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二百八十話 中断の終了

 昼食を摂り終え、大樹の廊下を通ってバルコニーのような場所にライは居た。

 太陽は真上から少し移動しており、暖かな春の風がライの顔を撫でるように通り過ぎる。

 一、二時間経過したが戦争は、依然として中断されたままで何時再開されるのか分からないのが現状。

 つまるところライは、ボーッとしている訳にもいかないので風を浴び、改めて落ち着こうと試みているのだ。


「……」


 傍から見れば、今のライはボーッとしているように見えるだろう。

 しかし、その内情には闘争心が表れており戦争に対して対策を練っている。

 恐らくだが、次に戦う時ライは再びグラオの足止めをメインとするだろう。なのでグラオに対し、確かな算段を練り確実な攻撃を仕掛けようと熟考じゅっこうしているのだ。


「……随分と静かだね……ライ……何してるの……? 皆探してたよ?」


「……リヤンか」


 そのように思考するライに向け、ライの顔を覗き込むようにしゃがんで話し掛けるリヤン。曰く、他の者たちがライを探していると言う。

 ライはリヤンを見、呟くように言った。それによってライの熟考は終わり、確かな算段の欠片を思い付く。


「……うーんと……相手の幹部……それに対する対策を考えていたんだ。ほら、相手はかなり強かったからな。けど、リヤンのお陰で脳内に何かが浮かび掛けたよ」


「……へぇ……私の、お陰……? ……私……何もしていないけど……」


 それに続き、リヤンに向けて話すライと、ライの言葉がよく分からなかったリヤン。

 リヤンはライに何をしているのか尋ねただけであり、ライにアドバイスのような事をした訳では無い。

 にもかかわらず、どういう訳かライの脳裏には朧気おぼろげだが確かな作戦の欠片が浮かんだのだ。


「……そう言えばそうだな……リヤンは俺に聞いただけ……リヤンを見たら思い付いたし……。ハハ、もしかしてリヤンって見るだけで何かの利点が生じるのかもな」


「……そう……?」


 それに対し、リヤンついて話すライ。利点が生じるという事は、リヤンが放つ神々しさか何の影響かは定かでは無いが、何故かライの思考が冴えたのだ。

 その言葉に小首を傾げながら幼くも端正な顔を向けるリヤン。

 そしてリヤンは立ち上がり、軽く伸びをしてライの方へ向き直る。


「……けど、何時再開されるんだろう……早く終わって欲しいな……兵士たち皆が死んじゃう姿は見たくないもん……」


「……そうだな。その為には……やっぱり敵の主力を倒さなきゃならないからな……」


 そしてバルコニーから遠くの景色に視線を向け、呟くように話すリヤン。

 ライも遠方の景色を見、リヤンの言葉へ同意するように頷いて返す。

 リヤンは幻獣兵士たちの"死"を見たくない。そしてライも、無闇に生命が奪われるのを見たくないのが心境。

 しかし戦争に置いて、それは叶わない事だろう。何故ならそう、敵が諦めて幻獣の国から退く事しか解決策は無いのだから。

 幻獣たちは幻獣の国を捨てないだろう。恐らく最後の最期まで命を持って戦う筈だ。誇り高き幻獣だからこそ、国を捨てる事はしないのである。

 対するヴァイス達は、悪魔で選別が目的。なので全滅するよりは退却する方を選ぶ筈である。

 つまりヴァイス達が諦め、退いた時、その戦争は終戦を迎える。

 敵の戦力から、幹部クラスを数人倒し兵士を数千人消滅させれば退いてくれるだろう。なので戦争は通常二、三日。長くて一週間で終わる。


「ふふ、随分と暗い会話をしているな……ライにリヤン? 不安か?」


「「……!」」


 そんな会話をしている時、バルコニーの上から声が掛かる。

 そちらを見るとクルクルと傘を回す金髪の幼子がバルコニーの屋根に座っており、不敵に笑う口元からは牙が見えた。


「……エマか。……まあ、不安と言うか何と言うか……この戦いの先に何が残るのか気になってな……言ってしまえばこの戦いは幻獣の国(この国)の"自衛戦争"。己の領土を護る為の戦争だ。俺の領土って訳じゃ無いけど、幻獣の国にとっての縄張りを護る為に行われるモノさ。そんな戦争に勝ったとして、俺がその後に行う事は良いのかって気になってな……」


「……成る程。"こちら側"では無く"そちら側"としての不安か。確かにライのこころざす目的は"それ"だからな」


 ライのいだく不安。それは幻獣の国で行われる戦争に勝ったとして、次に自分が征服しなくてはならない事に対してである。

 ライの目的は世界征服。己も協力して護っている幻獣の国(この国)だが、それは本来の目的の為に行っている手段でしか無い。

 それについて幻獣の国の者たちに聞かれぬよう、エマは世界征服という部分を濁して話していた。


「ああ、その通りさ。その事が気になっているんだ。ずっとな……この世の平穏を創る為にそれを行うとして……それで本当に平穏が訪れるのか……ってな。平穏を創る為に争うって何かおかしいよな……」


「……ふふ、そうだな。しかし、それを考えても仕方無い事よ。お前の望む"それ"はお前がやりたい事だろう? ならばその為に戦えば良いと思うぞ私はな」


「……うん。私はライに着いて来たんだから……ライの言う事なら別に良いよ……」


 平穏を創造する為に争わなくてはならない。そんな皮肉を薄く笑い、乾いたように話すライ。

 エマとリヤンはそんなライを見、ライの好きなようにやれば良いと告げる。

 ライは歳の割には少々考え過ぎている事が多々ある。なので気負い過ぎぬよう話したのだ。


「あ、ライー!」

「此処に居たのか」


 するとそこに、レイとフォンセの二人もやって来る。

 二人の様子を見るに、リヤンが言っていたライを探していたという事は本当なのだろう。


「……ああ、少し考え事をしていたんだ。まあ、それはもう解決したさ」


「……へえ……本当に?」

「……ふむ、まあ解決したなら良い……のか?」


 そんなレイとフォンセに話すライは、特に問題は無いと告げる。

 事実、エマとリヤンによってライが抱いていた多少の不安は払われた。なので戦争には落ち着いて挑めるだろう。


『……皆の者! 集まってくれ! これから戦争について話し合おうと思う!』


 するとそこに、ドラゴンの声が響いた。それは戦争について何かしらを話し合うと言う事。

 昼を摂り終えてから数時間経過したが、ヴァイス達の情報は何も無い。なので一先ず話し合いをして対策を練ろうと言う考えなのだろう。


「……じゃ、行くか。今は攻めて来ていないけど、油断させてから仕掛けてくる可能性もあるから対策するに越した事は無いし」


「うん、そうだね。このまま此処に居るのも良いけど、今は戦争だもんね……」

「うん……」


 その言葉を聞き、ライが呟くように話してレイ、エマ、フォンセ、リヤンへと話す。それに対して返すレイとリヤンに、頷いているエマとフォンセ。

 一先ずライたちはバルコニーから移動し、ドラゴンの元へと向かう事にした。



*****



『……今回、作戦を変更しようと思うのだ。チームは変えないが、東西南北から攻めるという作戦に少しの変更を加えようと思う。恐らくだが、相手には同じ手が通じないだろうがな』


 "トゥース・ロア"支配者の大樹にて、ドラゴンが集まった主力に向けて話していた。

 その内容は作戦の変更。先程は敵を北側に誘い、そこから孫悟空たちが奇襲を仕掛けるというものだった。

 今回ドラゴンは、相手に二度同じ手は通じないと懸念し作戦を変更しようと考えているのだ。


『……ふむ、特に意義は無い。では、その作戦はどうするんだ? 確かに奇襲は通じぬだろうが、その代わりとなる作戦はあるのか?』


 そんなドラゴンに向けて尋ねる者はワイバーン。ワイバーンはドラゴンの言う作戦とやらの変更について聞いていた。

 奇襲が通じぬのなら別の作戦。それが上手く行くかどうかは分からないが、それを知らずして始まる事は無いだろう。


『……ああ、勿論ある。奇襲が駄目ならば正面突破。これが良かろう。大きく分けて前方のチームと後方の二チームに別れる。前衛には攻撃をメインとする者。後衛には回復をメインとする者を配置させよう』


 ドラゴンの考える作戦は、一気に畳み掛けるというもの。

 ライたちの実力を理解したドラゴンは、より相手に打撃を与えられる事を考慮した作戦を立てたのである。

 確かに敵の兵力は多い。だからこそ敵の不死身兵士を消滅させる事の出来る者を前衛に置く事で相手の戦力を減らせるだろう。


「……けど、相手にはグラオが居るぞ? とは言っても戦ったのは俺だけだけど……グラオはかなり強いぜ。俺が保証する。まあそんな保証無い方が良いけどな」


『ふむ、成る程な。お前程の実力者がそれ程言うのならばその通りなのだろう。ならば我らの中でそのグラオと対等に渡り合えるのはお前以外に誰か居るか?』


 そんなドラゴンに向けて話すライ。ドラゴンたちは分からない事だが、グラオはライが相手にした敵の中でもかなり上位に入る程の実力者だ。

 まだお互いに本気では無いので本当の力は如何程のモノなのか分からないが、それでも強者という事に変わりは無いだろう。

 そして、ドラゴンはそのような事を言うライに向け幻獣の国側には対応しうる者がどれ程居るかを尋ねる。

 負担をライにのみ任せるのでは無く、国が支援する事で戦況を進めようと考えているのだろう。


「……そうだな……まあ、支配者クラスの実力がある孫悟空、ガルダ、フェンリル、黄竜は確実だ。そして支配者であるドラゴンもな。……けど、それ以外の者たちは正直厳しいな。幹部クラスじゃなくて、最低で支配者クラスは欲しいからな」


『……成る程……』

「ケッ、俺じゃ役不足かよ……」


「……」


 ドラゴンの質問に返すライ。ドラゴンはそのグラオという者の力に苦々しく納得し、遠回しに自分は使えないと言われたブラックは悪態を吐く。

 無論ライにそのような気は無いのだが、意味合いとしては間違っていないので口を噤む。その事については、恐らくブラックも理解しているだろう。なので受け入れたのだ。


『……さて、ならばグラオとやらの相手はその者の誰かに任せよう。午前中の戦いからそのまま続投するというのならライの方が良いだろうが、俺的にはなるべく前衛へと回したい』


「……そこは任せるさドラゴン。グラオが今一番戦いたがっているのは俺だけど、グラオとは午前中にり合ったし他の者が行くのも良いかもしれないからな」


『分かった。ならばその事を踏まえて前衛と後衛を決めようでは無いか』


 こうしてライとドラゴンの会話は終わり、大まかなチーム分けは決め終わった。

 ライのみならず、先程ライが述べたメンバーを向かわせる事によって負担を軽くさせるのだ。ライは午前中のようにグラオの足止めをメインと考えていたが、そうでは無さそうである。

 それからドラゴンたちは改めて前衛部隊と後衛部隊。そして大樹の護衛部隊へと別れる事になった。



*****



 ──数分後。


 大樹で行われた話し合いをさっさと終わらせ、大樹の外には前衛と後衛の部隊が揃い大樹の護衛隊も揃った。

 相手にはまだ動きは無いが、待っているだけでは大樹を攻められてしまうだろう。

 なので前衛部隊が先程の荒野へと向かい待機するという事になった。

 しかし荒野へと向かうのは前衛部隊のみであり、もしもの時に対処出来るよう後衛部隊は荒野へと続く道中に待機。そして大樹の部隊は依然として待機し続ける。

 敵が瞬間移動などの術を持っている可能性が高いからだ。

 どういう訳か敵は、戦闘の途中でも姿を眩まし別の場所へと移動する事が出来るのだ。

 それを使い大樹に直接攻められてしまえば大打撃を受ける事になるだろう。それを防ぐ為、荒野のみならず他の場所にも配置させているのである。


『……では、先程言ったチームずつで前衛部隊と後衛部隊に別れてくれ。今回俺は全ての部隊を指揮する。その中では主に前衛部隊がメインだが、敵の動きによって部隊を変えよう!』


 幻獣兵士たちが集まり、整列する中ドラゴンは全ての部隊を担当し全ての部隊を指揮すると告げた。

 戦争が激しさを増し、混沌としてしまえば指揮する事は苦労するだろうが、出来る限り全てを護ると言う。


「……今回、前衛部隊の隊長は俺だ! 俺の指示に従い、くれぐれも無茶はせぬよう気を付けてくれ!!」


 そんなドラゴンに続き、前衛部隊のリーダーであると言う者──ブラックが前衛部隊の主力と幻獣兵士たちへ告げた。

 戦闘能力では無く、幹部としての纏める力を買われたのだ。

 無論、幻獣の国主力の中でもかなりの上位に位置している事に変わりはない。


『後衛部隊の隊長は俺だ! 俺たちは悪魔で控えのような立ち位置! 大部分の仕事は前衛部隊の援護と大樹部隊の守護である!』


 ブラックに続いて話す黄竜。黄竜は後衛部隊を担当とし、前衛部隊や大樹守護組みの手助けをするらしい。


『……で、そのどちらにも属さないのが俺だ! 先程は説明したかったが、俺たちは前衛、後衛、大樹を行き来して支援する!』


 そして、孫悟空、沙悟浄、猪八戒の三人と数匹の兵士がそこに居た。

 孫悟空たちは少数の部隊を作り、案の中に無かった中衛部隊を結成して手助けするらしい。


「……っ。……さ、最後に! た、大樹を護衛するのは僕たちでつ!! あ……! 僕たちです!! 一般的な住民や女性、子供は僕たちが護りまつ!! いえ! 護ります!!」


 最後に話した者は、大樹を任されたマルスたち。そのリーダーのマルス。

 マルスは噛み噛みだったが、何とか言い終えて告げた。


『……戦争が中断されてから早数時間! 敵はまだ現れていない! だからこそ、此方から攻め込み叩くのだ!!』


『『『オオオオオォォォォ!!!』』』


 部隊を指揮する隊長たちの話を聞き、纏めに入る為ドラゴンが叫ぶように話した。

 ドラゴンが言うに、どう出て来るか分からない敵が来るよりも早く攻撃を仕掛けるとの事。

 部隊は全員が引き締まっており、何時でも行ける体制となっていた。

 ヴァイス達が何処に居るかは分からないが今この瞬間、再び中断された戦況が動こうとしていた。

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