三百二十八話 バハムート討伐メンバー
「"伝達"……!」
バハムートの事を聞くや否や、その情報を空気と電気に乗せて幻獣の国全体へ伝えるアスワド。
四大エレメントの炎と水で作った雷。そして風からなる空気を応用し、わざわざそちらへ赴かずとも伝えられる術を使ったのだ。
魔法を極めたアスワドだからこそ出来た所業と言えよう。
その伝達を受け、幻獣の国に居る者たちは皆バハムートの情報が伝わった。
それは第五宇宙速度を遥かに凌駕する速度で来ていたライと、第三宇宙速度を超える速度で来ていたフェンリルにも伝わる。
アスワドとヴァイスのやり取りにて用いられた時間は数分。なのでライとフェンリルも数万キロと数キロ離れた場所から辿り着いたのだ。
「さて、私も皆様の元に向かいますか……恐らく大樹の天辺に集まるでしょうからね」
伝達魔法を終え、他の者たちが何処へ行くか推測して箒に乗り直すアスワド。
声の主が見えないので全体を確認する為、高いところへ向かった可能性が高いと推測するアスワドは大樹の上へと向かう。
*****
──魔族の国、某所。
「オイ、聞こえたか? さっきの声」
全方位からの声を聞き、シュタラ、ズハル、ウラヌス、オターレドに尋ねる──シヴァ。
「ええ、勿論聞こえました。一体何なんでしょうか……」
「ああ、俺も聞こえましたぜ。何の声かは分かりませんがね……」
「俺も聞こえましたね。無論、何か分かりませんが」
「私も聞きました。後は以下同文です」
尋ねられ、それに返すシュタラ、ズハル、ウラヌス、オターレドの四人。どうやら四人全員、何かの声を聞いたらしい。
シヴァたちは現在、幻獣の国へと向かっておりその道中に居た。
まだ魔族の国を出ておらず、他の街に寄りつつ幹部などのような立ち位置の者に少し離れる事を報告しているのだ。
離れるのはほんの数時間程度かもしれないが、支配者が不在にはるという事はかなり重要な事である。
支配者が居ないというだけで、国の戦力が一気に落ちるからだ。そこを攻められる可能性もある。なので予め幹部たちに注意を促す事でいざと言う時、迅速な対応が出来るよう報告に回っているのだ。
「それにしても報告って面倒だな、止めて良いか?」
「駄目です」
「……。……じゃあ、幹部一人に伝えて後から他の幹部へ伝えるよう……」
「却下します」
「…………。……なら……」
「御断りします」
「まだ何も……」
「拒否します」
「…………」
「そんな顔しても無駄です」
そして、その報告が面倒だと告げるシヴァだが、言い切る前にシュタラによって否定される。
この事は支配者が直々に言わなければ敵の策略と思われる可能性がある。なので仕方無いのだが、宇宙を破壊する力を持ったシヴァですら側近の威圧には敵わないようだ。
「シュタラって何かスゲェよな」
「ああ、シヴァ様を彼処まで言い包めるからな……」
「敵に回さない方が良いわね」
シヴァとシュタラ。その二人が織り成す会話を聞きつつ、口論でシュタラに挑むのは止めようと心に決める三人。
何はともあれ、まだ幹部の街を行き切っていない。先程の声も気になるが、それを確認する為にも幹部たちの街へと急ぐシヴァ一行だった。
*****
──全方位から聞こえる程の轟音が響いてから数分。今この場には、ライたちとドラゴンたち。四神たちに三妖怪たち。そして魔族と幻獣の幹部たちが揃った。
何人かは姿の見えない者も居るが、恐らく大樹の下方にて敵の兵士達と交えているのだろう。
「……成る程。本人から直接聞いたなら、確かにさっきの声はバハムートだな。神話に書かれる大きさなら、全方位から声が聞こえてもおかしくない……」
この場に来た者はアスワドからの伝達を受けて集い、更に詳しい説明を受けた。
それに対し、最初に口を開いたのはライ。
バハムートは神話や本に書かれている大きさから、自分たちの住む惑星は遥かに凌駕している事だろう。
なので目覚めた生物がバハムートだったとしても、何ら不思議は無いのだ。
『ああ、となるとバハムートは宇宙に居るって事になるな。空は雲に覆われているから見えないが、心無しか先程よりも暗く感じる』
次いで話すのは幻獣の国支配者のドラゴン。
エマが作り出した曇天の空によってその姿を捉える事は出来ないが、ただでさえ暗かった空に黒み掛かったような錯覚を覚える。
その事から、この星の空。もとい、宇宙にはバハムートが居る事だろう。
「何なら、天気を戻そうか? 敵はもう居ない。厳密に言えば生物兵器の兵士達が居るがそれはさておき、地上の戦いに集中するとしても生物兵器の兵士達しかおらぬからな。大樹内なら太陽は関係無い。空を戻しても問題無いのだ。……それと、私が宇宙の戦闘に赴くとして呼吸の方は問題無いが紫外線が直撃するから宇宙では戦えぬぞ」
「あ、そっか。エマは太陽が弱点だから宇宙で戦う事になったら本当の意味での直射日光を受けちゃうんだね」
ドラゴンの言葉を聞いたエマが名乗り、天候を戻そうかと告げる。
理由は残った敵の兵士の場所からして太陽を恐れる必要が無い事と、事情によって宇宙では戦えないので必然的に大樹内での戦闘しか出来ない事だ。なのでもう太陽を隠す必要は無いのである。
そして、そんなエマの宇宙で戦えぬ理由を言うレイ。
宇宙は謂わば、何も無い"無"が全てを支配する空間。
そんな空間では、太陽の紫外線を防ぐ物が存在する筈も無い。
ライたちの住むこの星ならば大気があるので太陽による紫外線を極限まで抑えてくれる。しかし宇宙では大気圏が無い。ヴァンパイアのみならず、常人でも太陽光が直撃し大きく日焼けしてしまうだろう。
そして呼吸も出来ず気温もかなり低いので、常人ならば数分で死に至る。それは免れない。危険極まりない地帯、そこが宇宙空間だ。
「それも踏まえて……宇宙でも生存可能な者たちが行く方が良いかもな。俺は行動出来るけど……他の皆は?」
大抵の生き物は宇宙で死滅する。それは揺るぎ無い事実であり、真実。
なのでライがドラゴンたちに向けて宇宙で行動可能な者が居ないかを尋ねた。
ただ倒す為に皆が宇宙へ行ったのでは、宇宙空間で行動の出来ぬ者は死に至ってしまう。
それを阻止するべく、宇宙空間でも行動可能な者が行く必要があるのだ。
『俺は問題ない。というか、仮にも神だからな。四神を収める長だ。四神は宇宙空間にて全員が行動出来る』
先ず返したのは四神の長である黄竜。
黄竜は神である。なので宇宙空間に置いて、紫外線や冷気、熱気の影響を受ける事無く行動が可能なのだ。
『俺も問題無い。いや、俺たちも……だな。俺たちは知っての通り神に近い存在だ。元々の住みが天界ってのもあるが、要するに問題無く行動出来るって事だ』
次に応えたのは孫悟空。
觔斗雲を使って様子を見て来た孫悟空だが、様子を見終えたので沙悟浄、猪八戒と合流し此処に来たのだろう。
そして本題については、問題無く行動可能のようだ。
「俺たち魔族は無理だな。ブラックさんやアスワドさんのような幹部クラスなら行けるかも知れねェが、俺たち側近では宇宙に行けねェ」
「ええ、残念だけど、私たちは下で兵士達を相手にする必要があるわね」
「うん。私なら不死身の兵士も消せるから大丈夫」
次いでサイフ、シター、ラビアの三人が話す。
今此処には、どういう訳かブラックの姿は無いがブラック以外の魔族の国出身の者たちは皆あつまっている。
それは"マレカ・アースィマ"のメンバーのみならず、"タウィーザ・バラド"のアスワド、ナール、マイ、ハワー、ラムルの四人もだ。
しかしサイフ曰く、幹部クラスならば行動可能だがサイフたちのような側近では無理らしい。
『幻獣の国幹部は様々ですね。少なくとも私は行けません。我らユニコーンは宇宙で呼吸は出来ませんので』
『私も行けませんね。魔法を応用すれば行けるかもしれませんが、魔法に特化している訳では無いので少々疲弊が溜まりそうです』
そして同じような幹部クラスだとしても、力は兎も角適応力的な意味合いでユニコーンとニュンフェが行けないと告げる。
ユニコーンは元々森に棲む美しき馬。そしてエルフも森に住む美しき賢者なので、基本的に己の星から抜け出す事は出来ないのだろう。
『俺は大丈夫だな。黄竜の言葉を借りるようだが、仮にも支配者だ。宇宙空間でも問題無い』
そして最後に話すのはドラゴン。
支配者であるドラゴンは、その気になれば世界を滅ぼす力を持つ。そしてその世界に適応する能力も持ち合わせているのだ。
なので宇宙空間に適応するなど、ドラゴンにとっては容易い事である。
「そうか。なら、それを考えて部隊を整えよう。そう言や、リヤンとブラックとフェンリルは来てないんだな……下で戦っているのかどうか分からないけど」
ふと、回りの様子を見て呟くように話すライ。
前述したよう、その場には何人か来ていない者も居る。その何人何匹のうちの一つがリヤン、ブラック、フェンリルなのだ。
「……まあ、居ないなら仕方無い。俺たちだけでチームを……」
「……誰が来ていないって……? ……クク……一人と一匹は居ないが……俺は居るぜ……」
ライが話そうとした時、頂上の入り口から一つの声がする。
ライはその声の方を見、確認しつつそちらへ向き直った。
「……今来たみたいだな……大丈夫かブラック? かなり顔色が悪いけど……」
「……クク……大丈夫だ……問題無ェ……敵の主力が中々強くてな……ちっとダメージがデカかっただけだ……」
訝しげな表情をし、弱っている様子のブラックに尋ねるライ。
ブラックはクッと笑い、問題無いと告げた。
弱っている様子からそう思えないが、これ以上深く追求したとして、ブラックは同じような返答を繰り返す事だろう。
なのでライは、ブラックにこれ以上は何も言わなかった。
「……じゃ、リヤンとフェンリルが心配だけど……バハムートと戦闘を行う者たちはそちらに向かうとしよう。リヤンたちなら心配無さそうだからな」
「うん」
「「ああ」」
『『『うむ』』』
宇宙に行ける者を確認し、チームを改めて決めるつもりのライ。
そんなライに対し、異論は無さそうな魔族の国メンバーと幻獣の国メンバー。
そしていよいよ、宇宙にて待ち構えているであろうバハムートの元へと向かう事となった。
*****
──"幻獣の国"・某所。
「やあ、皆。集まっているようだね。二名は残念ながら、結果的に来れなくなってしまったけど……バハムートを再生させる事には成功した。後は魔物の国の者達を従えるだけだ」
「ああ。それに、奴らは一矢報いた見てェだからな。俺と趣味が合う奴だったぜ……」
「うん、遺体は持ってきたよ。後は僕たちでやれる事をやろう」
「そうだね。魔物の国と協定を結べたら世界に宣戦布告。支配者やライ君達が厄介だけど、何とかなるかな」
薄暗く、その場に居るヴァイス達しか生き物の居ない場所にて、そのヴァイス達は今後についての話し合いを行っていた。
それは幻獣の国のみならず魔物の国が関係しているらしく、一先ず今はバハムートの成果を待つようだ。
「"マレカ・アースィマ"も彼らの攻めた"シャハル・カラズ"もそして今攻めている最中の"トゥース・ロア"も……今までの戦いは全て下準備。魔物の国と協力出来た時、全てが大きく変化する。優秀な生き物のみが残り、劣等種族も感情を失う事で反論が出ない理想郷……楽しみだよ」
冷たい目付きと冷淡な口調でフッと笑って話すヴァイス。
ヴァイスの望む理想郷。シュヴァルツ、グラオ、マギアは然程興味の無い世界だが、野望の大きな者に付くのは面白そうと言う理由で手を組んでいる。
それを指し示すよう、ヴァイスのカリスマ性により選別していない現在ですら自ら生物兵器を志願する者が多い。
ヴァイスの計画は、着々と順調に進んでいたのだ。
「さて、それはさておき……シュヴァルツ。得られた成果ってやつは何だい? かなり自信有り気に話していたけれど……」
そして視線を逸らし、シュヴァルツへ成果を尋ねるように促した。
シュヴァルツはライたちの仲間について、新たな情報を得ていた。それをヴァイスに話しており、詳しく説明しようとしていたのだ。
「ああ。だがまあ、役に立つかは分からねェ成果だ。ゾフルが言っていたライに近い事なんだが……奴らの所にかつて世界を創った神の子孫って奴が居たってくらいだな」
「……へえ? ……いや、卑下する必要は無いんじゃないかな……それはかなり良い成果だと思うよ……」
「そうか?」
間を置かず、さっさと答えるシュヴァルツ。
此処で言葉を溜めたとしても意味が無いからだ。
シュヴァルツは役に立つかは分からないと告げたが、ヴァイスはそれも役に立つと返す。
「魔王に神。なら、勇者の子孫も居る筈だよ。マギアが気に掛けているレイという少女。その剣は通常では有り得ない強度と破壊力を誇っていると言う……つまり、何らかの形で受け継いだ剣って可能性が出てくるって事さ……」
「「……!」」
「へえ、流石だねヴァイス。確かにその可能性は有り得るかもしれない……事実、ライ達が僕たちと戦争する時、あの女の子が非力なら戦争に赴かせないだろうからね……」
シュヴァルツの言葉を聞いて推測し、可能性を導き出す。
そう、レイがただの人間ならばわざわざ前線に出さず、大樹の避難組として残っている筈だ。
例え剣があるとしても、普通の人間には荷が重過ぎるからである。
その事を踏まえた結果、レイが普通の人間では無く剣もただの鉄では無いと推測出来た。
「レイを狙ってるの……?」
「「「…………!?」」」
「……へえ?」
そんな会話に入り込む、一つの影。気配を感じさせず入り込み、美しい髪を揺らしてヴァイス達の前に立つ。
ヴァイス、シュヴァルツ、マギアは大きな反応を示し、グラオはそちらを見てフッと笑った。
「させないよ……私の仲間は……手を出させないから……」
睨み、神々しい気配を高めるリヤン。
これは意識して神々しさを出しているのでは無く、自然と出てしまう。
神の力に気付いたのが先程なので、調整が難しいのだろう。
「……ッ、成る程。シュヴァルツの言っていた神の子孫……それが貴女ですか……」
「……」
そんなリヤンを見、何かを察するヴァイス。
神々しさを感じ、シュヴァルツの言っていた神の子孫という言葉に当て嵌めリヤンが神の子孫であると理解したのだ。
「成る程……不可視の移動術を見切って後を付けて来たのか……」
「そんな事は不可能……じゃあ無ェんだろうなァ……神の子孫なら有り得る話だ……」
「ハハ、僕の次に世界を創った神の子孫か……まだまだ楽しめそうだね……」
「神様の子孫かぁ……戦い難さはあるかな……アンデッドもかつての神に生み出された種族だし……」
理解し警戒を高める四人。
リヤンの力は常に使えるのか分からないが、シュヴァルツを圧倒した事実から油断する相手では無いと確信している。
「……」
依然として表情を変えぬリヤンはヴァイス達を見つめ、神々しさを醸し出していた。
バハムートの討伐メンバーが決まった時と同時刻。その場に居ないリヤンはヴァイス達と対峙する。




