二百九十一話 ユニコーンvsシュヴァルツ・ラビアvsマギア
「"破壊"!」
『当たりませんよ……!』
──シュヴァルツが周りの空間を打ち砕き、それを躱しながらシュヴァルツの元へと向かうユニコーン。
大樹の床を踏み蹴り、加速してシュヴァルツとの距離を詰める。
その際にも空間は砕かれているが、それを意に介さず直進するユニコーン。
『──ハッ!』
「クク……折角躱したのに近付いて来たら世話ねェな……!」
そして己の身体と角をシュヴァルツに向けて放ち、それを見たシュヴァルツは紙一重でそれを躱す。
そしてユニコーンの腹部へ向け、魔力を宿した片手を向けた。
「"破壊"!!」
『──ッ!』
次の刹那、ユニコーンの腹部は打ち砕かれ、腹部へ風穴が空いてユニコーンが吐血する。
穴の空間には赤いモノが見え、それが内臓と分かる事は簡単だろう。
殺さない程度に仕掛けられたシュヴァルツの攻撃だが、ユニコーンにダメージを与えるには十分過ぎるモノだった。
「さて、これでテメェは再起不能だろ? 取り敢えず主力は優秀な個体って事に変わり無ェし、捕獲が最優先か……ククク……」
不敵に笑い、負傷したユニコーンの身体を上下に眺めるよう一瞥するシュヴァルツ。
幻獣は人間・魔族よりも生命力の高い種族が多い。なので腹部を砕かれても死なずにいるのだ。
『ま、まだ……終わってませんよ……! この程度の傷如き……! 死に逝った同士の痛みに比べれば……全く大した事ありませんからね……!』
「クク、健気だなァ……仲間の仇……か……ま、俺はユニコーンという種族を一匹も殺しちゃいねェけどな」
腹部を負傷し、血反吐を吐きながら立ち上がるユニコーン。
そんなユニコーンを見たシュヴァルツは楽しそうに笑い、再び両手に破壊の魔力を纏った。
口では捕獲と言っているシュヴァルツだが、その雰囲気から捕獲程度で済ませるような気は更々ないように窺える。
『同種族だけが仲間ではありません……幻獣兵士たち、全てが仲間ですから……!』
「ククク……言うじゃねェか……戦意を喪失しない敵ってのは中々に嬉しいもんだぜ?」
笑うシュヴァルツに対し、力を込めて気力のみで立ち続け睨み付けるユニコーン。
腹部は傷付いているが、恐らく内臓も傷付いている。立つだけでも凄まじい激痛が走り、意識が朦朧としている事だろう。
にも拘わらず比毛を取らぬユニコーンに感心するシュヴァルツ。
シュヴァルツの持つ魔術が強力過ぎる故にそれを見たら戦意を喪失する者も居る。
だからこそ戦意を失わずに立ち向かい続けるユニコーンへ感嘆の意を示したのだ。
「ほんじゃま、さっさと決着を着けてお持ち帰りして進ぜようか……」
『減らず口を……!』
感嘆の意を示しつつ、改めて破壊魔術を纏うシュヴァルツ。
その両手には魔力が纏わり付き、その場に存在するだけで周囲の空間を砕いてゆく。
ユニコーンは毛を逆立て、低く唸るように構えた。そして、唸ると同時に吐血する。
「クク、減らず口かどうかテメェの身を持って実感したろ? ただの憎まれ口や負け惜しみとは違うんだぜ?」
刹那、シュヴァルツは床を踏み抜き、数センチ近くに居るユニコーンへと駆け出した。
この距離ならば秒も掛からずに辿り着きユニコーンの自由を奪う事になるだろう。
『そんな事、知りませんね』
それと同時にユニコーンも動き、傷付いた身体を動かしてシュヴァルツの破壊魔術を避ける。そしてそのままシュヴァルツの死角に回り込んだ。
『ハッ!』
「……!」
回り込むと同時にシュヴァルツを両足で蹴り飛ばし、シュヴァルツを吹き飛ばすユニコーン。
しかし吹き飛ぶという程では無く数メートル離す程度。それ程しかダメージにならない。
ユニコーンが全快ならばその十倍は吹き飛ばせたのだが、如何せん腹部が抉られ弱っている今。それ程の力は出ないのだ。
「痛ェな……クク、まだその程度の力は出る……か」
ユニコーンの攻撃を受け、ほんの少しだけダメージを受けたシュヴァルツ。
だがしかし、そのダメージは悪魔でほんの少しだけ。それは衝撃による痛み程度であり、外部も内部も傷付いていないのだ。
『くっ……力が……!』
そしてユニコーンには更なる激痛が走り抜けた。それによって脚がガタ付き、力が抜けてしまう。
内臓が見えてしまうのではという傷を負っているのだ。幾ら生命力の高い幻獣と言えど、持って一分程だ。
『……もう……!』
そして当然のように、一分程度の時間、当の昔に過ぎ去っている。
腹部を抉られてから数分。十分は経っていないにせよ、ユニコーンは既に力尽きている。だが、全ての感覚が無くなりつつある中自分の根性のみで立っているのだ。
「終わりか。なら、適当に痛め付けて連れて帰るか……」
ユニコーンの状態を見、もう戦いは終わりと悟るシュヴァルツ。
ユニコーンを捕らえた暁には別の戦いへ出向くつもりであるが、取り敢えず今のユニコーンと行う戦いは終わりだろう。
「じゃ、目覚めたらテメェは晴れて俺たちの仲間になっている……って事よ」
『……』
──瞬間、シュヴァルツの纏った破壊魔術がユニコーンの脚へ目掛けて放たれた。
*****
「──ハッ!」
「──"炎"」
ラビアの光球体とマギアの炎が激突した。そしてそれら二つを中心に大爆発を起こし、大樹の一角が消し去る。
それによって周りに居た残りの生物兵器からなる兵士達が消滅する。
その衝撃は激しい光を生み出し、一瞬煌めいた閃光は視界を赤白く染めた。
「まだまだ!」
「此方こそ!」
続け様に光の球体。そしてマギアの放つ魔法・魔術とも覚束無いエレメントが放たれ、目映い閃光の爆発が大樹を包み込む。
その衝撃は大樹から外にまで伝わり、上空に漂う白い雲が晴れる。
「「やあ!」」
それと同時に新たな爆発が起こり、本日何度目となるか分からない衝撃が大樹へと響き渡った。
「気になったんだけど……大樹を一番破壊しているのって貴女じゃない? 幻獣の国の主力さん?」
「えー? そうかなぁ……まあ、そうだとしても直ぐに再生するから問題無いでしょ! 多分ね!」
そして煙が晴れ、同時にマギアが訝しげな表情をしながらラビアへと言う。それは大樹にダメージを与えている者はラビアなのでは無いかという事。
それに対してラビアは、"世界樹"の欠片からなる大樹ならば問題無いと言った。
しかし、それもその通りだろう。その証拠にラビアの光球体とマギアの技による大樹へのダメージは再生しつつあったのだから。
「また随分と適当な護衛だね……侵略者の私に言われるって相当だよ?」
「そうかな? 結果としては貴女達の部下兵士が消えているし……結構良い感じだと思うけどなぁ」
そんなラビアに呆れるマギアは、侵略者という立場なのだがラビアの行っている護衛が気に掛かる。
ラビアの光魔術は範囲が広く威力が高いので、必然的に周りを巻き込んでしまう。それ故に護衛という意味ならば少々粗い護衛となってしまっているのだ。
「それに、結局のところ貴女を倒さなきゃならないからね。初めから全力……までは行かないにしても、それなりの力で迎え撃つよ……!」
しかしそれはマギアを相手にするに当たって仕方の無い事。相手が主力ならば、ラビアも相応の対応をしなくてはならないのだから。
それだけ言い、ラビアは再び光の球体を創り出して自分の周りに漂わせた。
「そう、じゃ、私も相応の力で迎い撃ってあげようかなぁ……!」
ラビアの言い分を聞いたマギアは軽く返し、魔力を集中させてエレメントを創造する。
そしてそれらエレメントを組み合わせ、四大エレメント以外のモノを創り出した。
「貴女と同じだよ♪ "光の球"!」
「貴女も光の球だね……"光の球"!」
刹那、マギアが創り出したモノは光。ラビアに対し、自分も光の技で対応しようという事なのだろう。
そして放たれたその二つはぶつかり合い、弾けるように散乱した。
その衝撃は閃光と共に駆け巡り、再生し掛けていた大樹の一角が消滅する。
「「──はあ!!」」
続け様に二人は光の球体を放ち、それらがぶつかり合って光の爆発を起こす。
その形はドーム状であり、一気に数個の球体が放たれた事によって多くの一個以上の爆発が起こって数百メートル程の範囲が消滅する。
「うーん、やっぱり私的に光は慣れないかなぁ"影の球"! うん、この方がしっくりくるな!」
「確かに貴女って性格とは裏腹に光っぽさが無いもんねぇ……」
光と影、影と光。それら二つの球体が激突して辺りに白と黒の閃光を走らせる。
その二色以外無くなった空間にて、光が晴れラビアとマギアの顔が露になった。そして次の瞬間、二人はその場から駆け出し横に移動しながら光と影の球体を放ち合う。
それらが放たれる度に大樹の一角が消し飛び、辺り一帯に光と影を映し出す。
「やるね……じゃ、二つ使おうかな……"影の球"&"闇の球"……!」
「うーん……禍々しい球体だなぁ……。何か……普通の魔力よりも存在感があるって言うか……」
互いに移動しつつ、マギアは新たな魔力の球体を創造する。
それを見たラビアはその球体を創り出している魔力に着目した。他の魔力とあまり変わらないのだが、マギアの扱う魔力は妙な違和感があったのだ。
それは何とも言えないが、普通の魔力とは違うようなそんなモノだった。
「そう? まあ私の魔力は並み以上に鍛えているからねぇ。だからどうしたって話だけど、結構強いと思うよ」
「強いのは見て分かるね、確かに結構強力かも」
「ありがと♪」
──次の刹那、マギアは影と闇の球体をラビアへ向けて一斉に放った。
その球体は加速して進み、ラビアに当たるよりも早く爆発を起こす。それと同時に暗闇が広がり、ラビアの視界を黒く染めるモノだった。
そして更に放ち、マシンガンのように影と闇の球体が辺りを行き来する。それは先程通り着弾するよりも早く爆発を起こして更に視界を黒く染めた。
「はっ!」
その闇を掻き消すのはラビアの放った光の球体。マギアはそれを避け、光の爆発を起こす。
先程からエレメントとは少し違った球体のぶつかり合いが起こっているが、一向にそれ以上進む気配が無い。
それは恐らく、互いの攻撃がラビアとマギアにとって避けられない程のモノでは無いからだろう。攻撃というモノは、当たらなければ勝負が終わらないのだから。
「うーん、やっぱり『貴女に合わせる』のは面倒だなぁ……自分の力でやっちゃお」
「へえ……?」
そしてマギアは影と闇の球体を消し去り、通常のエレメントを創造した。
その口調からラビアに合わせて球体を使っていたようだが、中々決着がつかないので止めるとの事。それに対し、ラビアは怪訝そうな表情でマギアを見やる。
「"合わせる"って事はこれから本気って事……? 最初は貴女も普通にエレメント使っていたから貴女と私にあまり差は無いと思うよ? 本気じゃなくても、私も本気じゃなかったからね……!」
怪訝そうな表情の理由。それはラビアに合わせた戦闘を行っていたという、マギアの発言。
つまりマギアは、その気になれば簡単にラビアへ勝利できると言っているような事だからだ。
その事へ反論するラビアは、始めのうちはどちらも本気では無くマギアが普通にエレメントを使っていた事から、互いが本気だった場合でも然程の差が無いと告げる。
その言葉に対し、フッと笑うマギア。
「どちらの本気が上か……確かめてみる?」
「望むところよ!」
──刹那、マギアとラビアの間に強い魔力が集まった。
その魔力は再生しつつある大樹を揺らし、パラパラと木の欠片を頭上から落とす。
それと同時に二人の周りに光る何かが形を現した。
「──はあ!!」
「──"女王の元素"……!」
次の瞬間にラビアの光球体とマギアの四大エレメントを交えた魔力の塊が放たれ、大樹の中を大きく揺らす爆発が起こった。
その爆風は大樹の外にまで伝わり、上空の雲を払って近隣の森にある木々を揺らした。それ程までの威力だったのだ。
*****
ラビアとマギアの技。それによって生じた粉塵が晴れ、大樹の壁は再生する。
先程の爆発が無かったかのように再生したそれを前に、二つの影があった。
「ふふ♪ 安心してね……貴女は主力。身も心も必要以上に傷付けないから♪」
「……」
気を失ったラビアを抱えるマギアという二つの影が。
マギアはラビアの身体を撫で、髪を指に絡めてすり抜けさせる。それによってハラハラと髪の毛が揺れ、それを眺めるマギアの顔は楽しそうだ。
幻獣の国"トゥース・ロア"。そこにある支配者の大樹にて、幻獣の国側の戦力が徐々に徐々に削られつつあった。