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三百三十八話 仲間と合流・地獄の悪魔

「さて、と。こんなところに星があったのか……何か半分抉れているように見えたけど……多分気のせい……じゃないな、うん」


 何故か半分消滅したように見える大きな星に降り立ち、早速辺りを見渡すライ。

 ライは両腕が砕けているが、魔王の力を纏った事で痛みを和らげられており行動するに当たって問題は無い様子だった。

 恐らくそれは、魔王の力がライの力とは別物であるが為に住み分けが出来ているからだろう。

 ライの力と魔王の力は違う。それはつまり、ライが魔王を纏う時身体の半分を魔王に貸しているという事。

 なのでライが受ける肉体的苦痛も半分になっているのだ。


【クク、まあさしずめお前の仲間の仕業だろうよ。……いや、俺の知った気配の持ち主から考えりゃ……お前の仲間の意思じゃねェかも知れねェな。アイツは他人を操れる。そしてこの破壊の痕から考えるに、俺の子孫か神の野郎の子孫が此処に居るかもな】


 それはさておき、今ある破壊の痕から魔王(元)はフォンセかリヤンが此処に居ると推測していた。

 知った気配という者は他人を操れるらしく、ライの仲間の誰かが操られ敵の誰かと戦闘を行い惑星の半分を消し去る程の攻撃を行ったとの事。


(へえ。フォンセかリヤンが操られて……ねえ? それは許せねえな。仲間に手を出す奴は許さない。仲間たちが自分の意思で戦闘をおこなったなら良いけど、操ったってのはな……取り敢えず魔王の知り合い……軽くシメるぞ)


【ああ、構わねェぜ。元は地獄出身の奴だからな。死んでも地獄に帰るだけだ】


 魔王(元)の言葉を聞いたライは、仲間の誰かが操られたかも知れないという事に腹を立てていた。

 例えば自分の意思で戦闘を行ったなら、それは問題無い。

 自分の意思という事は戦闘に対する覚悟を持っていたという事だからだ。

 しかし操られた可能性があるのなら、話は別。どのタイミングで操られたのかは知らないが、操られている間は自分の意思を持てないからである。

 なのでライは、その事に対してキッチリと落とし前を付けて貰うつもりでいた。


(そうか、良かった。じゃあ仲間を探して、その後に仕留めるか……)


【オーケー、任せとけ!】


 例え昔からの知り合いが相手でも気にしない魔王(元)。

 ライは仲間を探したその後、その気配の持ち主とやらを倒すと心に決めた。

 一先ず探しに行くライと魔王(元)だった。



*****


「もう終わり? 幻覚だけじゃ、どうにも出来ないからね。当然か」


「……ッ!」


 その刹那、顔面に拳が突き刺さり、脇腹に回し蹴りを食らうダンタリオン。

 それに受けて吐血し、グラオは畳み掛けるようにかかと落としを放ちダンタリオンはそれを頭に受ける。

 そして勢いよく大地に叩き付けられ、大地が陥落かんらくして辺りに大きな粉塵を巻き上げた。

 現在グラオは、全く本気を出さずダンタリオンを追い詰めていた。それは、簡単に殺してしまったら怒りが収まらないからである。

 普段とは全く違うグラオの様子に畏怖し、何とか起き上がったボロボロのダンタリオンだが腰が抜けたように座り込む。


「立てよ、まだ怒りが収まらない。この僕から楽しみを奪ったんだ。相応の覚悟は出来ているよね? 地獄の底まで追い詰めて、確実に仕留めるよ」


「……!」


 フッと笑い、見下すようにダンタリオンを見やるグラオ──グラオ・カオス。

 しかしその目は笑っておらず、人を惑わす悪魔からしても恐ろしいと感じられるものだった。

 威圧だけで分かる、これが多元宇宙を含めた全宇宙を創り出した原初の神、カオスという事を。

 ダンタリオンは立ち上がれずそこに座ったままであり、目から生気が無くなっていた。


「待て……」

「待たないよ、殺す」

「話だけでも……」

「何故?」

「我らの目的があるんだ、それを報告する為に……! あ、アンタの力を借りたいんだ!」

「オーケー分かった」

「話を聞いてくれるのか……!?」

「目的があるって事は分かった、だからもう良い」

「……ッ!!」


 必死に口を動かし、カオスに向けて話すダンタリオン。

 曰く、カオスに何かの用があったのでわざわざリヤンに宿ってまでこの星へ来たとの事。

 しかしカオス。グラオに話を聞く気は無く、冷めた目付きで淡々と返していた。


「待ってくれ、カオス殿。我らの目的を聞いてくれぬか? この者が言っている事は本当だ。カオス殿に用がある。あの娘はその為に操っただけだ」


 突如として、カオスとダンタリオンの前に姿を現す者。

 虫のように透明な美しい羽を持っており、それを一度羽ばたかせてカオスの前に降り立った。

 美しい白の長髪が揺れ、赤いつり目を持ち印象だけならば高貴な者という雰囲気である。


「……アンタが親玉? 成る程"バアル・ゼブル"。神であり、魔王"ベルゼブブ"であるアンタが親玉ならおかしくないな。元々七十二の悪魔の王だしね」



 ──"バアル・ゼブル"とは、七十二の悪魔を仕える王にして高貴な神であった魔王、ベルゼブブだ。


 その容姿は様々で、牛や蛙、蝿や人間などありとあらゆる姿を持っていると謂われている。


 元々バアルは嵐と慈雨の神であり、普通の者では話す事すら許されない程高貴な神だった。


 ベルゼブブとしては地獄に置いて一、二を争う程の力を秘めており、実力だけならば地獄で一番とも謂われている。そして、主に炎を使って戦闘を行うとされる。


 しかしそんなバアルはとある者に嫌われ、信仰する者全てを消された後崇高なるバアル(バアル・ゼブル)たたえられていた名を蠅のバアル(バアル・ゼブブ)という侮称にされ、半ば無理矢理神の座から引きり降ろされたのちに悪魔となってしまった。


 しかしバアルは元々力の強い神だったので悪魔となってからは地獄を収め始め、そのまま上り詰めて七十二の悪魔の王となる。


 陰謀によって神の座を引きり下ろされてしまった悲しき魔王、それがバアル・ゼブル。ベルゼブブだ。



「我が名を知っているのなら話は早い。ダンタリオンは我のめいによって行動を起こした。話だけでも聞いてくれないか。暇潰しをしたいと言うのなら、話の後に我が直々に相手をしてやろうではないか」


「……」


 腰を低くし、カオスに尋ねるバアル。

 カオスは暫し黙り込み、ダンタリオンに視線を向けた後「ふう」と息を吐いて言葉を続ける。


「仕方無い。何の変哲もない上級悪魔だけならこの場で仕留めていたけど、アンタ程の実力者なら話を聞かない事も無いさ。嵐を司る神にして蝿の王、そして"七つの罪"を具現化させた悪魔のアンタならね……」


 それは、ダンタリオンだけならばこの場で消していたが、元々くらいの高い神であり悪魔としても名を上げているバアルの話なら聞いても良いとの事。

 恐らくカオスなりの気遣いなのだろう。中々に重い過去を持っているバアルだからこそ、そして実力を秘めている強者への敬意と言ったところだ。


「すまない、感謝する」


「良いって事よ、僕は楽しみたいだけだからね。さっきは勝負を邪魔されてかなり苛ついたけど、その勝負の代わりを魔王であるアンタが引き受けてくれるなら構わない」


 カオス。もといグラオは、楽しければ良いと言う考えを持っている。

 なので話の内容が面白そうな事、そしてバアルが自分と戦ってくれるのならそれで良いと考えているのだろう。

 グラオとダンタリオンの戦闘はグラオが圧倒していた状態で中断され、グラオとバアルの話し合いが行われようとしていた。



*****



「あ、リヤン! 大丈夫か!?」


 一方で、自分の仲間を探していたライは、力無く横たわるリヤンを発見した。

 そしてそこにリヤンが居た事から、この星を半分抉った者はリヤンだったと理解する。

 見つけるや否や即座に近寄り、砕けた腕でリヤンを抱き抱えるライ。


「意識は失っているけど……息はしている。心臓の音も聞こえるから……生きているな」


 リヤンの口元に手をかざして呼吸を確認し、胸に耳を当てて心臓の音を聞くライ。

 続いて肌を触り体温も確かめ、リヤンは生きていると理解した。

 それが分かった瞬間、緊張が解け周りの様子が見えてくる。


「敵の気配は無し……遠方にかなり大きい気配が二つ、その二つ程じゃないけど、そこそこの気配を持つ者も一人居るな……大きな気配二つのうち一つは知った気配だな……グラオか」


 その様子を確認したライは、此処から数キロ離れた場所に何かがあると悟った。

 そのうちの一つがグラオと分かったライだが、残り二つが分からなかった。

 しかしそれなりの力を持つ者という事は、身体を伝わる威圧感から理解出来る。


【グラオって奴以外の二つだが……その両方を俺は知っているぜ? 気配の小せェ方がさっき言った奴で……デケェ方は今来たばかりっーところだろ】


 ライが遠方からの圧を感じている時、笑い掛けるような声音で話す魔王(元)。

 曰く、その気配は魔王(元)の知るものらしい。

 つまりそれらは、数千年前から生きていると言う事になる。

 もしかすれば、生きておらずあの世に住んでいる者の可能性もあるだろう。


(グラオ以外の二つ……両方共お前の知っている気配か……となると、結構面倒臭そうな相手になりそうだな……)


【クク、そうだな。だがまあ、一つは話せば分かる奴だ……もう一つは力も弱ェし俺には絶対に勝てない理由があるってもんよ】


(へえ?)


 魔王(元)の知る気配と聞き、明白に面倒臭そうな表情をするライ。

 しかしそのうちの一人は話せば分かる者らしい。そして、もう一人は魔王(元)には絶対に勝てないと断言する。

 それを聞いたライは何とも言えぬ声音で返し、改めてリヤンに視線を移した。


「取り敢えず、今はリヤンが優先だな……俺は回復魔術を使えないし……どうすれば良いんだろうか……」


 リヤンは寝かせている。大きな刺激を与えぬよう、抱き抱えるように支えて寝かしているのだ。

 身体に目立つ外傷は無いが、内部から何かの気配を感じる。それはリヤンの持つ回復能力とは違った、別の魔力だ。


「内部から治療されている……? 治療にしてはかなり雑な痕だ……。リヤンの意思で回復したんじゃなくて、何かがリヤンに宿って、その者が回復させたかのような……そんな痕。おかしな点が幾つもあるな……。操られていたってのは本当だったのか……内部から操られていたのか……」


 リヤンの身体を確かめ、傷は無いがおかしな点が幾つもある事を気に掛けるライ。

 その事から、つい先程までリヤンは操られていたと確信する。

 そして、その事実に身体を震わせ怒りを込めるライ。

 目立った傷も無く脈打つ心肺の鼓動から精神的な苦痛も無かったと分かるが、仲間が危険な目に本人の意思関係無く合わせられた、その事実が許せないのだ。

 実際に此処まで来て途中まで戦っていたのはリヤンだが、ライがそれを知る筈も無い。

 何はともあれ、一先ずやるべき事はリヤンが目覚めるまでリヤンに付き、リヤンを護る事である。


「とは言っても……リヤンは何時から気を失っているんだ……? 時間が経っていれば今目覚めても何らおかしくは無いけど……」


 リヤンの頭を撫で、髪の毛に手で触れるライ。柔らかな髪が指と指の隙間を抜け、サラサラと流れるように地に着く。

 汗は掻いておらず、呼吸に乱れもない。気を失っている事を除けば、至って健康な状態である。


「……う……ん……っ……」

「……お?」


 そして、リヤンの眉間がピクリと動き、指先が地をなぞった。

 吐息のような声が漏れ、ゆっくりとその目が開かれる。


「……ライ……?」

「ああ。おはよう、リヤン」

「うん……おはよう……」


 その目は最初にライを見やり、口はライの名を呼ぶ。

 ゆっくりと起き上がり、キョロキョロと周りを見渡すリヤン。


「あ、そうだ……ライ。あの灰色の人……あの人の正体は混沌の神様カオスだったよ」


「……何だって?」


 見渡しながらふと思い出したように口を開き、自分の知った情報をライへ言うリヤン。

 ライはグラオが原初の神カオスであるという事を知らなかった。

 リヤンは一時的に覚醒した時、己の血が持つ記憶からその事を知った。だが、ライは一番グラオと戦っているがその事に気付けなかったのだ。


 しかし、それは仕方の無い事だろう。今グラオが混沌の神であるという事を知っているのはグラオの仲間であるヴァイス達とリヤン、そして孫悟空たち三人だけなのだから。

 逆に言えば、リヤンのお陰でそれを知れたという事は後々グラオと戦闘するに当たってやりやすさも生まれる。

 何にせよ、相手の素性を知れぬのと知れないのでは大きな差があるのだから。


 生き物は基本、素性の知らぬ者を警戒する。それは人間や魔族であっても幻獣や魔物であっても同じ事で、"謎の存在"には中々手出しが出来ないものなのだ。

 しかしその"存在"が"何か"を知れるのなら話は変化し、警戒するとしても心にゆとりが生まれ冷静な判断を持てるようになる。

 このように"グラオが何者なのか"という疑問と"グラオは原初の神だった"という事実ならば、後者の方が戦闘を行うに当たって前述したよう、"やりやすさ"が生まれるのだ。


「そうか、ありがとう、リヤン。それが知れただけで大きな収穫だ」


「……うん……。ライの力になれて……私も嬉しい……」


 立ち上がり、リヤンの頭に手を置いて笑い掛けるライ。

 リヤンは感謝された事に対して少し恥ずかしそうだったが、悪い気はしていないようだ。


「そうだ、リヤン……。そのグラオについて、戦っている最中におかしな事は無かったか?」


 一先ずリヤンは目覚め、ライもその事を確認出来た。

 続き、リヤンに向けて操られていた事への意識を尋ねる。

 もしも操られている時、自分の意志があれば操っている者が誰だったのか分かる。

 名前や容姿、能力だけなら魔王(元)に聞くのが早いが、その者の思考が分かる事で戦闘スタイルや何を目論みリヤンに宿ったのか。など、その他諸々の事柄も分かるだろう。なので敢えてリヤンに尋ねたのだ。


「……。おかしな事? 」


「ああ、何て言うか……自分の身体が自分の物じゃ無くなったような感覚とか……知らない声が頭に流れたとかだ」


「……うーん……」


 質問の意味がよく分からず、復唱するように聞き返すリヤン。

 ライはそれに対して頷き、補足を加えるように綴った。

 前述したように相手の目的などを知る為、詳しく知りたいのだ。

 しかしリヤンに思い当たる節は無さそうであり、小首を傾げて悩んでいた。


「いや、無いなら良いんだ。もしかしたら……ってくらいの感じだからな。取り敢えず、リヤンが無事で良かったよ」


 リヤンの様子を見、寝起きで質問攻めにするのも問題と考えたライは無いならばそれで良いと返す。

 実際問題、操られている最中でも意識がある状態という状況自体が珍しい。

 基本的に操られた場合、意識が無い事の方が多いからだ。

 これが催眠などになると話は変わるが、精神的に操るという意味ならば意識の無い事が多くなるのである。

 理由は簡単、何時もはややこしいものであるが、今回はリヤンが気を失っていたので意識の無い状態で操られていたと容易く推測出来るのだ。


「取り敢えず……後はグラオを探して魔王の知り合いとやらを見つけるくらいか……」


 ある程度纏まったところで話を切り上げ、気配の感じる方向を向いて呟くように話すライ。

 リヤンが無事と分かったなら、次はリヤンをこのような目に合わせた者達へ相応の処罰を与えるつもりでいた。


「ライ、私も行く。カオスに一回殴られただけで意識を失っちゃったから……負けっぱなしは嫌だから……!」


「リヤン……。ああ、分かった。覚悟を決めている者の言葉を聞かないのは男として恥だ。リヤンも一緒に行こう」


 動き出そうとするライに向け、ライの手を握って力強く話すリヤン。

 普段のリヤンからは珍しく、自分から名乗り出たのだ。

 それを邪険に扱う訳にもいかず、ライはリヤンの手を握って頷いた。

 グラオとバアルが話し合いをする中、ライとリヤンがそちらの方目掛け進み行く。

 そして愈々(いよいよ)、ライたちとグラオたちが自分たちの住む星とは違う別の星にて出会う事となるだろう。

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