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三百七話 大樹地下の戦闘

 ──支配者の街では、彼方あちら此方こちらで様々な戦闘が行われていた。


 一方は海が創り出された外にて、魔王を連れた少年と最強生物を謳われる嫉妬の魔王が。

 一方では神々恐れられ、監視下に置かれた狼と神の創り出した最高生物が。


 大樹の内部では神に等しき三妖怪と原初の神である無限の存在が織り成す戦闘を始めとし──勇者の子孫と魔王の子孫が協力して討つ魔女、魔術師、魔導師のどれとも覚束ない存在が。

 かつて世界を創造した神の子孫と破壊魔術を扱う侵略者が。

 一つの国の幹部を勤める者とその国の幹部に付いていた二人が。

 他にも兵士達同士の合戦など、支配者の街"トゥース・ロア"は戦場と化している。

 それらの戦闘は、無論支配者である者も行っている事だろう。


『むう……禍々(まがまが)しい気配が至るところに感じる……敵の兵士を数十は消滅させたが……この程度の者達を相手取っている暇は無さそうだな……』


 世界を支える四大勢力、支配者。

 そんな支配者であるドラゴンも、この国にて起こっている戦争のただならぬ気配を感じていた。

 厳密に言えば戦争の気配では無く、敵の主力達について。だが。

 そして、感じた気配と言うものは三つ。そのうち一つは即座に消え去り、今は二つあった。


『まあ気配の一つは味方のモノだと分かるが……もう一つと先程消えたモノは……?』


 二つのうち一つは味方──フェンリルのモノだと理解している。

 消え去った気配からは魔力を感じた事から魔女、魔術師、魔導師のいずれかと分かるが、残る一つの一番強大で混沌こんとんとしている気配が分からなかった。


『原初の……いや……そんな訳は無いか……だが大昔に一度……感じた事があるな……』


 翼を羽ばたかせ、考えながら飛行するドラゴンは下に居る敵の兵士達を消滅させつつ、レヴィアタン、ベヒモスを横目に飛び続ける。

 しかしその全てを消滅させる事は出来ず、下から銃弾や大砲の弾。弓矢の矢などが飛んできた。


『ふむ、知っていた事だが……空が安全と言う訳では無さそうだな。』


 羽ばたき、回転し、上や下へと移動し、銃弾などを避けるドラゴン。

 それらは全て背後に進み、誰も居ない大樹の壁を撃ち抜いた。


『──カッ!』


 次いで炎を吐き、下方に集う敵の兵士達を焼き払って消滅させるドラゴン。

 上空から放たれた炎は大樹の床に当たり、地にこぼれた水が広がるように真っ赤で高温の熱が流れる。

 それに巻き込まれた敵の兵士は消滅し、大樹全体の気温を上げた。


『キリが無いな。消せど消せど続々溢れ出てくる。数万人程度の数じゃ無いように思えるな……』


 昨日と今日の戦争にて、ドラゴンたちは多くの敵兵士を消滅させた。

 にもかかわらず敵の兵士は増え続け、目の前に立ちはだかる。

 その事から、敵の数はたったの数万人程度では無いと思いたくなる程だ。


『一先ず主力の居ない場所もある筈だ……そこから見て回るとしよう』


 呟くように言い、再び羽ばたいて空を飛ぶドラゴン。

 急降下するように落下し、大樹の出入口へと入る。

 外には兵士がらず、ライとレヴィアタン。フェンリルとベヒモスが戦い続けていたからだ。

 この戦いに水を差せば邪魔になるかもしれない。なのでドラゴンはそこから視線を反らし、大樹の方へと向かったのである。

 大樹内には多くの者が居る。だからこそ主力がおらず苦戦している兵士たちも居る事だろう。

 大樹に向かったドラゴンは、そのままその中に入って行く。



*****



「「「ウオオオォォォォ!!!」」」

『『『ウオオオォォォォ!!!』』』


 魔族兵士たちが幻獣兵士たちに乗り、剣を振るいながら道を切り開く。

 敵の兵士達を切り捨て、次々と刻んで行く。


『『『…………』』』


 しかし敵の兵士は即座に再生し、覚束ない足取りで剣を握りながら幻獣の国側の兵士たちを相手取る。

 キィンという金属音と共に火花が散り、銃声と共に弾丸が放たれる。

 大樹の中だとしても場所自体が広いので弓矢や大砲などを使う事も出来ていた。

 しかしそれは悪魔で時間稼ぎ。大樹への進行を阻止する為の気休めに過ぎない。

 今兵士たちに出来る事は、なるべく止め、なるべく護る事だけだった。


『『『…………』』』


 そして再び敵の兵士が現れ、この場は敵で溢れ返る。

 実際は数百人程度しか居ないのだが、不死身の肉体に鬼並みの力。それが一番の問題だ。


「クソッ! まだ増える!」

「これじゃ同じ事の繰り返しだ!」

「いや、仲間は傷などで弱る分、時間が経つ程不利になってしまう……!!」

『数では我々の方が有利だと言うのに……!』

『このままではジリ貧だな……!!』

『一体……どうすれば……!!』


 現れた敵兵士を見やり、悪態を吐くように自信の無くなる兵士たち。

 幾ら倒せど復活する敵の兵士。それも仕方の無い事なのかもしれない。


「ふふ、ならば貴様らは休めば良い。敵の相手は敵がすれば良いからな……」


「「「…………!!」」」

『『『…………!!』』』


 唐突に、兵士たちに向けて話し掛ける一つの影。

 その声音は笑っており、敵を前にしても余裕のある雰囲気だった。


「ヴァンパイア……!」

「そうか、主力が来たのか……!」

「これは心強い……!」

『主力殿ならば対処出来るかもしれぬ……!』

『ああ、敵の兵士は主力殿方が倒していたからな……!』

『我らにも流れが来たのか……!』


 ──その者、エマ。

 エマを見た各々(おのおの)は安堵したような声音で話、エマの事を頼もしそうに見ていた。


『……しかし、敵同士を戦わせるとは一体?』


 ふと、一匹の幻獣兵士がエマの言葉から違和感のある文を復唱して話す。

 エマは"敵の相手は敵がすれば良い"と告げた。しかしこの兵士のみならず他の兵士たちは、その様な事を出来る訳が無いと思い込んでいるのだ。

 彼らにエマは笑い掛け、目を光らせながら一言。


「大丈夫だ……『もう操っている』からな」


「「「…………!?」」」

『『『…………!?』』』


 その瞬間、味方の兵士たちへ驚愕の事柄が伝わった。

 敵の兵士達、その一部が、自分たちを庇うように立ち上がったからだ。


「……! 成る程。ヴァンパイアの催眠か」

「そうか、それで敵の兵士を……」

「成る程……確かにヴァンパイアならば敵同士を戦わせる事も可能だ……」

『味方で良かった……敵ならば恐ろしい限りだったからな』

『ああ、様々な能力を持つ不死身のヴァンパイア。味方のお陰で我らにも勝機がある』

『しかし、味方ながらも恐ろしいものだ』


 その様子を見、ヴァンパイアであるエマが使える特殊能力の催眠に感心する者と畏怖する者がおり、遠目からその様子を眺めていた。


「ふふ、驚嘆している暇があるのなら少し休んでいろ。敵の兵士同士を戦わせているとは言え、戦いは始まったばかりだからな。これから一日は続くと思った方が良い」


 呆気に取られる兵士たちを一瞥した後、フッと笑いながら話すエマ。

 そう、今は戦争中である。そしてその戦争はまだ終わりが見えない。

 だからこそ取れる時に休息を取り、次とその次とさらに次の陣に備える必要があるのだ。


「此処は私一人で十分だ。いや、厳密に言えば私一人と傀儡くぐつの敵兵士が数十人だがな」


「わ、分かった!」

「この場は任せる!」

『主力殿にしか頼れないのは情けないが……やむを得ないか……!』

『お願いします……主力殿!』


 不敵に笑って話すエマと、それに返す兵士たち。

 自分たちでは倒せず、やって来る主力に頼りっぱなしという事が気掛かりのようだ。

 しかし、それも仕方の無い事であろう。不死身を倒すなど、余程の力が無くては達成出来ない偉業なのだから。


「さて取り敢えず……此処に居る兵士は全て私の手中に収めるか……血は不味いがな」


 ペロリと舌舐めずりをし、不敵な笑顔を向けるエマ。

 その笑顔には陰が差しており、ヴァンパイア本来の姿を彷彿させるような風貌だった。

 見た目が幼いエマからすれば年相応の笑顔に見えなくも無いが、鮮やかな光を帯びているくれないの目と金色に輝く金髪がそれを打ち消し、恐怖という文字が刻まれそうなものだった。



*****



「"再生リジェネレイション"」


 支配者の国、"トゥース・ロア"。そこの地下へ一つの声が響き、小さな肉片から何かが再生した。

 その何かは声の主である白髪男性、ヴァイスの周りに集まる。

 肉片から再生した物はヴァイスが持っていた生物兵器。

 創られた生物という事に変わりは無く、ただ移動させるのが面倒なので肉片にしていたのだ。


「ふふ。やあ、意識を持たぬ生物兵器達よ。君達を再生させたのは他でも無い。捕らえられているバロールを連れ戻すのさ」


『『『…………』』』


 その生物兵器は徐々に巨大化し、地下に捕らえられているバロールを手中に戻す為に動き出そうとする。

 そう、支配者の大樹に攻め込んでいた生物兵器は一般的な大きさの者だけだった。

 つまり、肉片から再生させた生物兵器は一挙一動で凄まじい破壊力を誇る巨人兵士である。


「さあ、掛かれ!」

『『『…………!!』』』


 次いでヴァイスが指示を出し、巨人の生物兵器がゆっくりと動き出した。

 大樹の地下。此処にも見張りはおり、一筋縄ではバロールを取り返す事が出来ない。

 だからこそヴァイスは地下室ごと破壊しようと考えているのである。


『……! 何だ……!』

『何かが……!』

『来る……!』


 視界の限られた薄暗い地下空間にて、ある物音が見張り兵士たちの耳に入り、先ずは五感が鋭い幻獣兵士たちが気付いた。

 巨人兵士達の姿は徐々に明らかとなり、次いで魔族兵士たちが声を上げる。


「き、巨人だァ!!」

「巨人兵士を仕掛けてきたぞッ!!」

「皆の者! 列を整え陣を組み、迎え撃つ体制に入るんだァ!!」


 即座に体制を整え、武器を構える兵士たち。

 巨人兵士は真っ直ぐに進み、一歩一歩で数百メートルを詰め寄る。


「撃てェ!!」

「矢を放てェ!!」

『大砲を構えろォ!!』

『遠方にて剣や槍を構え、各々(おのおの)で準備を整えるんだ!!』


 向かって来る巨人兵士に対し、地下を護る者たちが立ち向かう。

 それぞれの武器を扱い、巨人兵士へ目掛けて放出した。

 先ず放たれたのは大砲。それは巨人兵士に当たり、撃たれた巨人兵士から黒煙が上がる。

 次いで二、三発程放たれ、更に大きな黒煙が辺りに舞い上がった。


『決まった!』

「やったか!」


 その黒煙を見て声を上げる一人の魔族兵士。つられるように他の兵士たちも見やり、その様子をうかがう。

 煙が立ち込めり、地下の出入り口からなる風に巻かれて消え去る。


『『『…………』』』


「……駄目か」

『くっ……!』


 そこから姿を現したのは、身体が崩れているが再生しつつある巨人兵士。

 大砲などでは消滅させる事は出来ず、即座に再生して駆け寄っていた。


『……!!』


「……ッ!」

『……ッ!』


 それと同時に距離を詰め、一蹴りで兵士たちを吹き飛ばす巨人。

 その衝撃で大地が揺れ、辺りには更なる粉塵が舞い上がった。


『……!』『……!』『……!』

「「「グハッ……!!」」」

『『『ギャッ……!!』』』


 巨人は続け様に多くの兵士たちを吹き飛ばす。吹き飛ばされた魔族兵士たちと幻獣兵士たちは為す術無く、地下の壁に激突して意識を失う。

 吹き飛ばされた中には果実のように潰れた者や、吹き飛ばされなかった者の中にも巨足によって朽ち果てる者が居た。

 それらの出血はさながら果実からなる果汁のように、辺りへと広がる。

 それに留まらず、次々と幻獣の国戦力を粉砕する巨人兵士。

 一騎当千という表現とは違うが、ただ巨躯の肉体を持つ。それだけで誰にも止められない。


「ま、まさか……これ程までとは……!!」

「わ、我々に……勝ち目など……!!」

『……ッ、強過ぎる……!』

『まだ来るぞ……』


『……!!』


 会話する二人と二匹の兵士たちは、一体の巨人兵士に潰された。

 グチャ、という不快な音と共に真っ赤な鮮血が流れ、赤黒い肉片を散らす。


「我々は……」

「……今この場にて」

『死に絶え……』

『……敗北する』


 残りの兵士たちからは生気がなくなり、目から光が消えて己の命を諦める。

 迫り来る巨人軍。一体一体がかなりの身体能力を有し、ただの一人足りとも油断出来ぬ力を誇る。

 この生物を前にした兵士たちから生気が無くなるのは、必然だったのかもしれない。


「まだ終わっていません!! "ショーラ"!!」


『『『…………!!』』』


「「……!?」」

『『……!?』』


 その刹那、一筋の炎が兵士たちの前を通り過ぎ、巨人達の軍団を焼き尽くした。

 消滅した訳では無いのでまた再生するだろうが、魔族、幻獣、その両兵士たちが破壊出来なかった巨人兵士を燃やしたのだ。

 それにより、不特定多数の兵士たちが救われる。


「皆さん!! 諦めないで下さい!! 敵の狙いは恐らくバロール!! 此処を通しては、多くの仲間が死んでしまうかもしれないのですから!!」


 その者は不慣れな声で叫び、両兵士たちを奮い立たせる。

 ほうきに立ち、空中に魔方陣を描きつつ指示を出す者──


「あ、アスワド様!!」

「"タウィーザ・バラド"の幹部さん!!」

『魔族の主力殿!!』

『魔族の魔女幹部さん!!』


「皆さんの手で、此処は我々が死守するのです!!」


 ──魔族の国"タウィーザ・バラド"、幹部を勤めるアスワド。

 アスワドは再び声を上げ、己の存在に気付いた兵士たちを更に奮い立たせる。

 バロールを解放されてしまえば、大樹で戦っている者たちや大樹の外で戦闘を行っている者たちが更に苦戦を強いられるだろう。

 だからこそ、それを死守する為にも誰も気付かなかったこの地下へ来たのだ。


「アスワドさん! 何故此処が!?」

「誰も気に掛けて居ませんでしたが……!」

『それに、我々もまだ報告をしていない……!』

『一体……!』


 そんなアスワドを見、何故地下へと来たのか気に掛かる兵士たち。

 兵士たちは報告しておらず、突然攻めてきたので此処の現状も伝えられなかった。

 にも拘わらず此処に来たアスワドの事が気になったのだ。


「嫌な予感がした! それだけです! 来てみれば案の定! 皆さん! 改めて構えなさい!! これは命令です!!」


「「「は、はい!!」」」

『『『仰せのままに!!』』』


 その答えは"勘"。嫌な予感があったので来たと言う。

 答えると同時に兵士たちへ告げ、命令を下すアスワド。

 兵士たちはその命令に従い、気力を戻して武器を構えた。

 そのやり取りの中で巨人兵士は再生し終えており、再び此方へ向かっている。

 海の創られた外。敵が攻め込む中。そして巨人の居る地下。それらの場所にて、始まったばかりの戦闘が依然として行われていた。

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