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三百二十七話 二つで一つの巨大生物

「……! 何だ、この気配……! レヴィアタン? いや、違う。……けど、急いだ方が良さそうだな……!!」


【クク、レヴィアタンやベヒモス何かより更にスゲェ大物って気配だな……】


 何かの気配を感じ、第四宇宙速度で進んでいたライは第五宇宙速度に上げ、海を割りながら加速する。

 距離は残り僅か。常人ならそれでも数時間から数十分は掛かるだろうが、ライにとっては一瞬で行ける距離。

 事実、ライがレヴィアタンを倒した後で移動を開始してから、まだ三十秒も掛かっていなかった。

 この速度ならば、あと数秒進めば幻獣の国へ辿り着くだろう。


(やっぱり……しっかりと確認するべきだったか?)


【別に良いだろ。俺的には強敵ほど倒し甲斐があって良い】


(お前的には、な)


 他愛も無い会話をしつつ、先を急ぐライと魔王(元)。

 想の速度は第五宇宙速度を凌駕し、幻獣の国へ向けて更に加速するライだった。



*****



『……む? 何だ今の轟音は……? 大樹から聞こえたような、全方位から聞こえたような……』


 支配者の大樹から数十キロ離れた場所にて、ベヒモスを倒した? フェンリルが何かの声を聞いて辺りを見渡す。

 奇っ怪なのはその声が一ヶ所からでは無く、複数箇所から聞こえた事に対してだ。

 しかし周りには生物の気配も無く、どういう訳か再生し続けている木々や岩々しかない。


『……! そう言えば……奴の……ベヒモスの肉片が消えた……!? 何故だ!? 俺は警戒していた……再生する過程も無かったぞ……!!』


 ふと周りを見渡し、真っ赤に染まっていた海。その海が元の色に戻っている事が気に掛かる。

 元に戻るも何も、元々此処は海では無かったのだがそれはさておき。

 何はともあれ、ベヒモスを打ち砕いた事によって散らばった肉片が無くなっていた。その事が疑問だったのだ。


『考えている暇は無いな……早くドラゴン殿の居る"トゥース・ロア"へ戻らなくては』


 四肢に力を込め、体勢を低くするフェンリル。

 何が起こっているのか分からない今であるが、何より優先すべきはヴァイス達に国を侵略されぬよう立ち向かう事である。

 何かの神々しい気配の後、突如として響いた轟音の声。

 その声からするに、声の主は相当気が立っていると窺えた。


『この距離なら間に合うな……!』


 ──刹那、フェンリルは己の速度を上げ第三宇宙速度を超えた。

 本気ならば更に速く移動出来るだろうが、第三宇宙速度程度でも十秒も掛からないので十分なのだ。

 先に見える支配者の大樹。神に恐れられた狼はそこへと向かう。



*****



「ふうん、目覚めたかな。あの怪物。これで僕たちの戦いは一先ず終わりかな……後は彼らが魔物の国で上手くやってくれれば良いんだけど……」


 全方位から聞こえる声を聞き、空を見るように呟く者──グラオ・カオス。

 グラオは三大妖怪の力を受け、それなりのダメージを負っていた。

 掠り傷は絶えず、あざのようなものもあり身体と髪が濡れており、衣類は破れて細身に似合わぬ筋肉質な上半身が露となっている。


『あれを持ってしてもこの程度か。流石は原初の神様だ』


『全くだ。何だか、拳一つでボロボロにされたのに敗北感すら覚えなくなったな』


『ブヒ……僕たちもかなり強い方なんだけど……カオスはそれを凌駕していたね……』


 相対するは斉天大聖こと孫悟空と捲簾大将けんれんたいしょうこと沙悟浄。

 そして天蓬元帥てんぽうげんすいこと猪八戒。

 こちらの三人はグラオの拳にやられ、五体満足ではいられぬ程のダメージを負っていた。

 一人と三人、その攻撃が全てぶつかった結果がこれである。


『てか、怪物って何だ? また何かを隠しているのかカオスさんよ……』


「ハハ、聞いただろ? さっきの声さ。けどまあ、僕も久々に良いダメージを受けた。今は一先ず消える予定だよ」


 そして、グラオの呟いた"怪物"という単語に反応を示す孫悟空。

 孫悟空の問いに対してグラオが、その答えは先程の声と告げる。

 告げるや否や、一先ず消える。つまりまた姿を眩ますと言うグラオ。

 ライと孫悟空によって二日でそれなりのダメージを受けていたグラオは、その感覚を忘れる前に帰るらしい。

 それは理解し難い事だが、全てを生み出した原初の神であるカオスだかこそ、支配者にあるような対等を求める気持ちがあるのだろう。


『また消えるのか。……何度も取り逃がすのは俺的にいけ好かないが……移動術が分からねェから逃がすしか無いってのがな』


「ハハ、そうだね。けど、本当は僕もさっさと撤退したく無いんだ。もっと戦いを味わいたい、それが本心だね。まあ、取り敢えずこの数年はヴァイスの指示に従っているから無理な話だよ」


 それだけ言い、再び不可視の移動術で消え去るグラオ。

 孫悟空は毎回逃げられるのが気に食わないらしいが、暴く事も出来ないので追う事を諦める。

 グラオもグラオで、もう少し戦っていたいようだがそれはしないらしい。

 互いに放出したかなりの攻撃。それらをぶつけ合った結果、大樹の一部は消し飛んだが互いの敵には致命傷にならぬダメージを与えた程度で終わった。


『ふう、しょうがねぇ。悟浄、八戒。俺はちょっと様子を見てくる。他の場所は任せた』


『うむ、承った』

『ブヒ、了解』


 腑に落ちない様子の孫悟空だが、一先ず声の主を探す為觔斗雲(きんとうん)に乗り沙悟浄と猪八戒に大樹を任せ大樹の外に出た。

 一つの戦闘が終わっても終わらぬのが戦争。三人は各々(おのおの)で行動に移り、自分たちの目的地へと向かう。



*****



「あらら……残ったのは貴方だけ……?」

「……」


 ライとフェンリル、孫悟空が行動に移った一方で、レイ、エマ、フォンセとマギアの技がぶつかり合いその場には吹き抜ける砂埃が漂う。

 そして消滅した視界が晴れ、辺りがひらける。そこに立っていた者は、マギアとフラフラの状態で何とか堪えていた者──


「レイちゃん? ……そっか、その剣のお陰で助かったんだね……」


「……」


 ──レイ・ミール。

 勇者の子孫である少女だ。

 レイ、フォンセ、エマとマギアは大きな衝撃を生み出す攻撃を行った。

 それによって辺りは吹き飛び、三人と一人も衝撃に巻き込まれた。

 そんな中、吹き飛ばされずこらえた二人が居る。それがレイとマギアだったのだ。

 マギアは実力が桁違いなので実力でこらえ、レイは持ち前の勇者の剣があったから吹き飛ばされずに済んだのである。

 しかし全ての衝撃を抑える事は出来ず、剣は無傷だがレイ自身は身体に大きなダメージを負っていた。


「アハハ、綺麗な肌が汚れちゃっているよ。けど、これで一緒だね♪」


「貴女は再生する癖に……」


 笑い、楽しそうに話すマギア。

 マギアは既に何度も攻撃を受けており、その度に再生している。

 なので衣服など無くなり肌に直接ダメージを負っているのだが、あの衝撃でレイの服も弾け今では鎧の部分や何時かに買ったデイジーのアクセサリーしか残っていない。

 魔族の国で購入した服なのだが、それは無くなってしまった。

 "マレカ・アースィマ"で購入したアクセサリーは魔法で加工されているので無事だったが、現在の護りが胸や腹部に下半身のような急所が多い箇所に纏った鎧だけではいささか不安がある。


「ハハ、服は再生しないからね。まあそれはレイちゃんもだけど取り敢えず……聞こえたかな、さっきの声」


「……あの大きな……」


「そうそう、今度の相手は私じゃなくてその声の主になるね。つまり、私は此処でレイちゃん達と別れなきゃならないの」


「また帰るんだ……」


 しかしマギアは戦おうとせず、レイに向けての会話を別の話題に移す。

 それは先程全方位から聞こえてきた謎の轟音。マギア曰くそれは生物の声らしく、レイたちの相手はその声の主となるらしい。


「待て、何度も帰したんじゃ……私の立場が無い。まあ、元々立場などというものは無いがな。普通に自由の身だ」


「あらら、もう再生したんだエマ。気持ち悪いくらいの再生力だね」


「お前が言うなリッチ。アンデッドの王を謳われるお前がな。不死身性ならば貴様もかなり高いだろう」


「アハハ、ヴァンパイアに褒められるなんてね。私が王ならヴァンパイアは王の側近かな?」


「止めろ、吐き気がする」

「酷くない?」


 帰ろうとするマギアを止めつつ、下らない会話をする二人。

 アンデッドの王であるマギアからすれば、ヴァンパイアは部下的な立ち位置なのかもしれない。

 しかし、エマはそれが嫌らしく即答で返しマギアは肩を落とす。


「やれやれ、結局全員ダメージを負ってしまったな……何だ此処は恥女の集まりか……?」


「あら、おはようフォンセちゃん」


 フラフラと、頭から血を流しつつ此方こちらもかなりのダメージを負った様子で姿を見せるフォンセ。

 半身の服が破れており、そこから見える肌は痛々しく肉が裂けていた。

 流れる血には血液とは違う水分も混ざっており、見てる方が痛みを感じる怪我だ。


「まあ、折角全員が揃ったんだけど、今回は終わりかな。私的にはレイちゃん達を連れて帰りたかったんだけどなぁ……あの怪物が再生したみたいだし無理みたい。じゃあね、皆♪」


「怪物……声の主か……」

「うん、リッチもそう言っていたよ」

「成る程、厄介だな」


 おどけるように笑いつつ、フッと息を吐いて姿を消すマギア。

 マギアの言う怪物。マギアが消えた今、その怪物と戦う事は決定事項だろう。

 なのでこれ以上は何も言わず、レイ、エマ、フォンセは服と身体の傷を再生させつつその場を後にした。



*****



「……何だろう……今の声……何かの生き物かな……」


「……」


 ヒュウと風が吹き抜け、美麗な髪を揺らすリヤンがそこに居た。

 傷は無く、前に受けた傷も癒えている。そしてその足元に力無く転がるのはリヤンと戦っていたシュヴァルツ。

 破壊魔術同士が激突した結果、辺りを粉砕してその場には何も残っていなかった。

 近くに居た味方の兵士たちは既に治療しており、敵の兵士達は放っておく。

 この戦い、神々しい力を放ったリヤンが勝利したようだ。


「この声……奴か……!」


「……あ、起きたんだ。もう少し眠っていても良かったのに」


 そしてシュヴァルツは、遠方から全方位に聞こえた声に反応を示してゆっくりと起き上がる。

 それを見、特に何も思わぬ表情でボーッと眺めるリヤン。

 その姿にすら神々しさがあり、幼さを感じさせる端正な顔にすら何かを感じる。

 美しい顔付きなのだが、それすら得体の知れぬ矛盾した何があるのだ。


「……まあ、それはどうでも良い。テメェ……神様って言ったよな? それは何か、この世に蘇ったかつての神って意味なのか?」


「ううん、かつての神様……私の御先祖様はもう居ないよ。この世界の何処にも。勇者さんに倒されたから。私は神様の血を継いでいる、ただの血縁者……」


「……!? 神の血を継ぐだと……!? 成る程な、神々しさの正体はこれか。納得した。道理で」


 シュヴァルツの質問に対し、隠すつもりなど毛頭無く返すリヤン。

 先程までの人と話す時に見せた慌ただしさなどは微塵も感じさせず、ただ余裕のある態度を取って話していた。

 それはもう、先程のリヤンとは別人のようにすら感じられる。


「魔王に神か……なら、さしずめ他の奴らも何かあるって考えて良さそうだな……」


「うん、良いんじゃない。ライたちの事は言わないけど、推理は間違っていないよ」


「……一体何なんだテメェは……神って言ったが、さっきまでのテメェとは全てが変わってやがる……」


 目に光が無く、淡々とつづるリヤン。

 人が変わったようだがライたちの事は依然として仲間だと思っているらしく、相手に知られていないレイとフォンセの素性を明かそうとはしなかった。


「ケッ、俺はもう帰る。テメェが神の子孫って成果は得られたからな。後はあの怪物が全てやってくれるだろうよ」


「……」


 それだけ言い、不可視の移動術でその場から姿を消し去るシュヴァルツ。

 リヤンはそれを『目で追い』、再び空を見上げた。


「……」


 何も言わず何もせず、ただジーッとたたずみ続ける神の子孫──リヤン・フロマ。

 ヒュウとまた一つの風が吹き抜け、空を眺めるリヤンの頬を撫で抜けた。

 そして再び、怪物の声が全方位から響き渡る。



*****



『ギャアアアアアアァァァァァァァッッッ!!!』


『……何だ、あの声は……!』

「何でしょう……あの声……」

『何が……』

「ちーっと、厄介そうですね……」


 その声は響き、大樹内にて多くの敵兵士とせめぎ合いを広げるマルスたちにも届いた。


『ぬぅ、全方位から聞こえるような声……もしや……』


 それは、大樹にて飛び回り敵を討つ支配者のドラゴンにも聞こえている。


『……! 何だ今の……幻獣の国から……? いや、全方位から……!?』


 そして、幻獣の国へと向かう一匹のドラゴンにも、その声は聞こえていた。



*****



「……バハムート……! まさか、まさかそんな……!! バハムートが……!?」


「ああ、二度も言わせないでくれ。私の作戦だよ、レヴィアタンもベヒモスも、全てはバハムートの為に用意した踏み台なんだからね。これが切り札って奴かな、二つで一つの怪物……バハムートがね」


 そして、その怪物──バハムートを再生させたヴァイスは淡々とアスワドに向けて綴る。

 そう、ヴァイス達が仕掛けた今までの戦いはバハムートを召喚する為の時間稼ぎだったのだ。



 ──"バハムート"とは、下から大地を支えていると謂われる星並みに巨大な魚である。


 一説では龍のような扱いを受けているバハムートだが、バハムートは巨大な魚だ。

 その大きさは凄まじく、この惑星の海が全て鼻腔に収まると謂われている程。

 収まると言ってもピッタリ当て嵌まるのでは無く、鼻腔に置かれた海は広大な砂漠に置かれた一粒の砂程の大きさしか無いと錯覚する程に巨大なのだ。


 生物なのだが惑星のような扱いを受けている事もあり、足元は巨大な海。その下には空気の裂け目。そして更に下層には炎。最下層には冥界があるとされる。


 レヴィアタンとベヒモスの本来の姿にして、ちょっとした恒星程の大きさがある超巨大生物。それがバハムートだ。



 そう、そのバハムートの巨大さ故に、ライたちは全方位から声が聞こえているような錯覚に陥ったのである。


「役者も着々と集まっている。幻獣の国メンバーとライたち一行vsこの星よりも巨大なバハムート……フフ、どちらが勝つか楽しみだよ」


「待ちなさ……!!」


 そしてバハムートを再生させた。我関せずの傍観者ぼうかんしゃのような態度を取るヴァイス。

 そんなヴァイスにアスワドが何かを言うよりも早く、その姿を消す。

 消えると同時にフッと何か風なような物を感じ、アスワドの髪を撫でた。

 片目は血によって見えなくなっているが、風のような感覚は分かるのだ。

 それはさておき今現在。空は曇ってて何も見えないが、恐らくその雲が晴れたその時、バハムートの身体の一部は視界に入る事だろう。


『ギャアアアアアアァァァァァァァッッッ!!!』


「……!」


 そして今再び、ヴァイス達の切り札である怪物──バハムートが大きな咆哮を上げる。それによって大地は揺れ、思わず耳を塞ぐアスワド。

 この瞬間幻獣の国にて行われる戦争は、終わりへのカウントダウンをゆっくりと進めていた。

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