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三百三十六話 かつての神と混沌の神

「"神の怒りウェース・オブ・ゴッド"……!!」


 ──大地が揺れ、海が荒れる。天空は曇天と快晴を繰り返し、灼熱の太陽と豪雨が連続して出現を繰り返す。そこには今、熱くて寒い矛盾した奇っ怪な空間が生み出されていた。

 それはその名の示すように、神が怒る事によって生じる天変地異だった。

 リヤンが片手を掲げた、ただそれだけでグラオの前に天変地異が巻き起こったのだ。それはまさしく、"神の力"というものに相応しい限りだろう。


「……天候を変えるだけなのかい? かつての神様? それとも、奥さんの方かな?」


 その光景を楽しそうに見やり、スッと視線を向けて小首を傾げながらリヤンに尋ねるグラオ。

 いや、今のリヤンはリヤンであってリヤンではない。

 言うなれば、魔王に全てを預けたライのようなものだろう。リヤンの意志があるかは分からないが、かつての神とリヤンの母──"レーヴ・フロマ"が宿っているのかもしれない。

 グラオの口調から、それは確定的だろう。リヤンには今、自分の血縁者が宿っている。


「終わりじゃ無いよ。まだこれは小手調べみたいなものだって……あと、お母さんは特別な力を持っていないみたい」


 グラオの質問に対し、今度はリヤンが答える。

 今までのリヤンもリヤンだが、今回は本物という意味でのリヤン・フロマだ。


「へえ? 本人の意識はある……のか。それに、内心で彼らと会話出来ているみたいだね。なら、戦闘を行うのは君自身じゃなくて君に宿る者とお見受けしても……?」


「構わない」


 リヤンの言葉を聞き、リヤンの意識も共有出来、宿る者たちの力だけで話してはいないと理解するグラオ。

 たったの数言でそれを即座に理解するグラオは、やはり常人よりもずば抜けて早い思考回路を持ち合わせているようだ。


「オーケー、なら話は早い。君だけの力なら万が一楽しめずに殺してしまう可能性があったから、手加減しようとしていたよ。けど、その人達の力なら……君よりも遥かに上だ。つまり、手加減しなくても良いって事だね?」


「良いんじゃない?」


 グラオ曰く、リヤンだけの力ならば自分に劣り、グラオ自身が楽しむ為にも手加減していたらしい。だが、突如としてリヤンに宿ったナニか。そのナニかが居るので手加減せずとも楽しめると考えたようだ。

 警戒はしている様子のグラオだが、何よりも楽しむ事が第一優先なのだろう。

 そんなグラオの言葉に対し、流すように答えるリヤン。

 リヤン的には、グラオが手加減しようがしなかろうがどうでも良いと思っているのだろう。


「じゃ、遠慮無く……」


 刹那、グラオは天変地異の起こる空間を駆け出し、一瞬にしてリヤンの前へ姿を現した。

 元々目の前に居たのだが、その距離を秒も掛からずに詰めたという訳だ。

 そんなグラオの拳を握る腕には力が込められており、今すぐにでもリヤンへ放たれる体勢となっていた。


「行くよ?」

「良いよ」



 ──そして、放たれた。



 リヤン目掛けて勢いよく放たれたグラオの拳。

 リヤンはその拳を一度受けており、拳の持つ威力は承知している。しかし微動だにせず、避けようとする素振りすら見せなかった。

 それのみならず、逆にその拳を受けようと動き出す。


「……へえ?」


 動きを一瞥し、フッと笑って返すグラオは笑みを消さず、そのまま腕を振るい抜いた。

 無論、手加減せず。大き過ぎる破壊を起こして早く終わらせぬように多少の調整はしているが、極端に手加減している訳では無い。

 純粋な破壊力だけならば、先程リヤンを吹き飛ばした時よりも高いだろう。


「成る程、確かにかなり強くなっているようだね。神様?」


「……」


 その拳は、リヤンによって防がれた。

 いや、防がれたというには少々語弊があるかもしれない。

 リヤンは動かず、何もせずにその拳を正面から受け耐えたのだ。

 無論、グラオの拳を受けたリヤンにダメージは無い。


「"神の絶対領域アブソリュート・レルム・オブ・ゴッド"」


 そう、グラオの拳はリヤンの周りに漂う見えない力によって、自動的に防がれたという事である。


「硬いね。ダイヤモンドよりも遥かに硬いや。どれくらいだろう。宇宙一硬い物質があるとして、その何万倍くらいの硬さかな?」


「さあ? 無限倍じゃない?」


 拳の衝撃によって辺りへ広がった巨大なクレーターを彷彿とさせる波紋。

 リヤンとグラオの周りには大地が残っているが、それ以外の場所直径数百キロには巨大な谷が造り出されていた。

 パラパラと二人の足元から小石が落ち、奈落の底へと落下する。

 リヤンとグラオの居る場所以外に大地は無く、小石は音も無く消え去った。

 そして、リヤンとグラオの姿も消え去った。


「……!」

「そら!」


 消え去った刹那、天変地異の広がりつつある二人は空中へと移動しており、その空中にて互いの体術を用いて戦闘を行う。

 リヤンは得体の知れぬ神々しい力で身体能力を上げ、グラオは純粋なる自分の力で拳や脚を放つ。

 二人の其々(それぞれ)はぶつかり合い、熱と衝撃を生み出しながら瞬間移動を繰り返すかのように空中を行き来する。

 天空の雲は徐々に晴れてゆき、雨や雷といった天変地異の一部が収まる。

 しかし二人の攻防は収まる気配無く続けられ、その余波のみで辺り一帯は荒野と化した。

 その荒野には一瞬にして幾つものクレーターが造り出され、そのクレーターが陥落かんらくし更に深い奈落と化す。


「身体能力はこんなもんかな? まあ……慣れていけば更に強くなると思うけど、今はまだ神の力を扱い切れていないみたいだね」


「そう、どうでも良い。私には関係無い」


 己の速度と力に着いて来れるリヤンを見やり、身体能力がかなり向上していると理解するグラオ。

 リヤンはリヤンとしてグラオに返し、再び雰囲気を変化させた。


「ふむ、中々やるようだな。流石は原初の神であるカオスだ。我よりも先に宇宙を生み出したという訳か」


 声はそのまま、高圧的な話し方となってグラオを見るリヤン。

 今リヤンに宿った者はグラオを、いや、カオスを理解しているらしく親しさは無いが懐かしいものを見るかのような顔付きで話していた。


「ハハ、確か君は勇者に滅ぼされた筈だよね……? 封印された訳じゃなくて本当に滅ぼされたのに、何故こうして目の前に現れたんだ? 貴方の妻に至っては、貴方の家族という理由で処刑された筈だ。……存在その物を抹消されたアンタと、大した力が無く首をねられて死んだアンタ。そんな君達が此処に居るなんて……何とも奇妙な事だよ……」


 グラオはその者。即ちリヤン? の言葉に返しつつ、完全に消された存在である神々しい者と特別な力を持っておらず、首をねられ処刑された者が此処に居る状況が気に掛かっていた。

 今目の前に居る神々しい者のように、概念的な存在ならば世に念を残して消えれば一時的に再生出来るかもしれない。

 しかし、特別な力を持たぬ持っておらず、首をねられ処刑された者が居るのはかなりおかしい事である。


 神々しい者の方もかつての勇者に完全消滅させられた。

 完全消滅という事は、存在その物がこの世から消え去ったという訳だ。

 つまり、そんな存在が目の前に居る少女へ宿っている事も、幽霊でもない死んだ人間・魔族とも覚束無い者が宿るという事自体有り得ない事なのである。


「さあ? 何故なぜでしょう。私たちは確かに消え去った存在の筈……何故なにゆえこうして世界で目覚めたのか……」


「成る程、自分達でも分からないという事ね……」


 グラオの質問に対し、答えたのはリヤン──リヤンに"お母さん"と言われた者。つまり、レーヴ・フロマ。

 レーヴ的にもこの状況が飲み込めないらしく、何がどうしてこうなったのか理解していなかった。

 それを聞き、「ふぅん」と頷きながら納得する。


「まあ、それならしょうがない。かつての魔王も誰かある人に宿っているし、昔に名をせた者が宿るってのは割りとメジャーなのかもね。僕的には懐かしい面々と一戦織り交えられる事が嬉しいけど」


「魔王? エラトマの事か? 我の怠惰で退屈な生に置いて、唯一退屈させなかった者が魔王エラトマと勇者ミールだったからな。あの戦い、死してなお未来永劫記憶に残り続けるものだ。……となると、ミールは今も聖域に居るから難しいと思うが……我が子孫の身体に宿ればエラトマには再び会える可能性があるという事か……」


 納得したグラオは昔から知る強者と戦える事が嬉しいらしく、細かい事は気にしないようだ。

 しかしリヤンに宿った神々しい者──かつての神は魔王の名を聞き、かつて世界に置いて行われていた大きな戦いに思いをせる。

 グラオは知らないが、リヤンの持つ"神の日記(ゴッド・ダイアリー)"には退屈だった日々の事がつづられていた。

 そんな神の怠惰な日々に、面白味を加えたのが魔王と勇者の存在である。

 勇者が何をした。魔王が何をした。その情報を見る度、神は日々に喜びや楽しさを感じていたらしい。

 なのでそのうちの一人、魔王ことヴェリテ・エラトマに会えるかもしれない事へ何かを思っているのだろう。


「まあ、可能性は0じゃないかな? それは勿論、この場で僕に倒されなければ……だけどね?」


 笑い掛けるように、自分に勝てるのならかつての神の望みが叶うと告げるグラオ。

 グラオ的には戦えるだけで嬉しいようだが、負けるとは微塵も思っていないようだ。


「ふむ、ならばそれに応えよう。カオス。お前の身体能力は宇宙的に見ても最上位に位置する程高いが、かつての勇者程では無い。精々エラトマか我レベルだ。特殊な力を使わぬのなら、我に負ける未来しかないぞ?」


「ハハ、君や魔王レベルあれば十分じゃないか。多元宇宙の平行世界パラレルワールドやこの次元とは異なる別次元を含めたとしても、恐らく五本の指には入る実力者だろうからね。その五本は僕と()、魔王に勇者で既に四本の指が埋まってるけど……それはまあどうでも良いか。十本の指にしたら僕たちに続くよう支配達が来て八本の指が埋まっちゃうけど、それも関係無いや」


 互いに交わし、構え、相手の出方をうかがう。

 リヤンは穏やかな声音とは裏腹に高圧的な話し方で言い、それに返すグラオは多元宇宙を含めた全宇宙のランクを見て関係の無い事を話す。

 そんなやり取りを行いつつも両者は油断している訳では無い。いつ何時なんどき相手が来ようと迎え撃てる体勢となっているのだから。


「じゃ、無駄に長話をしちゃった。動きを見せないのはつまらないから……そろそろ攻めるよ?」


「ああ、来い。久々の肉体だ。子孫のものだから傷付けたくは無いが、この戦いが終わったらこの世界を見て回るのも悪くない。──壊さないでよ? ──む? 子孫か。……ああ、分かっている。今回は滅ぼすつもりは無い」


 両足を広げ、拳を握るグラオ。

 リヤンに宿った神は感覚を楽しみ、グラオを前に構えた。

 世界を見てみるのも悪くないという事は、自分の創った世界の変化を見てみたいのだろう。

 なので本物のリヤンは、神がかつて行おうとした世界を消し去る事を懸念し、それを行わないように念を押す。

 それに対し、分かっていると告げたが不安ではあった。


「行くよ?」

「行くぞ?」


 刹那二人は、惑星の表面を大きく抉って加速した。

 抉られた表面数千万キロは光の速度を超越して宇宙に飛び出し、リヤンとグラオの距離は秒も掛からず相手の方へ到達した。


「ほーら……」

「"神の(ゴッド)"……」


 回りの時間が停止したかのように雲や鳥、この星の生物達がゆっくりと進む中、互いに力を込める二人。

 実際に時が止まったのでは無く、この二人が速過ぎるあまりこの二人以外の時間が停止したと錯覚しているのだ。

 光を越えれば時を越えられると謂われているので、恐らくそれに近い感覚へと陥っているのだろう。


「よっと!」

「"ウィップ"……!」


 止まったと錯覚する時の中、グラオは脚を放ち、リヤンは白く光る鞭のようなモノを放つ。

 その二つはぶつかり合い、閃光のような衝撃を散らして光が消滅した。

 そしてそのまま、星の半分が消滅する。恒星サイズある惑星。その半分が消え去ったのだ。

 無論の事、二人は全くの本気では無い。


「まあ、この程度は防げるか」

「お前もな、カオス」

「今更だけど、その見た目でその口調は合わないな……」


 互いに互いの技を防いだ事に対し、相手を称賛するように話す二人。

 しかしグラオは、リヤンのような大人しい見た目で神のような高圧的な話し方が気になっていた。

 基本的に無表情で無言だったリヤンがこのような事になると、何かと違和感があるのだろう。


「フッ、すまないな。しかし、これが我の話し方だ。生まれつきの口調というものは、一度消えても直らぬものよ」


「へえ? まあ気にしないで置くよ。多分直ぐ慣れるからね。今は久方振りの戦闘を満喫するさ」


「良かろう。我が直々に相手してしんぜよう。──一応リヤンの身体何だから無茶はしないでよ? ──無論だ。──別に私は……──駄目です。──はい……」


 即座に交わし、再びその場から消え去る二人。

 消えたその瞬間、数十キロ程離れた場所にあった山が数十座粉砕した。

 それは攻撃をしたのでは無く、移動による衝撃のみで粉砕したという事だ。

 神と神による戦闘は、依然として激しさを増しながら規模が大きくなりつつあった。

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