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二百六十九話 揃いゆく戦力

『我らも向かうぞ!!』

『『『オオオォォォ!!』』』


 上空にて、下の様子をうかがっていたワイバーンが告げ幻獣兵士たちが声を上げて落下するように敵の兵士の方へ向かった。

 その速度は増し、流星の如く加速して降り立つワイバーンとその一座。

 これから遂行するのは昨日決めていた作戦の事。北側から誘い込み北北東と北北西に構える者が攻め入り、ある程度終えたら孫悟空たち崖の上に居る組みが隙を突いて奇襲を仕掛ける。

 その混乱に乗じ、ワイバーンたちが空から襲撃するという作戦。

 誘う為に向かったライたちの姿が見えない事が気に掛かるがしかし、さしずめワイバーンたちの今は作戦の第四段階と言ったところである。


『……行くか』

『……ええ』


 ワイバーンに続き、ガルダと朱雀も翼を羽ばたかせ一瞬浮いて急降下した。

 二匹は空気を切り裂きながら降り、ガルダと朱雀は力を込める。

 そして更に加速し、ワイバーンの後を追うように戦場へと降り立つ。


『……飛行部隊の助太刀だッ! まだ我らも諦めていられぬぞ!』


『『『オオオォォォ!!!』』』


 それを見た幻獣兵士の一匹は叫び、それに共鳴するよう雄叫びを上げる他の兵士たち。

 そして迫り来る敵兵士に向けて爪や牙、角を扱い、敵の持つ剣や槍とそれらでせめぎ合う。金属音のような音が響き、火花を散らす戦場。


『はァ!!』

『『『…………』』』


 爪にて敵の兵士が切り裂かれ、その牙に頭を噛み砕かれる。角は兵士の鎧を砕いて貫き、その身体で敵の兵士を吹き飛ばす。

 それでも直ぐに再生するのだろうが、時間を少しでも稼ぐ事が出来れば支配者の大樹へ攻め困れる可能性も多少は無くなる。

 何はともあれ、今は時間を稼ぎ"トゥース・ロア"へ向かわせない事が大事。

 なので完全に倒せないとは分かっていても一応殺すのだ。


『──カッ!!』


『『『…………!!』』』


 次の瞬間、飛び回るワイバーンが口から炎を吐き敵の兵士達を焼き尽くした。

 紅蓮の炎は一瞬にして荒野を赤く照らし付け、凄まじき熱量が荒野一帯に広がる。

 その炎によって敵の兵士達が何人か消滅し、残った数人は完全に消えなくとも再生するのに時間が掛かりそうな雰囲気だった。


『流石ワイバーンさんだ……!』

『俺たちも負けていられないぞ……!』

『ああ……!』


 それを見た幻獣兵士たちの士気しきが上がり、更に気合いを入れて相手の兵士達を破壊して行く。

 しかし幾ら倒せど、幻獣兵士たちの仕留めた兵士は再生して起き上がり、徐々に徐々に"トゥース・ロア"の方目掛けて進んでいた。


『……次だ! 東の部隊と西の部隊は準備をしろ!』


 そんな兵士達の進行を見、全体の指揮官であり指示を出すドラゴンが叫びながら言い放った。

 敵との距離はまだある。なので多少の大声ならば問題無い。

 ドラゴンの指示より、既に準備を終えている東の部隊と西の部隊はそこから迅速に移動し、向かって来る兵士達に向けて待機していた。


『……いよいよかな……! 少し緊張するかも……!』


『うん、そうだねジルニトラさん……! 魔法の神である黒龍の力……期待しているよ』


『アハハ、青竜ちゃん。貴女にも期待して居るから……!』


 ドラゴンの指示によって待機している東の部隊──ジルニトラと青竜。

 魔法の神と謳われるジルニトラに東の守り神である青竜が東の部隊に派遣された指揮官、副指揮官なのだ。


「ふふ、どうやら私たちの出番のようだな……まあ、不死身という意味なら問題無い……私の方が遥かに上だ……」


「……ハハ、流石エマお姉さま。けど、相手の兵士は私の魔術で消滅させる事が出来るか少し不安だな……」


『ハッハ……頼りになる助っ人だ。だがまあ、四神の一角として俺も簡単に殺られる訳にはいかねえな』


 そして待機するもう一つ。西の部隊──エマ、ラビア、白虎。

 此方こちらの二人と一匹は不死身のヴァンパイアに魔族の国幹部の側近。

 それに加えて四神の一角と、東の部隊に負けず劣らずの強者つわもの揃いだった。

 その両チームは控え、目の前を敵の兵士が通り過ぎるのを待つ。通り過ぎたその時、東の部隊と西の部隊が一気に畳み掛けるのだ。


『『…………』』

「「『…………』」」


 そして両部隊が息を潜め、じっと待ち続ける。呼吸を整え、力を込める。そしてその時は、やって来た。


「今だァ!!」

『「…………!!」』

『今だよ!!』

『……!』


 それを見た瞬間、エマとジルニトラの声によってラビアと白虎、青竜。そしてその部下兵士たちが一気に駆け行く。


『『『…………!!』』』

『『『…………!!』』』


 そして横から狙われ、一気に隊の列が崩れる敵の兵隊。

 幻獣たちはのし掛かるような勢いで敵兵士を蹴散らし、敵の兵士は押し潰され吹き飛ぶ。銃や弓矢を構えた兵士も居たが、反応が遅れ吹き飛んだ。

 それを確認した剣や槍を持つ兵士達は構え、砕けた兵士も再生して立ち上がる。

 敵の兵士は剣を振るい、槍を薙ぐ。剣は空気を切り裂き、槍は貫きながら幻獣兵士へと放たれた。

 幻獣兵士は持ち前の角や爪でその刃を受け止め、この場所にも争いの余波が伝わる。

 せめぎ合う両兵士のぶつかり合いで粉塵が起こり、地響きを鳴らして金属音が辺りに響いていた。


『ウオオオォォォォ!!!』

『……!!』


 幻獣兵士の牙や爪、角は敵の兵士を次々と葬って行くが相手にこたえた様子は無い。

 風穴の空いた腹や貫かれた腕を意に介さず、無表情で幻獣兵士へ剣を振り下ろす。


『……ギャッ……!』

『……!』


 それを受けた幻獣兵士は怯み、畳み掛けるように相手兵士が切り刻む。

 逃げようにも辺りは敵の兵士達がおり、逃げられる状態では無い。

 それに伴い周りに居た数匹の幻獣兵士も巻き込まれ、その意識が遠退く。


「チッ、しょうがないな……!」


 それを見たエマは切り刻まれている幻獣兵士の前に現れ、差している傘を庇いつつ己の身を持ってして幻獣兵士たちの護りに徹する。

 幾ら切り刻まれようとも、相手の生物兵器兵士よりも圧倒的な再生力を持つヴァンパイアのエマ。

 銀の剣でも使われていない限り、痛みすらそれ程感じない。


「……日差しが邪魔だな……!」


 その刹那、エマは天空へと手をかざし己を照らす太陽を雲で隠した。

 完全に遮断出来た訳では無いが、少々力が落ちるとしても傘無しで戦える場を設ける。

 全力を出せなくとも、エマならば敵の兵士くらい倒せる筈だ。


「さあ……やろうか……」

『『『…………!!』』』


 エマは身体を霧状にし、生物兵器の兵士達の背後に姿を現す。

 それと同時に生物兵器達の血を吸い、力を出せないなりに力を出そうと試みる。

 改造されているので血は然程旨く無いこだろうが、何もしないよりはマシだろう。


「……!」

『『『…………』』』


 一閃、何事も無く、ただ通り過ぎるように生物兵器の横を抜けたエマは一瞬にして生物兵器達をバラバラに解体した。

 それでも即座に再生するだろうが、無から有が生まれている訳では無い。エマに吸われた血液は戻らないという事。つまりエマは、生物兵器ですらその気になれば──


「……さあ、仲間を殺せ……兵士達よ……」


『『『…………』』』


 ──操れるのだ。


『『『…………!』』』

『『『…………!?』』』


 生物兵器の兵士は味方だった兵士へ剣や槍を放ち、それを受けた生物兵器の兵士は困惑したように切り裂かれ貫かれた。

 しかし感情の無い生物兵器。"困惑"という感情は即座にリセットされ、操られた兵士を敵と認識する。


「……さて、取り敢えずこれで味方を増やして行くか……」


 そんな兵士達を眺め、また数人の血液を吸って隷属させるエマ。

 敵が不死身で不死身ならば、無理矢理にでも味方にしてしまえばそは中々頼もしくなるだろう。


「アハハ……結構エグいね……エマお姉さまって……」


 隷属兵士を増やしたエマを一瞥し、光の球体を爆発させて敵の兵士達を一掃するラビア。

 身体を全て消滅させている訳では無いので暫く立てば復活するが、爆発の中心に居たものは消滅している。再生するまでの時間も踏まえ、割りと時間を稼げている事だろう。


『フッ、やるな。助っ人! だが、俺たちも押される訳にゃいかねぇぜ!』


『『『…………!!』』』


 その瞬間、白虎が白い身体を加速させ鋭い牙と爪で敵の兵士を切断する。

 それと同時に地面に小さな穴を空けつつ姿が消えたと錯覚する速度で移動し、通り過ぎた跡には何も残らなくなる。そう、それは敵の兵士さえも。


『だがまあ、直ぐに再生するんだな……ハッ、面倒だ』


 そして再生した兵士を一瞥し、クッと牙を剥き出しにして笑う白虎。

 笑みを浮かべると同時に再び姿を眩まし、次の瞬間には生物兵器の兵士達が細切れになる。


『頑張るなぁ白虎さんも。私もやらなきゃ!』


 それを見たジルニトラは様々な魔法を巧みに使い、兵士達を消し去る。

 龍にして魔法の神と言われるまでになったジルニトラ。そのジルニトラに掛かれば生物兵器を消滅させるのは容易いだろう。

 だがしかし、それでも敵の兵士が厄介という事に変わりは無い。


『私だってね!』


 それを見た青竜は長い身体を扱い、尾で払い吹き飛ばす。

 吹き飛ばされた敵の兵士は別の兵を巻き込み、数十メートルに渡って土煙を上げた。

 そしてその粉塵は次に青竜が移動した風圧で消え去り、次の刹那には兵士達が更に数百メートル吹き飛ぶ。


『わ、我々も続くぞ!』

『『『オオオォォォ!!』』』


 それを見た幻獣兵士たちは更に士気を上げ、

 現在、エマ、ラビア、白虎、ジルニトラ、青竜が敵の兵士達を足止めしていた。この様子なら不足の事態が起こらぬ限り、更に奥へ攻められる事は無くこのまま事なきを得るだろう。

 そう、不足の事態が起こらぬ限りは。の話だが。


「クク、随分とまあ、やられたい放題だな。相手がヴァンパイアと幹部の側近支配者の側近。そして四神じゃ仕方無ェが……」


『『『…………!?』』』


 次の刹那、士気しきを上げていた幻獣兵士たちが……『砕かれた』。

 一つの声と共に黒髪の者が現れ、空間と共に幻獣兵士たちを粉々に砕いたのだ。

 砕かれた幻獣兵士たちは真っ赤な鮮血を撒き散らし、肉片を地べたに落として血の水溜まりが作られた。


『……幹部の登場か……!』


 それを見た白虎はその者──シュヴァルツを睨み付け、他の兵士やエマたちもシュヴァルツに向き直る。

 この戦場に置いて、徐々に役者も集まり続けていたのだ。



*****



「そ──」

「オ──」


「「──ラァ!!」」


 次の瞬間、ライとグラオが空中で激突した。

 その衝撃は辺りを揺らし、上空の雲を消し去って天空を駆ける。

 風圧によって木々が大きく揺れ、仕舞いには砕け散って粉砕した。


「「……!」」


 その刹那に二人は姿を眩ませ、一瞬にして数十回ぶつかり上空の雲を全て消し飛ばす。

 二人はまだまだ余裕を残しており、全くの本気では無いがこの攻防だけで辺りには与える影響は凄まじかった。

 地殻変動に匹敵する一撃が一瞬にして何十回もぶつかっているのだ、当然だろう。纏めて放たれたその衝撃はぶつかり合った事によって生まれた。それが一瞬で放たれれば、その破壊力は想像を絶するものとなるからだ。

 己の攻撃が生み出す衝撃だけで浮き上がるライとグラオは、傍から見れば空を飛びながら空中で攻防を繰り広げているように見える事だろう。


「やるじゃん」

「アンタも相変わらずな?」


 そしてライとグラオは木の上に立ち、風に煽られながら軽く交わす。

 上空の雲は全て無くなっており、快晴の青空が広がっていた。

 下からは聞こえる金属音は、ライのチームであるフォンセと幻獣兵士たち。それらとグラオの部下である兵士達が争っているからだろう。


「……さて、このままライと戦っていたい気持ちはあるんだけど……僕は今から行かなくてはならない場所があるんだ。まあそこは荒野なんだけど……だから取り敢えずライたちを足止め出来た今、後はその場所に戻りたいんだよねえ……」


「……へえ? 成る程な。足止めを完了したら向こうに戻って此方こちらの戦力を減らすつもりね……」


 唐突に、ライの正面に立つグラオが告げた。

 それはライたちを少しだけでも足止め出来たので、戦争の中心となっているであろう荒野に行きたいとの事。

 何故戻る必要があるのか気になったが、人数不足の為手助けしなくてはならないものと自己解決する。


「……けど、そうしたら俺たちも戻る事になる……あまり戦況が変わらないどころか、むしろ状況的にアンタらの方が悪くなりそうだけどな……?」


 そしてそんなグラオの言葉を聞き、逆に気になるライ。

 ライの言う事はその通りである。仮にグラオ達が戻った場合、確かに相手は巨大な戦力が加わり幻獣の国側の戦力を減らせるだろう。

 しかし、それはつまりライたちも戻る事になるという事。そうなってしまえば、ライとフォンセが戻る幻獣の国側の方が有利になる筈だ。


「……ハハ、まあそうかもね。けど、君に捕まるよりも早く幻獣の国に居る兵士達を始末できたとしたら……どうする?」


「……成る程な……」


 刹那、グラオはライの前から消え去り、ライはそんなグラオを追い掛ける。

 グラオがしようとしている事は、生物兵器よりも圧倒的に再生力が低い幻獣兵士たちを殺害して幻獣の国の兵士を減らすという事。

 それを実行する為にグラオは行き、それを阻止する為にライはグラオの後を追い掛けたのだ。


「……フォンセ!! 敵の幹部が荒野の方へ向かおうとしている!! 俺はその後を追うからフォンセたちは此処の敵兵士を片付けてから来てくれ!!」


「分かった!! 私たちもこの者らをほうむり、直ぐに行く!! 被害を増やさないように気を付けてくれ!!」


 グラオの後を追おうとするライは、フォンセに向けてこの場は任せると告げた。

 フォンセはその言葉に了承し、兵士達を葬った後に向かうと言う。

 フォンセはライを信用している。そしてライもフォンセを信用している。

 なのでライとフォンセは相手の意思を尊重し、互いを信じて己の行える事を行う。

 荒野の戦場には、両軍の最高戦力が集まりつつあった。

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