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二百六十六話 晩餐

 ──"トゥース・ロア"、支配者の大樹。


 風呂から上がり、脱衣場にてレイ、エマ、フォンセ、リヤン、ラビア、シター、ニュンフェと人化したジルニトラ、フェニックス、ユニコーン、青竜、朱雀が集まっていた。

 集まると言っても、女湯の脱衣場なので普通だが全員が同じタイミングで上がったという事である。


「わあ……肌が凄くスベスベになってる……これもお風呂の効果なの?」


 そんな中、バスタオルを羽織って己の肌を撫でるレイはその肌の変わりようを実感していた。

 お風呂に入る前とは明らかに違い、肌質が柔らかく滑らかになっていたのだ。己の手で腕をさすり、その感覚を楽しむレイ。やはり女性という事もあり、肌が綺麗になるという事を実感できるのは嬉しいのだろう。


「あ、本当だ。確かにスベスベしてる。お風呂にそういう成分があるのかな」


 続くようラビアも自分の腕をさすり、肌の感覚を実感した。

 お風呂に入って肌が良くなる事は多い。つまりこの街"トゥース・ロア"の風呂もそのような成分があるのだろう。


「うん、そうだね。此処のお風呂には人間・魔族で言うところの肌や、龍族で言うところの鱗が良くなるんだ。肩凝りや冷え性にも効くしその他諸々の効能があるの♪ だから私のような側近以外でも外の街からお風呂に入りに来る幻獣も居るんだ♪」


 そんなレイとラビアの疑問に対し、軽快に笑って説明するのはジルニトラ。

 曰く、二人が言ったように肌を滑らかにする成分が含まれているらしい。女性からすれば嬉しい限りだろう。入浴によって気持ち良くなり、健康を手にした後肌まで綺麗になるのだから。


「へえ、良いお風呂だね♪ 此処!」

「ハハ! 喜んで貰えて何よりだよ!」


 それを聞いたレイは笑みを浮かべ、ジルニトラに返しながら服を着る。

 何はともあれ、此処の浴場にて多少の休息は取れた事だろう。



*****



 その後レイたち女性陣とライたち男性陣が合流し、再び龍兵士が現れ夕食の場所へと案内される。

 "トゥース・ロア"の大樹内を談笑しながら進んでいると、目的の食堂的な場所が見えて来た。

 その場所からは香ばしい匂いが漂っており、鼻腔から入る香りは空腹だったライたちの胃を刺激し食欲を掻き立てる。

 特にライ、リヤン、ニュンフェ、ユニコーンの三人と一匹はユニコーンの街"トランシャン・コルヌ"にて話し合いを終えた後直ぐに別の行動に移った為、全くといって良い程食事を摂っていなかった。その空腹は普通の空腹を通り過ぎ、腹痛に近い感覚へと変わりつつあった。

 そして呼ばれた全員がその場に揃い、食事が始まる。全員と言っても戦力組み十四人と十二匹そして戦闘は行わない"マレカ・アースィマ"の王マルスの一人だけであり、他の幻獣たちはいない。


「あれ、他の兵士や住民はいないのか?」


 それが気になったライはこの大樹を一番良く知っているであろうドラゴン、ジルニトラの二匹に尋ねる。

 そもそも住民の有無は昨日今日の出来事なのでドラゴンたちも詳しくは無いだろうが、指示を出す側の幻獣であるドラゴンなら何か知っていると思ったのだ。


「ああ、今回の食事。これは俺たちの親交を深めようと思って設けたモノだ。今回の戦争に置いて、この最高戦力と間属の国の王は確実に重要な立ち位置となる筈だからな。互いの素性を知る事で親交を深め、協力する気持ちを高めようと思った次第だ。他の兵士や住民たちは別の部屋で食事をしている」


 その理由はライたちと支配者たち。幹部たちに四神たちとの仲を深める為らしい。親交を深める事でチームワークを生み出そうという考えなのかもしれない。


「成る程な……てか、何で人の姿になっているんだ?」


 そのような事を力説するドラゴンと納得するライ。しかしライは、何故か人化していたドラゴンの姿が新たな疑問となった。

 湯殿を上がり、女性陣の方に居たジルニトラ、フェニックス、ユニコーン、青竜、朱雀、麒麟も何故か人化していたが、まさしく今、目の前に居るドラゴンも人化していたのだ。

 

 その姿は全体的に大人の雰囲気であり、鋭い目付きに黒に近い灰色の髪をしている。人や魔族の中では背丈が高く、百九十センチ程で竜の鱗を表現したかのような服を来ていた。体格もよく、衣服の上からでも鍛えられた筋肉がよく分かる。

 子供っぽさや幼さは一切取り払い、堂々と佇む大人の姿になっていたドラゴン。


「ん? ああ、これか。これはだな、親交を深めるのなら我らに近い姿には成れぬであろう人間・魔族の姿となって話しやすくするのが目的だ」


 曰く、幻獣のままの姿でも良かったがより親しみ易さを出す為にライたちに近い姿となったとの事。

 ライたちはエマを除いて人間・魔族の姿から変える事は出来ない。なので自分ドラゴンが相手の姿となれば良いと考えたのだ。


『成る程。確かにそれは良いかもしれないならば俺も人間となろう」

『ふむ、私は元々半人半獣。わざわざなる必要は無いな』

『人間の姿か……気に食わぬが、明日あすの為ならば致し方あるまい」


 そんなドラゴンの様子を見、フェンリル、ワイバーンも人の姿となった。

 ガルダは元々がそれに近いのでならないらしいが、確かにそうだろう。

 そして一日振りに姿を見せたフェンリル──もといリルフェン。

 リルフェンは男にしては長い髪を持ち、基本的に黒を基調とした髪で所々に灰色の髪が織り交ざっていた。その頭で二ヶ所に集まった髪の毛が耳のように見える。

 その目付きは鋭く、口には人の姿にもかかわらず白く尖った牙が見えた。服装は長いコートのような物を羽織っており、腰から垂れたの布ような物は尾にも見えなくない。


 ワイバーンもその姿は人となり、その姿は白に近い灰色の髪とドラゴンやリルフェンにも劣らぬ目付き体つき。

 その目を見るに、幻獣の国(この国)の男性陣は基本的に目付きが悪いらしい。

 ドラゴン、ワイバーン、フェンリル。その種族上鋭い目付きは仕方の無い事かもしれないが、傍から見れば中々怖いだろう。


『そうか。ならば我々も変えようぞ。既に青竜、朱雀、麒麟は姿を変えているからな」

『オーケー、分かりました黄竜さん!」

『ふむ、力は劣るが、軽くなるのは良いかもしれぬな」


 そして更に続き、黄竜、白虎、玄武もその姿を人に変えた。

 黄竜はその名が示すような黄色をしており長い髪に空のような青い目。その目もつり目の鋭いものであり、これからするに龍族が人化すると鋭いつり目になる事が多いのだろう。

 ジルニトラは特にそのような印象を受けなかったが、雄にのみ適応されるのか気に掛かるところである。

 その服装は此方も長いコートのような物を羽織っており、そのコートは金色に近い感覚だった。

 

 そして白虎はと言うと、短い白髪に黄色い目。虎の姿だった名残か犬歯は鋭く尖っている。

 全体的に野生児のような印象が漂う白虎だが、その年齢は"児"というモノは等の昔に卒業している。

 しかしその見た目には大人っぽさが無かった。


 最後に人化したのは玄武。

 玄武は亀だからか、老人に近い見た目である。しかし髪の色は黒く、体の色も褐色なので健康な老人を彷彿とさせるものだった。

 その顔にはシワがあり、翠色すいしょくのタレ目が威圧感をかもし出す。

 玄武が人化した幻獣たちの中では、一番の高齢者的な見た目だった。


「フフ、これで全ての者が人間・魔族のような姿となったな……明日あす、今日のように食し眠る事が出来るかは分からない。親交を深めると言ってもたった一日。今を楽しもうでは無いか」


 飲み物が入ったカップを片手に、ライたち側近たち幹部たち四神たちに向けて話すドラゴン。

 それからこの場には、ちょっとした宴の席が設けられた。並べられた料理は肉類魚類、果実類問わず、美味しそうな匂いをかもし出す。

 胃が空っぽであるライにとっては、早く食したい気持ちが溢れている事だろう。

 ライたちと幻獣の国の者たちは一先ず晩餐を楽しむ事にした。

 幻獣の国の面々とはどれ程の付き合いになるか定かでは無いが、親交を深める事にデメリットは無いだろう。強いて言えばライが征服する時、感情が渦巻き征服しにくくなるくらいだ。


『ハッ、お堅いなドラゴン殿。戦いが終わればそれで終わりだ』

『ああ、我々も全力を尽くす』

『ブヒ!』


「人化したドラゴンさんたちって……何か不思議な気分」

「ああ、まあ直ぐに慣れるさ」

「そうだな。エマの言う通りだ」

「……あ、これ美味しい……」


 晩餐が始まるや否や、孫悟空、沙悟浄、猪八戒が言いその横ではレイが不思議そうに眺めエマとフォンセが言う。隣ではリヤンが食事をしていた。


「人間の姿と言うのも悪くないな、ワイバーンにユニコーンよ!」

「何で俺たちに言うんだフェンリル」

「ええ、確かに人間・魔族は好いていませんが、この姿になる程度なんら問題無いです」

「フフ、今はリルフェンだ。間違えるなよ」

「知るか」「知りません」


 それを見たフェンリルが言い、ワイバーンとユニコーンが呆れるように話す。

 フェンリルは人間・魔族をあまり好いていない二匹が気になっていたのだろう。


『フッ、人化したみなを見るのは中々不思議だな……』

「クク、ライの仲間と同じ事言っているぜ、ガルダさん?」

「ブラックさん。ガルダさんとそんなに親しそうですね」

「ハハ、気にするなマルス王。マルス王も分かっていると思うが、話せば分かるやつ? だぜ」


「実は私、この姿結構気に入っているんだ♪」

「へえ、でも分かるなぁ。私も結構気に入っているし♪」

「そうなのですか……私には理解できません。……まあ、嫌と言う訳ではありませんが」

「私は生まれた時から人や魔族に近い姿でしたから分かりませんが……やっぱりそういうものなのですかね」


 その横ではガルダ、ブラック、サイフ、マルスが話しており、別の場所ではジルニトラ、青竜、フェニックス、ニュンフェが話す。

 人化に慣れないガルダは戸惑っていたがジルニトラたちは逆に人化が楽しいようだ。


「ふふ、随分と賑やかですこと」

「そうですね。しかし、賑やかなのも悪く無いでしょう。マナーなど、人間・魔族が勝手に決めたものですもの」

「私も賑やかな方が好きかな」

「……私は……どちらでしょう」


 それを見ながら朱雀、シター、ラビア、麒麟も会話する。

 此方では賑やかなこの場所の事について話しているようだ。


「ハハ、此処の国は食物は旨いからな。俺も気に入っているさ」

「うむ、悪くない味だ」

「肉類が旨いってのは最高だよな!」


 そして黄竜、玄武、白虎の三匹、もとい三人は素直な味の感想を言っていた。

 どうやらこの街"トゥース・ロア"の食べ物はかなり美味らしい。


「ハハ、戦争前だけど緊張していないってのは良いかもな」

「フッ、そうだろう。主の力、期待しておるぞ」


 賑やかな宴会の様子を見、ある程度食したライは果実を搾って作った飲み物を片手に、軽く笑って話す。

 そんなライに期待を込めて話す人化したドラゴン。


 宴もたけなわだが、その会も終了する。

 ライたち五人とドラゴンたち五人。マルスたち五人に四神たち六人。幹部たち六人。

 そんな二十七人の戦士たちは十五人と十二匹に戻り、その宴会は終わりを迎える。

 そしていよいよ、幻獣の国最高戦力が集う戦いは開始されるのだった。



*****



 ──"幻獣の国"、某所。


 月の光も届かぬ、宵闇の場所にて、此方でも食事を終わらせたような跡があった。

 しかし皿の数は後ろに控える兵士達より圧倒的に少なく、たったの五皿。それらの皿からは綺麗に食材が消えていた。


「さて、腹拵はらごしらえも済んだ。今から攻めても良いけど……少し休もう。明日あすはかなりの接戦がいられるだろうからね。私たちが準備した怪物達でさえ、何処までやれるか分からない」


 そんな闇に紛れ、闇の中では明るく見えるような白髪の男性──ヴァイスが話していた。

 ヴァイスはライたちを相手にする為、ベヒモスを復活させたり隠し玉になりうる怪物の肉片を持っていたりと対策は練っている。

 しかしそれらを持ってしても尚、宇宙を崩壊させうるライが相手では分が悪いと考えているのだ。


「ま、確かにね。ライは光を超えるし、僕とも互角に張り合った。まあ、僕は今も成長し続けているけど、多分それはライも同じ。要するにかなり大変だね、うん」


 そんなヴァイスに返す灰色の男性──グラオ。

 グラオはこの中にてベヒモスなどの怪物を含め、自分が最強と理解している。

 だがしかし、その力と対等。もしくはそれ以上の存在であるライ・セイブル。

 自分が最強と理解しているからこそ、その強さの凄まじさが一番良く分かっているのだ。最も強くて最強。そんな者が相手に居た場合、苦戦は免れない。


「ハッ、どの道ヴァイスの目的の為に戦う事になるんだ。遅かれ早かれいずれそうなってんなら、成長途中のライを倒せりゃ万々歳だろ? ま、俺は成長し切ったライを倒したいけどな」


 ヴァイスとグラオの会話を聞き、クックと笑って話すシュヴァルツ。

 シュヴァルツ的には更に強くなるであろうライと戦いたいらしいが、自分の意思だけで組織に大打撃を与える訳にも行かない。

 ライと初めて出会った時のように、相手の強さを確かめる程度ならば良いが組織を動かす幹部となると、不都合が起きうる事態を起こしてはならないのだ。


「取り敢えず、今の戦力で幻獣の国に置いての相手側戦力を何とかしなきゃならないからね。ライ達と支配者、幹部や側近達以外にも、何か別の戦力が加わっているって考えた方良いと思うよ。……実際、相手には"マレカ・アースィマ"のメンバー達が加わっていたからね。隠し玉があるのは私たちだけじゃないと思う」


 三人の会話に、警戒を高めた方が良いと告げるマギア。

 マギアが言うように、ライたちには"四神"という存在が味方となっている。

 しかしそれは今日起こった出来事なので、ヴァイス達は四神の存在には気付いていない。つまりマギアは、何気に鋭い事を言ったのだ。


「んなもんはどうでも良い。取り敢えず、俺の傷も治ったし……後は明日に備えて身体を休めりゃ良いんだろ? 敵が支配者クラスの隠し玉を持っていようと、それを倒せば良いだけだからな」


 警戒を高めるヴァイスとマギアに向け、退屈そうに話すゾフル。

 一見長い話が面倒で悪態を吐いているだけに見えるゾフルだが、その言葉にも一理ある。結局のところ、相手を倒さなくてはヴァイス達の目的は達成できないからだ。


「フフ、確かにね。……けど、その"倒す"という事が簡単に出来ないから悩みどころなのだろうさ。相手の戦力、支配者以外にも支配者レベルが居るというインフレ具合。支配者だけならば四つの種族が織り成す国では最弱だけど、その戦力が最大級。簡単に勝てる相手では無い」


 ゾフルの言葉に同意しつつ、己の意見を告げるハリーフ。

 今相手にして居る国は支配者の力はかなり最上位に来る程強いのだが、シヴァ程では無い。しかし、その代わりに支配者クラスの孫悟空やフェンリル、ガルダが存在する。

 それらのバランスが絡み合い、それに加えてライたちが現れた。勝つつもりでは居るが、勝てるシチュエーションを考えるのが難しい程なのだ。


「そうだね。それも踏まえ、最後に作戦をもう一度話す。相手も何かしらの戦術を行う筈だからね。怪物達が幾ら居ようと、油断する事は出来ないから」


 ハリーフの言葉を聞き、頷いて返すヴァイスはシュヴァルツ、グラオ、マギア、ゾフル、ハリーフに向けて改めて作戦の概要を話す。

 開戦は明日。しくもその考えは支配者であるドラゴン、ヴァイス達も同じだった。

 それから数時間後、ライたちとヴァイスたちの居る国にて休息の夜が明け、始まりの朝が来た。

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