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二百六十四話 戦略・部屋

 ──"幻獣の国・支配者の街"。


 この場に出揃った幻獣の国、最強の布陣。ライたち五人とマルスたち五人。そして幹部たち二人と四匹に四神を含めた六匹。支配者であるドラゴン率いる、ドラゴンを含めた側近たち二匹と三人。


 ──その数、計十五人と十二匹の二十七。


 その数こそ三桁も行かないが、二桁の前半だとしてもかなりの戦力になる事は間違いないだろう。

 何故なら、一人だけで全世界を敵に回しても滅ぼせるような者たちが数人おり、他の者たちも粒揃いの強さを誇っている。そんな者たちの集いなのだから。


『……さて、皆の者。揃ったな。いやいや、今でも俺は驚いている。まさか全ての幹部が協力してくれるとは思っていなかったからな。自分の街に居る者たちを連れ、よくぞ此処へ来てくれた』


 そんな集まりし者たちへ告げ、ドラゴンは笑みを浮かべながら話していた。幹部は号令を掛ければ必ずやって来るという者たちでは無い。

 それは面倒臭い事が理由という訳では無く、己が収める街の護衛や住民たちの安全など、戦争が行われるに当たって様々な要因が必要となるのだ。

 そんな幹部がわざわざ集合したという事は、支配者のドラゴンにとって有り難い限りという事である。

 無論の事ドラゴンは住民の幻獣たちを避難させているが、それによって様々な問題が生じる事もある。なので一概に幹部を集めると言っても、そう簡単な事では無い。

 要するにドラゴンは、よくて二、三匹。最悪一匹も集まらないと懸念していたという事。


『フッ、確かに我は来なかったかもしれぬな……だがまあ、我が嫌っていた人間・魔族に命を救われたのは事実。我はただ、恩を返す為に協力したに過ぎない』


 そんなドラゴンへ向け、軽く笑って話すのは幻獣の国"カトル・ルピエ"の幹部、ワイバーン。

 ワイバーンは敵の幹部であるハリーフに命を狙われたが、それによって生じた傷を治療したのは紛れもなくレイたちだった。

 治療を施したのがジルニトラだとすれば、精神的な治療を施してくれたのがレイとシターだろう。


『私は……何故でしょうね。説得と言う説得も特にされていない。けれど、街の……いえ、住民を危険にさらしてしまうかもしれないから協力したのでしょう。住民を護る為、安全な場所に護るべき住民を置けるのが一番ですから』


 そんなワイバーンに続くよう、次に話したのは幻獣の国"ペルペテュエル・フラム"の幹部、フェニックス。

 フェニックスは住民を安全地帯へ移す為に協力したと言う。

 しかし、それは事実であり住民が一番大事だったのだ。


『私は特に理由は無いな。割りと早くのうちに協力すると告げた。……まあ、私もフェニックスと同等、住民の安全を護る為……だな』


 次に話すのが幻獣の国"サンティエ・イリュジオン"の幹部、ガルダ。

 本人の言うように、ガルダはこころよくその役目を引き受けてくれた。なので交渉するに当たっては特に苦労が無かったのだ。


『俺もだ。強いて言えばフェニックスやガルダと同等。そして街が酷い有り様だったからだな。俺の街は幻獣の国では異端。街が直るのにも時間が掛かってしまう。その間に住民を別の場所へ移せるのならそれで良いと思っただけだ。街の変化や住民の適応力は随一だからな』


 そして幻獣の国"ラルジュ・ルヴトー"のフェンリルが話す。

 フェンリルが協力した理由は街の崩壊と住民の安全を考えた為である。奥底ではリヤンの話を聞いたからと言う事もあるが、基本的に協力的だったフェンリル。


『私が協力した理由は他の皆様と同様住民の為。そして敵の行う事が許せなかったからですね。既に皆様も理解していると思いますが、侵略者は生物兵器の実験を行っている。そして悪戯に生物の命を扱う。それが許せなかったのです』


 幻獣の国"トランシャン・コルヌ"のユニコーンが話す理由は、相手が扱う命の軽さが気に食わなかったからである。

 かつて多くの仲間を角目当てで殺され、唯一心の許せる純潔者すらをも罠に使われる。非道という事を一番許せず、それを止める為にも協力したのだ。


「私が協力する理由も同じような事ですね。住民は戻りましたが、私の居ない間に街が破壊され街の者たちを連れさらった敵が許せないからです。……それに、他の街まで被害に遭ってしまわぬよう、相手を止めたいからですね」


 最後に話すのは一番始めにライたちと出会った幹部。エルフ族のナトゥーラ・ニュンフェ。

 ニュンフェは幹部たちの中で最初の被害者であり、それが自分の居ぬ間に起こったと言う納得できないモノ。住民は連れ戻したが、またそれが起こらぬように此処で侵略者──ヴァイス達を止めようと考えているのだ。


『ああ。しかし、理由がどうあれ協力してくれるという事は有り難い。それに当たって、誰が何処の場所を護衛するか、どのような陣形で攻めるか。など、戦争に置ける戦術を話し合いたいと思う』


 そんな幹部たちに向け、これから行う戦争にてどのような戦略を練るか話し合うと告げるドラゴン。

 戦争というモノは、何もただ攻めれば良いという訳では無い。攻めるにしても護るにしても、様々な策を練らねばならぬのだ。

 単調に攻め続け、ただ戦うだけならば子供でも出来る。子供がやるような戦争ごっことは違い、本番では罠や攻め方、護り方に退き方など、それをしかと認識していなければそれが要因となり死に至るだろう。

 場合によっては数が圧倒的に有利であっても負けてしまう事もある。そう、何も戦略を練っているのは自分たちだけでは無いからだ。


 ただの戦いなら相手より数がまさっており、幻獣の国の地形を良く理解している此方側が有利。

 しかし幾ら優先的に進めようと、相手がその利を逆手に取って来る可能性もある。聞けば、ヴァイスは物を再生させる力があるらしい。

 そこら辺に落ちている石ころは、元々川の流れによって小さくなった岩だったりする。なのでそれを再生させた場合、崖の上から相手が大岩を降らせる可能性もある。

 他にも木の枝を再生させ林や森を生み出したり、ヴァイス一人で地形その物を変え幻獣の国側が不利になってしまう可能性もある。そしてシュヴァルツやグラオの力によって山を消されたり崖を消されたりなどすれば、罠を張る事も出来ずに一騎打ちを強いられる可能性もある。

 このように、戦争にて戦略を練るという事は様々な"可能性"が生じるのだ。その可能性を考え、相手の裏の裏の裏の裏まで考えなくてはならない。それらが終わり、ようやく戦争を行えるのだ。

 それらを踏まえ、ライたちとドラゴンたち。幹部たちに四神たち。彼らはそれに当たった相談を行っていた。



*****



『良し。話し合いの結果、満場一致でこの作戦を遂行する事にした。皆の者、話し合いご苦労だった』


 ──そしてその話し合いは、数時間行われた末にドラゴンの言葉で終わりを迎える。

 昼に始まった話し合いが終わる頃にはもう夕刻を廻っており、白かった太陽が柑子色こうじいろの光を発する時刻だった。支配者の大樹内からもその光が認知でき、暖かかった春風はほんのりと冷気を纏う。しかし春という事に変わり無く、寒いという冷気では無く疲れた身体を癒してくれるような、そんな冷気だ。


『敵はいつ何時なんどき攻めてくるか分からないが、今日はもう休んでいてくれ。今晩奇襲を仕掛けるのも良いが、連戦や街から街への移動で体力が低下している今は危険だ。今日一日は休み、明日あす攻めようぞ』


 ドラゴンが言い、ライたちが頷いて返す。時刻は夕刻過ぎ、ライたちは幹部の街から支配者の街へと移動した事により、多少の疲れがあったので否定せずに頷いたのだ。

 それからライたち、幹部たち、ドラゴンたち、四神たちはバラバラに行動を起こし、各々(おのおの)で一晩を過ごす事にした。


「さて、一概に休むって言っても何をすれば良いのか分からないな……」


「そうだよねぇ……寝る……食べる……休むって事は沢山あるからねぇ」


「ふふ、まあ、取り敢えずそれらの事は部屋に着いてから考えても良いだろう……明日あすになれば、どのようにして休むかを考える暇も無い程に忙しくなるのだからな」


「ああ、エマの言う通りだ。一先ず部屋へ行こう」


「うん……それが良いと思う」


 そしてそんなライ、レイ、エマ、フォンセ、リヤンの五人は支配者の大樹を歩いており、何をして休み、何をして過ごそうかと考えていた。

 眠るにしては早過ぎる時刻であり、食べるにしては恐らく人間・魔族用の食料の場合準備が終わっていない。

 なのでライたちは、人間・魔族用の部屋を紹介されそこに向かっていたのだ。


「ふうん……此処の部屋がその部屋か……五人部屋っぽいな」

「うん。結構広そう」

「ああ、流石支配者の街。人間・魔族用の部屋もあるって事だな」

「ふふ、私は魔物だがな」

「……私は……何だろう……」


 それから談笑しつつ歩いていたライたち五人は部屋に着き、その部屋の扉を眺めて感想を言う。

 ライがその部屋へ収まる人数を言い、レイが広さを話す。フォンセは幻獣の国なのに自分たち向けの部屋がある事に驚いており、エマは自分はそのどちらでも無いと告げる。そしてリヤンは自分の種族は何なのかを考えていた。 

 何はともあれ、部屋に着いた事には変わり無し。ライたち五人はその部屋へと入った。


「へえ……」


 入った瞬間、感嘆のため息を吐く。その部屋はレイの言ったように広く、フォンセの言うように人間・魔族。即ちライたち向けだった。

 装飾は自然の物を使っており、机や椅子、ベッドに棚などは木材を使っている。それらに木材を使うのは至極普通の事だが、机や椅子は木その物だったのだ。

 太い丸太を縦に割ったような机と、そのまんま切り株を使ったような椅子。流石にベッドや棚は加工されているが、パッと視界に入る机や椅子がそれなのは中々だろう。

 そしてその部屋には照明もあり、夜でも本などを読む事は出来そうである。その照明はライたちが普段から目にする物と変わり無く、人間・魔族の技術も割りと伝わっているのだろう。

 ふと辺りを見れば鉢植えに観葉植物が置いてあり、自然らしさが窺える。壁には誰かが描いたであろう絵画とだしなみを整える為の鏡。その絵画には真ん中に一本の木が描かれており、木の下で白いワンピースの女性が麦わら帽子を被っていた。辺りは草原で、ポツリと佇むその二つには何処か物寂しさを感じる。

 そして日光を遮断する為のカーテンもあったので、これならば朝の日差しによってエマが弱ってしまう事も無いだろう。

 極め付けは、この場所が大樹という事もあり壁。それどころか、天井や窓枠など全てが木の素材であるという事。壁や天井が全て加工されていない木という事もあり、木目の形が面白い。無論、多少は加工されているのでザラザラはしていなかった。


「観葉植物を含め……全体的に自然っぽい物が多いな……まあ、壁や天井まで木だし。いや、壁や天井が木ってのは別に可笑しくない。普通に使われている……問題は……何だろう」


 辺りを見渡し、自然が多いのを感じるライ。

 そんなライは何か違和感を覚えていた。木の天井や壁というものは全くおかしくない。むしろ普通だろう。しかし、ライには何か違和感があったのだ。


「多分、その違和感の正体は木以外に何も無いという事だろう。全てが木材の建物だとしても、より頑丈にする為煉瓦(レンガ)混凝土コンクリートが使われる。しかし、この部屋は……いや、この場所自体に煉瓦レンガ混凝土コンクリートが使われていないからな。木の中に居るような感覚になってしまっているのだろう」


 そんな違和感を覚えるライに向け、フッと笑いながらエマが説明をした。そう、どのような建物だとしても木材だけでは不安が残る。なので木材を接着する為にも混凝土コンクリートなどが重宝されるのだ。

 しかしこの場所は、木その物。つまり、そのような加工品が使われていないので違和感を覚えたのだろう。

 幻獣の国にある建物は、その殆どが大樹を利用した物であり、コンクリートなどは一切使われていない物が多い。

 人間・魔族の建物に慣れ親しんだライだからこそそのような違和感を覚えたのだ。


「成る程な。確かに此処は人間・魔族の建物に近いけど……全てが木その物。だから俺は気になったのか」


 エマの説明を聞き、納得したように話すライ。

 大樹をそのまま活用したようなこの部屋は、多少の違和感はあるが自然だからこそ居心地の好いモノもあった。何はともあれ、今日、明日、明後日。何日この国へ留まる事になるかは知らないが、此処が暫く過ごす拠点となるので居心地の好さは重要な事の一つである。

 戦争で生き延びたとして、しっかりと休憩の取れる場所があるのと無いのとでは大きく違うからだ。

 話し合いを終えたライ、レイ、エマ、フォンセ、リヤンの五人は自分の部屋にて、まだもう暫くだけ休息を取る事にした。

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