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三百五話 大樹内外の戦闘

『ウオ━━ンッッ!!』

『グルルォァァッ!!!』


 フェンリルの牙とベヒモスの尾がぶつかり、辺りに衝撃を走らせた。

 フェンリルの牙はベヒモスの皮膚を突き破って食い千切り、ベヒモスの尾はフェンリルの脇腹に当たって骨をきしませる。

 それのよってフェンリルは少し飛ばされ、止まると同時にベヒモスの皮膚を吐き捨てた。


『流石だなベヒモス。完全で無いにしても俺と張り合う力。まあ、俺もまだ本気では無いがな……』


『グルオオオォォォォ!!!』


 フェンリルが話し掛けるが、吼えるだけで返事をしないベヒモス。

 確かに全ての幻獣・魔物が話せるという訳では無いが、此処に姿を現してから遠吠えしか上げていない。

 しかし先に仕掛けたのはフェンリルなので、無理も無いと言えばそこまでだろう。


『まあ、言葉を持たぬ相手に言葉は意味が無い。大人しく封印されろと言うのも無理な話だが、大量絶滅を防ぐ為にもやむを得ないからな……!』


 ──次の瞬間、フェンリルは一歩踏み出した。


『グルオオォ!?』

『……』


 そしてベヒモスを貫いた。

 徐々に巨大化しつつあったベヒモスの身体。その身体へ突進し、その牙を使い貫いたのだ。

 そこからは滝を彷彿とさせる程大量の血液が漏れ、真っ赤な虹を創り出して海をも染める。


『残酷な雨だな』


 呟いて振り向き、即座に再生するベヒモスへ構えるフェンリル。

 その口には熱が籠っており、その身体は徐々に巨大化しつつあった。


『ならば払おう……──カッ━━!!』


 刹那、灼熱の轟炎が放たれた。

 フェンリルの口から吐かれた炎は大気を焦がし、海の水やベヒモスの血液を蒸発させ、れる事無く真っ直ぐに進む。


『グルオオオォォォォ!!!』


 その炎はベヒモスに直撃し、足元から腹部までを焼き尽くす。

 それによって苦痛に苦しむベヒモス。焼かれた箇所は再生しようと活性化するがフェンリルの炎に追い付かず、肉が溶けてベヒモスの体勢を崩した。


『ワオ━━━━ン!!』

『グルギャアアァ!!』


 そのまま追撃を仕掛けるよう、ベヒモスに向けて駆け出すフェンリル。

 体勢が崩れた状態のベヒモスは吼え、火傷のような痕を再生させる。

 それと同時に二匹の生物はぶつかり合い、辺りに衝撃を駆け巡らせた。

 海は荒れ、木々は薙ぎ払われ、空の雲は消え去る。

 それらの事柄が同時に起き、フェンリルとベヒモスは弾かれて数十メートル離された。


『ギャア━━!!』

『グルオ━━!!』


 その瞬間、フェンリルは一瞬で数十メートルの距離を詰め、ベヒモスはたたずみながら構える。

 そして再び二匹がぶつかり、辺りに振動を走らせた。

 ベヒモスが向かって来るフェンリルに対して尾を振るい、それを見切るフェンリルは尾の下をくぐってかわす。

 潜り抜け、その牙と大顎を持ってしてベヒモスの腹部を食い千切り、新たな傷を作り出すフェンリル。

 それを感じたベヒモスは倒れるように地に伏せ、フェンリルを押し潰そうと試みる。


『グルル……!』

『グルオ……!』


 だがフェンリルは押し潰されるよりも早く移動し、ベヒモスから離れた。

 そこからまた詰め寄り、ヒット&アウェイの戦法で攻め立てるフェンリル。

 時に大顎と牙で食い千切り、時に鋭い爪で切り裂き、時に灼熱の轟炎を放って牽制する。

 大きさもそれ程無く、現在はベヒモスよりも小さ目にしているフェンリルだが、逆に小回りが効く為に己の持てる武器を巧みに扱い、徐々に徐々にベヒモスを弱らせる事が出来ていた。


『ふむ、普段ならば驚異的存在になりうる巨躯の肉体。今の俺から言わせれば、的のような物だな……。だが、ある程度のダメージを意に介さぬ的は中々厄介だ……』


 フェンリルは徐々にベヒモスを追い詰めつつある。

 だが、決して慢心しない。してはならない。

 本気を出していないとはいえ、手を抜いている訳では無いフェンリルの攻撃。

 一撃によって与えられる巨大な攻撃では無く、手堅く手数で攻めている現在。

 多少弱りつつあるのは見て分かるが、その傷が即座に再生するので厄介と言い放ったのだ。


『グルオオオォォォォ!!!』

『……!?』


 次の瞬間、巨大な咆哮を上げたベヒモスが、一瞬でフェンリルに詰め寄った。

 気付いた時には遅く、鞭のようにしなる鉄並みの強度の尾がフェンリルの顔近くへと放たれていた。

 そしてそれに打ち抜かれ、出血しながら遠方に吹き飛ぶフェンリル。海が割れ、水飛沫が上がる。

 割れた海は遅ながらも更に割れ、連鎖するように大きな飛沫を上げた。


『グ……ガハ……ッ! やはり油断ならぬ生物だ……鉄並みの強度を誇る尾が音の速度を超えて放たれたのか……!!』


 その位置からフラフラと、吐血しつつ濡れた毛をさらしつつ四本足で立ち上がるフェンリル。

 ベヒモスの一撃は速く、重い。本気を出していなかったとはいえ、手痛い一撃を受けてしまった。


『やはりこうなると力を解放する他無いか……? しかし、そうなってしまえばこの国が……この惑星が散ってしまうかもしれぬな……!』


 フェンリルがかたくなに本気を出さない理由。それはライと同じく、国や星の事を懸念した故での結果。

 本気を出し、様々な神々に恐れられた大狼フェンリルの力を使った場合、高確率で星に何かしらの影響が及ぶだろう。

 神々の中には全知全能を謳われた者も居たが、それでも完全に封印出来なかったフェンリルの力。

 最悪、フェンリルの力によって宇宙が滅びる可能性もあるのだ。


『……。……フフ、思えば……この場に居るレヴィアタンとベヒモス。そして俺、フェンリル。俺たちが揃うというのは中々なモノだな』


 唐突に、クッと笑いながら呟くフェンリル。

 レヴィアタンにベヒモス。そしてフェンリルという神々に関する幻獣・魔物がこの場に居るのだ。

 その光景は、本人ですら興味深いものなのだろう。


『確かレヴィアタンとベヒモスは世界の終わりが近付く時争うと聞く……そして俺は世界の終わりが近付いた時封印が解けた……フッ……まるで今この世界に"終末の日(ラグナロク)"でもやって来たようだな……』


 ──"終末の日(ラグナロク)"。

 その名が示すように、世界の終末を迎える日。

 "神々の運命"とも謂われており、その日にのみフェンリルに掛けられた封印が解かれ、レヴィアタンとベヒモスが雌雄しゆうを決する為に争うと謂われている。


 レヴィアタンとベヒモスが争っている相手は別だが、伝説の怪物が争う姿はまさしく終末の日(ラグナロク)の聖戦とも言えよう。


『ならばこの終末を彷彿とさせる戦い。我が力を持って討ち滅ぼそうでは無いか……! 覚悟しろ、ベヒモス……!!』


『……!?』


 その時、フェンリルの身体に凄まじい量の力が形成された。

 それは魔力とも、妖力とも、霊力とも違う、圧倒的な災いからなる力。

 その気配を感じ、ベヒモスは驚愕するように身を怯ませて大きな反応を示す。


『本気は出さぬ。だが、貴様を封じる程度の力ならば容易く扱えよう……』


『グ……ギャ……グルオオオォォォ!!!』


 フェンリルの様子を見て身体を巨大化させるベヒモス。

 その体躯は一瞬にして山の大きさを超え、更に巨大化しつつ力が上がる。

 フェンリルの身体も巨大化し、禍々(まがまが)しい力が溢れていた。

 終末の日(ラグナロク)を連想するこの戦闘。フェンリルとベヒモスは、己の力を解放する。



*****



「……皆……! 此方に来て……!」


 フェンリルたちが戦っている中、リヤンは不馴れながらも魔族と幻獣。その二種族の兵士たちを避難させていた。というより、隊を組んで進めているという方が正しいだろう。

 進んでいる場所は既に大樹内。道は広く部屋は無い。一先ず隊を集め、大樹で体制を立て直す事優先なのだ。

 リヤンは元々後衛部隊であり、基本的に二人一組で行動を行っている。

 幻獣の国支配者の側近であるジルニトラは四神の一角を勤める青竜と。魔族の国幹部の側近であるサイフは四神の長である黄竜と。

 リヤンのパートナーは幻獣の国幹部のフェンリルだったが、今はベヒモスと交戦中。なので兵士たちを一人で行進させていたのだ。


「クク、ご苦労なこったな。一人の幼気いたいけな少女が隊を纏めるリーダーを勤めてるときた。まあ、その隊は今から解体されるがな?」


「……!!」


 突如、リヤンの率いる隊へ一つの声が響いた。

 その声音は笑い掛けるような口振りであり、言い放った者の口角が吊り上がっている。

 リヤンはそれに反応を示し、慌てたようにそちらを見やる。


「"破壊ブレイク"!」

「……ッ! 皆! 逃げて!」


「「「あ、ああ! 分かった!」」」

『『『はい! 分かりました!』』』


 瞬間、辺りの空間は砕け空間の欠片がリヤンたちの部隊へと降り注ぐ。

 リヤンは獣の力を使って空間の欠片を防ぎ、兵士たちへと指示を出した。

 兵士たちはそれに応え、その体制を維持しつつ早足で合流に向かう。


「おっと……テメェらも相手しなきゃならねェよ」

『『『…………』』』


 その時、声の主であるシュヴァルツの指示によって生物兵器の兵士達が姿を現し、先を行く幻獣・魔族兵士たちの前に立ちはだかった。


『生物兵器……!』

『あの数をどうやって……!』

「ハッ、ならば俺たちに任せとけ。戦闘なら慣れている……!」

「ああ、魔族は生まれついての戦士だからな……!」

『魔族ばかりに顔は立たせん!』

『ああ、自分の国は我々が護る!!』


 それを見た幻獣兵士たちは一瞬()気付けづくが、魔族兵士たちに言われ己の身を奮い立たせる。

 魔族の国に比べ、治安の良い幻獣の国。だからこそこの国の兵士たちは戦い慣れていないのだろう。

 しかし奥に潜む能力は高い幻獣兵士。その気になれば、生物兵器の兵隊を消滅させる事は出来なくともそれを突破して進む事は可能性だ。


『『『…………』』』


「来るか……!」

『来るが良い……!』


 敵の兵士達が駆け出し、魔族兵士と幻獣兵士を狙う。

 二種族の兵士たちは武器を手に取り、向かって来る敵の兵士へと構えた。


『『『…………』』』


『「撃てェ!!」』

「「「……!」」」

『『『……!』』』


 それと同時に魔族兵士が銃や矢を放ち、幻獣兵士たちが敵の兵士達目掛けて駆け出す。

 銃弾と矢は敵の身体を貫き、肉体を破壊する。しかし即座に再生する敵の兵士。それに向けて幻獣兵士たちは追撃するよう、更に細かく砕く。


『正面からの正当法で生物兵器を消し去る事は出来ない! 取り敢えず粉々にし、我らの道を切り開くのだ!!』


『『『オオオォォォォ!!!』』』

「「「任せろォ!!」」」


 剣と剣のぶつかり合う衝撃と火花が散り、銃弾と矢が飛び交う。

 敵の兵士へ槍を突き刺し、此方の兵士も剣などの技を受ける。

 一方では一斉に振るわれた剣は全てがぶつかり、火花が散りながら鉄片も散りゆく。

 一方では兵士と兵士の隙間から銃を放ち、敵の兵士を撃ち抜く。

 一方ではしなる槍としなる槍がぶつかり合い、その衝撃で両兵士は後ずさった。


「クク、良いもんだよな。鉄と鉄のぶつかり合う金属音。快音を響かせる銃の破裂、発砲音。弓矢の弦が引かれる音。矢の風を切る音。槍の柄がぶつかる事で生じる木の音。やっぱ戦闘は最高の演目ショーだ。それは、自分が参加する事で更に楽しくなる。そう思うだろ、テメェもな?」


「そんな事……思わない……!」


 兵士たちから視線を向け、リヤンを一瞥するように見て笑うシュヴァルツ。それに対し、己の意見を返答するリヤン。

 シュヴァルツの両手には魔力が纏われており、何時でも戦闘に入れるような体勢だった。


「クク……そうか、なら思わせてやるよ。テメェには何か神々しい気配を感じるからな」


 そのまま駆け出し、リヤンに目掛けて破壊魔術を放つ体勢に入るシュヴァルツ。

 シュヴァルツもリヤンに流れる何かの気配を感じており、特別な存在であると理解したようだ。


「……!」


 そんなシュヴァルツに向け、幻獣たちの力を纏って己の力を上昇させるリヤン。

 リヤンの身体に力が入り、五感が鋭くなり様々な感覚が研ぎ澄まされる。


「"破壊ブレイク"!」

「……!」


 そして破壊の魔術が放たれ、幻獣・魔物の身体能力でかわすリヤン。

 破壊魔術は何も無い空間を砕き、硝子ガラス破片のようにパラパラと散りゆく。

 しかしリヤンはそれに当たらず、大樹の床を擦りながら移動していた。


「ほう、力が上がったようだな。テメェらは全員何かあるのか? ライの奴が持つ魔王アレの事はまあ知っているが……全員が全員、何かの秘密を持っている気がしてな」


 そんなリヤンを見、力の変化を感じとると同時にライたち全員に何かの秘密があると疑うシュヴァルツ。

 ライの魔王は知っているが、リヤンが神の子孫という事やレイ、フォンセが勇者、魔王の子孫という事は知らないようだ。


「……! ライの力を知っているの……!? 貴方達の誰にも言っていないのに……!」


「クク、言ったんだよ。アイツが冥土の土産に教えてくれた時があってな……まあもっとも、それは俺じゃねェが……」


 しかし、ライが魔王を連れている事を知っていたシュヴァルツに対し、驚愕するリヤン。

 リヤンが知る限り、ライはシュヴァルツの仲間達誰一人として魔王を連れていると教えていなかったからだ。

 だがシュヴァルツ曰く、リヤンたちの知らぬ所で教えられていたらしい。


「……あの時ライにやられた……!」


「クク、知っていたか。まあ、冥土の土産って言ったからな。俺たちの仲間で一度死んだのは一人だけだからな」


 それを聞いたリヤンには一人、思い当たる節があった。

 その者は魔族の国最初の街"レイル・マディーナ"でライに破れ、一度死した存在。


「ゾフルの奴に魔王(あの存在)の事を教えていたのは間違いかどうか知らねェが、初めて聞いた時は心底驚愕したぜ……だがあの力……妙に納得もした。成る程な、ってな?」


 ──ゾフル。

 "レイル・マディーナ"にて死した後生き返り、ヴァイス達の一味に入った存在。

 リヤンは知らないが、ライはゾフルにトドメを刺す時魔王の事を話していたのだ。


「そう……それが分かったからもういいや……! 今から貴方を倒す……!」


「クク、いいぜ。来いよ。兵士たちは逃げ腰だからつまらねェけど……テメェが相手なら不足は無ェな」


 改めて幻獣・魔物の力を込めるリヤン。シュヴァルツが魔王の事を知っていた理由が分かったので、後はシュヴァルツを倒すのみなのだ。

 それを耳にしたシュヴァルツは笑い、リヤンを前に構え直す。

 フェンリルとベヒモスは力を解放して戦闘を行い、リヤンとシュヴァルツは兵士たちが交戦する中で戦闘を行う。

 場所は違えど広がる戦闘の波は、徐々に大樹その物を巻き込んでいた。

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