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三百三十四話 主力たちとバハムート

『ギャアアアァァァァ!!!』

『ぬぅ……!』『クッ……!』『ぬおッ!』


 バハムートが巨腕を振るい、ドラゴン、孫悟空、黄竜を吹き飛ばした。

 バハムートから見た大きさは、目視すら出来ない程小さい筈の二匹と一人。

 そんなドラゴンたちを吹き飛ばしたのだ。吹き飛ばされたドラゴンたちは惑星を幾つか貫通し、身体がズダボロになり出血と共に吐血する。


『ぬぅ……奴に我々の姿が見えているのか……? 適当に振るったとしても狙いが的確過ぎる……。巨大過ぎて我らの姿は見えぬ筈だからな……』


『分からねぇ。だが、意図せずに腕を振るった可能性もあるのは事実だ。それでこの破壊力なら恐ろしい限りだな……』


『ああ、元がかなりの大きさだ。それに加え、星を砕く攻撃でも無傷に等しい程……下手したら負ける事もあり得る程に危険な生物だな……』


 傷だらけの身体で起き上がり、険しい顔付きでバハムートを見やるドラゴン、孫悟空、黄竜。

 常人なら、いや、常人どころか鍛えた者や常人よりも遥かに強い者ですら即死してしまうかもしれない程の巨腕の衝撃。

 それを受けて生きているドラゴンたちは流石と言ったところだろう。


『さて、やられたらやり返すか……!』

『ああ、やられっぱなしは気に食わねぇ』

『同感だ。魚如きに負けては竜の名がすたる……!』


 呟いて動き、加速する二匹と一人。

 バハムートは魚。魚に負けるなど、龍や竜の二匹や猿の妖怪である一人からすれば何かと思うところがあるのだろう。

 しかし、地上にも強い魚は居る。魚というものは、中々に侮れない生物かもしれない。言ってしまえば地上より、巨大な生物は海に多いのだから。

 しかし支配者や三妖怪の大将、四神のおさ。それらのプライドもあるので、負けるつもりは更々無いのだ。

 飛ばされた距離を戻り、二匹と一人は勢いよくバハムートに近寄る。



*****



「"魔王の大剣シャイターン・キビーラ・セイフ"」


 自分の周りに空気を創り、剣魔術を放つブラック。

 その剣魔術は先程よりも多くの魔力を込め、巨大な剣となってバハムートへ放たれる。

 ゾフルとハリーフとの戦闘によって大きなダメージを受け、動くのも辛い状態のブラックであるが気力のみで自分の周りに動きやすいよう空気を創り剣魔術を放ったのだ。

 それによってバハムートの身体は一部が切断され、貫通して薄皮を剥いだ。が、即座に再生する。


「はぁ……はぁ……くっ……まだか……」

『……ブラックさん……? 本当に大丈夫なのですか……?』


 ブラックはフェニックスの上に乗っている。なのでフェニックスも空気を共有出来話せているのだが、ブラックの様子が明らかに悪い。

 今にも死にそうな程に、である。それを見、やはり気になってしまうものがフェニックスの情なのだろう。

 かつては悪魔として扱われた事のあるフェニックスだが、今は神鳥としての役目を果たしている。慈愛というものがそこには存在していた。


「あ? クク……そうか……そんなに具合が悪く見えたか……悪ィな……心配掛けてよ……俺ァ大丈夫だ。──それよか、どうでも良い事かも知れねェが一昨日俺が向かった"ペルペテュエル・フラム"にテメェが居て……今俺がその幹部の上に乗ってるのは何かの縁かも知れねェよな……。……これが終わったら俺の街にでも来てみろよ……案内くらいならしてやるぜ……?」


『……え? …………。いえ、ふふ。そうですか。そう言えば、前におこなった貴方との戦いは決着が付かずに終わってしまいましたね。貴方の街に行くとして、手合わせ願いたいものです』


「……ああ……任せろ。……俺は約束を守る男だからな……」


 弱るブラックは謝罪を申し、クッと笑って話題を変える。

 突然の話題変更に一瞬黙ってしまったフェニックスだが、何かを察したのかフッと笑い直してブラックを見やる。

 それに対して笑い掛け、前のバハムートへ集中する一人と一匹。


「……さて……幹部様とのデートを約束したんなら、それを果たす為にバハムートを片付けるか……それが紳士の在り方ってもんよ」


『……デート? ふふ、手合わせを願ったのですよ、私は? どちらかと言えばデッドではありませんか?』


「怖ェな……フェニックス。そこんところはまだ悪魔の名残があるようだ」


『御冗談を。何はともあれ、楽しみですね、ブラックさんとのデッド』

「ああ……本当にな……」


 戦闘に関係の無い会話をし、自分たちの空気を和らげて緊張を解す一人と一匹。

 この場にはブラックとフェニックスしか居ないが──無論、数キロ近くには味方が何人と何匹も居るが、そういう意味でこの場には居ないという事ではない。緊張していたのではバハムートに集中出来ないのでそれを解して戦いやすい環境を作ったという事。

 一ヶ所を集中狙いが今の作戦なので、それに集中力を高める為にも自分たちの空気を和ませる必要があったのだ。


「さて……疲れはあるが落ち着いたし……第二波を仕掛けるか……!」


『ええ、私の炎も準備は出来ていますよ』


 そしてブラックとフェニックスは会話を終えて体勢を立て直し、目の前に存在する巨大なバハムートに構え直す。

 惑星を砕く攻撃を集中させる事で、初めてダメージになるかもしれない程の耐久力を持つバハムート。

 分かっていた事だが、改めて考えると何とも厄介な事だろう。

 しかし弱っているブラックにも、惑星を破壊する程の攻撃が出来ないフェニックスにも、闘志が宿ったままの状態で終わる事は無い。

 宿る闘志を燃やし、立ち向かい続けるブラックとフェニックスだった。



*****



 ドラゴンたちとブラックたちもさる事ながら、他の者たちも攻撃は止めない。

 幻獣の国幹部から四神、三妖怪、魔族の国幹部。皆が皆集中的に一ヶ所を狙い、己の行える攻撃を放つ。

 中には惑星破壊の攻撃も何度か放たれているが、それを受けても尚、バハムートは微動だにしていなかった。

 他の者よりは体力のある此処に集った主力たちだが、無限にある訳では無い。このままだと、確実にジリ貧となるだろう。


『ドラゴン殿たちも吹き飛ばされてしまったな……果たして我々だけで抑えられるか……』


『オイオイ、随分と後ろ向きな考えだな……と言いたいが、言っている事は事実だ。私たちだけで抑えるのは苦労するだろう……』


『遠方に移ったブラックさんとフェニックスさんの攻撃もあまり効いていないようですしね……』


『うん。結構大変……』


『だが、攻め続けるしかあるまい』


 ブラックたちから数キロ離れた場所に居るガルダ、沙悟浄、朱雀、青竜、玄武。

 そこにて、水妖術を応用した呼吸の出来る空間内の者たちが話す。

 内容は吹き飛ばされたドラゴンたちの事と、バハムートへの攻撃が効かない事に対しての懸念。

 バハムートを倒すというのは少々、いや、かなり難しい問題となっていた。


『やれやれ、キリが無いな。敵は一体だけだが、キリが無いという言葉が浮かんでしまう』


『ああ。幾ら仕掛けようと、一瞬で再生するからな……0秒で再生しているんじゃないかと錯覚してしまう』


『ブヒ……僕は強力な妖術が使えないから近接的に攻めてるけど……いつ吹き飛ばされるか不安だよ……』


「いえ、遠距離からの魔法が使えても……あの再生力は手に負えません……一体幾つの惑星破壊魔法を放った事やら……」


 一方、ブラック、フェニックスたちから数キロ、ガルダたちから数キロ離れた場所。そこにある風魔法・魔術を応用して創った空気の空間にて、うんざりするように話すワイバーン、白虎、猪八戒、アスワド。

 その内容から、こちらもバハムートを相手取る事に対して多少の不安がいだかれ始めているようだ。


『ギャアアアァァァァ!!!』


「「……!」」

『『『……!』』』

『『『……!』』』

『『『……!』』』


 会話を広げる中、目の前にたたずむバハムートが大きく吼えた。

 それを聞き、何かを察した者たちは一斉に空気の膜を飛び出して避難する。

 その瞬間、先程までみなが居た空間にバハムートの巨腕が放たれる。

 腕だけでライたちの住む惑星よりも巨大なバハムート。一斉に避難したとして、そんな腕を防げる筈が無く、ワイバーンたち、四神たち、三妖怪、アスワドは腕に払われ、数キロ離れた場所に居るブラックとフェニックスも巻き込まれ全員が一気に吹き飛んだ。


「「……ッ!!」」

『『『……ッ!!』』』

『『『……ッ!!』』』

『『『……ッ!!』』』


 刹那に万を超える惑星が破壊され、宇宙空間に惑星の欠片を撒き散らし貫通痕を残して全員が数光年先まで吹き飛ばされる。

 吹き飛ばされた者たちの速度ではそんな距離を一気に詰め寄る事など出来る筈も無く、これはもう──実質的な再起不能だろう。

 つまり今この瞬間、バハムート討伐部隊はバハムートのおこなった──たった一回の腕一振りで全滅したという事だ。



*****



「バハムートォォォ!!!」

『……!?』


 ──そう、一人を除いて。


 光の速度を超え、更にそれを超えた速度で近付き数光年の距離を一瞬にして詰め寄り拳を放つライ・セイブル。

 ライの拳はバハムートの身体に命中し、バハムートの肉を数百万キロ程抉って貫通した。

 そして貫通した瞬間、バハムートの肉は即座に再生する。


「やっぱ無理か。銀河系を吹き飛ばすのは流石にあれだけど……恒星くらいなら破壊するつもりで放ったんだけどな……。ちょっと自信無くすぜ……」


 それを見、手加減したとはいえ全くの無傷であるバハムートを前に肩を落とすライ。

 恒星サイズか、もしくはそれよりも小さいくらいのバハムートだが恒星を砕く攻撃が防がれたのは中々手痛いものである。

 もしかしたら、銀河系を砕かなければならない程の攻撃を放たなければならないかもしれないからだ。


【ま、テメェの力はつまり俺の力だけどな。ったくよォ、自信無くすのは俺の方だぜ全く】


(ハハ、ごもっとも。……けどまあ、恒星破壊の攻撃ですらあまり効いてないってのは俺自身の技じゃ無くてもこたえるもんだ)


 ライの呟きに対し、ケッと吐き捨てるような声で話す魔王(元)。

 ライ自身、常に成長し続けかなりの実力を身に付け始めているが、まだライだけでは星すら破壊出来ない。

 山は何とか砕け、地に放つ事で地殻変動を引き起こす事も可能かもしれないが所詮はその程度。

 世界的に見ればライだけでもそれなりの位置に立てるだろうが、世界征服など到底不可能だろう。


 なので魔王の力を使って戦闘を行っているがその技を受けても再生するバハムート。

 バハムートの不死身性は異能の類いでは無く、純粋なバハムート自身が持つ力なのだろう。

 魔王は拳や脚、剣や銃などでダメージを受ける。

 異能や進化し過ぎた科学は容易く防げるが、古来より伝わる古き武器が防げないのだ。

 無論、それらの武器を用いたとしても特殊な加工を施されていなければ全くの無傷という矛盾も生じるがそれはさておき。

 それと同じように、バハムートの再生力というのはそういうものの類いで、無効化能力を持つ者でも阻止出来ないのだろう。


(厄介極まりない生物だな。いや、これは生物なのか……? 俺が言うのもあれだけど……バハムートはもう生物って領域を逸脱している程だ……)


 二度三度とバハムートに視線を向け、驚くように何度か瞬きするライ。

 その巨大さもだが、全てに置いて生き物という概念が無さそうな程に見えたのだ。


【クク、あれ程の怪物だが……生き物に変わりは無ェだろ。謂わば星や宇宙も生き物なんだからな。星や宇宙にもいずれ終わりが来る。そして俺はそれらを終わらせる事が出来る。バハムートが想像を絶する化け物並みの怪物だとしても、多元宇宙を簡単に打ち砕ける俺からすれば、ちょっとデカいだけの怪物だ】


 不安気なライに向け、笑うような声音で話す魔王(元)。

 確かにバハムートは魔王(元)が認める怪物である。

 しかし、ライの中に宿る魔王はその気になれば星のみならず、銀河系、銀河集団、宇宙、異世界や別の次元を含めた多元宇宙を一瞬にして崩壊させる力がある。

 そんな魔王(元)からすれば、バハムートは強敵であるが恐るるに足らない相手なのだ。


(……。……怪物って点は認めるんだな)


【たりめーよ。俺の八割ですら苦戦しそうな程の生き物。それを怪物と言わずして何と言うんだ?】


 そして、魔王(元)が最後に言った"怪物"というワードが引っ掛かるライ。

 勝てると思っている様子の魔王(元)だが、バハムートの事は認めているという事が犇々(ひしひし)と伝わっていた。

 魔王(元)は拒否せず、素直にバハムートは厄介な生物と確信しているのだ。


(……ふう、銀河系を破壊する勢いで挑んだ方が良いのかな……)


【ああ、かもな。手加減していたんじゃ、俺は良いとしてテメェの身体がもたねェよ】


(オーケー……)


 魔王(元)の言葉を聞き、改めてたたずむバハムートに視線を向けるライ。

 八割を纏っているライだが全力の八割では無く、手加減して恒星破壊程度のバハムートにとっては貧弱なダメージしか与えていない。

 なので銀河系を粉砕する勢いで八割を放ったその時、バハムートとの決着が付く事だろう。

 そして、数光年離れた主力たちは簡単に戻ってこれない。実質的に、ライとバハムートの戦いは一騎討ちという事になる。


「さてバハムート。アンタにゃ聞こえねェだろうけど……今存在する俺の立場を理解する為に、敢えて言わせて貰おう……。……今此処でテメェを仕留めるぜ、バハムート!!」


『……………………』


 あの巨躯には聞こえない事を理解し、理解した上で叫ぶライ。

 バハムートは長い沈黙のままで微動だにせず、じっと立ち竦む。

 足元に何があってバハムートが立てているのか分からないが、兎に角バハムートは立ち竦んでいるのだ。

 魔王の力を全力の八割にしたライ。

 ライとバハムートが行う規格外的存在同士の予定の戦闘は、終わりに向けてゆっくりと歩みだしていた。

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