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三百八話 アンデッドの王

「やあ!!」

「アハハ、結構速いね♪」


 足で踏み込み、マギアに向けて剣を振るうレイ。

 剣を斜めに振り下ろし、マギアはそれを軽く避ける。

 マギアの左右と背後にはフォンセが土魔術で造り出した壁があるのでそれ程自由に動けないが、レイの剣筋を見切って避ける事は容易いようだ。

 避けられたレイは空を切った事でバランスが少し崩れるが、片足を踏み込んで踏ん張り、その体勢のまま斜め上に剣を薙いで斬り付ける。


「ほら、まだでしょ?」

「──ッ! やあ!!」


 その剣も避けたマギア。

 避け続けるその姿はまるで、マギアに攻撃するつもりが無いかのよう。

 レイは歯を食い縛り、力を込めて剣を上げた体勢から再び振り下ろす。

 それを背後に避けるマギアと、その距離を詰めて突きを放つレイ。

 それも紙一重で横に避け、レイは流すように横へ剣を薙ぐ。

 マギアは軽く仰け反って体勢を崩し、そのまま横にステップを踏んで己の体勢を立て直した後に跳躍して土魔術の壁の上にあがる。


「"サンダー"!!」

「"鉄格子(アイアン・グリル)"!」


 刹那、マギアの姿を見たフォンセが雷魔術を放って仕掛けた。

 それを見たマギアは鉄の檻を形成し、電流をあらぬ方向へ流して己に当たるのを防ぐ。


「はあ──」

「……へえ? 人間にしては高い身体能力だね、レイちゃん?」


 マギアがフォンセの雷魔術を防いだ瞬間、跳躍していたレイが剣を構えながら来ており、今すぐにでもマギアへ振り下ろされそうな体勢となる。

 マギアが造り出した鉄格子は自分の周り全てを囲んでいる物。なので鉄格子ごと切り裂かなくてはならない。


「──やあ!!」


 そしてレイは、鉄格子(・・・)ごと(・・)マギア(・・・)()切り裂いた(・・・・・)


「へえ、その剣には鉄を切り裂く力もあるんだ……この鉄格子は普通の金属の十倍以上は硬いんだけど……」


 切り裂かれた鉄格子を見、魔術を消して移動するマギア。

 そんなマギアは、レイが魔術から造り出した鉄格子を切り裂いた事に感心していた。

 曰く、その鉄格子は一般的な金属の十倍以上の強度を誇ると言う。それを切り裂いた事はつまり、レイの持つ剣が普通ではないと益々(ますます)信憑性を高めさせるものだった。


「それを見る限り……腕力じゃなくて切れ味のみで切り裂いた様だね。うん、やっぱりその剣にも興味があるかな……勿論、身体がそこまで強くなくてもレイちゃんが一番興味深いけど……」


「……ッ」

「させぬぞ!」


 次いで視線を移し、おどけるような笑顔を向けてレイに話すマギア。

 レイは思わず肩を竦ませて怯むが、離れた場所にてマギアへ魔術を放つ体勢を取っていたフォンセが睨みながら手出しはさせないと告げる。

 マギアはレイに注意を示しつつ、フォンセの方を向いて軽く笑った。


「アハハ! だから、貴女も私の狙いなんだからね? 慌てなくても、貴女達は私が監視して上げるよ♪ 貴女達は可愛いから色んな人や魔族に狙われそうだし……私が護って上げる。身も心も、純潔を保てば高貴な存在になれるからね……」


「勝手に何を言ってるの! 貴女の妄想を前提にして話さないで!」

「ああ、私たちはお前なんかに護られなくとも、ライが護ってくれる!」


 パンッ。と手を叩き、心底明るい笑顔を向けてレイとフォンセへ提案するように言葉を表すマギア。

 それに反論するよう、レイとフォンセは改めて構えながら言葉を返す。

 レイはマギアの考えを一蹴するように、フォンセはライが居るのでマギアに護って貰う必要は無いと。


「あらら、残念。じゃあ、しょうがないね。力ずくで連れていかなきゃならないかぁ……出来るだけやりたくなかったんだけども……貴女達の身体に傷が付くのは嫌だな」


 それを聞いたマギアは肩を落として残念そうに呟き、その後で土魔術から造られた壁の上にて腕を組みながら唇をつぐませる。

 恐らくだがマギアは、なるべく穏便に済ませたかったのだろう。

 マギアの目的はレイとフォンセを連れて帰り、己の味方に率いれる事だが戦いが起こればレイとフォンセの身体に傷が付く。

 マギアはお気に入りに傷が付くという事が我慢ならないらしく、綺麗な状態でレイとフォンセを連れて行きたいのだろう。


「だから攻撃をして来なかったんだ……」

「成る程な。戦う気が無さそうだったのはその為か」


 マギアの言葉を聞き、レイとフォンセも理解する。

 マギアがレイ、フォンセと積極的に戦わなかった理由は傷を付けたくなかったからと。


「うん、そうだよ。だって可愛いんだもん。今回のこの国では貴女達の仲間と、魔族の国の女幹部の人や側近数人が傷付けたくないかな。幻獣の国側では……まあ、幹部数匹と支配者の側近の龍。あと四神の二匹は傷付けたくないね」


 レイとフォンセの推測に対し、傷付けたくない者たちを述べるマギア。

 レイ、フォンセを含め、ライたちは全員傷付けたくないようだ。

 それに加え、両国の幹部や側近、四神の数匹なども傷付けたくないとの事。


「結構居るね……」

「ああ。と言うか、元々好戦的では無いのか」


「せいかーい♪ 私は戦いはあまり好まないんだ♪ まあ、お気に入り以外なら別に戦う事は苦じゃないけどね♪」


 マギアの言った傷付けたくない者たちの名を聞き、苦笑を浮かべて話すレイ。

 フォンセはその性格から相手のメンバーだとシュヴァルツ、グラオ、ゾフルのように好戦的では無いと考える。

 それに同調しつつ返すマギアは、上機嫌で話していた。

 しかしその言葉から、"お気に入り"だけが特別でそれ以外に対しては何とも思っていないようだ。


「まあでも、その苦を行わなきゃ連れて行けないっていうのは中々辛いかな……」


「……そう、じゃあ連れて行かなきゃ良いんじゃないかな?」

「ああ、私たちも行きたくない。お前は戦いたくない。ほら、万々歳だろ?」


「うん、無理♪」


 刹那、マギアは土魔術の壁から跳躍して魔力を込めた球体を辺りに創り出した。

 その球体には四大エレメントが込められており、それぞれに炎、水、風、土が宿っている。

 中には雷や鉄、草木などの四大エレメントとは違った物もあるが、エレメントの応用からなる物なので気にする事は無いだろう。


「そーれ!」


「"土の壁(ランド・ウォール)"!」

「……ッ!」


 次の瞬間にマギアがそれらを放ち、それを防ぐべくフォンセが土魔術の壁を創り出した。

 その横ではレイが勇者の剣を振るい、エレメントの余波を防ぐ。エレメントは弾かれ、レイとフォンセの背後へと流された。

 そのように二人の行った迅速な対応によってマギアの魔術を防ぐ事に成功する。


「お見事、流石だね♪」

「「……!」」


 次の刹那、マギアは何時いつの間にか移動しており、レイとフォンセの背後に立っていた。

 二人は即座にそれに気付き、反応を示しながらマギアから距離を取る。


「アハハ、魔法使いや魔術師みたいな私を相手に距離を取るなんて……正気? ……"ファイア"!」


 それと同時にマギアは炎の球を形成し、一気に二人へと放った。

 放たれた炎は空気を熱し、それなりの速度で直進して行く。

 マギアの言うように、魔法使い、魔術師という者は本来魔法・魔術を使った遠距離からの攻撃を得意としている。

 四大エレメントとはベクトルの違う剣魔術のような武器魔術や破壊魔術などもあるが、基本的には四大エレメントを応用して扱うモノだ。

 そんな魔法使い、魔術師、魔導師のいずれかであるマギアから距離を取るという行為は、愚の骨頂とまでは行かなくとも自殺行為に等しいものである。


「ああ、この上無く正気だ……! "ウォーター"!」


 次の瞬間、マギアの放った炎に対してフォンセが水魔術を放った。

 マギアだけでは無く、フォンセも魔術師。なので距離を取りつつ行う戦いには慣れている。

 それ故に難なく対処する事が出来、マギアの炎とフォンセの水がぶつかり爆発に近い衝撃を走らせながら水蒸気を上げる。

 辺りは白い水蒸気に包まれ、視界が悪くなり行動が制限されていた。


「やあ!」

「……ッ! 成る程ね……! "ウィンド"……!」


 次の瞬間、マギアの背後にレイが来ており、勇者の剣をマギアに振るうった。

 フォンセに気を取られてそれに対する反応が遅れたマギアは脇腹を掠り、そこから真っ赤な鮮血が流れる。

 それと同時にレイ、フォンセから距離を置き、風を使って空中に上がった。


「"落雷ライティング"!!」


 その瞬間に雷を放ち、レイ、フォンセへ落下させるマギア。

 雷は真っ直ぐ進み、ゴロゴロという雷音と共にレイたちの居る大地を粉砕して土塊つちくれを巻き上げる。

 そのままの威力で大地を浮かび上がらせ、その足場を崩す。


「……! 狙いは足場か……! レイ! 掴まれ!」

「うん! フォンセ!」


 崩れると同時にフォンセは風魔術を使って空中に上がり、レイの手を握りつつ空でマギアと向き直る。


「"ファイア"!」

「"ファイア"!」


 刹那、片手を突き出したフォンセとマギアが同時に炎を放つ。

 その炎は互いに向けて直進し、空中で激突して波のように盛り上がった。

 その熱量と光は凄まじく、一瞬視界が赤く包まれて何も見えなくなる。

 二人の技によって幾度と無く視界が消え去っているが、両者共に相手の居場所を理解しており、あまり支障は無い様子だ。


「"ウォーター"!」

「"ウォーター"!」


 その炎を掻き消すよう、二人が放つ水魔術。

 炎と炎の間に水が流れ、灼熱の炎を消火しながら二つの水魔術が激突した。

 それによって再び水蒸気が生まれ、赤く包まれた視界は白く染まる。


「"爆発エクスプロージョン"!!」

「"爆発エクスプロージョン"!!」


 ──そして辺りは爆発した。


 爆発魔術を放ち、水蒸気にぶつけた事で発生した水蒸気爆発。

 その余波は一瞬にして互いの方へ駆け抜け、熱と衝撃が支配者の街"トゥース・ロア"に走り回って周りの木々を粉砕する。

 木々がへし折れ大地が浮かび、上空の雲が消え去って快晴の青空と共に太陽を映し出す。

 これ程の爆発ならば、フォンセもレイもマギアもただでは済まないだろう。


「ふう……危なかった……」

「……レイ?」


 そして、その煙からは無傷とはいかずとも軽傷で済んだレイとフォンセが姿を現す。

 刺し違いを覚悟していた様子のフォンセだが、己の身体が軽傷で済んだ事に対して怪訝そうな表情をする。


「アハハ。ほら、この剣って大きさに比べて広範囲を護ってくれるでしょ? だから爆発した瞬間に構えたんだ」


「……成る程。そういう事か。確かにレイの剣は特別……爆発の余波を防ぐ事は容易いまでは行かなくともある程度は出来る……って事か」


 曰く、勇者の剣を構えたから爆発に巻き込まれても抑える事が出来たらしい。

 しかし、大分前にもライの拳が放った衝撃を受け止めた事があった。どうやら勇者の剣は破壊力のみならず、耐久力にも優れているらしい。


「成る程……凄いねその剣……うん。やっぱりレイちゃん達を連れて帰ると同時にその剣も調べてみよう……」


「……上げないよ。この剣は……!」

「そもそも、レイ自身を明け渡すつもりも無い。そして、私も着いて行くつもりは無い……!」


「そう、残念」


「……! 傷が……」

「治り始めている……!?」


 レイとフォンセの会話に交ざるよう、話し掛けてくるマギア。

 マギアも軽傷であり、早くもその傷は癒え始めていた。

 軽傷という事は容易に読めた二人だが、治り始めている事へ対して驚きの表情で見つめる。

 回復の技を使った素振りも魔力も感じなかったのだが、何故か傷の治りが早いのだ。


「ふふ、相変わらずの治癒力だな……吸血鬼わたしにも比毛を取らないんじゃないか?」


「「……!」」


 唐突に、此方へ歩み寄ってくる複数の足音と一つの声。それと同時に空に雲が覆い、日光を遮断した。

 その人物に対し、そちらを振り向きながら反応を示すレイとフォンセの二人。

 その者の後ろからは武器を手に取った数人の生物兵器からなる兵士達がおり、その者は金髪をなびかせ紅い目を光らせながら両手持ちしている傘をクルクルと回していた。


「……。いやいや、エマに比べたら私なんてまだまだだよ。ていうか、また催眠で部下を操ってくれちゃって……」


 ──エマ・ルージュ。

 マギアはエマの存在に気付いていたらしく、一瞬の間はあったが何でもないように返す。

 その視線はエマでは無く生物兵器の兵士達の方を向いており、エマが操っている事へ苦笑を浮かべる。


「ふふ、確かに私は治癒力も生命力も貴様より遥かに上を行く……。だが、弱点という弱点が無い不老不死にして不死身のお前は私にとって結構羨ましいぞ……まだ神になる事を諦めていないのか……"リッチ"よ……」


「……。……何か、その名前で呼ばれるのも随分と久々な感じがするね……ヴァンパイア?」



 ──"リッチ"とは、魔法や魔術の力で己を不死身にしたかなり知能の高い術師である。


 術師が不死身になった理由は万物を支配する力。無限の知識を求め、全知全能の神になる為だと謂われている。


 力の弱い人間・魔族ならば、リッチに近寄っただけでその命を落とすとも謂われている。


 ヴァンパイア、グール、ゾンビ、スケルトン、マミーなどと言った全アンデッドの王とも呼べる存在であり、その能力は世界でも上位に入る。


 全知全能を求め、不死身となったアンデッド系魔物の王、それがリッチだ。



「リッチ……!」

「まさか……アンデッドの王と戦っていたのか私たちは……!」


 エマからリッチの名を聞き、驚愕の表情を浮かべるレイとフォンセ。

 しかし、それも当然の事。全知全能を求めるリッチは口だけでは無く、魔法・魔術の制度も去る事ながら支配者に等しき力を有しているだろう。

 マギアの性格でなければ、確実に死んでいたのだから。


「ほら、エマが余計な事を言うからレイちゃん達が怯えちゃったじゃない。弱い者イジメは嫌いなのに」


「知るか。あと訂正を加えろ……レイとフォンセは紛れも無い強者だ。肉体的にも精神的にもな」


「あら、ごめんなさい。確かにあの二人は強いね……何か特別な力も感じるし」


 飄々とした態度で話すリッチことマギア。エマは普通に返すが、警戒を解いている訳では無い。そしてレイたちを評価したマギアへ訂正を要求する。

 それに対し、おどけながら話すマギア。この様子を見ると、神になる事を目的とするリッチには見えない。


「だからさっきの威圧で……」

「……ああ、金縛りどうこうより……力の差が有り過ぎたんだ……」


 そんなやり取りの中、レイとフォンセは先程マギアが少しだけ本気を出そうとしていた時に絶対に勝てないと本能が悟った理由を理解した。

 マギアは威圧と同時に金縛りを掛けたと言っていたが、それ以前の問題だったのだ。


「取り敢えず……エマが部下兵士を操っているし……私も手駒を揃えようっと」


 その瞬間マギアは、エマが催眠で操った生物兵器達を一瞥してスケルトンを創造した。

 マギア一人でも何とか出来そうな口振りだが、それなりに面倒な相手だと理解しているのだろう。


「レイ、フォンセ。此処からは私も手伝う。相手が相手だからな」

「エマ……! うん、分かった!」

「アイツとは昔からの知り合いっぽいからな……頼りにしているぞエマ……!」


「アハハ、主力三人&生物兵器数人vs私一人とスケルトン多数……うん、妥当かな?」


 エマが言い、レイとフォンセが返す。そして構えるレイ、エマ、フォンセの三人と操っている生物兵器達。

 それを見たマギアは依然として余裕の態度を見せており、レイたちに勝つつもりでいるようだ。

 アンデッドの王であるリッチのマギアvs勇者の子孫であるレイ、ヴァンパイアのエマ、魔王の子孫であるフォンセの戦いが始まった。

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