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三百九話 リヤンvsシュヴァルツ・ブラックvsゾフル&ハリーフ

「"連鎖する破壊チェイン・ディストラクション"!!」


「……ッ!」


 一つの声と共に、周りにある空間が連続して砕けた。

 それによって空間が硝子片のように落下し、それを見たリヤンは体勢を低くして破片をかわしながら進む。

 空間の欠片は地面に突き刺さり、穴を上げながら落下する。

 かわし続けるリヤンは地面をこすり、足を開いて砂埃を上げながら停止した。


「……!」


 そして次の瞬間に駆け出し、シュヴァルツとの距離を一気に詰める。

 大地を蹴り、そのまま勢いを付けて駆け出したのだ。

 瞬く間にシュヴァルツの身体が近くに現れ、リヤンは拳に幻獣・魔物の力を込めて構えた。


「中々速いが……所詮はその程度だな」

「……ッ!」


 それを見たシュヴァルツは魔力を込め、腕を掲げて破壊振動を辺りに起こす。

 幻獣・魔物の力を纏った事で五感が発達してそれを悟れたリヤンは止まり、即座にシュヴァルツから離れた。


「警戒心も高くなってんな?」


 破壊魔術が不発に終わったシュヴァルツはリヤンの方を一瞥して言い、クックと歯を剥き出しにして笑う。

 笑うと同時に踏み込み、大地を蹴り砕いて加速するシュヴァルツ。

 そんなシュヴァルツは一瞬にして距離を取ったリヤンの側へと到達した。


「"破壊ブレイク"!!」

「……ッ!」


 到達しつつ破壊魔術を放ち、リヤンに仕掛ける。

 リヤンは動揺しつつも紙一重でかわし、先程までリヤンの居た場所にヒビが入りそのまま砕けた。


「……フーッ!」


 砕けるのを確認したリヤンは直ぐ様シュヴァルツへ向き直り、四つん這いとなって威嚇する。

 それはさながら獣のよう。リヤンにその様な意思は無いのだろうが、傍から見れば獣その物だった。


「オイオイ……犬か猫か、テメェは。……そうだな……吠え方は猫、体勢は犬って感じだな」


「あ……。私……何やってるんだろ……」


 シュヴァルツにツッコミを入れられ、ハッとして立ち上がるリヤン。

 やはり自分の意思だった訳では無いらしく、自然と身体が動いたようだ。


「意識せずにあの体勢を……? クク、どうやら何か訳アリの様子だな……見たところあの動きは幻獣・魔物のモノ。つまり何らかの理由でテメェは獣の力を扱える……何処か普通とは違う神々しさもある……ライの事もあるからか……どうも気になっちまうな。テメェら全員、特別な何かがあるのかもなってよ……」


 そんなリヤンを観察していたシュヴァルツは推測し、ライが魔王を纏っていた事も踏まえて先程から考え続けているようだ。

 そう、シュヴァルツはリヤンが力を纏った時からライたち全員に何かあると考えていた。

 その何かは分からないが、この様子を見るにおのずと思考の答えに到達するかもしれない。


「そう、じゃあ勝手に考えていなよ……! そのうちに貴方を倒すから……!」


「クク、それは出来ねェ相談だ」


 その瞬間、リヤンは大地を蹴って加速する。同時にフェンリルの速度を出し、シュヴァルツの眼前へと迫り行った。

 しかしシュヴァルツは余裕の態度を見せており、近付くリヤンの動きを完璧に見切って避ける。


「"破壊ブレイク"!!」

「危ないっ……!」


 避けると同時に高速で手を突くシュヴァルツだが、それを察したリヤンは破壊魔術が過ぎ去る前にかわしてシュヴァルツから距離を置いた。


「……はあ!」

「ほう?」


 距離を置くと同時に踏み込み、シュヴァルツの顔目掛けてヴァンパイアの力を纏いユニコーンの角のように硬質化させた拳を放つリヤン。

 シュヴァルツはそれを紙一重で避け、破壊魔術を纏わない通常の回し蹴りを放つ。


「……ッ!」

「反応良いな?」


 その蹴りに対して腕を構え、己の腕を盾にして防ぐリヤン。

 威力に押されて吹き飛ばされたが、その距離は数メートル程度。ダメージというダメージも蹴られた瞬間に受けたモノしかなかった。

 咄嗟の反応を見たシュヴァルツはクッと笑って素直に称賛する。


「戦い慣れていないかと思ったが……そこは謝罪しようじゃねェか。テメェは割りと戦い慣れていて、それなりの強さも秘めている。ー事でこれから俺もそれなりの力を出すぜ……」


「そう……別にどうでも良い……!」


 称賛しつつ謝罪を申し、改めて破壊魔術を放出するシュヴァルツ。

 それによって周りの空間が砕け、リヤンと共に居る兵士たちやシュヴァルツの連れる部下兵士達の干渉を断ち切った。

 より集中する為、戦いを楽しむ為に直径数百メートルの空間を砕いたのだ。


「これでまあ、少しは楽しめんだろ」

「楽しむ暇なんて無いよ……!」

「クク、言うじゃねェか……?」


 刹那、リヤンとシュヴァルツは互いに向けて駆け出し、幻獣・魔物の力。破壊魔術を互いに仕掛ける。

 主に掌底しょうてい打ちを主体としたシュヴァルツの破壊魔術と、それをかわしていなし、隙を突いて蹴りや拳などで迎え撃つリヤン。

 二人の戦いは、まだ始まったばかりである。



*****



「"無数の剣アダド・ラー・ニハイィ・セイフ"!!」

「"無数の槍アダド・ラー・ニハイィ・ハルバ"!!」


 ──一閃、光と共に放たれた無数の剣魔術と槍魔術。

 それらは互いにぶつかり合い、辺りに衝撃をかもし出しながら火花を散らす。

 それによって周りの壁や床は傷付き、抉れて粉砕する。

 その様に粉砕した破片が粉塵となり、ブラックとハリーフの視界が見え難くなった。


「──隙あり!」

「見えてるぜ!」


 次の瞬間、雷速で姿を現しブラックに仕掛けるゾフル。

 ブラックはそれを見切り、剣魔術によって生み出した刃の壁で防いだ。

 剣魔術は魔術の一つ。盾魔術のように、形を変えさせる事は容易く実行出来るのである。

 その剣に当たったゾフルは無傷。雷となっているので当然だろう。

 だが、殴り掛かろうとした為に拳だけは通常の状態。ゾフルは刃によって拳にダメージを負った。


「"音速の槍スリート・アルソー・ハルバ"!」

「次はそっちか……!」


 次いで放たれたのは高速の槍魔術。

 その名が示すように音のような速度となっている槍魔術だが、幹部クラスならば音速は軽くかわせる事が出来た。


「痛ェ……拳が切れちまった……」

「……ふむ、やはり幹部クラス。一筋縄では行きませんね……はてさて、一体どうしたものやら」


「ハッ、俺はまだ余裕だぜ? どうせテメェらもまだ全力じゃねェんだろ」


 拳の傷を見、したたる血液を眺めるゾフル。ハリーフはブラックの実力を思案しており、中々に難しそうな顔をしていた。

 対するブラックは余裕はある状態だが、決して油断はせずに二人に視線を向けている。


「当然だ! アンタの剣魔術、雷を切断する事は出来ていなさそうだからな!」

「ええ。余裕はありませんが、実力はまだ隠していますよ、ブラックさん」


「だったらさっさと掛かって来い。テメェら以外にも雑魚兵士が残っているから面倒なんだよ。"マレカ・アースィマ"は幻獣の国に全面協力するって約束があるからな」


 ザッと構え、てのひらを己に返して挑発するように話すブラック。

 ゾフルとハリーフはブラックの予想通り本気では無かったらしく、まだ全力を出していない。

 なのでブラックは二人を早く仕留める為に挑発しているのだ。

 まだ敵の生物兵器は残っており、不死身なので倒せぬ味方兵士も多い。

 敵の主力であるゾフルとハリーフ。この二人は悪魔で通過点に過ぎない。グラオ達の強さからするに、この二人が通過点で無ければこの戦争に勝つ事が出来ないからだ。


「ケッ、随分と舐め腐りやがるなッ! 上等だクソ幹部!! 所詮アンタは、誰かに縛られるだけの傀儡くぐつだ!」


「まあ、誰かに縛られるって意味なら私たちもですけど……舐められるのは穏やかな心境ではありませんね」


「良いぜ! その意気だ! その方が早く終わって丁度良い!!」


 刹那、ゾフルが雷となって加速し、雷速でブラックに近寄る。

 その背後ではハリーフが槍魔術を形成しており、ゾフルごとブラックを狙っていた。


「"槍の矢(ハルバ・サハム)"!!」

「ゾフルごと……? いや、そうか。成る程な」


 即座に槍を放つハリーフ。それをブラックは疑問に思ったが、直ぐに解決した。

 ゾフルは雷となっているからこそ、槍魔術でも撃ち抜けないのだろう。なので一斉に放っても無傷で済むのだ。


「ハッハァ!! ブラックさんよ!! これを全て受け切れるかな!!」


「……」


 高笑いし、雷速でブラックに近寄ったゾフル。

 その後ろからは遅れながらも槍魔術の槍が来ており、その全てがブラック一人を狙っていた。


「ハッ、別に避ける必要は無ェだろうよ」

「何っ?」

「ほう?」


 そしてブラックは、槍魔術の槍を全て己の剣魔術で叩き落とした。

 床に落ちた槍は消え去り魔力の欠片と化し、雷速で来るゾフルは簡単にかわす。

 それを見たゾフルは思わず素っ頓狂な声が漏れたが、即座に体勢を立て直す。

 そしてハリーフは、はなから当たらない事を知っていたのか、特に驚きは無い様子だった。


「チッ、確かに防御しなくても叩き落としゃ問題無ェな。俺もかわされたらそれまでだ……!」


「クハハ、そうだろ? じゃ、次は俺の番だ……!」


 ゾフルが言い、ブラックが返す。そんな簡単なやり取りの後ブラックは構え、剣魔術を大量に創り出した。


「"真空の剣(ファラ・セイフ)"!!」


 刹那、形成された剣魔術が細い線を創り出し、流星のように降り注いだ。

 空気を切り裂き、真空を生み出しながら高速でゾフルに注ぐ。

 それを見たゾフルは余裕の態度を取りつつ、避ける素振りを見せずにブラックに向けて話す。


「ハッ、無駄だ! 俺は雷。どんな攻撃をしようと俺の意思が無くちゃ──」


 ──そして剣魔術は、ゾフルの身体を切り裂いた。


「……ッ!? な……!!」


 何かを言おうとした瞬間に切られたゾフル。

 切られた箇所は肩と腕と脇腹。切られた瞬間に雷速で移動して離れたので致命傷は負わなかったが、ゾフルの頭には疑問と混乱が生じ何が起こったのか分からない様子だった。


「テメェ……!! 何で雷を……!!」


 その疑問は雷その物であるゾフルを切断出来た事について。

 雷とは触れても触れられない物質。厳密に言えば触れられるが、体内を通って感電させるくらい。

 そんな雷であるゾフルが切断された事は、ゾフルにとって全く分からなかった。


「アホか。俺は今真空を作ったんだ。空気も何も無い空間だ。つまり、雷を形成する物質も無い。要因が無いから雷は発生しねェんだよ。まあ、電気つーか電磁波は真空でも行動出来るし、雷その物になるんじゃなくて魔力を使う雷魔術なら真空でも問題無く行けるがな」


 真空は何も無い空間。この星に作られたなら重力の影響は受けるが、空気や空気中の水分なども無くなる。

 対するゾフルは雷。身体が雷となっている為、常に放電しているという事。

 つまり、ゾフルは今全身をこの星に存在する空気や水分、その他諸々の物質に干渉しているという事である。

 その干渉物を切り離した時、ゾフルは形を保ち切れなくなり傷を負う。という事だ。


「やれやれ、少しは自分の性質を理解した方が良い。この世の物質その物になるという事は、この世に存在しているという事。つまり必ず存在を消せる何かがあるって事なんですからね」


「うるせー! 俺は俺らしく戦うんだよ! と言いてェが、確かに弱点を突かれるのは穏やかじゃねェな。気ィ付けるわ」


 呆れながら話すハリーフと、それに返すゾフル。

 ゾフルは反論したかに見えたが、素直にハリーフの言い分を受け止めるらしく改めてブラックに構えた。

 戦闘好きなゾフルとはいえ、苦痛を受ける事が好きという訳では無い。

 なので戦闘に勝利する為、素直に知識を吸収して次の戦いに活かすつもりなのだろう。


「ハッ、気を付けるだけで何とかなると思ってんのか? まあ、確かにテメェらも側近を勤めていたから中々やる方だが……知っての通り力の差があるって分かってんだろ?」


 ゾフルとハリーフの会話を横に、ブラックは誇る事無くそう告げた。

 事実、幻獣の国ではそうでも無いが、魔族の国では支配者と幹部。幹部とその側近。その差が開き過ぎているのだ。

 良い意味では単体で反逆しても成功する事は無くなっているという利点がある。

 だが、組織としては四つの勢力で下位の方になってしまうだろう。支配者のシヴァだけで残りの国と張り合っていると言っても過言では無い。他国の幹部クラスと言えど、宇宙を破壊出来るものは居ないのだから。

 それはさておき、差があるのでゾフルとハリーフが相手でも然程苦労は無かったりするのだ。


「んな事言われなくても理解してらァ! だからこうして二人で挑んでんだろーがッ!! あんま舐めてっとドタマかち割ってぶっ殺すぞコラァ!!」


「はあ……。何ですかそのなまりは……ゾフルさん。貴方ってそんな性格でしたっけ? そもそも、たまたま移動場所が同じだったってだけで意図せずにこの場所に出たんですけどね……」


 ブラックの言葉を聞き、キレながら話すゾフル。

 そんなゾフルの普段とは違う言い回しに疑問を覚えて呆れるハリーフ。

 全て偶然であり、たまたまこの場にブラック、ゾフル、ハリーフが揃っただけで誰も意図していないのである。


「まあ、此処に魔族の国メンバーが集まったのも何かの縁。幹部として、俺が責任持ってテメェらを討つとしよう……!」


「ハッ! 寝言は死んでからあの世でほざけ!! 俺がアンタに引導をぶつけてやるよ!!」


「やれやれ……好戦的な仲間というものは面倒ですね……。けど、元上司である幹部を倒すのは確かに悪くない……」


 剣魔術を創造し、ゾフルとハリーフに向けるブラック。

 ゾフルは身体に魔力を纏い、再び雷と化す。

 対するハリーフは二人に比べれば冷めているが、ブラックを倒す事は賛成のようだ。

 支配者の大樹で行われるリヤンとシュヴァルツの戦い。ブラックとゾフル、ハリーフの戦い。

 それらの戦闘は、まだ終わらなそうである。

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