先にシヴァが言い、次に話すライ。その理由が飲み込めないドラゴンは訝しげな表情をし、首を傾げて二人へ返す。


「いや、無事なら良いんだ。一先ず此処に主力たちを集めてくれ。あと住民も部屋で待機するように伝えるんだ。ある程度の事が終わったら皆に説明する。事態は一刻を争うものだからな」


『そうか、分かった。直ぐにみなを集め、住民たちは避難させよう。お前たちは信用している。何かあると言うのなら、本当に何かがあるのだろうからな』


 大樹に何も影響が無かった事へ安堵しつつ、即座に切り替えて先程のやり取りを伝えようと試みるライ。

 まだ支配者とぬらりひょん。そしてヴァイス達が来ていないと分かったので、早めに伝えるつもりだからだ。

 ドラゴンは皆まで聞かず、ライとシヴァの目のみを見て頷く。

 年の功という奴だろうか。素振りや目付きだけでそれらを見抜くのは流石という他に無いだろう。


「じゃ、俺たちも急ごう」

「ああ、お前たち、行ってくれ!」


「「うん!」」

「ああ」


「ええ」

「ああ」

「了解」

「うん」


 ライとシヴァの指示を聞いたレイたちとシュタラたちも行動に移り、迅速な対応を行う。

 一先ず大樹に辿り着き、何かが起ころうとしていると告げたライたち。

 魔物の国の支配者達とヴァイス達は、まだ大樹にやって来ない。



*****



「……う……ん……?」


 木を使ったベッドの上でフォンセの目が覚めると、辺りは騒々しかった。

 魔族の人々や兵士たち。幻獣の住民、兵士たちは忙しなく東奔西走しており、ただならぬ事態が起こっていると寝起きのフォンセも即座に理解する。


「何が……? 確か……私は……」


 掛けられていた柔らかな毛布を取り、ゆっくりと身体を起こすフォンセ。

 この状況を理解する前に何がどうして寝ていたのかを考え、数時間前の出来事を思い出す。

 ライたちと共にリヤンを探し、何者かと出会って戦闘を行った。


「……! そうか、私は……!」


 フォンセが戦った相手、支配者。

 世界で中心的な四つの国のうち一つを収める神に等しき、神や魔王レベルの力を誇った者達の総称。

 フォンセはその支配者と戦闘を行い、手も足も出ずにやられてしまった。

 最後に見た光景は、頼もしい仲間の姿。そこで気を失い、今に至るという事だ。


「ライ、エマ……! あの場に居なかったレイとリヤンも無事なのか……。いや、二人は居たのかもしれないな。…… 私が此処に寝ていたという事は誰かが連れて来てくれたって事だ。服も修復されているし、傷も無い。ライたちは無事と考えて良さそうだな……」


 一瞬ライたちが無事か気になったフォンセだが、自分自身の身体や諸々の情報から推測しライたちは大丈夫と分かった。

 取り敢えずベッドの上に座っていても意味が無い。一先ずフォンセは立ち上がり、周りの様子を眺めつつを進める。

 喧騒は辺りに響き続けており、収まる気配は無い。

 人と獣の間を進み、この部屋の出入り口へ向かうフォンセ。


「さて、何故こんなに騒がしいのか……」


 部屋の外に移動し、周りの様子を見て歩きながら考えるフォンセ。

 魔族の者たちと幻獣の者たち。それらが兵士住民問わず、忙しなく動いている現在。

 見たところ敵の姿も無いのに、何がどうしてこうなったのかを理解する必要がそこにあった。


「あ、フォンセさん! 目が覚めたのですね!」


「お前は……ニュンフェか。良かった、主力の知り合いが居て。一体何事だ?」


「ええ、実は……」


 歩いていると話し掛けてくる者、エルフ族のニュンフェがそこに立っていた。

 フォンセはニュンフェの姿を確認し、何故この大樹がこんなに騒がしいのかを尋ねる。

 フォンセは目覚めたばかりなので何も分からないと、ニュンフェも理解している。なので歩きつつ、フォンセに向けて説明をした。


「成る程。ライとシヴァがそう提案したのだな。それで兵士と住民は警戒を高め、何時でも迎え撃てるよう、主力たちと一部の兵士は外で話し合う……」


「その通りです。敵も支配者となれば、確実に大きな戦闘となる事でしょうから」


 真剣な顔付きで話す二人。

 病み上がりのフォンセだが、既に大部分は回復しているようだ。

 傷は勿論、少し眠っていた事で精神的な疲労も楽になっている。

 なのでシヴァたちが来た事には特に驚かず、ニュンフェの説明に耳を貸していた。


「では、大樹の出入口に着きました。皆様はもう来ているようです」


「ああ」


 話しているうちに出入口へと辿り着き、そこから涼やかな春の夜風が吹き抜けフォンセの美しい黒髪を揺らす。

 そして大樹の外へと飛び出し、フォンセの視界に月が映った。



*****



「フォンセ! 良かった、目が覚めたんだな!」


「ラ、ライ……!?」


 外に出るや否や、歓喜した様子のライがフォンセに抱き付く。

 余程心配だったのだろう。回復したとはいえ、フォンセが受けたのは支配者の攻撃。前に最愛の祖母を目の前で処刑されている事から、ライにとっては仲間の安否が最も重要なのかもしれない。

 対し、突然抱き付かれたフォンセは慌てふためくが何とか落ち着き、この場には今幻獣の国へ集う主力が全員揃った。


「フォンセ、話は?」


「ああ、既に聞いた。厄介な事になりそうなんだってな」


「その通りだ。此処に居る皆には話したから……あとはどうするかの話し合いだけだな」


 改めてフォンセに尋ねるライ。

 それは支配者やぬらりひょん達。そして本命であるヴァイス達について聞いたのかという事。

 フォンセは頷いて返し、ニュンフェに聞いた事を話す。ライも頷き、敵が攻めて来た時どのように対処するかをこれから話し合うらしい。

 なので主力たちを集め、真剣な話し合いが行われようとしていたという事だ。

 それは可能だ。何故なら、この場には幻獣の国に居る全ての主力が集まっているのだから。



 ──そう、全ての主力が。



「フフ、皆、見事に全員が集合しているね……まあそれは私たちにも言えることだけど」


「これ程までの役者、豪華過ぎて眩しさも感じるのぅ」


「フン、下らぬ。余はライと決着を付けるだけだ。勝負しろ、ライ!」


「君もライを狙っているの? 僕も狙ってるからそこんとこよろしく」


 大樹の上にて、白髪を揺らす者と異様に頭の長い者。

 そしてライに何かの念をいだく者と、灰髪を揺らしてその者に話す者。

 それら以外にも多くの者がおり、ライたちを見下ろしていた。


「お出ましかい。戦争の主犯さん方御一行様……」


「ハッ、お前が言うのか、ライ? ま、アイツらの中には因縁のやからも居るし……今は関係無いな」


『遂に来たか。正面から堂々と来るとはな』


「アイツらが相手か……なら、今死ぬ訳には行かねェかもな……。地獄に居るゾフルやハリーフは裏切っちまう結果になるが……」


『……! ……ブラックさん……! 貴方やはり……! もしも本当にその気なら、無理矢理治療致します。貴方の街へ、行くという約束がありますからね……!』


「ハッ、そうだな……。じゃ、地獄旅行は先延ばしにすっかな……。ゾフル、ハリーフ、悪いがテメェらと地獄で暮らすのは少し先になりそうだぜ……」


 その者達に敵意を剥き出しにした視線を向け、話すライ。

 それに続き、シヴァやドラゴン。ブラックにフェニックスが話す。

 ブラックの考えは既に殆どの者が見抜いていた。頑なに治療しなかったのは、ブラックが戦った二人にあると理解していたからだ。

 しかし、本当にその予想通りならば全員がブラックを止めるつもりでいた。どの道ブラックは救われていただろう。

 何はともあれ、この場には世界的、宇宙的に見てもかなり上位に入る実力者が揃っているという事だ。


「さて、取り敢えず話し合いをしたいかな。けどまあ、私以外の者達がどういう気持ちなのか、それは分からないけどね」


 大樹の上から飛び降り、ライたちの前に姿を現すヴァイス達。

 その距離僅か数十メートル。ライたちの主力ならば、一瞬も掛からずに到達出来る距離である。

 無論、それはヴァイス達に言える事でもあり、いつ何時なんどき戦闘の火が点いてもおかしくない。そんな状況となっていた。


「ふうん、興味無いな。てか、何でわざわざ高い所に登ったんだ? 馬鹿と煙は高いところがなんとやら、って言うだろ? アンタ達もその口か?」


「フフ、何を言っている。高い所から見える景色を好きな者も居るだろう。それを全て馬鹿っていうのは少々失礼では無いかな?」


「一理あるな。まあ、あれは物の例えだ。高い所は目立つ所。お調子者は高い所が好きっていうな?」


「君には、私がお調子者に見えてた訳か」

「そういう事。良く出来ました」

「馬鹿にしてるね?」

「ああ」

「私は君よりも年上なんだけどな。年上を揶揄からかうんじゃないよ」

「ま、子供のした事だ。許してくれよ」


 他愛の無い会話をするライとヴァイス。

 これを見ると、一見ではライたちとヴァイス達が敵対しているようには見えない。だが、二人を含め全ての者達に警戒と闘志がほとばしっていた。

 ライとヴァイスの行っている他愛ない会話は互いのチームに対する牽制。会話から相手の心情を読み解き、どういう行動が最適なものかをうかがっているのだ。


「取り敢えず……君達に油断や動揺というものは無さそうだね。普通に会話が成立している」


「ハハ、アンタらを前に油断する訳ないだろ。アンタの後ろに居る人達は全員、今にも襲って来ようとしているからな」


「フッ、そうか。じゃあゆっくりと話し合いでもしようか……」


 会話からライたちに油断などは無いと見抜いたヴァイス。

 ライは当たり前と一蹴し、ヴァイスの背後に居る者達へ視線を向ける。

 それを聞いたヴァイスはフッと薄く笑い、両手を広げてライたちに話し掛けた。


「ああ、良いぜ……後ろの奴等が我慢出来るならな?」


「フフ、私は出来るけど……他の者達は分からないなぁ」


 ──刹那、轟音と共にヴァイス達の中から何人かが飛び出した。


「話し合いなど面倒だ! 余はライを仕留める!!」


「ライとやるのは僕だよ。邪魔しないでくれるかな?」


 ──グラオと魔物の国の支配者である。

 支配者はまだ人化したままの姿であり、その姿でライを相手取ろうとしていた。グラオもグラオで、嬉々とした表情をしながらライへ向かう。


「はあ……。ま、話し合いは事が静まり返ってからだな……」


 それを見たライはため息を吐き、己に近付く二人に向けて構える。

 今回の相手は一筋縄では行かない。なのでライは魔王の力を七割纏った。


「相手してやるよ!」


 それと同時に大地を踏み込み、軽く跳躍してグラオと支配者の元へ向かう。

 空中にて光の速度を超え、更にその速度を超えて加速するライ。

 今回は先程のようにライの力に魔王の力か上乗せされる事は無く、魔王の力のみである。

 感情が昂る事で力が強くなるのか、今のライは先程のように魔王を纏わずとも強い力を出す事が出来なかった。だが、それでも十分に戦えるだろう。


「やれやれ、血の気の多い者が多いな。多い者が多いって言い回しに違和感はあるが……まあ良いか」


『総大将。我らも行こう』

『うむ、わらわは丁度退屈してた所じゃからな』

『異議は無い。我も退屈していた所だ』


 戦闘を好む者達を見、此方でため息を吐くのはぬらりひょん。

 者達を見た大天狗と九尾の狐こと玉藻たまもまえ。そして酒呑童子しゅてんどうじは乗り気であり、何時でも行ける体勢になっていた。


『奴ら、妖怪か。……なら、俺たちも行くべきだよな?』

『ああ、同じ妖怪として、相手をしない訳には行かない』

『ブヒッ、相手も丁度三人だからね』


 それに返すべく、此方の三人も体勢を整える。

 同じ妖怪という事で、何か思うところはあるのだろう。


『奴らの理論で行くと、我らは幻獣の国の幹部達を相手取れば良いのか?』


『かもな。まあ、純粋な力や特殊能力ならば戦闘に特化した我ら魔物が優位だが……如何せん我らの主力の半分以上は国に残っている。少々面倒やも知れぬ』


「フッフ、側近も俺だけしか来ていないからな。これも天命、心して受けよう」


 慌ただしくなりつつある幻獣の国の者たちを見、何でもないように話すブラッド達魔物の国の主力。

 今回は悪魔で話し合いだけのつもりだったのだが、どういう訳か戦闘が行われようとしていた。なので少々困惑しているのだろう。


『ならば、我らも二匹だけで挑もうか?』

『ああ、それが良い。連戦に次ぐ連戦で殆どの者は疲弊しているからな』

「同じヴァンパイアとして、相手をしない訳には行かなかろう……私も参加する」


 魔物の国の主力達に向けて話し合うのはエマ、フェンリル、ワイバーン。

 一人と二匹も加わり、より一層場は混沌とし始めていた。


「やれやれ、聞く耳を持たない者達が多いな。ま、これが本来の在り方なのかもしれない」


『ふん、貴様も参加するのなら、俺が直々に相手してやろう』


「そう言えば、今日の戦争で最初に戦ったのは支配者さんだったけか」


 周りの様子を見、不敵な笑みを浮かべながら野生を感じるヴァイス。

 そんなヴァイスの前に、幻獣の国にて支配者を勤めるドラゴンが降り立った。

 ヴァイスはドラゴンを見ても何も思わない風であり、問題無いという雰囲気だ。



 ──その時、一陣の風が通り抜け、新たに何かがその場へと降り立つ。



「「「……?」」」『『『……?』』』

「「「……?」」」『『『……?』』』

「「「……?」」」『『『……?』』』


 者たちはみながそちらに視線を向け、戦闘を一時中断する。

 依然として警戒は解かれないが、降り立った者が放つ威圧感。それを感じ思わず停止してしまったのだ。


『久々に故郷に帰ったら……かなり厄介な事になっているようだ。矢張戻ったのが正解だったな……。途中で色々あって遅くなったが……一体何が』


 長い首と身体を纏う赤い鱗。爪は鋭く、銀色の歯が口から覗く。

 長い首の先にある鋭さが際立つ黄色い目で周りを見渡し、懸念するように呟くその者。

 そこに姿を現した者は支配者とは配色などが違い、風貌も違う──もう一匹の"ドラゴン"だった。

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