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二百七十五話 三つの戦い

 ──依然として収まる気配の無い戦争。

 しかし現在経過した時刻から、まだまだ終わる事は無いだろう。

 そんな戦場にあるこの場所にはワイバーン、ガルダ、朱雀の飛行部隊と敵の幹部的立ち位置に居るハリーフが戦闘を行っていた。


「"無数の槍アダド・ラー・ニハイィ・ハルバ"!!」


 その刹那、ワイバーンたちに目掛け大量の槍魔術が放たれる。

 その槍は空気を切り裂き、数百本は降り注いでいた。


『……不意討ちで無ければその程度の槍、一つも食らわぬ!!』


 それを見たワイバーンは空を飛びつつ、スイスイと泳ぐようにそれをかわす。

 槍は全て地面に落下し、大きな土煙を辺りに巻き上げた。

 その粉塵を切り裂き、ワイバーンはハリーフの元へと向かう。


『──カッ!』

「……ッ!」


 刹那、ワイバーンは大口を開いて火炎を放出した。

 その炎は空気を焦がして突き進み、大地にぶつかって火柱を上げる。


「"巨大な槍(キビーラ・ハルバ)"!」


 そしてその火柱は巨大な槍魔術によって貫かれ、槍の先端はワイバーンの顔へと一気に近付く。


『ハッ!』


 そしてその槍はガルダによって砕かれ、魔力の欠片となって粉砕された。

 続け様に羽ばたき、加速するガルダ。ガルダは音速を超えてハリーフの元へと一気に進む。


「……速いですね……!」


 それを見たハリーフは槍魔術を使い、周りに何十本か創り出して壁を形成しガルダの前進を阻止しようと試みる。

 その壁にガルダはぶつかり、槍の壁が粉砕した。


「……フム、やはり駄目でしたか……。……ッ!」


 それを見たハリーフは肩を竦めて落とし、直撃を避けてダメージを受ける。

 それでも吹き飛びそのダメージは大きいが、死なないだけマシだろう。


『やれやれ……幹部二人に四神が相手……貴方と部下兵士だけでは勝てる訳がありませんよ』


 そんなハリーフを見た朱雀は呆れるように言い、ハリーフの前に降り立つ。

 部下である生物兵器の兵士達は連れているハリーフだが、明らかに戦力不足。

 敵ではあるが、幹部二匹に四神一匹というのはかなり不利だろう。

 むしろ、数分耐えているだけで褒められる程の所業である。


「……ふう、そうですか。確かに何故私は生きているのか……奇跡だね……」


 吹き飛んだハリーフはえぐれた土塊つちくれの山から起き上がり、土汚れを払って立ち上がった。

 その瞬間に槍魔術を形成し、辺りに警戒を張り巡らせるハリーフ。朱雀は何もせずにそれを眺める。

 ガルダの攻撃を受けたハリーフは、それでも生きている事に対して少し驚いていた。様々な神々を討ち滅ぼした事のあるガルダが相手で生きているのは本人の言うように奇跡に等しき事なのかもしれない。


『──ああ、そうだな』

「……まあ、運はそう続かないか……」


 その上から声が掛かり、ため息を吐くハリーフ。

 声と同時にハリーフへ重い一撃が伝わり、ハリーフの立っていた大地がひしゃげて陥落する。

 そして更に大きな粉塵が舞い上がり、辺り一帯を覆い尽くした。


「……ッ! "追尾の槍(ムタラダ・ハルバ)"!」


『……!』


 その衝撃を受けて深く沈んだハリーフは何とか詠唱し、魔術の槍を一気に仕掛ける。

 その槍を避けるワイバーンだが、槍は止まらず不規則に方向転換してワイバーンを狙う。


『……成る程』


 それを見たワイバーンは避けるのを止め、火炎を放出して槍魔術を消し去った。

 素の力ではワイバーンの方がハリーフの魔術よりも強大だ。なので容易く防げたのである。


「……ふう、やれ! 生物兵器!!」


『『『…………』』』

『『『…………』』』


 そんなワイバーンを見たハリーフは、指示を出して己の扱う生物兵器達をけしかけた。

 生物兵器の兵士と巨人兵士は無言で返し武器を持ってワイバーン、ガルダ、朱雀へと向かう。


『お前達は静まれ!』

『右に同じ!』


『『『…………!?』』』

『『『…………!?』』』


 そして、次の瞬間にはガルダと朱雀によって消滅させられた。

 不死身の兵士は消え去り、その場に二幹部と四神の一匹に囲まれたハリーフのみが残る。


「……万事休すですかね……」

『……ああ、そうかもな?』


 呟くように言うハリーフと、それに返すワイバーン。

 この状況の中、冷や汗を流すハリーフは脳内で試行錯誤を繰り返し、最善の策を練っていた。



*****



「"高速の矢(サリーァ・サハム)"!」

『"落雷レイディエン"!』


「"霆の炎ラアドアーセファ・ショーラ"!!」


 次の瞬間、凄まじい速度の矢魔術と天空から降り注ぐ落雷。そして炎といかづちが混ざったかのような魔術が激突した。

 それと同時にその場に居た二人と一匹は姿を眩ませ、荒野に大きな振動を伝えながらぶつかり合う。


「ハッ! 遅ェ遅ェ!! テメェらは雷魔術を使うが、俺は雷その物だぜ!!」


 一人と一匹──サイフと黄竜を相手にする者、ゾフル。

 ゾフルは雷の性質を己に纏い、雷その物となって雷速で一人と一匹を相手取る。


「ハッ! だからどうした! テメェが使ってんのは身体の性質にエレメントを当て嵌めるだけの魔術じゃねェか!!」


『ほう、そんな魔術があるのか……興味深いな……』


 雷速で動くゾフルに対し、辿々しく反応を示すサイフとしかとその目で追い確かめる黄竜。

 ゾフルの速度に追い付かず避けるのが精一杯のサイフだが、それが普通であろう。

 同じ側近のラビアもゾフルをハッキリと捉える事は出来なかった。ライたちの速度が異次元なだけであり、雷速というものは幹部の側近クラスですら目で追う事が出来ないモノなのだから。


「だったらこの魔術を纏っている俺に攻撃を当ててみな! テメェは雷に触れる事が出来る訳無ェだろうがな!!」


 一瞬姿を現し、次の瞬間に消え去るゾフル。

 目にも止まらぬ速度で動いている割りには大地が砕ける事は無い。

 当然だろう。今現在ゾフルは、雷その物。電気が地面を流れようと砕ける事は無いのだから。

 しかし、ゾフルの身体に触れたら最後、たちまち感電してしまう事だろう。


『俺は雷くらいならば触れても問題無いが……お前はどうだ?』


「そうっスね……ま、死ぬ程(やわ)じゃありませんが……結構ダメージを受けるでしょう」


 ゾフルの動きを見切って避ける黄竜と、何とかかわすサイフは会話をしていた。

 常人ならば自然の雷で死ぬ確率は高いが、魔族にして幹部の側近という立ち位置のサイフは何度か受ければ死ぬかもしれないが基本的には大丈夫らしい。


『そうか、ならある程度は気を付けろよ魔族の国の幹部、その側近よ……』


「分かってますよ……てか、俺が言うのもなんスけど俺の肩書き長いっスね」


 それを聞いた黄竜は返し、フッと笑って話すサイフ。

 雷速で動き続けるゾフルは依然として狙いを定めており、黄竜とサイフとの距離を詰めた。


「ハッ! どの道テメェらは仕舞ェだよ!! 大人しく感電死か焼死、その他諸々の死でこの世とおサラバしな!」


 それと同時に姿を消し去り、雷光の軌跡を残して黄竜、サイフへと近付く。

 それは上下左右と移動し、悪戯に翻弄しつつ一人と一匹へ向かう。荒野なので隠れる事は出来ないが、その速度というだけで狙いが定まらないだろう。


『……速いな……だが捉えよう』

「……んなっ!?」


 そして黄竜は、そんな速度で移動するゾフルの動きを捉えて炎を放った。

 それを受けたゾフルは怯み、停止したゾフルへと続けるように黄竜が仕掛ける。


『フッ、俺は四神の主神。雷程度、捉えられなくてどうする』


「成る程な!」


 黄竜は続け様に超高速で水を放ちそれを避けるゾフル。

 避けた先には魔力で創られた矢の魔術が迫っていた。


「……チッ、遅ェんだよ小賢しい!!」


 その矢を見たゾフルはバチッという破裂音を響かせて一瞬でその場を離れ、少し距離を取って黄竜、ゾフルへと視線を向ける。

 黄竜がゾフルをエレメントの攻撃で牽制し、避けた先に殺傷力の高い矢の魔術が近付く。それを当てるまでが作戦だったようだが、惜しくもゾフルの速度に追い付けず外してしまったようだ。


「ケッ、下らねェ真似しやがってよ……!」


 バチバチと破裂音を響かせ、火花のように電気を散らすゾフル。

 その眉間にはシワが寄っており、その目で一人と一匹を睨み付ける。

 攻撃し切れ無かった事がイラついたのだろう。


「ハッ、テメェならその程度の攻撃当たる訳無いと思っていたが……まさかギリギリとはな? 無駄な動きをせずに真っ直ぐ向かったらどうだ?」


「ケッ、俺に一撃も加えられねェ奴が何言ってやがる! そこに居る四神の黄色い竜が居なきゃ何も出来ねェだろ!」


 タンカを言い合い、互いに互いを挑発するサイフとゾフル。

 全体的な能力ならば確かにサイフが劣るだろうが、これは戦争。

 黄竜を含めた味方が居る為、力で劣っていたとしても優先的に戦えるのだ。


「取り敢えず……テメェはサシじゃ何も出来ねェ事を証明してやるよ……!」


「上等だ……サシでも勝てるって事を分からせてやるぜ……!」


『……ただの喧嘩だな、これは……』


 言い終えると同時に生物兵器の軍勢を呼び出すゾフル。

 一vs一ならば勝てるという言葉から、黄竜の方は生物兵器達に任せるつもりなのだろう。

 それを見た黄竜はため息を吐いて呆れ、ゾフルの呼び出した生物兵器達に向き直る。


「死にな……!」

「……テメェがな?」

『……ふぅ、手を出さない方が良いか……』


 ゾフルvsサイフ。黄竜は手出しする事を諦め、向き直った生物兵器達を前にいかづちを降らせる。

 此方の戦いも、一応続くのだった。



*****



 ──荒野の戦場・護りの砦。


「さあ、行っちゃって!」

『『『…………』』』


 マギアが指示を出すと同時に、ガシャガシャという音を立てつつスケルトン達が一気にレイ、ニュンフェ、ユニコーン、麒麟の元へと進む。

 生物兵器の軍隊よりは力が劣るだろうが、生物兵器と違って数を減らせどマギアの魔力が尽きるまで生み出せるという事はかなり厄介だろう。


「やあ!」

「ハッ!」

『失礼!』


 その瞬間、レイが勇者の剣を薙いで斬撃を飛ばしてスケルトンを切り捨てる。そしてニュンフェが弓矢で射抜き、続くようにユニコーンが持ち前の頑丈な角で貫いた。


「フフ、レイちゃんは良いケド……エルフとユニコーンの攻撃は効いていないよ?」


『「…………!?」』

「ニュンフェさん! ユニコーンさん!」


 刹那、ニュンフェとユニコーンの方へ近付いていたスケルトンがその剣や斧をニュンフェたちにけしかける。

 それを受けたニュンフェは直ぐに腰からレイピアを取り出して防ぎ、ユニコーンは身体を動かして払う。

 レイに斬られたスケルトンはバラバラになったのだが、魔力といえど元が骸骨なので範囲が狭かったり細い攻撃は効かないのだろう。


「……これは……ちまちまと片付けるしかありませんね……!」


『……その様です……!』


 それを受けたニュンフェはレイピアを振るって数体のスケルトンを砕き、ユニコーンは己の身体を持って体当たりをして砕く。

 ニュンフェには魔法もあるが、此処には負傷した幻獣兵士たちも居るのであまり範囲の広過ぎる技は使えない。

 なかば強制的に接戦をいられるのは時間も掛かって面倒である。


「ふふ、私は周りを気にしなくても良いから楽だね……"ファイア"!」


 そしてレイ、ニュンフェ、ユニコーンがスケルトンを破壊してゆく中、マギアは炎を放ってスケルトンごと焼き払った。

 その炎は砦の中に広がり、凄まじき熱量が生まれて砦を燃やす。


「攻撃では無い水を使えば……!」


 それに対してニュンフェが水魔法を放ち、マギアの創り出した炎を消火する。

 それによって水蒸気が生まれ、視界が白く染まった。


「フフ、お馬鹿さんだね……密閉空間内に生まれた水蒸気。その水蒸気に私の炎が引火したらどうなるかな?」


「「…………!!」」

『『…………!!』』


 炎を消されたマギア。しかしマギアはそれによって生じた水蒸気を見て不敵な笑みを浮かべ、レイ、ニュンフェ、ユニコーン、麒麟に向けて尋ねるように話す。

 それを聞いた二人と二匹はハッとし、その水蒸気を消し去ろうと──


「"水蒸気爆発スチーム・エクスプロージョン"!!」


 ──刹那、発生した水蒸気にマギアが炎を放ち、それと同時に大爆発が起こった。


 その爆発は轟音を響かせ、頑丈な砦内を大きく揺らす。

 その衝撃は留まるところを知らず、遂には砦の外にまで響いた。そして戦場の荒野に衝撃波が渡り、砦の周りにある大地を浮かび上がらせる。そしてそのまま辺りは消し飛んだ。



 ──『一部を除いて』。



 爆心地となった砦。あれ程の爆発ならば、形が残っていようとも砦も消し飛んだ筈だろう。

 事実、マギアの居る場所を中心とし、砦のほとんどは消し飛んでいた。

 マギアはバリアのようなモノを張ったのか無事であったが、殆どは吹き飛んでいたのだ。

 そう、"ほとんど"は。


「……っ。まさか……」


 吹き飛んでいない砦の一部。そこを見たマギアは驚愕の表情を浮かべてそこを見つめる。

 前述したように、あの爆発は形が残る事もあるが砦を吹き飛ばす程の威力だった。

 にも拘わらず、特定の場所は爆発によるダメージすら無い程だったのだ──


「……あれ……生きてる……」

「……そうですね……運が良かったのでしょうか……」

『……あれ?』

『……何とも……無い?』



 ──勇者の剣を持ったレイを中心として。



 レイ本人は気付いていないようだが、レイの剣から後ろは全くの無傷だった。それはさながら、剣が爆発からレイたちと幻獣たちを護ったかのように。

 剣の範囲だけでは無く、レイの後ろが全て無傷だった事が更に問題だ。何故か分からないが、スケルトンは全てが消し飛んだにもかかわらずレイたちのみが無事だったのだから。


「……その剣……良い剣だね……使用者を護るんだ……」


「……え?」


 そんなレイと剣を見、フッと不気味な笑顔を浮かべて話すマギア。マギアの笑顔は可憐で美しい。しかし、そんな笑顔にもかかわらずそこはかとない不気味さがあった。

 笑みを浮かべるマギアに対し、怪訝そうな表情をして見るレイ。


「……フフ、此方こっちの話だよ……貴女はまだ気付いていないみたい……」


 そんなレイに返すよう、マギアは再び薄ら笑いを浮かべて話す。

 マギアが笑顔の裏に何を思っているのか定かでは無い様子のレイ。しかし、ただ事では無いという事は遠目からでも分かった。

 水蒸気爆発で吹き飛ばなかったレイ、ニュンフェ、ユニコーン、麒麟。

 そして他の場所で戦い続ける仲間たち。先程よりも日が高くなり、戦闘開始からは数時間が経過しようとしていた。


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