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二百七十八話 戦争の中断

「……"ファイア"!」


『『『…………!』』』


 次の瞬間、フォンセが炎魔術を放って敵の兵士達を消滅させた。

 そんなフォンセの周りには、消滅した生物兵器達の痕跡のみが残っている。

 この場に居た敵兵士の数は百を超える。その兵士全てを消滅させたのだ。


「……うん……? 敵の兵士が……退いて行く……?」


 ふと周りを見ると、フォンセを囲んでいた敵の兵士達がフォンセから距離を取っているのがうかがえた。

 先程まで躊躇無く攻めて来ていたので怖気付おじけづいたとは思えないが、何故か兵士が退いているのだ。

 しかし、生物兵器の兵士は感情が無いので退く事に対する理由は一つかもしれない。


「……撤退命令が出たか……」


 ヴァイス達から部下兵士達へ、撤退の指示が出たという事。

 感情も無く意思も無い生物兵器兵士。ならばフォンセの思う事がフォンセ自身の中で一番信憑性の高い理由だ。


「……となると……他の箇所でも撤退しているのか……」


 呟くように言い、空を見上げるフォンセ。空中では飛行部隊が爆撃を仕掛けていたが、そんな飛行部隊目掛けて銃や弓矢、大砲に魔法道具を使う敵兵士の姿もうかがえる。

 その事から、まだ全体にそのめいは伝わっていないのか完全撤退まで時間が掛かりそうな様子だった。


「……仕方無い……行くか……!」


 それを見たフォンセは視線を敵の兵士達の方へ移して身体を向き直らせ、風魔術を放って飛行しつつ加速する。

 敵の集まる場所に向かい、少しでも手助けが出来れば上々だろう。

 そして更に速度を上げ、戦場の中心へと向かう。



*****



 ──災いを呼ぶと、神に恐れられた魔物が暴れ出した。


『ワオォ──ン!』


『『……!』』


 その魔物、フェンリル。その姿を見たマンティコアとキマイラは警戒を高め、相手の出方をうかがう──


『……ガルル……!!』

『『……!』』


 ──刹那、その戦いは終わりを告げた。

 フェンリルは何でもないようにただ通り過ぎ、マンティコアとキマイラを仕留めたのだ。

 殺してはいないが、二匹は気を失いその後は目覚めなかった。目覚めるのは何時になるか、フェンリルにも分からない。


『……フム、終わりだな……何とか殺さずに済んだ……』

『『『…………!!』』』


 そして次の瞬間、続くように生物兵器の兵隊を消滅させる。

 傍から見れば、フェンリルはただ真っ直ぐに移動しただけにしか見えないだろう。

 だが、その移動だけでマンティコアとキマイラを抑え生物兵器を消し去ったのだ。


「……凄い……私も頑張らなきゃ……!」

『……フフ、流石ですねフェンリルさん』


 その様子を見、生物兵器の兵士達を相手取りながら驚嘆するリヤンと軽く笑うフェニックス。

 此方こちらの一人と一匹は生物兵器を片付け場を整えていたが、フェンリルの強さを目の当たりにして気合いを入れ直す。


「……クハハ、流石のフェンリルだ。俺んとこも終わったぜ」


『……』


 そんなフェンリルを遠目から眺め、リヤン、フェニックス、フェンリルへと報告するように話すブラック。

 そんなブラックの前には多くの剣傷のあるミノタウロスが居た。

 ミノタウロスは絶命しているか定かでは無いが、剣魔術によって身体中を刻まれた事が窺える。

 頑丈な肉体を持つミノタウロス。そんなミノタウロスへ的確な傷を作っているブラックは流石というべきだろう。


『フフ、期待通りだ魔族の国幹部よ。……む? 敵が下がって行くな……』

「……ハッ、どー致しまして。……つか、敵は撤退するみてェだな……」

「……本当だ……」

『その様ですね……』


 そして、敵の兵士が下がりつつある姿を目にする二人と二匹。

 その様子から相手が退こうとしている事を理解したが、その退き方が少し不自然だった。構えていた兵士達は全てが武器を向けるのをめ、列を乱さぬように進んでいるのだ。

 兵士達はリヤンたちに一瞥もくれず、ただ真っ直ぐに進んでいる。その態度の変わりようには大きな違和感があった。


『……撤退命令でも出たようだな……機械的に動いているだけだが……』


「……うん……そうみたい……。……何か……同情しちゃうな……自分の意思では何も出来ないんだ……」


 兵士達の様子を見、その行動の意味を推測するフェンリルと兵士達に同情を浮かべるリヤン。

 一先ず中断された事を理解し、その場を後にするリヤン、ブラック、フェニックス、フェンリルだった。



*****



"無数の矢アダド・ラー・ニハイィ・サハム"!!」

「遅ェ!!」


 刹那、サイフがゾフルに向けて大量の矢を放ち、ゾフルはその矢を全てかわした。

 矢の魔術はそのまま進み、背後の大地を砕いて大きな粉塵を巻き上げる。

 そんな次の瞬間、ゾフルが移動して粉塵に穴が空く。

 そのまま雷速で加速し、瞬く間に距離を詰めてサイフの前に姿を現す。


「ハッ、全然見切れて無ェじゃねェか? 所詮テメェはその程度何だよ!」


「抜かせ! テメェだって大したダメージを与えられねェだろ!」


 瞬間、雷速の攻撃と無数の矢がぶつかり合った。

 幾らゾフルが雷速で動けど、隙間無く敷き詰められた矢を避けるのは困難極まりないだろう。それに加え、魔力で創られた矢はその範囲も広い。

 結果としてゾフルの拳とサイフの魔術は互いの敵を捉え、両者はその場から吹き飛んだ。

 その衝撃で辺りには土煙が舞い上がり、風によって消え去る。


「ほらよ、まともな一撃二撃を食らわせてやったぜ……ゾフル?」


「ハッ、それまでにテメェは何撃受けた? 明らかに俺の方が優先じゃねェか!」


 その土煙から立ち上がり、悪態を吐きながら言い合うゾフルとサイフ。

 雷速で放たれた雷その物の拳と魔術から創られた矢。それらを受けた両者は出血しており、それまでにも行ったせめぎ合いによって疲労していた。

 互いの態度とは裏腹に、中々ダメージは大きいのだ。特に、攻撃を避けているゾフルよりも殆どが命中しているサイフの方が疲労もダメージも多いだろう。


『……フム、手助けに行くべきか否か……』


 二人の様子を眺めつつ、敵の兵士を行動不能にしている黄竜は呟くように言った。

 互いの関係から、大まかなところはサイフに任せている黄竜だったが、今は戦争。確実に勝率の高い方法の方が良いだろう。

 魔族の性格を理解している黄竜だからこそ、その問題が重要だった。


『……まだ任せてみるとするか……魔族の国、幹部の側近が危うくなれば行くかもしれぬが……野暮な真似はよそう……』


『『『…………!!』』』


 瞬間、天空からは多くのいかづちが降り注ぎ、敵の兵士達を感電させ続け動けなくする。

 かれこれ数百人は仕留めているのだろうが、まだまだ溢れて来る兵士達が相手なので面倒だろう。


「……クク、四神のおさは良く分かってんじゃねェかよ……手出し無用って事を理解してやがる……」


「……ハッ、そうだな。黄竜さんは物分かりが良くてかなり強い。状況判断にもけているし……流石はおさったところだな」


 そんな黄竜を一瞥したゾフルが言ってサイフは返す。

 此方の二人は魔族の本質その物で、余計な手出しをされる事を嫌う。それを察する事の出来た黄竜へ対し、皮肉なども無く普通に二人が感心しているのだ。


「じゃあ、黄竜サマの粋な計らいに感謝してお前を倒すとすっかァ……!」


「……倒す? 殺すじゃなくてか……いや、テメェらの目的は殺す事じゃねェんだっけか……」


 そして改め、相手に向き直るゾフルとサイフ。サイフはゾフルが言った言葉が気に掛かったが、ヴァイス達の目的からして優秀な個体はそう簡単に殺生を行わないと理解して自己解決した。

 

「さあ……」

「……行くか?」


 刹那、両者は高速で飛び出した。ゾフルは雷魔術を身体に纏って己自身が自然の雷と同じような性質になり、サイフは周囲に多くの矢を形成して迎え撃つ体勢となる。

 そして次の瞬間、ゾフルの身体とサイフの矢は激しくぶつかった。


「あ、ゾフル? 一時的に終了だってさ」


 ──グラオに。


「「……は?」」


 突如として両者が放った攻撃の真ん中に姿を現したグラオ。

 グラオは雷となった筈のゾフルの手を握っており、サイフの矢をてのひらで抑えていた。

 そして二人の放った魔術は消え去り、辺りには粉塵が舞い上がったままその中心に居るグラオへ向け、ゾフルは話す。


「テメェ……何で邪魔しやがる……ライの方はどうした?」


「……ライ? ああ、ちゃんと訳を説明して此処に来たよ。まだ戦いかったけど、楽しみは後にとって置くのも悪くないからね」


「……あ? ならまだ終わってねェじゃねェか……ふざけやがって……!!」


 そんなゾフルの言葉に対し、軽く笑って返すグラオ。

 その言葉からするに、グラオとライの決着は付いていないとゾフルには理解する。

 しかし、そんなグラオの軽い態度が気に食わない様子のゾフル。戦いを邪魔され、グラオ自身もまだ決着を付けていないと分かったので苛付いているのだろう。


「ハハ、そう怒らないでよ……逆に考えればグラオ、君がライと戦える可能性もあるって事だよ……僕が決着を付けなかったけど、君やシュヴァルツにとっては悪くない話だと思うさ」


「……ッ。まあ、確かにそうかも知れねェな……だが、サイフ(コイツ)との戦いはまだ終わってねェ!」


「横から口を出すようだが……俺もゾフルの意見に同意だ……勝負に引き分けは無ェからな!!」


 そんなゾフルをなだめるように話すグラオと、それに返すゾフル。そしてゾフルに同意するサイフ。

 サイフとゾフルは今現在敵対しているのだが、魔族としての本質から意見の合う事が多いのだろう。


「……へえ……けど、それは出来ない相談だね……午前の戦いで集めた情報を整理する必要があるし……他にもやる事がある……とは言っても数時間後、直ぐに再開するけど。何はともあれ、君たちの戦いは一時中断さ……」


「「……」」


 淡々と言葉をつづるグラオに対し、無言で返すサイフとゾフル。

 グラオからすれば何かしらのやる事があるらしい。その事が何か理解出来ないが、何かはあるらしい。

 しかし、それは数時間で終わるような事らしく、数時間後にはおのずと分かるようになるだろう。


「……じゃあ、そういう事だから……幹部の側近に四神……君達は無視して置くよ……追い掛けてきても良いけど、簡単には見つからない場所が拠点さ……」


「……ケッ、また数時間後だ……!」


 それだけ言い、グラオとゾフルが消えるようにその場から立ち去った。

 グラオ曰く、ヴァイス達が拠点としている場所は簡単には見つからないとの事。ゾフルは名残がありそうだったが、最後に一言だけ告げた。


「……オイ、待ちやがれ!」

『……フム、飲み込めないが……追っても無駄と言ったのか……』


 そんな二人に対し、声を荒げるサイフと状況を理解し難い様子の黄竜。

 もう既に二人の気配は無く、本当に退くようだ。その証拠に兵士達も数を減らしていた。そして、此方の戦いも中断という形で終了した。



*****



「……」


『『『……』』』


 追い詰められたハリーフ。生物兵器は足止めも出来ず、ハリーフに為す術は無かった。

 しかし、ワイバーン、ガルダ、朱雀が相手となっては此処まで耐えられただけで十分過ぎるのかもしれない。


「……仕方無い……星の表面ごと消し飛ばそうか……"破壊の槍(タドミール・ハルバ)"……!!」


 次の瞬間、ハリーフは巨大な槍を創造し、それをワイバーンたちに向けた。

 その槍は上空に現れ、凄まじい魔力を犇々(ひしひし)と感じる程だ。


『星の表面を消し飛ばすか……成る程、厄介だな』


『……成る程な。幹部の側近クラスでも星の表面を消し飛ばせるのか。魔族の国は中々の傭兵ようへいを揃えているみたいだ』


『末恐ろしいモノです』


 そんな槍を見、警戒を高めるワイバーンたち。

 星の表面を消滅させる程の槍。それはかなりの驚異だろう。それが持つ破壊力と衝撃は頑丈な鱗を持つワイバーンでも致命傷を受けるかもしれない。


「取り敢えず……私も簡単にやられる訳に行かないのでね……部下兵士達も居ない今、出来る限りの抵抗をしようじゃないか……」


 刹那、ハリーフはその槍を勢い良く上空から叩き付けた。その槍は空気を焦がす程の熱を持ち、真っ直ぐに落下して行く。それが起こす衝撃は曇天の空模様を青空に変え、大地を浮き上がらせる程の圧を生み出す。

 浮かんだ大地は砕け散り、槍に吸い込まれるように消滅した。


『──カッ!!』

『──ハッ!!』


 そして、その槍に向けて炎を放つワイバーンと朱雀。

 その炎によって槍の勢いは少し収まり、それを見たガルダが力を込めて構える。

 勢いが少し弱くなった槍はそれでも周りを破壊しつつ、再び加速し始める。


『……これだけ弱めれば十分だ……!!』


 瞬間、ガルダは翼を羽ばたかせて加速し、その槍に向かって直進する。そのまま速度を上げつつ更に加速し、流星の如き速度で巨大な槍に向かった。


『……!』


 そして槍の横を通り過ぎ、次の瞬間にその槍が砕け光の塵となって辺りに散乱した。

 ガルダは槍を砕くと同時に振り向き、その翼を広げてハリーフへと向き直る。


「流石ですね"三本の槍(サラーサ・ハルバ)"!」


 槍が砕けた瞬間、ワイバーン、ガルダ、朱雀に向けて新たな槍を三つ放つハリーフ。

 その槍は高速で飛行し、その形が辺りに紛れて消え去るような錯覚を起こす。


『……見えているぞ!』


 次の瞬間、その槍を全て見つけたガルダが砕き、魔力の欠片がキラキラと輝きながら降り注いでいた。


「……やれやれ……ついに策が尽きたな……考えれば見つけられるだろうけど、そんな時間は無いようだ……」


 その槍を見、再び策を講じるが時間の無いハリーフ。

 この三匹が相手では策を練る時間も無い程だ。策を練っている間に終わるだろう。


「……問題無いさハリーフ。今回の戦闘は一時中断……また後で終わらせるとしよう」


「……!」

『『『……!』』』


 そのような事を考えるハリーフに向け、姿を見せるヴァイス。

 ヴァイスを見たワイバーンたちとハリーフはピクリと反応を示し、それを横にヴァイスは言葉を続ける。


「……アナタ達にも言っておこう……午前の部は終わり……軽い昼休憩を取って午後に再開だ……」

『……逃がすと思うのか?』

「思わないね。だけど、逃げる事は出来る」


 淡々とつづり、その場から立ち去ろうと試みるヴァイス。

 しかし、それを見たワイバーンが逃がすまいとヴァイスとハリーフに言う。

 当然だろう。折角追い詰めた敵の幹部。簡単に逃がしたのでは死んでいった部下兵士たちに顔が立たないからである。

 そんなワイバーンに向け、ヴァイスは即答で返した。


「……じゃあ、また」

「……次は仕留めるよ……」


『……!』


 そして、何らかの移動術でその場を去ったヴァイスとハリーフ。

 ワイバーンは首を伸ばして反応するが、もうそこにヴァイス達は居なかった。


『……逃がしたか……』

『……敵の兵士も減っている……本当に退くようだな』

『……ええ、そのようですね。続きは午後……相手は何を仕掛けてくるのでしょう……』


 消えた二人を見届け、呟くように言うワイバーンと辺りを見渡して話すガルダ。

 朱雀は午後の戦いで敵が何かを仕掛けてくるのではと警戒していた。

 何はともあれ、これにて敵の幹部は全て撤退した。生物兵器の兵隊や巨人も居なくなっており、本格的に終わりという事だろう。暫し辺りを見渡して居たワイバーン、ガルダ、朱雀の三匹を中心とした飛行部隊だったが、これ以上待っても意味が無いと悟り、その場を離れる。

 幻獣の国・支配者の街"トゥース・ロア"の近くにある荒野の戦場にて、一時的に戦いは中断された。


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