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二百八十八話 大樹部隊

「ハッ! 遅ェ! 遅ェ!!」


『『『…………ッッ!!』』』


 雷その物となり、周りの幻獣兵士たちを感電させつつ進むゾフル。

 いかづちの閃光みが線となって残り、ゾフルを囲んでいた幻獣兵士たちが気付いた時には己の身体へ電気が流れており、気を失っていた。


「あーあ、つまんねェな……。もっと強い兵士は居ねェのか? ヴァイスの居た所から何かが聞こえたが……もしかして待ってた方が良かったか? ケッ、ミスったなこりゃ」


 感電して気を失った幻獣兵士たちを見、つまらなそうに吐き捨てるゾフル。

 ただ強者と戦いたいゾフルは、幻獣兵士たちの選別よりも主力との戦闘を望んでいるのだ。


「此処もそろそろ兵士共が少なくなってきたな……だが、増援が来る気配は無い。まだ暴れ足りないが……少し待ってみるか?」


 辺りを見渡し、下に転がる兵士を見て呟くように言うゾフル。

 ゾフルが行いたいのは主力よりも劣る兵士との戦いでは無い。血のたぎる、本当の戦いである。

 ルールも何も無い、己の力のみが全てを示す戦いが行いたかったのだ。

 しかし、その戦いは何度か体験しているゾフルだが全ての戦いは決着が付かないようなモノだったり、自分自身の敗北だったりと思うような結果が出ていない。

 それ故に、結果が着くかもしくは自分が接戦で勝利を収めるような戦いを行いたいのだ。


「……って、それって結局俺が強敵に勝ちたいだけじゃねェか……。確かに負けんのは嫌だが……何だがなァ」


 そこまで思考し、本当の望みはそうでは無いと首を振るゾフル。

 確かに強者との戦闘を望んでいるのだが、自分の思う理想とは違うと否定する。


「じゃあ、俺は何になりてェんだ……? 国の幹部? 国の支配者? 世界の支配者? ──絶対的勝者? いや、そのどれでも無ェ……本来は幹部になりたがっていたが……そんな目標は当の昔に切り捨てた……このまま戦ったとして、その先には何が残るんだ?」


 己の思考を否定し、自問自答を繰り返すゾフル。

 ゾフルは生き返り、ライにリベンジする為にヴァイス達の仲間となった。

 しかし、本当の目的かもしれないライへのリベンジはまだ叶わない状態。

 ヴァイスは足場を作り、そこから徐々に行動を起こして行くタイプのリーダーだが、タイミングが悪いのかゾフルはライたちと戦える事が無い。

 ゾフルが戦っている者は、主に魔族の国に居る面々が多い。切っても切れないような、見えないと縁があるのでは無いかと錯覚する程だ。


「なあ、どう思う? テメェはよ? 幹部の側近を勤める者なら何か分かるんじゃねェか? 俺の望みって奴をよ……?」


「……そんな事、私に分かる訳無いわ。魔族の国を裏切った者の考えなど、分かりたくも無いのだからね」


 ──ゾフルは尋ねた、魔族の国幹部の側近であるシターに向けて。

 それに対し、ため息を吐きながら話すシター。ゾフルは何やら悩んでいるようだが、そんな事シターには関係の無い事なのだろう。


「ハッ、相変わらず御堅いねェ。それに、また俺の相手は幹部の側近かい。盾魔術の使い手さんよ?」


「……」


 シターの前に居るゾフルもため息を吐いて返し、身体へいかづちを纏う。

 ゾフルの望みは強者との戦い。その望みはゾフル自身が思うモノと少し差違点があるが、取り敢えず強者と戦えれば良いのだ。


「まあ取り敢えず、元側近同士、楽しく殺し合おうじゃねェか」


「ふう……貴方は本当に馬鹿ね。何を考えているのか知らないけど、全てが戦闘で解決出来る訳無いじゃない」


 様々な思考が巡らせていたゾフルだが、強者との戦闘でそのモヤモヤが晴れるとでも考えているのだろうか。

 その証拠に、シターへ向けて魔術を放つ体勢へとなっていた。それに返すシターは呆れ、己の周りに己を守護する盾を創造する。此方も主力同士が出会い、戦闘が開始された。



*****



「さあ、殺さない程度にやっちゃって!」


『『『…………』』』

『『『…………』』』


 スケルトンと生物兵器の兵士を放ち、幻獣の国にある大樹を攻めるマギア。

 放たれたモノ達は所構わず暴れ回り、幻獣たちを傷付け国サイズあるという"世界樹ユグドラシル"の欠片から創り出された大樹を破壊していた。

 しかし、"世界樹ユグドラシル"は永遠に再生し続ける大樹。

 なので現在暴れ回っているスケルトンや生物兵器達は、大樹に関しては意味の無い事をしているだけなのだ。がしかし、無論それはマギアも承知している。マギアの狙いは、何も大樹の破壊では無いのだから。


「まあ、取り敢えず……適当に大樹を破壊して主力を呼ぼうかなぁ。選別するなら、沢山居てそれ程強くない幻獣兵士より、少なくて強い主力の方が良いからねぇ」


 そう、マギアの狙い。それは幻獣の国に居るであろう主力を引きり出す事だったのだ。

 数が多く、どの種類が優秀でどの種類が平凡、劣等なのか分からない兵士よりも、確実に強いという事が分かっている数人と数匹の主力の方が選別するに当たって効率が良いのだから。


「その為にはもっと犠牲が必要……かな?」


『ギャッ……!』

『ガッ……!』

『グエッ……!』


 それと同時に炎、雷、鋭い水を放ち、幻獣兵士たちを殺さない程度に痛め付けるマギア。

 スケルトン達や生物兵器の兵士にも任せている事だが、より苦痛を与える事によってその悲鳴を聞き付けた主力が早く来ないかと心待ちにしているのである。


「来ないなぁ……やっぱり場所が悪いのかな……いえ、場所の問題じゃないね……取り敢えず辺りを消し飛ばす勢いでやれば良いかな……"消滅の風エクスティンクション・ウィンド"!」


 ──その刹那、大樹の一部が『消し飛んだ』。


 マギアが放った風。それを受けた大樹が消滅したのだ。

 消滅した場所からは外の風が入り込み、そこは何かでかれたかのように綺麗に抉れていた。

 無駄な破壊が無く、マギアの放った風が大樹の皮その物を抉ったのである。

 その場所は再生が遅く、本来なら即座に塞がる穴も中々塞がらなかった。


「さて、もう一発……"消滅の(エクスティンクション)……"……「させないよ!」……!」


 その瞬間、再び先程の風を放とうと試みていたマギアに向け、白い光の球体が放たれる。

 それに逸早いちはやく気付いたマギアは飛び退いて白い球体を避け、その球体は先程までマギアの居た場所にて光の爆発を起こした。

 それによってスケルトンと生物兵器の兵士達が消え去り、生じた粉塵と共に放った主が現れる。


「ようやく主力の登場って訳だね……?」


「うん、そうだね。そういう事で、今から貴女を倒すから」


 その主力──ラビア。

 マギアはラビアの方を見てフッと笑い掛けて言い、それに返すラビアはマギアへと宣戦布告を行った。


「へえ? 私を倒す……ねえ? うん、やってみてよ……私を倒すって事をね?」


 瞬間、マギアの周りには再び魔力でスケルトンが創造された。

 ギシギシと文字通り骨の軋む音が響き、ゆっくりと顔を上げてラビアの前に立ち塞がるスケルトン。


「邪魔!」


 そしてそのスケルトンは、ラビアの放った光の球体により爆発して吹き飛ぶ。

 辺りには白い閃光が広がり、大樹の内部から塵一つすらをも消し去ったのだ。

 スケルトンによって生じた魔力の欠片が辺りに散り、改めてラビアとマギアが向かい合っていた。


「成る程ね、広範囲を破壊させる光の爆弾。魔力の塊である白い球体が破裂して、かなりの熱と光を発するからスケルトンや生物兵器を消滅させる事が出来る代物って事」


「うん、正解。……だけど、そんな事はどうせ聞いている事でしょ? 違かったら"ゴメン、それを使って貴女を倒す"。聞いているなら"そう、じゃあ貴女を倒すから"。だね」


 つまりマギアに拒否権は無いという事。マギアの返答がどうであれ、ラビアは敵を倒す事のみを考えているようだ。


「あーあ、可愛い顔して怖い事言っちゃって……私は貴女達主力を連れて帰らなきゃならないの。何で生き残る事が出来るのにそんな戦いを起こそうと考えるんだろう。選別の結果で死んじゃうかもしれない他の兵士に比べたら、確実に生き残れる主力の方が圧倒的に有利な条件なのに……主力なら改造を施さなくても良いし……」


 ため息を吐き、呆れたように淡々と綴るマギア。

 マギア達の目的は生き物を殺して領土を奪うという、野蛮人しか考えないかのような侵略では無い。

 生き物で生かす者は生かし、殺す者は殺す。生物の選別である。

 選別を行う事で優秀な個体のみを世界に残し、より有意義な世界を創造する事が目的。

 なので主力に選ばれる程の逸材ならば、確実に生き残れる世界なのだ。


「そんなの、知らないよ。私は世界征服を目的とする侵略者に会った事があるけど、貴女達よりはそっちの方が共感出来たね。貴女達の行う選別は弱者を無差別に殺処分する事。……だから、今此処で貴女を止めなきゃいずれ私の街"マレカ・アースィマ"まで戦火が来ちゃう! そしたら住人が殺される! それを止めない訳無いでしょ!」


 そんなマギアの言い分に力強く反論するラビアは、幻獣の国のみならず己の街を護る為に止めると告げる。

 それを聞いたマギアはクスリと笑みを浮かべ、


「じゃあ、止めてみなよ」


 炎、水、風、土のエレメントを自分の周りへ創造した。

 ついでに雷などのような四大エレメントとは違う物質を創造し、ラビアを迎え撃つ体勢に入る。


「言われなくても……!」


 それに対抗すべく、ラビアは自分の周りへ光の球体を創造して漂わせる。

 両者の使う技は違えど、どちらもかなりの殺傷力を秘めたモノに変わり無し。

 鮮やかな色合いのモノと純白のモノ。その二つが今、両者に向けて放たれようとしていた。



*****



『……!!』


 巨人兵士が巨腕を振るい、"トゥース・ロア"の大樹を大きく揺らした。

 その巨腕は振るわれただけで直径数百メートルが粉砕され、その場に居た幻獣兵士たちはミンチのように潰れて真っ赤な肉片と鮮血。そして肉のくっ付いた白い骨が辺りに散らばる。


『止めろォ!!』

『あの巨人兵士を止めるんだァ!!』

『そうしなくては……我々が……!!』


『……』


 ──一閃、叫んでいた幻獣兵士たちは砕かれ、大樹の中を真っ赤に染めた。

 この大樹は国サイズの大きさを誇る。なので巨人兵士も入り込む事が出来、その理不尽な暴力を振るう事が出来るのだ。

 一体の巨人兵士は暴れ回り、一体だけで幻獣兵士を数十匹打ち砕く。グチャグチャと肉片を踏む音が響き、また一匹の尊い命が失われた。


「ふむ、巨人兵士一体でこの有り様……勢い余って殺してしまったが……此処に居た兵士は選別に値しないモノでしたね。実験材料としては良いかもしれないが……そんなモノに貴重な道具を使いたくないものです」


 巨人兵士が開いた道を歩き、肉片を踏み捨てながら呟くように話すハリーフ。

 ハリーフは巨人兵士を暴れさせ、優秀な兵士の選別を行っていたようだが、どうやら幻獣兵士たちの弱さにガッカリしたらしい。

 実験道具とて限りがある。適当な街を襲って実験道具を集めるのも良いが少々手間が掛かる為、優秀では無い個体なら即座に殺処分しているのだ。


『この……! せめて敵の主力に一矢報い……!』


 そんなハリーフに向け、飛び掛かる一匹の幻獣兵士。

 この兵士は巨人兵士の巨腕を受け、吹き飛ばされた。なのだが、どうやら大怪我は負っている様子だが生きているようだ。


「フム、生きていましたか……喜んで下さい、アナタは合格だ。"麻酔の槍(カダー・ハルバ)"……!」


『……ッ!』


 それを見た瞬間、ハリーフは魔力を込めた槍を突き刺した。

 その槍に込められた魔力は脳を刺激し、睡眠作用を引き起こすモノ。その魔力は微力なモノで、主力クラスには通じないがそれなりの個体である幻獣兵士には通じるのだ。


「さて、意外と早くに一匹のマシな個体が居た……このままの調子ならばサクサクと進みそうですね」


 呟くように言いながら歩き、巨人兵士の後ろを行くハリーフ。

 ハリーフ自身はあまり手を下さず、巨人兵士のみで十分という事もあって何もせずとも事が上手く運ばれていた。


『ハッ、随分と好き勝手されているな……テメェは槍魔術とやらを使う奴だったっけな?』


「……主力の登場ですか」


 そんなハリーフの元へ近付く、純白な白毛を揺らし鋭い牙と目付きをしている虎が居た。

 その虎は大樹内にある木からハリーフを見下ろし、グルルと低い唸り声を上げて睨み付ける。


『侵略者のお前に言いたい事は色々あるが、それはさておき取り敢えず……邪魔なデカブツは消え失せろ……!』


『……!?』


 そして巨人兵士がバラバラに砕け散り、その巨大な肉片が大樹の廊下へと落下した。此処へ来た主力──四神である白虎が目にも止まらぬ速度で粉砕したのだろう。


「はあ……折角楽をして居たのに……私が出向かなくてはならなくなってしまったよ……どうしてくれるんですか?」


『そうだな……じゃあ、詫びとしてテメェの身柄を確保してやるよ。色々と聞きたい事もあるからな……ま、聞く必要も無ぇけどな』


 巨人兵士を粉砕した白虎を見、肩を落として話すハリーフ。

 それに対して白虎は牙を剥き出しにして笑い、木の上から飛び降りた。

 そして着地すると同時に大樹が揺れ、木の床に爪を食い込ませて睨み付ける白虎。


『一先ず今の目的は、お前を行動不能にする事だ侵略者……!!』


「お手柔らかに……四神の一角さん?」


 白虎が構え、それを見たハリーフが自分の周りに槍魔術の槍を形成する。

 その横では巨人兵士の肉片が集まりつつあり、その形を再び再生させつつあった。

 午後の戦いにて両者の主力がみな、全員出揃った。

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