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三百十三話 主力たちの戦い

 ──辺りには、依然として剣と剣からなる金属音や火薬兵器から放たれる銃声。弦の引く音に槍がぶつかる木の音が響いていた。

 突如として大樹に攻め込まれた幻獣の国。総動員とまでは行かずとも、主力を含めてかなりの数が派遣されている。

 大樹の広さは国レベル。それは縦にも横にも広く、ちょっとやそっとの攻撃ではビクともしない程だ。

 そんな大樹にて、静かな場所を探す方が苦労しそうな程の戦闘音。皆が皆、戦闘に駆り立てられていた。


「やあ!」


 そんな戦場を疾風の如き速度で駆け抜けつつ、弓矢を放ちレイピアで敵を切り捨てる一つの影──エルフ族にして幻獣の国幹部であるナトゥーラ・ニュンフェ。

 ニュンフェは次々と敵の兵士を切り捨て、矢で射抜き、魔法を使って兵士の欠片を再生する前に消滅させる。

 それと同時に加速し、旋風と共に敵の兵士達を消し去った。


「まだまだ居ますね……。数は全体で数万人。厳密に言えば一万から三万の兵士。まあ、大樹は広いので仮にあと十億人と十億匹以上居ても溢れる事はありませんが……」


 消滅して行く敵の兵士達を見つつ、奥から現れる兵士達の方に視線を向けてため息を吐きながら呟くニュンフェ。

 この大樹は国サイズの大きさを誇る。なのでそう溢れる事は無いのだが、それでも数万人の不死身兵士を相手にするという事は苦痛だろう。

 特殊能力は不死身というだけだが、鬼のような力と感情によってブレる事無く攻め続ける敵の兵士達。

 仮に不死身で無くとも、臆する事無く攻め続けるというだけで厄介なものである。


「他の皆さんは無事でしょうか……」


 駆け出し、向かってくる兵士の軍隊に飛び込むニュンフェ。

 ニュンフェの速度ならば敵の兵士に捕まる事もそうそう無い。

 一先ず今は味方を信じ、出来るだけ敵の兵士を殲滅する事が優先である。



*****



『はあ!!』

『やあ!!』


 ジルニトラの魔法と青竜の体当たりが敵の兵士を吹き飛ばした。

 魔法によって消され、巨躯の竜が物理的に吹き飛ばす。

 それを受けて吹き飛んだ敵の兵士は大樹の壁に激突して壁を粉砕した。


『キリがないね……』

『うん……』


 吹き飛ばすや否や、二匹の龍が背中合わせに会話を交わす。

 黒龍と青竜の組み合わせは暗い色合いだが、夜の海を彷彿とさせるような静寂があった。


『行こうか……!』

『そうだね……!』


 刹那、ジルニトラの魔法と青竜の長い身体に吹き飛ばされる兵士たち。

 色合いは静寂であるが攻撃は激しく、静寂とは無縁の事柄である。

 二つの攻撃は敵の兵士を消滅させる程の威力を秘めていない。秘めさせていない。魔法の神を謳われるジルニトラや四神の一角である青竜ならば敵の兵士達を消滅させる事は容易いが、敢えてそれを実行していないのだ。


『……他の兵士たちは……?』

『……もう居ないみたい』


 そして再び背中合わせとなり、一瞥だけ交わして話す二匹。

 そう、二匹は味方の兵士が別の部隊へ移るのを待っていたのだ。

 この場に居る敵の兵士は二、三十人。それを纏めて消し飛ばすのならば、周りに味方が居たとして巻き込んでしまう。なので味方の兵士たちが離れるのを待っていたのである。


『じゃあそろそろ……』

『……行こうかな?』


 ──一閃、二匹は刹那の間に加速して互いから離れた。

 それと同時にジルニトラは魔力を込め、青竜は身体の力を込める。

 一瞬にして敵の兵士に詰め寄った二匹は、


『──はあ!』

『──やあ!』


『『『…………!!』』』


 纏めて消し飛ばした。

 消滅した兵士達は普段通り有無を言わずにこの世を去り、手に持っていた武器が落ちて余波で粉々になる。

 そしてこの場に居た二、三十人の兵士達は全てが消え去った。


『まだまだ居るよね……多分』

『うん。この場所にはたったの数十人しか居なかったし』


 二匹は近寄り、視線を合わせて話す。

 その後に遠方を見やり、争う音を耳にした。

 その音からするに、此処とは違う場所にて多くの者が居ると推測出来る。

 推測するや否や、ジルニトラと青竜は無言で頷いて空を飛ぶ。此方も此方で行動をしていた。



*****



『朱雀さん!』

『ええ! フェニックスさん!』


 二匹の不死鳥が互いに交わし、次の刹那に敵の兵士を焼き尽くした。

 厳密に言えば朱雀は不死鳥と違うのだが、フェニックスと同一視される事もあるので小さな問題である。

 二匹の鳥は互いに炎を得意とする。敵の兵士を焼き消すのならばこれ以上に無い組み合わせだろう。


『『『…………』』』


『まだまだ来ますね……!』

『ええ、しかし承知の上でしょう……!』


 ザッザと足音を鳴らし、ゆっくりと近付いてくる敵の兵士達。

 この場には何人かの味方兵士がおり、その兵士たちも敵の兵士を相手取っているがトドメ役は此方の二匹が勤めている。

 味方兵士の役割は主に敵の体制を崩し、フェニックスと朱雀がやり易いように場を整える事だ。

 基本的な戦闘は味方の兵士たちが行っているので、二匹は無駄な労力を使わずに済んでいる。


『……!!』

「であ!」


『……!!』

『はあ!』


『……!!』

「そいや!」


『……!!』

『どりゃ!』


 あちこちで金属音と味方兵士たちの声が飛び交い、銃声と弦引き音。槍の柄同士がぶつかる木音など、様々な音が聞こえる。

 あるところでは剣と剣がぶつかり合い、あるところでは敵の兵士に向けて発砲される。

 あるところでは矢が敵の兵士を射抜き、あるところでは槍によって薙ぎ払われる。

 そして魔力を込める者がおり、魔法・魔術で攻める者も居た。

 辺りには粉塵が上がり、あらゆる要因によって視界が見え難くもなっている。

 何処からどう見ても、これは確実に戦争だろう。


『多いですね……』

『ええ、別の場所にもこれ程居るとなると……少々苦労するでしょう』


 そして兵士たちが仕留めた敵の兵士を消滅させる二匹。

 炎のような翼を広げ、大樹の内部を飛び交いつつ炎を使って焼き払う。

 一見簡単な作業だが、味方兵士を巻き込まぬように敵を消滅させる程の炎を放つというのはかなり慎重な作業となる。

 下手すれば余波で味方を焼いてしまうからだ。しかし味方兵士を離れさせ、敵を消滅させる為に炎を吐き続けると莫大な労力を消費するのでそれを行う訳にも行かない。

 相手が不死身なので、不死身だからこそ、まともな戦闘を行うのはかなり難しい限りだろう。


「「「ハァ!!」」」

『『『そら!!』』』


『『『…………!!』』』


 次いで味方の兵士たちが薙ぎ払い、敵の兵士をその場で倒す。

 倒すといっても消滅させた訳では無い。しかし動きを止めたので、フェニックスと朱雀にとってはそれで十分だ。


『今は向こうの心配をしている暇ではありませんね』

『そうですね。悪魔で此方側の敵が優先です……!』


 倒れた兵士に炎を放ち、その存在をこの世から消し去る二匹。

 今は数の多さに気圧けおされるのでは無く、目の前の敵に集中する事が優先。

 なので思考と集中を切り替え、改めて敵の兵士に構えた。



*****



『ハアッ!!』

『ハッ!』


 巨大な身体を持つ龍の仲間と、金色に輝く鳥人が生物兵器の軍隊を消し飛ばした。

 その衝撃によって大樹の壁が砕け、壁の欠片が外へと吹き飛ばされる。それ程の破壊力を秘めていたのだ。


『お前たち! 此処は我らに任せろ! お前たちは別部隊を援護するんだッ! 主力が大樹全域を回れる訳では無いからな! 我とガルダも行くつもりだが、今はまだだッ!!』


『ああ、ワイバーンの言う通りだ! 我らが居ればこの場は容易く抑えられる!!』


『ハッ! 分かりました!』

『その通りにしましょう!』

「分かりました!」

「お任せください!」


 その者たち、ワイバーンとガルダ。

 一匹と一人は味方の兵士たちに指示を出し、この場から兵士たちを離す。

 ワイバーンとガルダは体力もあり、今日一日戦うだけならば無休で戦えるだろう。

 無論、無休で戦えるのは主力以外と戦っている今だけだが、主力が出て来なければ無休で戦闘を行えるのだ。


『フッ、珍しいな。お前が魔族の兵士に対しても普通に接するとは』


『……フン、我も多少は変わったんだ。今でも好いているという訳では無いが、人間・魔族もそれ程悪い種族では無いと思っただけだ』


『そうか。そういう事にしておこう』


 ワイバーンの態度を見、軽く笑って話すガルダ。

 ワイバーンは元々、人間・魔族を毛嫌いしていた。

 昔からの御伽噺おとぎばはしに出てくる龍族は大体殺されるという事から、人間・魔族は天敵だと思い込んでいたからだ。

 しかし、一人の少女に出会ってその性格は変わった。ガルダはその事が可笑おかしかったのだろう。


『なあワイバーン。異類婚姻譚いるいこんるいたんって知ってるか?』


『……。ふん、知らぬな。どうでも良い。知る必要の無い事だ』


『そうか。そこまで行ってる筈が無い。どちらかと言えば異種間恋愛いしゅかんれんあいだな』


『殺すぞ』

『冗談だ』


 揶揄からかうように言い、おどけて話すガルダ。

 ガルダが述べたのはいずれにしても異種族と人間の恋愛物語。

 異類婚姻譚いるいこんるいたんは人間と他種族が結婚するはなしで、異種間恋愛いしゅかんれんあいは人間に恋心を抱く他種族のはなし

 しかしそれらは全て、必ず悲愛となっている。そう、人間・魔族、吸血鬼のように姿形が近い種族ならばまだしも、姿形も何もかもが違う生物同士は叶わぬ恋となっているのだ。


『だが、仮に貴様の言う事が本当だとしても我は何もせぬ。龍は龍らしく、誇らしく純血を守りながら生きていく種族だ。半端にハーフとでもなれば生き難いだろう。元々、幻獣・魔物と人間・魔族は関わる事の無い。相容れない種族だからな』


『それは私への当て付けか? 悪かったな、私は人間、鷲、神の血液が入っている』


 フッと笑い、遠くを見るように話すワイバーン。

 ワイバーンはそれを諦めており、これからどうしようと思うつもりも無い。

 その覚悟を受け取ったガルダは何も言わず、おどけるように話した。


『そもそも、お前と我も元々敵対する種族同士だろ?』


『ハッハ、そうだ。確かにそうだな。蛇や龍は私の敵だった。"生"とは何が起こるか分からぬ』


 軽く笑い合う一匹と一人。

 簡単なジョークを交えつつ、目の前に集まり出した兵士たちを一瞥する。

 相対する筈の者たちは己の国へ攻める兵士たちを迎え撃つ。



*****



「それ!」


 一つの声が大樹に響き、それと同時に光の球体が放たれた。

 その球体は大樹の床に激突し、一瞬後に目映い光を放ちながら熱と衝撃を含めた大爆発が起こる。

 その爆発に巻き込まれた敵の兵士は消滅し、辺りに大きな粉塵を巻き上げた。


「ラビア様に続くんだ!!」

「敵を一ヶ所に纏めろォ!!」

『言われなくとも!!』

『やっているさ!!』


 その爆風を切り裂き、駆け抜けるように現れる味方兵士たち。

 兵士たちはその武器を振るい、生物兵器達へ仕掛ける。

 剣で切り裂き、銃で撃ち抜き、矢で射抜き、槍で突いて魔法・魔術で吹き飛ばす。


「はあ━━!!」


 そして一ヶ所に纏めた後、ラビアが光の球体を放って吹き飛ばした。それによって熱と光は敵の兵士を飲み込み、全てが消え去る。

 しかしまだまだ奥から現れ、押し始めていた戦況が徐々に変化した。


「クッ、数が多過ぎる……!」

「ラビア様が居るとは言え、このままではジリ貧だ……!」

『主力に頼りっきりとは……情けない……!』

『仕方無いだろう、敵は不死身だからな……!』


 魔族兵士たちは剣を交え、幻獣兵士たちは己の身体を使って敵を吹き飛ばす。

 吹き飛ばされた敵の兵士は直ぐに起き上がっては無表情で近付いて行く。

 このままでは確実に此方側不利となるのは、火を見るよりも明らかだった。


『案ずるんじゃねぇ。もう一人の主力。俺が居る』


「「……!」」

『『……!』』

「……!」


 その瞬間、敵の兵士達は一瞬にして粉々に砕かれた。

 それでも直ぐに再生するだろうが、細切れ状態ならばラビアの光魔術で容易く消せるだろう。


「……白虎さん!」


 片手で光の球体を放ち、敵の兵士を消し飛ばしつつその者、白虎に話し掛けるラビア。

 白虎は四肢を床に着け、白い毛並みを揺らしてラビアに向き直った。


『一ヶ所に集めれば全てを消せるんだな? なら任せろ。俺の力を見せてやろうじゃねえか』


「ありがとう、恩に着るよ!」


 そんなラビアにフッと笑って話、頼もしそうに白虎へ視線を向けるラビア。

 一人と一匹は改めて構え直し、白虎は牙を剥き出しにして唸り、ラビアは身体を伝う魔力を両掌に纏う。


「我々も行くぞ!!」

「ああ、逃げる訳には行かない!」

『新たな主力が来てくれた! これなら行けるぞ!』

『そうだ! まだまだ戦うんだ!!』


 ラビアと白虎に続くよう、他の兵士たちも気合いを入れ直す。

 戦わなければ世界が危ういと、皆が承知しているからだ。

 白虎が加わったこの部隊。こちらは体制を立て直した。



*****



『大丈夫ですか皆さん!』

『今、直ぐに治療を施しましょう!』


 一方、負傷した者たちが集まる部屋にて、戦闘では無く治療して活気を上げる二匹の姿がそこにあった。

 麒麟とユニコーンだ。

 基本的に争いを好まない二匹。だからこそこの二匹は直接戦闘に関わるのでは無く、治療という名目で手助けをしていた。

 いや、此方の二匹は本心で兵士たちを救いたいと思っている。名目などと言う上っ面だけでは無く、確かな理由だろう。


『負傷兵は此方へ! 直ぐに治療を行います!』

『私たちは治療の魔法・魔術に長けています! 直ぐによくなる事でしょう!』


 忙しなく動き、その身体に治療道具を乗せて駆ける二匹。

 魔法・魔術も使えるには使えるが、使い過ぎると敵に魔力を感知されてこの場所が特定される危険がある。なので重傷者以外に魔法・魔術の治療は行わず、通常の治療を施しているのだ。


『麒麟様! これは?』

『水に浸けていて下さい! それで汚れを落とします! それを使えば傷も癒せるでしょう!』


『ユニコーン様! 傷薬は!』

『彼方に纏めてあります! 薬草と混ぜる事でより効果を発揮する事でしょう!』


 兵士たちが麒麟とユニコーンに尋ね、それの使い方を教える。

 兵士たちも使い方が分からない訳では無いが、自然として生きていた幻獣なので科学薬品などは詳しくない。

 確実な確認を取る為に麒麟、ユニコーンへ尋ねているのだ。


「それらの事は俺たちに任せろ! お前たち幻獣は薬草、霊草に詳しい筈だからそちらを優先してくれ!」

「ああ、我らの中では"タウィーザ・バラド"出身の者は薬草、霊草に詳しいが"マレカ・アースィマ"出身者はそうでも無い!」

『分かった! ならばそれらを教えよう!』

『変わりに科学物の使い方を教えてくれ!』

「任せろ!」


 至るところから声が響き、二つの種族が協力して味方の兵士たちを手当てする。

 薬草、霊草に詳しい幻獣兵士たちは魔族兵士たちに教え、逆に人間・魔族が作ったような薬は魔族兵士たちが幻獣兵士たちに教える。

 二種族が協力する事によって、互いの利益になる事を行っているのだ。


『……』

『ふふ、何か思うところがあるようですね、ユニコーンさん』

『……いえ、そんな。私は別に……』


 その様子を眺め、口を噤むユニコーンに向けて軽く笑いながら話す麒麟。

 ユニコーンは何も無いと返したが、麒麟は何かを察しているようだ。


『貴女が嫌う人間・魔族。けれど……人間・魔族が居たからこそ、助かった味方の兵士たちが居るのですよ』


 それはユニコーンの嫌う二つの種族について。

 ユニコーンは人間・魔族という種族を嫌っている。人物を嫌うのでは無く、種族その物を嫌っているのだ。

 しかしながら、その種族が居た事で薬草が改良され人間・魔族・幻獣・魔物にも効く薬が開発された。


『……ええ、そうですね。勿論理解しています。闇雲に嫌うべきでは無いと……実際、ライさんたちは信頼しても良いと思っていますし……。しかし、大昔に絶滅間際まで追い込まれたユニコーン族(私たち)にとってはそう簡単に埋まる溝ではありません。けど、前とは見方が変わりました。人間・魔族は欲の為に生きる者ばかりでは無いと』


『ふふ 、その気持ちがあれば、この国も更に向上する事でしょう。私たち四神は直接関与している訳ではありませんが、幻獣の国が発展するのは喜ばしい事です』


『……。達観していますね。それが四神の余裕ですか?』


『いえいえ、その様な事は御座いませんよ』


 フッと笑って談笑を続ける二匹。

 ユニコーンは人間・魔族によって救われた命もあると思考した結果、それら二種族も見直さなければならないと考えたのだろう。

 向き合わず、嫌っているだけでは何も進歩が無いと理解しているからこそである。

 それに対して、四神である麒麟は直接的な関わりがなくとも幻獣の国を懸念しているようだ。


 ワイバーンにユニコーン。この二匹が幻獣の国にて人間・魔族を最も嫌っている勢力。

 しかしその二匹は少しずつだが一部ならば人間・魔族を信頼してきている。

 麒麟にとっては、その事が嬉しいのだろう。


『さて、治療に専念しますか』

『ええ、その方が良いですね』


 それだけ交わし、改めて兵士たちの治療に移る麒麟とユニコーン。

 戦闘だけが戦争では無い。この二匹のように、医療班が居るからこそ兵士たちも真っ直ぐに戦えるのだろう。



*****



「"囲いの盾(アルダミーマ・デルゥ)"!」

「"矢の雨(サハム・マタル)"!」


 次の瞬間、シターの盾魔術が敵の兵士を囲い、そこに向けて雨のように降り注ぐサイフの矢が放たれた。

 その矢は敵の兵士を射抜き、その動きを停止させる。


『終わりだ!』


 刹那、一つの声と共にいかづちがその盾の中にに放たれ、矢で貫かれた敵の兵士達を焼き尽くす。

 消滅させる事は出来ないが、再生が追い付かない速度で焼き続けるのでもう動く事が出来なくなる黄竜のいかづちである。


『ふんっ!』


 次いで玄武が大樹の床を踏み付け、水を起こして生物兵器の兵士達を洗い流す。

 流れた敵の兵士は壁に激突し、打ち砕いて大樹の外へ流される。


『しまった。外に出してしまえば外に居る兵士が……!』


「問題ありません! 外に居るのはライさんたちとフェンリルさんにレヴィアタンとベヒモスだけ。ライさんたちとフェンリルさんは遠方に居るかもしれませんが、レイさんたちがおりますので恐らく戦いに巻き込まれて消え去るでしょう!」


『む? そうか。なら良かった』


 敵を流した事に対し、一瞬の焦りを見せる玄武だがマルスが補足を加え無問題と告げた。


「続いて、シターさんは敵の兵士を逃がさぬよう数千人閉じ込める盾を! サイフさんは先程のように動きを止め、黄竜さんがいかづちを使って仕留めて下さい! 玄武さんは水を起こし、流すのでは無く水圧で押し潰すのです!!」


『『ああ!』』

「分かったぜマルス王!」

「任せてくださいマルス王!」


 次いでマルスが指示を出し、黄竜、玄武、サイフ、シターが返して敵の兵士を相手取る。因みに魔族・幻獣の兵士たちは別部隊に派遣しており、此処に居るのはマルスと主力のみ。

 そしてこの場に居る敵兵士は数千人。具体的には八〇〇〇人は居る事だろう。

 その全てが不死身で鬼レベルの力を秘めている。それなりの街でも落とされ兼ねない程の勢力だ。主力が二人と二匹集まっているのも頷けるものである。


「では、皆さん! 頼みます! 僕も自分の出来る限りの戦いますので!!」


 マルスも剣を持ち、告げる。その指示と同時に黄竜たちは駆け出し、敵の兵士達の元へと向かって行く。


「マルス王、成長しているわね"囲いの盾(アルダミーマ・デルゥ)"!」


「ああ、名実共に王へなる日は近いかもな"縛り矢(アルクアット・サハム)"!」


『お前たちの王。中々肝が座っているでは無いか』


『若いというのに、魔族という種族は成長が早いのか?』


 シターが盾魔術で敵の兵士を囲い、サイフが矢の魔術で動きを止める。

 そして玄武が水を放って打ち砕き、最後に黄竜がいかづちを放って完全に停止させた。

 サイフとシターはマルスの成長を喜び、玄武は素直に感心する。そして黄竜はライとフォンセ、マルスを思ってか魔族の若者について何かを考える。


「ハッ、黄竜さん。マルス王もライたちも若くして色々苦労なさっているからな。それが原因で子供らしく出来ねェってもんなんスよ……」


『ふむ、成る程。達観しているのは言い難い事があったからか。妙に納得した』


 黄竜の思考に対し、フッと笑って話すサイフ。

 ライとフォンセの過去は知らないサイフだが、マルスたちの家とは昔からの付き合いなのでマルスが若くして王になった。ならざるを得なかった理由を知っている。

 サイフ的にも、色々と思うところはあるのだろう。


「ま、取り敢えず深くは追及しないでくだせェ。今は敵に集中しなきゃらならんのでね」


『フッ、そうか。そうだな。敵を倒す事が最優先だ。此処に敵の主力は居ないが、数千の兵士が居る。片付けなくては戦闘に響くだろう』


 これにてサイフと黄竜の会話が終わる。

 黄竜は物分かりが良く、相手の心情を読み解きそれに合わせた行動を行うようだ。

 四神の長を勤めるからこそ、そういった事が得意なのだろう。

 ライたちとドラゴンたち。ブラックたちに黄竜たち。支配者の側近たちと幻獣の国幹部たち。相対するはヴァイス達侵略者一味。

 これらの主力が織り成す戦闘は、始まってから二、三時間程度しか経過していない。

 しかしその二時間程度で今、終盤戦へといざなわれつつあった。

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