三十二話 ライvsシュヴァルツ"勝負の行方"・世界征服に向けて
──ライとシュヴァルツは向かい合っていた。
「行くぜ! ライ・セイブル!!」
「来い……。シュヴァルツ・モルテ……!!」
ゴゴゴゴと、シュヴァルツの周りに振動が起こり、大きく歪む。
今この場所では、歪んでいるように錯覚するほどの揺れが起こっているのだ。
*****
「……? 何だ、この揺れは……?」
「地震……? いや、違うな……」
「何だろう……」
その振動は街の方まで届き、エマ、フォンセ、レイも反応する。
「さて……シュヴァルツがアレを使うみたいだけど……」
「ハハハ、はてさてどうなる事かねえ……」
「……?」
ヴァイスが言い、グラオが笑って返す。
マギアはよく分かっていない様子だが、シュヴァルツが何かしらの強力な攻撃をしようとしているという事は理解したのだった。
*****
──シュヴァルツの周りを囲むように波紋が広がり、シュヴァルツの足下から大地が砕けていく。
砕けた破片は何処へも行かず、その場で消滅した。
そんな激しい振動の中、シュヴァルツはライに言う。
「実を言うと、テメェが俺の最大攻撃を受けてくれる事には感謝しているぜ。俺が絶対に勝てなかっただろう勝負に、勝機を与えてくれたみてェなモンだからな」
「……へえ? そうかい、それは良かった。まあ、俺も早く終えたかったし、お互いに万々歳って奴だな」
シュヴァルツの言葉に挑発を交えて返すライ。
シュヴァルツはニヤリと笑う。
そんなシュヴァルツを前に、ライは魔王(元)に話し掛ける。
(魔王……お前の力を半分使う……!!)
【いいぜ。あの攻撃は確かに強そうだ】
そしてライは魔王の力を五割まで上げた。六割だとやり過ぎてしまう可能性があるからだ。
ライと魔王のやり取りが行われる中、シュヴァルツは最大攻撃を放出した。
「食らいやがれ……!! "空間完全破壊ッ!!!"」
──刹那、シュヴァルツを中心とし、先程の振動とは比べ物にならないほどの強烈な揺れが巻き起こる。
それによって近隣の山々が次々と砕けていた。
しかし、そんな物は気にならない。何故ならば、シュヴァルツ自身の放つ威圧感がそれらに気を反らしてくれないからだ。
そして、シュヴァルツが叫ぶと同時に、炎・水・風・土、そのどれとも違う、衝撃波のような物質がライに向かって来る。
「これが今俺が出せる攻撃の最大だッ!!! 当たりさえすれば星一つ軽く粉砕出来るッ!!!」
「へえ……星を……ねえ……?」
確かに星を砕ける攻撃となれば、魔王(元)の持つ、魔法・魔術無効も更に無効化されるだろう。
ライも少々不安な様子だ。これを避けれないのならば色々と工夫をしてそれの威力を下げるのが最善の策だろう。
そしてライはその衝撃波を──
「オ──ラァッ!!」
──『殴り付けた』。
「…………は?」
シュヴァルツは困惑の表情を浮かべる。
魔法・魔術無効と聞いていたが、それを聞いた時よりも驚きは勝っていた。
ライは星を砕くという衝撃波を殴り付けたのだから。下手したら……いや、下手せずとも普通ならば死に至るだろう。
そう、普通ならば。
「──ラァァァッ!!!」
ライは拳を完全に振り抜く。
その衝撃とシュヴァルツが出した技の威力によってライとシュヴァルツの居る半径数百キロ程の大地が抉れ、莫大な粉塵と大量の瓦礫が舞い上がる。
そして粉塵と土埃によってシュヴァルツの視界からライが消えた。
このままでは近隣の街が危機に晒されるだろう。
しかし、ここら辺は山岳地帯。なので、街という物はライが寄った街くらいしかない。
その街にはレイたちと、シュヴァルツの中間が居る。恐らく被害の心配は無いだろう。
「どうなったんだァ? ……ライ・セイブル……!!」
シュヴァルツは視界が確認できない為、ライが死んだのか生きているのか分からなかった。
それからシュヴァルツは、土埃が晴れるのを待つのだった。
*****
──数分間巻き起こり続けていた土埃は消え去り、辺りには何も残っていなかった。
そして、『それ』の姿を見たシュヴァルツは肩を落とし、思わず笑ってしまう。
「……オイオイ……マジかよ? クク……。お前……化け物か?」
「……さあ、どうだろうな? 取り敢えず、俺はダメージが尋常じゃないって事は見ての通りだ。今ならトドメを刺せるぞ?」
片腕が内側から爆ぜたように砕けてズダボロになっており、満身創痍の状態である──ライに向かって、だ。
ライは脂汗を流しながら痩せ我慢をし、笑って挑発するようにシュヴァルツへ言った。
「……ハッ、抜かせ……。俺には……もうそんな力も残って無ェよ」
ライの姿を確認した瞬間、シュヴァルツの力が抜ける。そして紐が切れたように背中から倒れ込んだ。その顔では笑っているが、体力がもう残っていないのだろう。
シュヴァルツはこの攻撃を防いだら自分の負けを認める。と言っていたが、それは文字通りの意味で、力を使い果たして起き上がるのも困難な状態になる……という事なのだろう。
「……そうか。まあ、力では俺が押し負けたが、今は立っているのは俺だし、俺の勝ちって事で良いんだな?」
「……ああ、そーだな。……これには降参。俺の完敗だ……。ライ・セイブルさんよォ……?」
ライは痛みを堪えながら言い、シュヴァルツは息を切らしながら言う。
勝敗が決まったと同時にライも腰を降ろす。
片腕は使い物にならなくなったが、その犠牲だけで星を砕く一撃を防いだのなら御の字だろう。
ライはついでに、自分が気になっていた事を聞く
「そうだ、シュヴァルツ。一つ良いか?」
「……? 何だァ?」
ライの方に顔だけを向けて聞き返すシュヴァルツ。
ライは言葉を続ける。
「お前達の目的って何だ?」
「……あ?」
唐突にライから出た、"目的"という言葉。シュヴァルツは僅かに動く肩を竦ませて訝しげな表情をする。
そんなシュヴァルツを見たライは言葉を続ける。
「あ? ってなあ……。何も理由が無く旅してるだけ……って事は無いだろ? 見たところお前もヴァイスって奴も中々の実力者だしな。そしてこれは推測だが、他にも仲間がいるだろ? それ程の人材が集まって何もせずにただ旅をしているってのはちょっと考え難いぞ。流石に」
ライが気になっていたのは、シュヴァルツ達程の実力者が燻っている訳が無いという事だ。
シュヴァルツ達は何か大きな目標を持ち、それを達成させる為に旅をしているとライはそう推測した。
「ハッ! だとよ。どーすんだ? ヴァイス?」
「さて……どうしようか?」
そこに、突然ヴァイスが現れた。
空間移動魔法・魔術のいずれかを使用したのだろう。そして、そこにはヴァイス以外の二人もいる。
「教えてくれんの?」
勿論ライは、ヴァイスとその仲間が来る事を予想していた為に驚きはしなかった。
「そうだねえ……。君の詳しい強さは分からないけど……別に教えても問題無さそうだ。それによって今戦う事になろうと、今の君じゃ満足に戦えないだろうからね」
ライの言葉に対し、淡々と言葉を続けるヴァイス。
ライは砕けていない方の手を軽く振り、目を細めてヴァイスに言う。
「そうだな。けど、俺の仲間に何かしようってなら……今すぐお前達の息の根を止めるからな?」
ライの言葉と同時に、ザア……。と、一筋の風が通り過ぎた。その風は冷たく、触れるモノを消し去るような、そんな風。
「…………っ!!」
「……ほう?」
「……へえ?」
威圧を込め、ヴァイスを睨み付けるライ。
その眼光は齢十四、五とは思えないほどの迫力で、マギアは思わず後退りをしてしまう。先程の風には、ライの殺気が籠っていたので自然にしては冷た過ぎたのだろう。
ヴァイスはそれを受けても尚堂々としており、グラオは警戒しつつも楽しそうにしている。
「ハハ、そう力まないでくれ。私達が思い浮かべている作戦は……多分君達には被害が及ばないさ……」
「へえ? ……『多分』……ねえ?」
ヴァイスの言葉に警戒して返すライ。
"多分"の部分が気に掛かったが、ライたちへ被害が及ばない可能性の方が高いらしい。
一先ずその話題は反らすことにした。
「じゃ、目的を教えてくれるんだな?」
「ああ、そうだね。さっきも言ったように、多分君たちには被害が及ばない。つまり関係が無いってことさ。私たちの目的を教えるくらいは良いだろう」
そして、ライは話を聞く体勢に入り、それを確認したヴァイスは口を開いた──
「我々の目的は……──『支配者と呼ばれている幻獣・魔物を含めた、全ての幻獣・魔物を統一し、一つの国を創る事』さ。無駄に知能を付けてしまった人間・魔族は一部のみを生かすと考えている」
「…………!!」
ヴァイスが言った事は、人間・魔族以外の種族を味方に付け、自分達の国を創るという。
ヴァイスの言った目的にライは暫く何も言えなかった。が、何とかヴァイスに聞く。
「……オイオイ……全ての幻獣・魔物だって? そんな事出来るのか……?」
「ハハハ、出来るか……じゃなくて『言うことを聞かない奴は皆殺しにするんだよ』」
表情を変えず、笑みを浮かべながら話続けるヴァイス。
何とも自分勝手で傍若無人な目的だろう。
ライも世界征服を目論んでいるが、ライの場合は全てが平和に暮らせる世界。
しかし、ヴァイスの目的は全てを自分の駒として支配するという事。
先程ヴァイスが言った、"多分君たちには被害が及ばないさ"という言葉の意味は、"優秀な能力を秘めているライたちは生かしてやろう"という事だ。
「アンタ……中々悪どいな……。間接的にだが、そうなってしまったら俺の仲間たちにも影響が及びそうだ……!」
ライは眉を顰めてヴァイスを睨み付ける。戦うつもりは無かったが、どうやらそうにもいかないらしい。下ろした腰を上げ、ヴァイスに向き直るライ。
足を一歩踏み込み、それによって漆黒の渦が溢れるようにヴァイス達を包み込んだ。
「ハハハ、まさかそんな片腕で私たちを相手にするつもりかい? いくら君がとてつもない力を秘めていようと、片手が使えないんじゃ、まともに戦う事が出来ないんじゃないかな?」
「ああ、かもな……」
「……そうかい」
ライはニヤリと笑い、片手を突き出して戦闘体勢に入り、それを見たヴァイスもゆっくりと動く。そのやり取りを確認し、グラオもヴァイスに続いて動き出す。
「オラ──!!」
そしてライが拳を放とうとした時、
「──待って!! ライッ!!」
「…………!?」
一つの声がこの場に響き渡り、それと同時に三つの影が現れた。その影はライの正面に立ち、それを見たライは拳を止める。
「少し落ち着け……私たちは巻き込まれても大丈夫だ」
「ああ、話を途中から聞いていたが、私たちが被害に遭わない可能性もある。今はその腕を治療する事が最優先だ」
レイ・エマ・フォンセの三人だ。
三人は"空間移動"でライの元に来たのだろう。
レイがライに言葉を掛けて攻撃を止め、それに続くようにフォンセとエマがライに言う。
三人が登場したことにより、ヴァイスとグラオも自分等の動きを止める。
そしてヴァイスは後ろを振り向き、歩みを進めて言った。
「……じゃあ、我々は帰るとするよ。君が満身創痍だとしても油断は出来ない……要するに『我々が死ぬ可能性だってある』んだ。さよなら。ライ・セイブル君?」
「あ! オイ! 待て!!」
そのままマギアの"空間移動"によって何処かに帰るヴァイス・シュヴァルツ・グラオ・マギアの四人。
グラオはシュヴァルツを背負っていた。
ライが声を上げるが、四人は振り向くこと無く何処かへ消えたのだった。
*****
──ヴァイス達が帰り、ライたちは何も残っていないこの場に残されていた。
「──よし、と。まあ、悪魔で応急措置だが、多少は痛みがマシになっただろう?」
「ああ、ありがとな。フォンセ」
一先ずフォンセの治療魔術によってライの出血を止めた。それでもまだ痛々しい傷だが、何もしないよりは良いだろう。
頃合いを見てライが一言。
「悪いな。レイ、エマ、フォンセ」
「……? 何でライが謝るの……?」
それを聞いて疑問に思ったレイがライに言い、エマとフォンセも"?"を浮かべる。
別にライが謝る必要は無いのだが、何故か謝ったからだ。
「いや、心配を掛けたかな……ってな。まあ、レイ、エマ、フォンセが気にしてないなら良いや。忘れてくれ」
照れくさそうに頭を掻きながら言い、立ち上がるライ。それに続いてレイたち三人も立ち上がる。
「もう大丈夫なの?」
レイが心配そうにライへ尋ねる。腕が粉砕する程の傷を負っていたのだ。心配になるのも無理は無いだろう。しかしライは、何時ものように笑って応えた。
「ああ。まだ痛みはあるけど、ヴァイス達の話を聞いたからには、このまま立ち止まっていられないさ。俺の目標である世界征服の為、俺自身も鍛えなきゃな!」
「……そうなんだ」
*****
──ライの最終目的、世界征服。
ライがどういう経緯でその目的を思い付いたかは知らない"私"たち。
けど、ライの話を聞く限り、ライが楽園を創り上げたがっているのは十分に伝わった。
金色の小麦畑で今は亡き祖父と約束した、"人間・魔族・幻獣・魔物全ての種族が平穏で平和に暮らせる世界"そんな世界を私が創る……。
幼き私はそんな世界を創れると、本気で確信していた。
けれど祖父が亡くなり、数年が経過してそんな物はただの夢物語に過ぎないと分かってしまった。
ライを見て、同じ目的を持つ人が居るんだな。と、心強く感じた。
自分よりも幼く、なのに気高い。そんな男の子。
「……とはいっても、確かに少しは休みたいな。レヴィアタンにシュヴァルツ……とまあ、今日だけで強い奴らと戦い過ぎた」
軽快に笑って言葉を続ける、同じ目的を持った男の子。
見ている方が痛々しい傷を負いつつも尚、笑顔を絶やさない。
その男の子が私に話し掛ける。
*****
「おい、どうしたんだ? レイ? ボーッとして……」
「え? あ、ごめん。ちょっと考え事!」
レイはライに聞かれ、慌てて笑顔を作って返す。それを見たライはそうか? と心配そうに呟く。
本当に心配されるべきなのはライの方なのだが、本人はそんな事気に掛けていない様子だ。
「世界征服の為にもボーッとしていられないよね!」
「お、おう……」
そして突然気合いを入れて話すレイ。その様子に若干引いているライだが、レイは気にしない。
この旅の終着地点であり、最終目標である"世界征服"があるからだ。
決して楽な道ではなく、茨の道。
いや、それよりも更にキツいであろう針山、剣山のような道。
しかし、そんなモノに気圧される事無く、目標である"世界征服"を胸に歩み始めるライ・レイ・エマ・フォンセ。
ライたちが目指す旅の終着地点はまだまだ先だ。
支配者やヴァイス・シュヴァルツ・グラオ・マギア以外にもまだまだ強敵が連なる道中。
上には更に上がおり、直ぐにも傾きそうなこの世界。
ライは魔王の力を操り、その先を目指すのだった。