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二百七十四話 揃った役者

「……大丈夫ですか? 今治療しますので回復したら少し休んでいてください……!」


『あ、ああ……幹部様……有り難う御座います……! しかし、我々に休んでいる暇など……!』


『……良いから休みなさい……少なくともこの場所はレイさんとユニコーンさんが敵の兵士達を周りに近付けさせていませんので休める筈です』


 この場所には、負傷した幻獣兵士たちが数十匹居た。

 その兵士一匹一匹に回復魔法で治療を施し、その傷を癒すエルフのニュンフェ。

 その近くには四神の麒麟もおり、五メートルの背丈から辺りを見渡し持ち前の警戒心で敵の気配を探っている。


「やあ!」

『ハッ!』


 そしてその近くでレイは勇者の剣を振るっており、ユニコーンは頑丈な角で敵を貫き己の速度で吹き飛ばしていた。

 勇者の剣で斬られた敵の兵士は即座に再生し、ユニコーンに貫かれようと吹き飛ばされようと問題無く復活する。

 しかしそれは承知の上。再生する数秒間のうちに何匹かの幻獣兵士を治療出来れば御の字だ。


「レイちゃん! ユニコーンさん! 一旦戻って来て下さい! バリケードを造ります!」


『「……!」』


 そして敵の兵士を斬り捨てている中、ニュンフェがレイとユニコーンに向けて退くように指示を出した。

 それを聞いた一人と一匹は一番近くの兵士を切り捨てた後に戻り、ニュンフェと麒麟の元へ近付く。


「……バリケードって……どうするの? ニュンフェさん」


 戻ったレイは一応周りに気を配り、敵の兵士達を経過しつつニュンフェに尋ねた。

 ニュンフェはバリケードを造ると言ったが、その事がよく分からなかったのだ。

 此処は何もない荒野。そこにバリケードなど建てられる筈が無いからである。


「大丈夫です、レイちゃん。レイちゃんとユニコーンさんのお陰で近くに居た兵士の皆様を全員私の近くに集める事が出来ました! そして魔力を練る時間も十分です! 今ならそれを行いつつ使える筈でしょう!」


「……? ……あ、そっか!」


 ニュンフェの言葉を聞き、納得したように返すレイ。

 ニュンフェは幻獣兵士たちを全員此処に集め、回復魔法以外での魔力を練っていたらしい。そしてバリケードを造るという事は、そういう事なのだ。


「荒野の戦場、その拠点。今此処に建てましょう! "守護の砦ガルディヤン・フォール"!!」


 次の瞬間、レイ、ニュンフェと麒麟にユニコーン。そして負傷した幻獣兵士たち数十匹の周りに土魔法から造られた大きな砦が現れた。

 その土魔法は土を石のような材質に変えており、鉄のような物質も合わさっている。

 その建物はかなり目立つが、敵の幹部的立ち位置の者以外に破られる事は無いだろう。戦場に置いて、拠点が何処かというのは重要な事の一つだ。

 そこを拠点として休息を取り、次の三段を練る事が出来る。そして敵が来ると言う心配も戦場の真ん中よりは少なく、比較的に安全な空間を作れるからだ。


『『『…………!』』』


 そして敵の兵士はその砦に向けて銃や大砲、矢に魔法道具の魔法を放ち、荒野にある石を拾って石造りの壁に投石する。それらは砦の壁にぶつかり、鈍い音を響かせて粉塵を巻き上げながら爆発した。

 それによって砦が隠れて見えなくなり、少し経って煙が晴れる。

 そこでは銃弾も大砲も矢も石も魔法でさえも壁を砕く事は出来ず、無傷な状態でその場に佇んでいた。


「……ふう。中々良い感じの壁が造られたみたいです……それでも油断は出来ませんが、負傷兵士たちはこの砦で休ませる事にしましょう。相手の主力が来ない限り、破壊される事は無いでしょうし」


「うん、それが良いかもしれないねニュンフェさん。まだ始まってから数十分くらいだけど……それでも怪我している兵士も多い……最悪、死んじゃっている兵士も……私がもう少し皆を護れたなら……」


 その砦にある小さな穴から外の様子を眺め、呟くように話すニュンフェ。

 先程の銃弾、大砲、矢、石を耐えた事からちょっとやそっとでは崩れない事が証明された。

 なので戦場の真ん中にある休憩所として、ある程度は活用していく事が出来るだろう。

 それに対して頷きながら返すレイは、そこから戦場の様子を眺めて唇を噛んでいた。

 自分には不死身の兵士が倒せない。それに加え、助けようにも助けられない自分の実力不足がもどかしいのだ。


「……ふふ、貴女は十分に自分の出来る事をしていますよ、レイちゃん。貴女が居なければこの砦を建てる事も出来なかった事でしょう。そう悲観的にならず、自分の出来る事をするのです」


「……ニュンフェさん……」


 そんなレイの様子を見、軽く笑って話すニュンフェ。

 ニュンフェはレイを励ますのでは無く、本当にレイのお陰で砦を建てる事が出来、幻獣兵士たちを避難させる事が出来たと告げる。

 その表情に嘘偽りは無い。ニュンフェは真っ直ぐ、その瞳でレイの事を見ていた。


「へえ~。エルフ族の魔法は優れているって聞いたけど……確かに中々頑丈な建物だね♪ うん、気に入ったよ♪」


「「『『…………!!』』」」


 その場に降り掛かる、甲高く軽薄な一つの声。

 その声はこの砦に興味が引かれているような声であり、声の方を見ると一人の女性が壁を触って眺めていた。


「やっほー♪ また会えたね♪ 貴女の持つ剣……気になるから来ちゃった」


「……ッ! 貴女は……!!」

「『『…………!』』」

『『『…………!』』』


 その刹那、レイがその女性に向けて話、ニュンフェ、麒麟、ユニコーンと治療を施され多少の傷が癒えた幻獣兵士たちが負傷兵を庇うように構える。


「アハハ……警戒しているね。まあ、当然かな? その警戒心があったお陰で私の声を聞いた瞬間に構える事が出来た……そうじゃなかったら最悪死んでいたかも」


 警戒を高めるレイたちを前にし、淡々と言葉をつづる女性──マギア・セーレ。

 マギアはフッと笑いながら二人と二匹、そして数匹の幻獣兵士たちに視線を向ける。

 曰く、油断していたのならば今目の前に居る者たちは死んでいた、との事。


「……けどまあ、こんな所にこんな建物を立てるのは迷惑なんだよねぇ……? ほら、私たちって戦争で勝ちたいじゃん? だから折角倒せそうな兵士達を復活させるのは迷惑極まりないの」


「……そう……! けど今の状況、確実に不利なのは貴女の方だよ!」


 そして言葉を続けるマギアはこの砦が邪魔だと告げた。

 それに返すレイは勇者の剣を構え、マギアに剣先を向けて軽く脚を開き何時でも行ける体勢となる。


『……敵の幹部ですか……! ならば貴女を倒します……!』

「……ええ、悪く思わないで下さい……!」


『……レイさんたちが戦うのなら、私は負傷者を庇いましょう……!』


 レイに続き、ユニコーンとニュンフェも構え麒麟は負傷している幻獣兵士たちの前に立つ。

 二人と二匹はマギアの前に立ち、敵意を剥き出しにしていた。


「はあ……。何でこうもヤル気満々な人たちが多いのかな……あ、二匹は人じゃないか。まあそれはさて置いて……何も私が兵士を連れていない訳じゃないよ……」


「「『『…………!!』』」」


 そして、マギアが合図を出すと同時に魔力がマギアの周りに集中し、集まった魔力が徐々に人の形を形成する。

 しかしその魔力の人形に肉は無く、眼球も髪の毛も皮も無かった。


「……スケルトン……!」

「ふふ、さあ始めましょう? 貴女達がこの砦を死守出来るか……開演だよ……!」


 仰々しく両手を広げ、不敵な笑みを浮かべるマギア。

 スケルトンはマギアの前に現れ後ろから現れ、左右に現れガシャガシャと骨の軋む音を鳴らしてレイたちに歩み寄る。

 そして敵の幹部は、幻獣の国主力の前に全員が現れた。



*****



「……ッ、僅か数分で何と言う有り様だ……少し遅れてしまったかもしれない……!」


 グラオのけしかけた兵士達を消滅させ、戦場へと戻ったフォンセはその光景を見て息を飲んだ。

 あちこちに幻獣たちの死骸と消滅した敵の形跡があり、立ち込める黒煙と燃え残りの炎。空はエマが変えたであろう黒い雲が広がっている。

 銃や大砲の火薬。そして剣の鉄臭。肉が焼けたような悪臭と血の含む鉄分の匂いが鼻腔をつんざき、幻獣程鼻の利かないフォンセですら吐き気を催す。


『どう致しましょうか……フォンセさん……!』

『我々も早く、遅れを取った分戦闘に参加しなくては……!』

『ええ! 敵はかなり進行しているようです……!』


 その光景を前に、フォンセの連れる幻獣兵士たちがフォンセの指示を待つ。

 ライ、フォンセチームの指揮はライが行う事なのだが、生憎ライは敵の中で最も力を持っているであろうグラオと戦っているので此処に近付く事すら出来ない。しないだろう。

 グラオを此処に連れて来た場合、今よりも更に悲惨な出来事が起こると確信しているからだ。


 そんなフォンセと幻獣兵士たちが居る場所は北東の位置。辺りを見るに敵の気配は無く、北側からは大分離れているようだ。

 フォンセたちの居る北東だが、北東と言っても敵をおびき寄せようとして居た北側からは数キロ程離れており、遠方では巨大化しているフェンリルの姿が目に入る。

 どうやら北側の作戦は成功したらしく、リヤン、ブラック、フェンリル、フェニックスは敵の兵士に奇襲を仕掛ける事が上手く行ったようだ。

 そしてふと視線を反らせば、如意金箍棒にょいきんこぼうと半月刃の降妖宝杖こんようほうじょう。そして九本歯ノ馬鍬まくわを持った者たちが白髪の男性を始めとし、生物兵器の軍勢や異形な見た目である生物達と応戦していた。

 遠目なのでよく分からないが、如意金箍棒にょいきんこぼうの長さと異形である生物の大きさからある程度は推測出来る。

 更に目を凝らせば巨大な砦が建っており、それらよりも更に奥では不自然な軌道の落雷が降り注いでいる。

 そして別方向、荒野に広がる東西南北の中心付近では空間が砕けていた。

 辺りは粉塵で視界が見えにくく、何が起こっているのか常人よりも優れた視力を持っているフォンセでも分からないが、あちこちで激しい戦いが起こっている事は常人でも理解出来るだろう。


「……良し、辺りでは相当激しい戦いが起こっている! 私たちもその戦いに参加するぞ! 少しでも敵の数を減らし、戦況を有利にするんだ! 数や質でまさっていようと、ほんの少しの動きでそれを覆されるかもしれないのが戦争だ! 東西南北の争いに分担して挑むんだ!」


『『『オオオォォォォ!!!』』』


 その状況を確認したフォンセは、幻獣たちの言葉に対して演説するように返した。

 指揮官の態度から兵士たちはその動きを変える。今は指揮官であるフォンセがハッキリと返す事で、士気しきを上げる事もあるのだ。

 事実、フォンセの言葉を聞いた幻獣兵士たちは気合いを入れて返答している。


『『『…………!!』』』

『『『…………!!』』』


 そんなフォンセと幻獣兵士たちの前に、武器を構えた生物兵器の兵士。そして巨躯の肉体を持つ巨人兵士が近付いていた。

 フォンセたちの気配を察知し、誰も居なかった北東の位置へとやって来たのだろう。


「私に続け! 兵士たちよ!」

『『『オオオォォォォ!!!』』』


 それを確認したフォンセは幻獣兵士たちを一瞥して言い、返す幻獣兵士たちは士気を上げて敵の兵士達を迎え撃つ体勢へと入った。

 敵兵は止まる事無く進み、フォンセと幻獣兵士たちとの距離を一気に詰める。

 数キロ離れているフォンセたちとの場所を僅か数分で詰め寄る敵の兵士は、やはり肉体的な力もあると推測出来た。

 ちょっとした街ならば一人を放つだけで壊滅的な被害を与える事が出来る不死身の敵の兵士。

 当然かもしれない。鬼に匹敵する力と不死身の能力。それらが合わさる事で、相手の兵士は一人一人でも大きな驚異となるのだから。


「"ファイア"!」


 その刹那、フォンセが炎魔術を放って近付く敵兵士を焼き払った。

 焼き払われた兵士は消滅し、手に持っていた剣や銃が溶け弓矢は炭となる。

 これ程の火力ならば周りにも何かしらの影響が及びそうであるが、どういう訳か周辺に居る味方の兵士たちが焼かれる事は無かった。

 しかしそれは先程からずっとだ。数十メートルの距離でそれ程の熱を生み出しても幻獣兵士たちがフォンセの熱によってダメージを受けた事は無い。

 それは魔術だからなのか定かでは無いが、構わずに敵の兵士を消滅させる事が出来るので問題ないだろう。


「道は私が切り開く! お前たちは他の部隊を援護しろ! この程度の相手、私一人で十分だ!」


『『『はっ!』』』


 だが、軌道が逸れてしまい魔術が幻獣兵士たちに行ってしまう可能性もある。

 なのでフォンセは幻獣兵士たちを先に向かわせ、今近くに来ている敵兵は全て自分が引き受けるらしい。

 幻獣兵士はフォンセの言葉に頷いて返し、即座にその場から移動して離れる。

 それを見届けたフォンセはスッと目を細め、普段の表情を一変させ"魔族"としての表情を覗かせた。


「……さあ……哀れな傀儡くぐつよ……今楽にしてやろう……!」


『『『…………!!』』』


 その刹那、一瞬にして数百人の兵士達を焼却する。それによって発火した兵士は消滅し、辺りには何も残らない。

 対象が無くなったにもかかわらず依然燃え続ける炎。それを見るフォンセの横顔には柑子色こうじいろの光が当たり、その肌を照らしていた。


「……さて、後何人消し去れば良いのか……」


 呟くように言い、燃え盛る炎を消火して奥からやって来る兵士達を一瞥するフォンセ。

 遂に荒野の戦場へ、全ての役者が揃ったのだった。

 これからこの戦争は、更に激しさを増す事だろう。

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