二百七十二話 東西の戦い
『『『…………!!』』』
『『『…………!!』』』
空中を飛び交う飛行部隊。そんな飛行部隊に向け、銃や矢を放つ敵の兵士達。
しかし空を自由に飛び回れる者たちを簡単に仕留められる筈も無く、銃弾と矢は空を切って進んでいた。
『──ハッ!』
そんな下方に居る兵士達に向け、飛行部隊の指揮官であるワイバーンが炎を吐いて兵士達を上空から焼き払う。
兵士達は一瞬にして炭となり、更に焼けて消滅する。
細胞を残さずに消滅させるのは中々難しい。なので何人かは残ってしまうが、ある程度は減らせた。
『我々も……!』
『手伝いましょう……!』
『ワイバーン様!』
そんなワイバーンの後続には部下の幻獣兵士たちがおり、爆撃のように爆弾は落とされる。
そして爆弾が地面に落ちた瞬間、その衝撃によって爆発した。
その爆発の範囲は一つ当たり五〇メートル程であり、それが幾つも落下する事で範囲が数百メートルに達する。
その直径が消し飛び、荒野が更に荒れ果てた。
『ハッ!』
『『『…………!!』』』
そんな爆撃が行われる中、飛行部隊にも拘わらず地に降りて敵の兵士達を消し飛ばす者──ガルダも居た。
ガルダは己の力を使って敵兵を薙ぎ倒し、吹き飛ばして消滅させる。
物理的な攻撃で不死身の兵士を葬れているというのは、流石というべきだろう。
『はあ!』
そんなワイバーン、ガルダ、幻獣兵士たちに続くよう、朱雀が炎を放って敵の兵士達を燃やし尽くす。
その炎は半円形となって広がり、爆発のように当たりへ散乱した。
このように、相手には飛行部隊に対する策が無い。なので飛行部隊は、かなり有利に戦えていた。
相手兵士の弓矢に銃、魔法道具や巨人兵士の身体すら届かない程の高所に居るのだから当然である。
このままなら飛行部隊は比較的安全に、そして陸部隊の負傷者を連れて来れたりと圧倒的有利な状況で戦える事だろう。
「"千本の槍"!」
『……!?』
『……!?』
『……!?』
──そしてその安全は、一筋の槍によって妨げられた。
何処からともなく槍が放たれ、矢や銃弾、魔法道具よりも正確且つ速度のあるそれは幻獣兵士たちを射抜いて突き落とす。
翼を砕かれ、空を飛ぶ事が出来なくなった幻獣兵士たちは重力に逆らえなくなり落下し、下で待機している生物兵器達の餌食となってしまう。
『……ッ! 貴様はあの時の……!』
「フフ、お久し振りです。ワイバーンさん? 昨日振り……またお会いしましたね」
その槍が放たれた方向。そして槍を放った者を一瞥し、眉間に皺を寄せて声を荒げるワイバーン。
そしてその者──ハリーフは相変わらずの不敵な笑みでフッと笑い、ワイバーンに向けて話していた。
『……あの様子を見るに……奴は敵の幹部のようだな……成る程……槍魔術か……』
『……ええ、そのようですね。……それに、ワイバーンさんと何かしらの関わりがありそうです……』
そんなワイバーンとハリーフを遠方から見るガルダと朱雀。
ワイバーンとハリーフの反応、そしてその様子から昨日のうちに何かの因縁が生まれたものと察する。
しかし相手は敵の幹部。因縁があろうと無かろうと、必ず倒さなくてはならない存在。それを踏まえ、この二匹はそちらへ向かう。
「……では、早速ですが……もう一度瀕死になって貰います……いえ、死んで貰いましょう」
『死ぬ訳無かろうッ!』
刹那、ハリーフは槍を放ちワイバーンがその槍に向けて炎を吐き吹き飛ばす。
それら二つはぶつかり合い、周囲に散乱して消し飛んだ。
その魔力の欠片と火の粉は辺りに飛び散って消え去る。
『前は不意討ちだったが、今回はそうはいかんぞ……!』
「……へえ……かなり厄介だね……」
それによって視界が遮られる程の黒煙が上り、ワイバーンとハリーフが向き合う。
次の瞬間にはワイバーンの羽ばたきによって黒煙が晴れた。
ギラギラ輝くワイバーンの眼光がハリーフを捉え、昨日のようには行かない事が犇々と伝わる。
『……お前か……幹部というのは……手下を含めて数千人……面倒だな……』
『……ええ、そうですね。ワイバーンさん、因縁があるのなら手下達は私たちが請け負いましょう……』
『……ガルダ、朱雀……! すまない、感謝する……!』
「……ますます面倒だな……」
そんなワイバーンの元へ飛行部隊であるガルダと朱雀も近付き、ハリーフの引き連れる部下を仕留めると言う。それに対して礼を言うワイバーンと頭を抱えるハリーフ。敵の幹部達も徐々に集まりだしていた。
*****
「──"破壊"」
「……!」
その刹那、シュヴァルツの空間破壊魔術によってエマの身体が砕かれた。
砕かれたといっても腕のみであり、全体的な身体は無事だ。
砕かれた腕は粉々になり、鮮血を散らして辺りに落ちる。
そしてその砕かれた腕は再生し、再びエマの腕へと戻った。
「ハッ、マジで不死身かよ? 空間ごと砕かれて腕だけ再生するとはな!」
「……成る程。何時もと再生の感覚が違うと思ったらそういう事か……ライと戦ってた時に空を砕いたからまさかと思ったが……本当に空間を砕くとはな……」
そんなエマの再生力を見て楽しそうに驚くシュヴァルツと、本当に空間を砕いていた事と確信するエマ。
遠目から見ただけでも気付いたが、直に食らってみるとまた違うのだ。
「近付くのは危険みたいだね……!」
『うん……そうみたい……なら』
その様子を眺め、触れるだけでエマを砕いた事から近距離での戦闘は危険と判断したラビアとジルニトラ。
そのジルニトラは言葉を途中で止め、ラビアと視線で会話する。
そして、
『「遠距離から!!」』
ジルニトラの魔法とラビアの白い球体がシュヴァルツ目掛けて放たれた。
ジルニトラが放った魔法は炎、水、風、土の四大エレメント。それプラス、雷と草である。
そしてラビアの放ったモノは地面に到達すると同時に白い爆発を起こす光の球体。
それらが一直線にシュヴァルツの方へ──
「──ハッ! しゃらくせぇ!!」
──向かった瞬間、空間ごとそれら全てが砕かれた。
四大エレメントとその他の属性。そして白い光の爆発球体。
それら全ては砕かれ、魔力の欠片となってキラキラ輝きながら消え失せた。
「やっぱり一筋縄じゃ行かない見たい……!」
『うん……!』
その欠片を見、ラビアとジルニトラが遠方で話す。
全てを砕くシュヴァルツの魔術。それに二人は少々畏怖感を覚え、冷や汗を流して生唾を飲み込む。
当たってしまえば自分たちもあのようになってしまうという事が恐怖を増進させていた。
『フッ、なら俺たちが行く他無いか!』
『そうだね! 当たらなければ問題無いし!』
次の瞬間、白虎と青竜が飛び出しシュヴァルツ目掛けて加速した。
白虎はまだしも、青竜は身体が長く大きい。なので少し小さくなっているようだ。
「ハッ、お次は四神様か!!」
それを見たシュヴァルツは歓喜の声を上げ、身体に破壊魔術を纏う。
そんなシュヴァルツに向け、白虎と青竜は更に加速して突き進む。
触れたら終了。ならば触れない限りダメージを与えられる事は無い。なので加速し、ダメージを受けぬように進んでいるのだ。
「早いのは厄介だな……! じゃ、足場を崩そう……! "空間破壊"!!」
『『……!』』
刹那、シュヴァルツは白虎の駆ける大地と青竜の飛行する空を砕いた。
それらが砕かれた事によって二匹の平衡感覚にズレが生じ、速度を抑える事も出来ずにバランスが崩れる。
白虎は足を躓かせ、青竜は身体が言うことを聞かなくなる。
そのズレによって起こった事は一瞬だけで収まるのだろうが、その一瞬が命取りであった。
「"破壊"!!」
『『おっと!』』
続け様にその空間を伝いながら白虎と青竜を砕けるように仕掛けるシュヴァルツ。
しかし二匹は何とか体勢を立て直し、その空間破壊の驚異からは掠り傷で済んだ。
『『『…………!!』』』
『っと!』
『わっ!』
その瞬間、他の兵士達がそんな二匹に向けて銃や弓矢、魔法道具の魔法を放つ。
放たれたそれらは空気を揺らし、一斉に二匹の元へと向かった。
『……チッ、集中できないな……!』
『うん……! 相手の兵士はただ単に戦っているだけだけど……ちゃんと陣形は作られているね……!』
放たれた物を避けつつ、面倒臭そうな表情で話す白虎と青竜。
相手の兵士達は命令された通りに動いているだけだが、その動きはきちんと統制されており事が上手く運ばれていた。
ただ命令に従うだけでは無く、戦術も考えられているのだろう。
「だったら敵の兵士は私たちが……!」
『数を減らしておくよ!』
「フッ、止むを得んな……」
『『『…………!!』』』
『『『…………!!』』』
そして次の瞬間、敵の兵士達は魔法・光の魔術。そしてヴァンパイアによって破壊された。
ジルニトラは相手の身体を消滅させるのは事を優先として炎魔法や雷魔法を放ち、ラビアは光の球体を放って爆発させ白い光に包まれた兵士達が消え去る。
エマは生物兵器達の血液を吸い、そのまま操って他の兵士達へ嗾ける。
『ガルルラギャァァ!!』
『キュルオオォォォ!!』
「ケッ、力を込める時は言葉を失うのかよ!」
そんなエマたちの横にて、白虎と青竜は野生の能力を降る活用してシュヴァルツへと飛び掛かった。
白虎の爪と牙はシュヴァルツの身体を捉え、青竜の身体はシュヴァルツへと叩き付けられる。
流石のシュヴァルツも幹部クラス程の力二つには敵わず、多少抵抗したものの吹き飛ばされた。
吹き飛ばされたシュヴァルツは生物兵器の兵士達を蹴散らし、それがクッションとなってその動きが停止する。
「だが、耐えたぜ……」
足元を擦り、土煙を上げながらニヤリと笑って話すシュヴァルツ。
口元には少し吐血したのか血の痕があったが、依然として行動可能な様子だ。
そんなシュヴァルツの視線の先には近付いていた白虎と青竜、そしてエマの姿があった。
「……ハッ、ヴァンパイアまで加わったのかよ……ますます面白くなって来たぜ!!」
そんな二匹と一人の姿を見、獰猛な笑みを浮かべるシュヴァルツ。
かなりの使い手がこれ程襲ってくるのなら、大抵の者は絶望するか気が狂って笑う。
だがしかし、シュヴァルツの浮かべた笑みは気が動転したようなモノでは無く、今現在、本当にその状況を楽しんでいるかのような笑みだった。
「クハハ!! 楽しもうぜ四神様にヴァンパイア!! そして幹部よ!! "破壊の雪崩"!!」
その刹那、シュヴァルツは一気に周りの空間を破壊し、その空間を全てエマ、白虎、青竜の上に降り注がせた。
降り注ぐ空間の欠片は大地に落ち、そこから土煙が上る。
上った土煙は砕けるように晴れ、その姿を現す。
「……! いない!」
『……いざこざに紛れて姿を眩ませたか……!』
『……厄介だね……』
姿を現した者。エマ、白虎、青竜。
一人と二匹は目の前から姿を眩ませたシュヴァルツを探し、辺りに気配を集中させる。
例え敵の兵士達に紛れていたとしても、シュヴァルツは強者。なのでその気配が完全に消える事は無く見付かる──『筈だった』。
「……そんな……まさか……!」
『……気配が……見付からない……!?』
『一瞬にして遠方へ逃げたのか……? いや……』
その気配を捉える事が、出来なかったのだ。
エマ、白虎、青竜にとって、それはかなり問題だった。
敵を見失ったという事もあるが、それだけでは無い。ヴァンパイアに四神という手練れが居ても尚、それでも見失った事が問題なのだ。
「クク、俺は後ろだ……」
「『『…………!?』』」
次の瞬間に消えた筈の気配を捉えるエマたち一人と二匹。
突然現れたような、そんな気配。それをいち早く感じたヴァンパイアのエマは白虎、青竜を──
「取り敢えず、お前たちは離れていろ!」
「"破壊"!!」
──手で押し退けたその刹那、エマの身体が粉々に砕かれる。辺りにその肉片が散り、エマの身体を流れる血液すら砕かれた。
「……チッ、庇ったか……! テメェがヴァンパイアじゃなきゃ死んでたが……死ぬ訳無ェか!」
そして砕いたエマを蹴り飛ばし、念の為に距離を取るシュヴァルツ。
ヴァンパイアは直ぐに再生する。なので再生するよりも早く離した方が良いのだ。
そうしなくては思わぬ奇襲を受けてしまうかもしれないからである。
「フッ、馬鹿では無いようだ……私は直ぐに再生する……まあ、昼間だから少し再生速度が遅いがな……」
「ハッ、雲でお天道様が隠れてなきゃ即死だったのによ」
再生するエマは軽く笑って話、それを聞いたシュヴァルツは灰色の雲に包まれた曇天の空を眺めて言った。
確かに太陽が出ていればエマは再生出来ず、そのまま即死だろう。
だがしかし、だからこそエマ自身がそれを阻止する為に太陽を隠したのだ。
なので少々速度は劣るが、再生する事が出来ていた。
『助かったぜヴァンパイア! ゆっくり回復してな!』
『エマちゃん! ありがと! 後は私たちに任せて!』
そんなエマを見、白虎の青竜が礼を言って高速でシュヴァルツに近付く。
その速度は凄まじく、空気を切り裂く音が耳元まで聞こえる程の速度は一瞬にしてシュヴァルツとの距離を詰め、その目の前に現れた。
『ハッ!』
『やっ!』
「……ッ!」
それと同時にシュヴァルツの身体に再び激突してシュヴァルツが吹き飛び、一気に離れて粉塵を巻き上げる。
そこから堪えて立ち上がるシュヴァルツだが、次の瞬間にはラビアが放った光の球体が目の前に現れていた。
遠方からの攻撃、ラビアならばそれが可能。そしてジルニトラはシュヴァルツが逃げぬよう、土魔法で周りの壁を生み出す。
「ハッ、射程距離どのくらいだ……それ? かなり離れたと思ったが……」
次の瞬間、その球体が一気に爆発を起こした。その爆発から白い光が発せられ、発光すると同時に数千度の熱量が放出される。
そして荒野は更に荒れ果て、エマたちの居る場所には大きな煙が立ち上っていた。
東西のチームが協力して敵の幹部を討とうとしているのだ。この程度で済んでいるのは奇跡以外の何物でも無いだろう。
「……あー……効いた……痛ェな、それもかなり……クク、無傷で済むとは思わなかったが……予想以上にキツいな、これ」
「……まだ無事なんだ……!」
『……やっぱり……一筋縄では行かないね……!』
そしてそこから立ち上がるシュヴァルツ。数千度の温度は溶岩の温度から太陽の表面温度程。
それを受けても死なず、かなりの重症ではあるが動けるのは流石というべきか。ラビアとジルニトラは再び冷や汗を流す。
「ふふ、流石だな……幹部よ?」
『ふう、まだか……!』
『……まあ、簡単に終わるとは思わなかったけど……!』
「クク、五vs一……上等じゃねェかよ……皆殺しに変わりは無ェ!!」
そんなシュヴァルツに近付き、フッと笑って話すエマに相当厄介な相手と改めて認識する白虎に青竜。
そこに一筋の風が吹き抜け、立ち上っていた煙を全て吹き飛ばした。
「……さあ、続きと行こうぜ?」
不敵な笑みを浮かべて話すシュヴァルツには、心なしか未だに余裕の態度が伝わってきた。それからするに、まだまだ隠し玉や奥の手というものがあるのだろう。
東西のチームvsシュヴァルツの戦いはまだ終わりが見えなかった。




