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三百四十五話 怒濤の攻め

「アンタがフォンセを此処まで傷付けたのか?」


「ああ、そうだな。奴は弱かったぞ。つまらぬ戯れだった」


 辿り着いた瞬間、支配者に向けて尋ねるように話すライ。

 支配者は即答で返し、フォンセとの戦いはつまらないものと告げる。


「それはどうでも良い。主、そこに居る娘の仲間か? フム、それは中々興味深いな。となると主力の一人という訳だな? そうとなれば話は早──」


「……黙れ」


 駆け付けたライの姿を見、言葉を聞いた支配者は意識を失ったフォンセの方を一瞥して話す。

 しかしライは話を聞かず気に留めず、支配者が話している時にクレーター内で大地を大きく踏み砕いて向かった。

 近くに居るフォンセにその衝撃は伝わらぬよう制御していたライだが、フォンセから離れた瞬間に力を込める。


「アンタがやったなら話は早い、俺はアンタを叩きのめすだけだ!!」


「話くらいしてくれても良いでは無いか。少年よ」


「誰が……!!」


 第四宇宙速度で支配者との距離を詰めて拳を放つライ。その風圧で森が吹き飛び、辺りに粉塵が大きく舞い散った。

 しかし支配者はその拳を見切ってかわし、進み行くライに向けて言葉を続ける。

 かわされた瞬間ライは空中で体勢を立て直し、空気を蹴ってそのまま回し蹴りを放つ。

 支配者は跳躍してそれを避け、そのままぬらりひょん達の近くへ行く。


「ぬらりひょん。アヤツも主力だな? 余の腕をへし折った。かなりの力を持っていると窺えるが」


「うむ、主力の中でも最上級の力を秘めている者だ。噂では、支配者クラスはあると言われておるぞ」


「ほほう? それは興味深い。楽しくなりそうだ」


 近くに行くや否や、ぬらりひょんに重要な事だけを質問する支配者。

 因みにライはこの者が支配者と知らないが、フォンセを傷付けたという事実があるので戦闘を止めるつもりは無い様子だ。その証拠に、支配者が飛び出したクレーターからフォンセを連れて上って来た。


「ライ!」

「フォンセ……!」


 その近くに居たレイとリヤン。

 クレーター内で何が起こったかは分からない二人だが、ライとフォンセの様子から良からぬ事であると理解する。

 ライは傷付いていないが、フォンセは傷だらけ。服も破れており、そこから見える肌も痛々しい怪我を負っているので尋常では無い怪我だと一目で理解出来るだろう。


「レイ、リヤン。フォンセを頼む。上空にはエマの気配もあるけど……今のところエマは問題無さそうだからな」


「うん……」

「任せて、ライ」


 そのまま二人に近付き、かかえたフォンセをそっと寝かせて二人に頼むライ。

 レイとリヤンはそれを承認し、一先ずフォンセを治療する。

 その二人を一瞥し、内に己の怒りを込めつつ目の前に居る支配者とぬらりひょんへ集中するライ。


「フォンセを傷付けた償い……今此処で実行して貰う……!」


「フフ、償い? 金貨でも払えば良いのか?」


「アンタに苦痛を与えるって事だよ!!」


「おお怖い」


 ──刹那、大地を踏み込んだライが支配者の元に近寄り、怒りと力を込めた拳が支配者に放たれた。

 その拳は支配者に直撃し、衝撃のみで前後の方向に砂埃が舞い上がる。

 ライの拳は支配者に受け止められ、ライの動きも停止する。


「オラァ!!」

「力業で無理矢理引き離すか。力は強いようだな」


 その手から離れ、空気を蹴ってそのまま蹴りを放つライ。

 支配者はライの身体を押し上げてそれをかわし、ライの足は空を切る。

 次いで片手から風魔術を使い、空中で体勢を整え流れるように拳を放つライとそれをも防ぐ支配者。それによって二人は弾かれ、爆発に近い轟音と共に弾き飛ぶ。

 それと同時に着地するライと、そんなライに視線を向けて笑う支配者。

 着地した瞬間に粉塵が舞い上がったが、その粉塵は即座に晴れる。

 晴れるや否や、そこには数メートルの距離で向かい合う二人の姿があった。


「良い力だ。十分に余を楽しませられている。その年齢にしてその力、将来が有望だな。その芽を摘むとなると中々に気が引けるものよ」


「そうか、どうでもいい。俺はまだ怒りが収まらないからな……!!」


 一連の攻撃を受け、ライを称賛する支配者。

 戦闘好きの魔族とは違う支配者だが、戦闘に置いて退屈なものよりも対等並みの方が良いのだろう。

 実際のところ、立場上強敵も少なく力を自由に振るえない事が多いので支配者からすればライは壊れにくい玩具なのかもしれない。


「ダラァ!!」

「フッ、まだまだよッ!」


 次いで第四宇宙速度で近付き、そのまま拳を放つライ。

 支配者は折れていない方の腕でそれを受け止め、止めた瞬間ライの脇腹へ蹴りを放った。

 ライは空中で脚を動かし、支配者の脚に己の脚をぶつけて弾くように離れる。その瞬間に再び加速し、支配者の顔へ膝蹴りを放つ。

 支配者は紙一重でそれをかわし、ライが空中に浮かぶ一瞬のうちに腕を振るってライの死角へ狙いを定めた。

 そして、それに対して一瞬の時に風魔術を放ち、その風で支配者から距離を置く。

 魔力から風が構成されるまでには百分の一秒程は掛かるので完全に避け切れなかったライだが、直撃は避ける事に成功し掠り傷のみで済む。

 掠り傷と言えど、支配者の振るった風圧で森の半分が抉れる程ではあったが。


「手応えがあまり無いな……」


「フフ、そうか。しかし、それは余も同じだ。主、まだ本気では無いだろ? 何か、内なる力を感じるがそれを使おうとする素振りを見せぬ」


「へえ、観察力……いや、またそれとは違った力量を測る別の力があるんだな」


「強者というものは自然と相手の力を見極められるのだよ」


 ある程度仕掛けたライだが、支配者にはダメージを負った様子が無かった。

 しかし支配者も支配者でライに対してあまり手応えを感じていない様子だ。

 両者共に本気では無いので、相手にダメージを与えられる事が出来ないのだろう。


「じゃ、フォンセの痛みを知って貰う為に……それなりの力を出すか……(魔王。今回は俺だけでやりたかったが、やっぱりお前の力を借りる)」


【クク、了解。俺の子孫がやられたんだ……俺もそれなりに思うところはあるぜ……】


 そしてライは、魔王の力を纏った。

 月の光が届かぬ闇夜よりも暗く、黒い、漆黒のオーラがライの身体に纏割り付き身体の能力を向上させる。

 闘志が溢れ、力を振るいたい気持ちと内なる怒りが更に上昇した。

 そうライは、『まだ魔王の力を纏っていなかった』のだ。

 今のライは怒りによって身体能力が大きく向上している。速度や力ならば、以前に魔王を纏った四割程度は出ているだろう。

 しかし魔王(元)はライが自分に匹敵する力を宿していると知っている。なので、それにライが気付くまで何も言わない。


「ほう? かなり能力が高くなったな……生き物の中には時と場合で戦闘能力を変化させる者も居るが……主もそれか?」


「さあ、どうだろうな?」


「……!」


 ──一閃、ライは第六宇宙速度。即ち光の速度で支配者との距離を詰めて拳を放った。

 それによって支配者の折れた腕は引き千切れ、その腕のあった半身が消し飛ぶ。

 遅れて衝撃波が辺りに伝わり、そこから目に見えぬ程の距離がクレーターと化した。

 因みに今のライが纏っている魔王の力は、二割程度である。


「フム、成る程。これはかなりのものだ」

「余所見してんなよ?」


 それを受けた支配者は消し飛んだ半身に視線を向けて呟き、その間にライは再び距離を詰めて次は回し蹴りを放つ体勢になっていた。


「ほう……もう次の体勢に移っているのか」

「ああ!」

「……!」


 そして、言葉を発した支配者を吹き飛ばす。

 支配者は木々を抉りクレーターを更に深くしながら飛ばされ、辺りに数百メートルの粉塵を巻き上げながら何とか足を地に着け威力を弱めて停止する。


「オラァ!!」

「……ッ!」


 停止した瞬間、上空から放たれたライの脚に頭を蹴られ、勢いよく地に叩き付けられ大地を陥落させて粉塵を巻き上げた。

 それで収まるライでは無く、前屈みになっている支配者の腹部を蹴り上げ正面に蹴りを放ち更に吹き飛ばす。


「まだだッ!!」

「ぐぬ……!」


 吹き飛ばされた最中さなかにもライは目にも止まらぬ速度で様々な打撃を放ち、一瞬遅れた後に身体の肉片が吹き飛ぶ支配者。

 続いてライはかかと落としを放ち、支配者を再び大地に叩き付ける。そして叩き付けられた支配者を追撃するよう、一瞬の時間にして百を超える拳を正面放ち、砕けた肉体を更に散らす。

 辺りには真っ赤な鮮血が散り、大打撃を受けた支配者はぬらりひょん達の元へ戻される。


「オイ、あのわっぱ……何者だ? 支配者(我ら)以外であのような力を持つわっぱ……聞いた事が無いぞ」


「そうだな、名はライ・セイブル。かつて世界を支配していた魔王……ヴェリテ・エラトマを宿す者だよ」


「成る程……敵も支配者という訳か」


 ライの放った数撃によって両腕は消し飛ばされ、脇腹も抉られて頭から血を流す支配者。

 人化は仮の姿なので見た目程のダメージは無いが、それでもそれなりのダメージは受けている事だろう。


「なあ、ぬらりひょんよ。余は元の姿に戻るぞ……」


「……」


 そして、見て分かるように苛立ちがつのっている様子の支配者は、ぬらりひょんに向けて己の姿を戻すと告げた。

 それを聞いて黙り込むぬらりひょんだが、何を言っても聞かないという事は心得ている。

 なので己が死なぬ為、姿云々は支配者に委ねるつもりでいた。


「元の姿……? アイツ、人化を使っていたのか? というか……『敵も支配者』だって……? "も"って事は……」


 そのやり取りを見るのは既に戻っていたライ。

 支配者とぬらりひょんのやり取りを見つつ、相手から出ている言葉から何を話しているのか推測する。

 ヒントになりそうな言葉を復唱し、ライも支配者の存在に気付きつつあった。


「ならば……この星……いや、この宇宙諸とも余が貴様らを葬ってくれよう……下等な生物共がッ……!!』


 メキメキと身体を巨大化させ、再生しつつ人のような身体が異形の物に変わりゆく。

 いや、支配者からすればそれが本当の姿。異形というのは、人間や魔族が勝手に思い込むだけで、幻獣・魔物からすればその姿が本当の姿なのだろう。

 そう、その姿──


「何か懐かしい顔が見えるな。何やら盛り上がっているが……俺たちも入れてくれや」


「「「…………!」」」


『……!」「……!」


 ──が露になるより前に、一つの声と幾つかの気配がライたちの前に現れた。

 ライ、レイ、リヤン。そして支配者とぬらりひょんはそちらに視線を向け、身体を変えていた支配者は再び人化する。


「おやおや、此方にも支配者殿が……確か……シヴァ殿。だったかな?」


「そういう頭の長ェテメェはぬらりひょん。よくもまあ、俺の国を攻めてくれたな?」


 そこに現れた者、魔族の国を収める支配者──シヴァ。

 ぬらりひょんはシヴァの方に視線を向け、フッと笑うように話す。

 そんなぬらりひょんに向け、シヴァは"シャハル・カラズ"の事を話題に出した。

 百鬼夜行騒動はシヴァも知っている事。思う事は色々あるのだろう。


「クック……久し振りだな、女剣士。前より強くなったか?」

「貴方は……えーと……ず、ズハル! さん!」

「忘れんなよ……」


「御久し振りで御座います、リヤンさん」

「あ……シュタラ……さん……久し振り……」


「ヴァンパイアは居ないみたいだな。まあ、血を取られたし居なくて良かった」


「ふふ、少しトラウマになっているようねウラヌス。彼女は意識を失っているようね……私に勝ったのにこんな簡単に意識を失うなんて……」


 そしてシヴァに着いて来ていたシュタラ、ズハル、ウラヌス、オターレドの四人。

 そんなシュタラたち各々(おのおの)は自分がかつて戦闘を行った者たちに話し掛けていた。

 この場には居ない者や気を失っている者も居るが、その者たちも対象の者を気に掛けているようだ。


「シヴァか。この国に何の用だ? 余は今……少々機嫌が悪いんだが……」


「テメェこそ……人化してまで正体を隠そうとしているとはな……良からぬ事を幻獣の国に運んで来たってのは容易に想像出来るぜ?」


 そのやり取りを横に、魔物の国の支配者に向き直る魔族の国の支配者、シヴァ。

 シヴァとその支配者は話し合い、互いに警戒を高めながら相手の様子をうかがっていた。


「退け、シヴァよ。余はあの小僧と決着を付けねばならぬ……!」


「シヴァ。アンタは手を出さないでくれ。これは俺の……俺たちの戦いだ……!」


 しかし当の支配者はシヴァに興味を示さず、目の前に居るライへ対してのみ話す。

 ライもライで、今はあの支配者と決着を付ける事が優先。

 なのでシヴァに手出しはして欲しく無いのだろう。


「ハッ、何もテメェらの戦いを邪魔しようって訳じゃねェ。俺たちは俺たちで、百鬼夜行に因縁があるからな……国に手を出されて、放って置ける訳無ェだろ。ライ。お前たちみたいに真剣に戦ったなら良いが、百鬼夜行はさっさと帰っちまったからな」


 ライと支配者。その意見を聞いたシヴァは、はなから二人の戦いを邪魔するつもりは無いらしい。

 強い気配が気になったので此処に来た事に違いは無いが、シヴァたちもシヴァたちなりの因縁というものが存在しているのだろう。

 一つの箇所に集ったライ、シヴァと魔物の国の支配者にぬらりひょん。

 レイ、フォンセ、リヤンとシュタラ、ズハル、ウラヌス、オターレド。

 上空に居るエマとブラッドも含め、別の国に居る筈の主力たちが揃った。

 そして、者たちは知らぬがヴァイス達も近付いて来ている。これすなわち、誰がどう見ても今、混沌が始まろうとしているという事だ。

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