三百三話 大樹内の戦闘
『伸びろ、如意棒!』
『『『……!!』』』
──その刹那、孫悟空の放った如意金箍棒が敵の兵士達を撃ち抜き、吹き飛ばした。
「──と"妖術・火炎の術"!」
『『『……!!』』』
次いで炎妖術を放ち、生物兵器の兵士達を消滅させる。
此処は"トゥース・ロア"、支配者の大樹。敵の兵士は此処にも来ており、主力の殆どは此処の場にて迎え撃っていた。
『"妖術・水簾の術"』
孫悟空に続き、沙悟浄は水妖術で敵の兵士を吹き飛ばす。
水簾の名が示すように、その水は滝となりて敵の兵士達を押し潰すように流したのだ。
『ハッ、相変わらず洒落た妖術名だな沙悟浄! もっとシンプルにしたらどうだ?』
『抜かせ。逆にお前はシンプル過ぎるだろ』
孫悟空と沙悟浄が背中合わせになり、互いを一瞥しながら互いの妖術に対して話す。
実を言うと、魔法・魔術・妖術というものに詠唱は必要ない。
体内に既存する魔力や妖力を使って宇宙のエレメントに干渉しているのだから当然だろう。
しかし、詠唱する事で力が上がり、無言で放つよりも魔法・魔術・妖術の威力が高くなるのだ。
だからこそ言語は違えども詠唱する者が多いのである。
『ブヒ、妖術で敵を必ず倒せるって訳じゃ無いし、物理的な攻撃も良いんじゃないかな二人とも!』
『『ああ、一理ある』』
そんな二人の前に、九本歯ノ馬鍬を振るった猪八戒が姿を見せる。
馬鍬によって囲んでいた生物兵器の兵士達が吹き飛び、それを見た孫悟空と沙悟浄も物理的な技は良いと賛同した。
『ま、取り敢えずは武器も体術も妖術も、程好く織り交えた攻撃だな……!』
『未熟者だと半端に成りうる可能性があるけどな』
『つまり僕たちには関係無いって事だね』
『『その通りだ!』』
『『『…………!!』』』
次の瞬間に孫悟空は如意金箍棒。沙悟浄は降妖宝杖。猪八戒は続投している九本歯ノ馬鍬を使って敵の兵士達を吹き飛ばす。
因みに現在位置は大樹の入り口付近。この場所は、たった三人の妖怪だけで守護する事が出来ていた。
背後には他の主力や味方の兵士たちが控えているが、出る幕は無さそうな雰囲気だ。
「ハハ、流石の妖怪達。見る見るうちに兵士を葬っているね」
『『……!』』
『テメェは……!』
──この者が来るまでは。
称賛するように柏手を打ち、笑い掛けるように話す灰髪の男性──グラオ。
拍手では無く、孫悟空たちの存在からか神に向けて祈る時のように、敢えて両方の掌を鳴らして柏手を打っているのだろう。
『また会ったな……侵略者……』
「御無沙汰しております、斉天大聖様? 今日も今日とて御日柄も好く、心地好き戦争日和で御座いますね……」
『ハッ、ふざけ具合も変わり無しか……!』
そんなグラオは敬語で話、話方からふざけていると一蹴する孫悟空。
沙悟浄、猪八戒も構え、警戒を高めながらグラオに向き直っていた。
「ハハハ、ふざけてなんかいないさ。僕はただ純粋に、仏様の斉天大聖を敬っているだけだよ。ほら、よく言うでしょ? 神仏は信仰によって生きているって。信仰が無くなると、どんなに力の強い神々でさえ消えてしまうんだ。そんなのはつまらないじゃないか。僕に殺されて死ぬならまだしも、勝手に消滅されたんじゃ世話が無いからね。だから僕は全ての神仏を信仰し、何れ僕が消して上げようとしているんだよ。その方が僕は楽しいし、価値の無い存在に価値が生まれる。ほら、万々歳じゃないかな?」
仰々しく両手を広げ、笑いながら話すグラオ。
ハチャメチャな理論を述べているが、最終的には自分が全てを無に還すと言う。
強者との戦闘が喜びであるグラオは、強い存在に消えて欲しくないようだ。
神や仏といったモノに比較的興味の無いグラオだが、自分が楽しむ為に神仏を生かしているらしい。
『ケッ、どんな理論だよ。まだ力の底は見ていねぇけど、テメェ程度の実力者なんざ天界、下界、冥界に星の数程存在しているぜ。この世界は最強って言われる奴等のオンパレードだからな』
「その全てを倒す。余計な理論よりも単純明快でシンプルな答えじゃないか。この世に生まれたなら最強を目指さなきゃね」
如意金箍棒を振り回し、戦闘体勢に入る孫悟空。
グラオは両足を軽く広げ、拳を握って此方も戦闘体勢に入る。
沙悟浄、猪八戒も既に構えており、何時でも戦闘を行える体勢に入った。
「さあて……先ずは僕が一人で君達を相手取ろうか……」
『テメェ一人か……何か裏があるな?』
「さて、どうだろうね?」
軽く呟き、孫悟空たちに話すグラオとその言葉から何かあると推測する孫悟空。
グラオはおどけるように調弄すが、逆に怪しさがあるだろう。
外で戦闘を行うライたちとは逆に、大樹内にて主力同士がぶつかろうとしていた。
*****
「グラオが行った!! さあ、続けテメェら!! 大戦争と行こうじゃねェか!!」
『『『……』』』
孫悟空たちを相手にするグラオを一瞥し、クッと笑って話すシュヴァルツ。
それを静聴する生物兵器達は武器を構え、ただじっと待ち構えていた。
「行けェ!!」
『『『…………!!』』』
そしてシュヴァルツが命じたその瞬間、生物兵器の兵士達は多方面に広がる穴に向けて駆け出す。
それと同時にシュヴァルツも駆け出し、そちらの方へと向かう為に直進した。
「アハハ……ノリノリだね、シュヴァルツ……」
「まあ、戦闘好きにとっては嬉しいシチュエーションでしょうからね……」
「ククク……言えてるな……テメェらも遅れを取るんじゃねェぞ!!」
シュヴァルツを見、呆れるように笑うマギア。どうでも良さそうに話すハリーフ。
当然の事ながらゾフルも乗り気であり、適当な出口に向けて駆け出した。
その一味は今、動き出す。
*****
「掛かれェ!!!」
『『『──!!』』』
「「「…………!?」」」
『『『…………!?』』』
一つの声が響き、何も無かった箇所から鎧を纏った敵の兵士達が姿を現した。
それに反応を示し、即座に構える魔族兵士たちと幻獣兵士たち。構えた瞬間、一つの光球が放たれた。
「ラビア様!」
『魔族の主力殿!』
「みんな! 敵は何処から来るか分からないから気を付けて!!」
「『はい!』」
次の瞬間、光の球体は破裂して熱を生み出し、近付いていた敵の兵士を吹き飛ばした。
それを放ったラビアは魔族兵士と幻獣兵士に注意を促し、警戒を高めるように指示を出す。
味方の兵士たちは頷いて返し、改めて武器を構え直した。
『『『…………!』』』
光球によって作られた粉塵。そこから消滅しなかった敵の兵士達が駆け寄り、剣や槍といった近接用の武器を魔族・幻獣の兵士たちへ向けていた。
「それと、敵は再生するから足元を狙って一瞬でも動きを止めてくれれば私が纏めて消滅させるから!」
「分かりました!」
『御心得ました!』
それを見、兵士たちに一瞥向けて話すラビア。
兵士たちは了解しつつ剣や槍、銃に弓矢を構えた。
構えた瞬間にそれらを放ち、迫り来る敵兵士達の脚を撃ち抜く。
『『『…………!』』』
脚を撃ち抜かれた事で体勢を崩した敵兵士は怯み、バランスを保てずその場に伏せる。それでも這うように進み、敵を狙っていた。
そして見る見るうちにその傷は再生し、這うように動いていた兵士達は徐々に立ち上がって動きも早くなる。
「それじゃ、さよなら♪」
『『『────!!』』』
そして敵の兵士は消滅した。
体勢が崩れ、一ヶ所に纏まった瞬間光球を放って消し去ったのだ。
大樹の内部は広い。国サイズの広さを誇る為、部屋と部屋の間隔も去る事ながらある程度暴れても被害が及ばない程の広さである。
ラビアの光魔術を使ったとしても、大樹にダメージは無い。
「続けェ!!」
「「「ウオオオォォォォ!!!」」」
『『『ウオオオォォォォ!!!』』』
続いて一人の魔族兵士が言い、それに同調しつつ他の兵士たちも攻め行く。
動きを止めるだけならば、仕留めるよりも容易く済ませる所業である。
「そ──れ!!」
新たな光球が放たれ、そこに居た兵士が消滅する。
この場に攻め込んできた兵士達。それらの進行はラビアと二種族の兵士によって静められつつあった。
*****
「さて、どう思う? 支配者さん。もう気配は感じていると思うけど、レヴィアタンとベヒモスに気を取られていた時に私の仲間たちが大樹に攻め込んだ。まあ、この場所には私しか居ないけどね」
『どう思うも何も無い。俺は貴様をここ場で倒すだけだ。最悪、殺してしまうかもしれないが一つの国に戦争を吹っ掛けた代償という事だな、侵略者……!!』
吹き飛んだ後で体勢を立て直し、ドラゴンに向けて不敵な笑みを浮かべながら質問するヴァイス。
それに対するドラゴンの返答は武力行使をやむを得ず、そのままヴァイスを倒すとの事。
「フフ、穏やかでは無いね。当然か。侵略者相手に穏やかな態度を取っていたんじゃ話にならないか」
『ああ、そうだな』
刹那、再び羽ばたいたドラゴンがヴァイスに向けて加速した。
瞬く間にヴァイスとの距離を詰め寄る空気が揺れ、辺りは大きく振動する。
「さすがに二度も吹き飛ばないさ……」
その距離僅か数十メートル。ドラゴンの速度ならば羽ばたきを合わせて一秒も掛からずに到達するだろう。
そんなドラゴン前に、懐に仕込んでいた手頃な石ころを取り出すヴァイス。
その時間は僅か。まだドラゴンはヴァイスの元へ到達していない。
「……"再生"!」
そして石ころを再生させて一つの壁を形成した。
ドラゴンはその壁にぶつかり、粉砕してヴァイスの前に飛び出す。
「伸びろ……如意棒!」
『なっ……!?』
壁を粉砕したその瞬間、ヴァイスの脇から如意金箍棒が放たれた。
それを見たドラゴンは反応が間に合わず、顔面に亜光速で伸びる金属が激突する。
その衝撃でドラゴンの顔が拉げ、出血して怯む。
「フフ、折角良い武器があるんだ。私が懐に小さくした如意金箍棒を仕組んでいない訳が無いだろう……支配者が相手なんだ。他にも色々仕込んでいるけど……まあ全てを明かす訳にはいかないよね。取り敢えず、さっきの岩は気を引くだけの役割さ」
曰く、先程の岩はただのフェイクであり、如意金箍棒をドラゴンへ放つ為に仕組んだ物と言う。
ヴァイスは他にも様々な道具を仕込んでいるらしく、支配者対策はしっかりと取っているようだ。
『カッ━━!!』
「"魔法道具・耐熱外套"」
如意金箍棒を受けたドラゴンは出血しつつ炎を吐き、ヴァイスへ仕掛ける。
それを前にヴァイスは熱を遮断する魔法道具を取り出し、ドラゴンの吐いた炎を防ぐ。
「伸びろ、如意棒」
次いで足元に如意金箍棒を放ち、それを反動に天空へと上がるヴァイス。
その速度は亜光速なのでそれによって生じる圧力は凄まじいだろうが、ヴァイスは意に介している様子では無かった。
そして一瞬にして見えなくなる程の距離まで上がるヴァイス。亜光速なので当然と言えば当然かもしれない。
「"魔法道具・雷雲"」
そのまま上空にて、ヴァイスは新たな魔法道具を使用して雷雲を形成した。
ライとレヴィアタンの激突により快晴の空模様となった空に黒雲が立ち込めり、ゴロゴロという音を響かせる。
「"落雷"!」
『……ッ!!』
刹那、辺りに閃光が駆け巡り、ドラゴン目掛けて数億ボルトの電流が雷速で落下した。
それを受けたドラゴンの身体は光に包まれ、雷音と共に電流が伝わる。
「まあ、この程度じゃ無傷に等しいだろうね。支配者にして生物の王と謳われるドラゴンならね?」
『……ああ、その通りだ……!!』
雷撃を放つや否や、ドラゴンの元へ降り立つヴァイス。
ドラゴンから煙は出ているが基本的に無傷であり、その鋭い目をヴァイスに向けていた。
「フフ、やっぱりね。ドラゴンの身体を簡単に破壊出来ないのは知っていたけど……思った以上に頑丈なようだ」
『抜かせ! やられっぱなしは癪だ……! そろそろ此方も行かせて貰うぞ……!!』
「……へえ?」
羽ばたき、ドラゴンは姿を眩ませた。それを見たヴァイスは警戒しつつ辺りを見渡す。そこには何も見えず、何処から来るか分からない状態である。
ドラゴンが姿を眩ませた時間は一秒にも満たない時間。その時間にてドラゴンは──
『ギャア━━!』
「……ッ!」
──ヴァイスとの距離を縮め、ヴァイスを吹き飛ばした。
ヴァイスがこれを受けたのは本日二度目。ヴァイスは己の身体を即座に再生させるが、ドラゴンは更に追撃を試みる。
『──カッ!!』
「これは……!!」
その瞬間、ヴァイスが吹き飛んだ空中で大爆発が巻き起こった。
今回ドラゴンは爆発的に広がる炎を吐き、それを食らわせた事でヴァイスに爆発が起こったのだ。
「"再生"……!」
それに対し、炎を受けて少し弱ったヴァイスは己の身体を再生させる。
それと同時に近くの木に着地し、ドラゴンの方を見やる。
「どうやら今回、私は貴方に勝てないようだ。大樹は攻めているから……私だけが一旦退くとしよう……」
『──ギャアアァァァ!!』
吐き捨てるように言い、別空間へ姿を隠すヴァイス。
ドラゴンは消えるよりも早く炎を吐いたが、またもやヴァイスに逃げられてしまった。
『今回はアイツ一人だけが消えるのか……ならば大樹の方を見て置かなくてはならぬな……』
追っても無駄と理解しているドラゴンは深追いせず、攻められているという大樹を優先すべきと行動に移る。
眼前では海の上にて二匹の怪物と一人と一匹の味方が戦闘を行っているが、手助けは無用と判断して先程まで居た場所に戻る事にした。
再開された戦争はいきなり波乱を迎え、ゆっくりしている暇が無い。
即座に戻るドラゴンは、他の主力を探しつつ敵の兵士達を討つ為、その大きな翼を羽ばたかせて大樹へ向かって行く。