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二百七十話 救助部隊

「"ファイア"!!」

『『『…………!!』』』


 刹那、フォンセが炎魔術を放って生物兵器の兵士達を焼却した。

 その業火は威力を増して更に、火柱が立ちのぼる。

 その火柱は森から天に上り続け、それはさながら天と地を繋ぎ天を支える線のようなものだった。

 次の瞬間にはその柱が消え去り、そこには何も残っていなかった。


『ウオオオォォォ!!』

『……!』


 そして幻獣兵士たちも何もしない訳では無く、その身体から放たれる衝撃で敵の兵士達を破壊する。

 幻獣兵士たちは細胞を消し去る事が出来ない。なので生物兵器は消滅させられないが、動きを止めるだけでフォンセが焼き尽くしてくれるので有り難かった。


「"業火ヘルファイア"!!」


 そんな幻獣兵士たちがバラバラにした兵士達はフォンセが焼き払い、細胞一つ残さずに消し去る。

 普通の炎魔術よりも威力の高いそれは、巨人兵士すらを焼き払う。


「……何だか知らないが……何時もより力が溢れている気がする……何なんだ……これは」


 たった一人で軽く数百人の兵士達を焼き捨てたフォンセは、その力に少し戸惑っていた。

 それもその筈。この兵士達は何も不死身だけが取り柄では無い。

 生物兵器たる所以ゆえんは再生力と鬼に匹敵する力。そして普通の魔族や人間より頑丈な肉体の事。

 その肉体はリヤンとニュンフェが協力する事で初めて消滅させられる程のモノである。

 にもかからず、フォンセは普通に炎魔術を扱うだけでリヤンとニュンフェが協力して使うような炎魔術・炎魔法に匹敵しているのだ。

 今のフォンセは最早もはや、魔法・魔術を使わせれば右に出る者が居なさそうなそんな雰囲気に陥っていた。


『『『…………』』』


「……今は考えている場合は無いな……あの力を実感したからこそ……私の身体は成長しているのかもしれない……」


 思考するフォンセに向け、数人の生物兵器が近付いてきた。

 それを見たフォンセは思考を止め、改めてその兵士達に向き直る。

 フォンセの言うあの力とは禁断の魔術についてでは無く、魔王の力について。

 たった一度だけ魔王の力を扱えたフォンセだが、それが何かしらの要因となって己の能力を向上させているのではと考える。

 しかし例えそうだとしても、今のフォンセにあれ程の力は使えないだろう。

 あの魔術は軽く使っただけで星一つを終わらせ兼ねない程のモノ立ったのだから。

 幾らフォンセの魔術が向上していようと、魔王の力に到達するまではまだまだ掛かるだろう。


「"爆発エクスプロージョン"!!」

『『『…………!!』』』


 次の瞬間、フォンセは相手の兵士に向けて爆発魔術を放った。

 その魔術は一瞬光を発し、その刹那には轟音と共に大爆発を起こす。

 その爆風は森の木々を薙ぎ倒し、その範囲を更地とする。

 その気になれば森ごと吹き飛ばせるフォンセの爆発魔術だが、今回は幻獣兵士たちも居る。なので精々直径数十メートルを吹き飛ばす程度の魔術だった。


「……"ファイア"!」


 それと同時に炎魔術を放ち、バラバラになった生物兵器の死体を消滅させる。

 消え去った場所には何も残らず、多少の熱気と焦げた匂いのみが残っていた。


「……後は……もう無いか?」


 そして辺りを見渡し、生物兵器達の姿が無いのを確認するフォンセ。

 グラオが連れていた兵士に巨人の姿は少なく、たった二、三体程度。それからする限り、グラオは本当に足止めだけが目的だったのだろう。

 この場で足止めのみらず、本気で始末しようと考えるのならもう少し戦力を整えていた事だろう。

 特にグラオは、始めから全力で挑んで来ていた筈だ。何故ならそう、ライの話からグラオはかなりの強さを持っているのだから。


「……良し、私たちもライたちの方に向かうぞ!」


『『『オオオォォォ!!』』』


 この場に居た敵を殲滅したフォンセは髪を揺らして振り向き、幻獣兵士たちに向けて話し掛ける。

 幻獣兵士たちもライチーム副指揮官のフォンセに従い、吼えるような返事と共に進む。

 この場が済んだのならば、残るはみなが集まる荒野の戦場のみである。

 少し急ぐよう、その場所へと向かって進むフォンセと幻獣兵士たちだった。



*****



 ──"幻獣の国・荒野の戦場"。


 爆発音と金属音が響き、戦場では依然として争いに激しさが増していた。

 或いは剣と角がぶつかり合い、或いは矢と銃弾が天を飛び交う。

 魔法道具によって放たれた魔法は荒野の幻獣兵士たちを焼き、水で沈め、風で吹き飛ばし、土で潰す。

 しかし幻獣兵士たちも負けておらず、己の角で貫き、爪で切り裂き、身体で吹き飛ばす。

 武器の扱える者は武器を使い、武器を扱えぬ者でも背中に付けた銃やボウガンで敵を撃ち抜く。

 空からは飛行部隊が火薬兵器を使って爆撃し、陸では全方位に向けて銃やボウガンを放つ。

 魔力を宿す幻獣は炎を吐いて敵兵士を焼き尽くし、それに対して再生する敵兵士。

 幹部クラスは敵の兵士を纏めて消し飛ばせるが、普通の幻獣兵士ではそうはいかない。

 自分たちで敵の兵士を砕き、幹部たちがトドメを刺してくれるのを待つしか無いのだ。


『グゥ……! このままではジリ貧だ……! 埒が明かない……!』

『ああ、幾ら人間・魔族よりも強靭な身体を持つ我ら幻獣とて、不死身を殺す術は持っておらぬ……!』

『……それに……此処から他の部隊まではいささか距離がある……助けは期待出来ぬな……!』

『……ッ、一体……どうすれば……!』


 そんな事を何度も繰り返している幻獣兵士たちは疲弊しており、開始数十分にしてかなりの疲労が溜まっていた。

 辺りを見れば仲間の死体があり、前方からは数百人の兵士達が近付いてくる。

 本人の言うように他幹部たちの場所には距離があり、数分で辿り着けるようなモノでは無かった。

 つまりそれを見るに、もう絶望しかなかった。そう、今周りに居る者は数匹の仲間と数匹の飛行部隊だけだったのだから。


『……覚悟は……良いか……』

『……ああ、こうなれば討ち死に覚悟で刺し違えを狙おう……!』

『……止むを得んな……後は支配者様や幹部たちが何とかしてくれる筈だ……!』

『……仕方無いか……我ら幻獣、誇りを持って死に行こう……先に逝ってるぞ……息子たちよ……!』


 それを見た幻獣兵士たちは覚悟を決め、四肢を大地に埋め込み目の前の兵士達に構えた。

 一気に加速を付けて敵の兵士達を抜ける。それと同時に自爆し数を減らそうと言う魂胆である。

 それで仲間を救えるのなら、誇り高き幻獣たちにとっては万々歳だろう。


『行くぞ……!!』

『『『ああ……!!』』』


 そして大地を踏み砕き、数匹の幻獣たちは加速して敵の兵士の方へ──


「アハハ! ほらほら、来てごらんよライ! 僕が君の仲間達を殺しちゃうよ?」


「させるかグラオこの野郎!」


 ──向かった刹那、灰色の何かが通り過ぎ、幻獣兵士たちと敵兵士達の乗る大地が抉れて空中に浮かび上がった。そして次の瞬間には何かが通り過ぎ、空中に浮かび上がった大地の上に居た敵の兵士達が消え去る。


『『…………』』

『『…………』』


 一瞬にして起こったそれに対し、幻獣兵士たちはポカンと口を開けて呆けていた。

 それもその筈。命を覚悟した瞬間に疾風の如く通り過ぎた影によって敵の兵士が消されたのだから。

 最初に通り過ぎた灰色の影は大地を抉っただけだが、次に通り過ぎた影が通り過ぎると同時に敵の兵士を消し去ってくれたらしい。


『……やった……のか?』

『……ぽいな……』

『……あの声……ライさんじゃないか?』

『……ああ、あの囮を引き受けてくれた?』

『そうそう、て事はライさんが追い掛けていたのは敵の幹部か……』

『……成る程。敵の幹部はさっきの兵士達を消さなかったけど、ライさんが消してくれたのか』

『……い、いや~助かったな、本当に』

『……ああ……』


 先程の光景を目にした幻獣兵士たちは、未だに現実を直視出来ずに居た。

 命を覚悟したのは良いが、その覚悟が無駄に終わってしまったのだから当然だろう。

 何はともあれ、何とか持ち直した幻獣兵士たちは別の場所に向かう事にした。



*****



『……良し、そろそろ次の部隊も準備をしてくれ。敵の勢いは増している。元が不死身だからか、幹部クラスでしか倒せない事が厄介だな……! 相手と大樹までの距離はまだまだあるが、早いうちに進行を阻止するべきだ!』


 戦場の様子を見、ドラゴンが次の布陣に指示を出す。

 敵の兵士達は確かにある程度足止め出来ているが、完全にその兵士達を倒せる者が此方こちら側には少ない。

 なので此方の数が相手よりまさっていようと、必ずしも有利とは限らないのだ。

 その事は始めから分かっていた事。なのでドラゴンは念の為、早めに行動へ移っているのである。


「「…………」」

『『…………』』


 その言葉を聞き、二人と二匹が頷いて互いの顔を見合わせる。

 そして互いの確認を終えた後、兵隊を連れ相手兵士の方へ進んで行く。

 今居る場所は後方の崖。なので敵兵士から死角となっているのだ。

 つまりこの部隊が参戦する事で、戦況が大きく変わるかもしれない。

 この部隊にも幹部クラスの者が居るので、敵の兵士を消滅させる事が出来るからだ。


「……うう……私に倒せるかな……魔法・魔術は使えないし……少し不安……」


「……ふふ、大丈夫ですよレイちゃん。貴女の剣ならば、きっと大丈夫。倒せなくとも、相手を小さく出来れば焼き払うのにそうそう時間は掛かりません」


「そうかな……ありがと、ニュンフェさん」


 先ず先陣を切るように向かうのはレイとニュンフェのペア。

 レイは戦う術が勇者の剣しか無く、それでは幾ら刻んでも相手が再生してしまうのではと不安なようだ。

 そんなレイを見兼ねたニュンフェが軽く笑って返す。ニュンフェの魔法はリヤンと協力した時、相手の兵士を無傷から消し去る事が出来る。しかしそれは、二つの魔力を合わせなくてはならないので少々大変なのだ。

 だがしかし、レイの剣で相手を刻み小さく出来たのならばあまり労力を使わずに消滅させられるだろう。


『私は相手を殺す事が出来ません……その術が無いのです……! なので、負傷兵を避難させる事を優先します!』


『私もそれを手伝いましょう! ユニコーンさん! 私は雑草すら踏む事を躊躇してしまいます……! なので戦力にはなりませんが、罠などに掛かった事はありません! ですから、負傷兵の元までは安全なルートを見つけ効率よく進む事が出来ると思います!』


『分かりました麒麟さん! では、互いに避難を優先させましょう!』


 もう一つの部隊、ユニコーンと麒麟。此方の二匹は戦闘を好まない。なので負傷し動けずに居る兵士たちを連れる為に向かっていた。

 警戒心も高い此方の二匹ならば、安全に救助へ向かえる事だろう。


「……だったら、私たちがユニコーンさんたちの道を作ります! 直ぐに再生するとはいえ、相手の動きを止める事は出来ますから!」


「はい! それに、私ならば回復用の魔法も扱えます! 怪我によって一分一秒を争う程に弱っている幻獣兵士たちを助け出す事も出来ると思いますので!」


『……レイさん……』

『……ニュンフェさん……』


 急ぐユニコーンと麒麟の横を、並走へいそうするように走りながら話すレイとニュンフェ。

 此方の二人が救助の為に道を切り開き、ユニコーンと麒麟を手助けしてくれるらしい。


『……助かります! では、貴女たちは我々の背にまたがって下さい! 私たちは自分の速さに自信があります!』


『ええ、その方がより効率よく進めると思います。今は一刻を争う時なので……!』


「うん、分かった!」

「分かりました!」


 そんな並走するレイとニュンフェに向け、麒麟、ユニコーンの順で言った。

 確かにレイとニュンフェが普通に走るよりは二匹に乗った方が進めやすいだろう。

 なので二人は了承し、レイはユニコーン。ニュンフェは麒麟へとまたがる。


「……でも、ユニコーンさんって人があまり好きじゃないんだよね……? 私が乗っても良いの……?」


 そのようにまたがったレイは、ユニコーンへ尋ねるように話した。

 高さ的な意味でレイは麒麟に乗れずユニコーンに乗ったのだが、人間をあまり好いていないユニコーンに人間の自分が乗っても良いのか気になったのだ。


『構いません! 見たところ貴女は純潔。汚れなき乙女。私が唯一人間で好いている者に当て嵌まりますので!』


 曰く、レイは純粋だから良いとの事。ユニコーンは純粋な者ならば男女問わず好いている。確かにレイは純粋な心を持っているだろう。

 しかし、それが見ただけで分かると言うのは少々疑問に思うところだ。


「そ、そうなの……?」

『はい』


 それを気にしても仕方の無い事。女剣士が髪を揺らし美しき一角獣ユニコーンに跨がる光景は、中々様になっている光景だ。

 剣士が馬に跨がり、戦場を駆ける事はいにしえの英雄達が群雄割拠した時代の象徴とも言える。美しき女剣士と美しき一角獣ユニコーンというものは目の保養にもなるだろう。

 女剣士は髪を、一角獣はたてがみを揺らして戦場を駆ける。


「……では、私たちも……!」

『ええ、勿論ですニュンフェさん!』


 続くように、麒麟へ跨がっているエルフ族のニュンフェ。

 此方の一人と一匹も女剣士とユニコーンを追い、戦場を駆け行く。


「やあ!」

「ハッ!」

『『『…………!!』』』


 その刹那、レイが剣を振るって敵の兵士達を切り刻み、畳み掛けるようにニュンフェの炎魔法で焼却した。

 その場には黒煙が立ち上ぼり、次の刹那にはユニコーンと麒麟の移動によって黒煙が晴れる。

 そして一瞬だけ姿を見せ、戦場となっている荒野の方へ向かう二人と二匹。

 此方の部隊も駆動し、戦場が更に激しさを増す。しかしレイたちの目的は敵の殲滅では無く、悪魔で幻獣兵士たちの救助。先ずは乱れている場を整える事が重要なのだ。

 新たに派遣された部隊が戦場へ行き、その部隊の幻獣兵士たちが手助けに入る。レイとユニコーン、ニュンフェと麒麟は敵の兵士を消滅させつつ、負傷兵を助け出すのだった。

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